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「猫の手も借りたい」

小話


「猫の手も借りたい」


━━━━━━━━━━━━━━━


昼過ぎ。


ナナの家。


玄関の扉が開く。


ルナ

「ただいま」


リビングにいたミルが、

ぱっと振り返る。


ミル

「ルナ!」


「おかえりなさい!」


ノワもソファから顔を上げる。


ノワ

「おかえり」


ルナ

「ただいま」


猫神様の社から帰ってきたルナは、

リビングへ入る。


そして辺りを見回す。


ルナ

「ナナは?」


ミル

「ナナです?」


ミルも辺りを見回す。


ノワ

「そういえば」


「朝ごはんの片付けが終わってから、

見てないわね」


ミル

「そうですね」


「どこに行ったんでしょう?」


ルナ

「家にはいると思う」


ミル

「探してみましょう!」


三人はナナを探すことにした。


━━━━━━━━━━━━━━━


三人は二階へ上がり、

ナナの部屋の前までやって来た。


コンコン。


ミル

「ナナ?」


「いますかー?」


返事はない。


ルナがそっと扉を開ける。


ガチャ。


三人が部屋を覗き込む。


そこにはベッドで気持ち良さそうに眠る、

ナナの姿があった。


その隣では魚クッションも、

ぷかぷかと浮かびながら眠っている。


ナナ

「すぅ……」


「すぅ……」


ミルはゆっくり近付く。


ベッドの横へ座る。


そして、

そっと顔を覗き込む。


じーっ。


ノワ

「ちょっとミル」


ナナ

「んぅ……」


ナナがゆっくり目を開ける。


目の前いっぱいに。


ミルの顔。


ナナ

「わぁっ!」


ミル

「わぁっ!」


びくっ。


驚いたミルは、

そのまま後ろへひっくり返る。


どてっ。


ノワ

「ミル!」


ミル

「いたたた……」


ノワ

「本当にあんたは」


ナナ

「えっ!」


慌てて身を起こす。


ナナ

「ミル!」


「大丈夫!?」


その声に。


魚クッションも。


びくっ!


驚いて飛び起きた。


ミル

「だ、大丈夫です……」


ノワ

「何やってるのよ」


ミル

「ミルもびっくりしました……」


ナナはほっと胸をなで下ろす。


ナナ

「よかった」


「急に目の前にミルがいたから、

びっくりしたよ」


ミル

「ミルも、

ナナが急に起きてびっくりしました!」


ナナ

「ふふっ」


ルナ

「二人ともびっくりした」


ミル

「ですね!」


ナナは身体を起こす。


ナナ

「私……」


「寝ちゃってたんだ」


ルナ

「うん」


ナナ

「今、何時?」


寝ぼけたまま、

壁の時計へ目を向ける。


ナナ

「……」


少しの間。


ナナ

「あっ」


「そういえば、

この時計止まってるんだった」


ノワ

「まだ寝ぼけてるわね」


ナナ

「ふふっ」


「そうみたい」


ルナ

「もう昼過ぎ」


ナナ

「……」


一瞬。


ナナの表情が止まる。


ナナ

「え?」


ルナ

「昼過ぎ」



ナナ

「ええっ!?」



魚クッション

「!?」


ミル

「!?」


ノワ

「びっくりした……」


ナナは慌ててベッドから降りる。


ナナ

「大変!」


「まだ洗濯も畳んでない!」


部屋を飛び出す。


魚クッションも、

慌てて後を追う。


ミル

「ナナ!」


三人も後を追い掛けた。


━━━━━━━━━━━━━━━


ナナ

「掃除もしないと!」


ぱたぱた。


廊下を進む。


ナナ

「それから夕飯の買い物も!」


階段を下りる。


ナナ

「帰ってきたら、

ご飯の用意もして……」


ミル

「ナナが迷い猫くらい速いです!」


ノワ

「完全に慌ててるわね」


リビングへ着いたナナは、

洗濯物へ手を伸ばす。


しかし。


ナナ

「あっ」


「先に掃除を……」


掃除道具へ向かう。


途中で止まる。


ナナ

「でも」


「先に買い物に行かないと……」


くるっ。


玄関を見る。


ナナ

「でも洗濯も……」


ミル

「……」


ノワ

「……」


ルナ

「……」


ナナ

「どうしよう!」


「これじゃ間に合わない!」


ルナ

「ナナ」


ナナ

「え?」


ルナ

「一回」


「深呼吸」


ナナ

「……」


ナナは胸へ手を当てる。


すぅー……


はぁー……


もう一度。


すぅー……


はぁー……


少しだけ肩の力が抜ける。


ナナ

「……よし!」


ルナは静かに頷く。


ルナ

「こういう時」


ナナ

「?」


ルナ

「猫の手も借りたいって言うのよ」


ナナ

「猫の手も借りたい?」


ミル

「猫の手!?」


ミルは自分の両手を見る。


じーっ。


そして。


ぱっと顔を上げる。


ミル

「あります!」


ノワ

「何がよ」


ミル

「猫の手です!」


ノワ

「今は人間の手でしょ」


ミル

「でもミルは猫です!」


ノワ

「私達みんな猫よ」


ミル

「じゃあ!」


「三匹分あります!」


ノワ

「そういう意味じゃないと思うけど」


ナナ

「ふふっ」


慌てていたナナも、

思わず笑う。


ルナ

「忙しくて」


「誰でもいいから、

手伝ってほしい時に使うの」


ナナ

「なるほど」


「そういう意味なんだ」


ミル

「それなら!」


ミルはナナの前へ出る。


ミル

「ミル達がお手伝いします!」


ナナ

「え?」


ミル

「いつもナナとルナが、

色々やってくれてます!」


「今日はミル達もやります!」


ノワ

「そうね」


「私達も手伝えば、

その分早く終わるでしょ」


ルナ

「うん」


「ナナは買い物に行ってきて」


「家のことは私達でやる」


ナナ

「でも……」


三人を見る。


ミル

「大丈夫です!」


胸を張る。


ミル

「猫の手!」


「三匹分です!」


ノワ

「それ気に入ったの?」


ミル

「はい!」


ナナ

「ふふっ」


少し考えて。


ナナ

「じゃあ」


「お願いしてもいい?」


ミル

「任せて下さい!」


ノワ

「行ってきなさい」


ルナ

「大丈夫」


ナナ

「ありがとう!」


ナナは猫神様から貰った巾着袋と買物バックを持って玄関へ向かう。


魚クッションは、

ナナの前へふわりと浮かんだ。


ナナ

「じゃあ、行ってくるね」


魚クッションは、

ぴょこんと一度上下に揺れる。


ナナ

「ふふっ」


「お願いね」


魚クッションは、

もう一度小さく揺れた。


ガチャ。


ナナが家を出る。


扉が閉まる。


その瞬間。


魚クッションは、

くるりと向きを変えた。


ぷかぷか。


まっすぐミル達の元へ飛んでいく。


ミル

「あっ!」


「魚クッションもお手伝いです!」


魚クッションは、

嬉しそうに上下へ揺れた。

━━━━━━━━━━━━━━━


ナナが出掛けた後。


三人と魚クッションは、

早速家事に取り掛かった。


ルナ

「私は掃除する」


ノワ

「じゃあ私達は洗濯物ね」


ミル

「はい!」


ミルは腕まくりをする。


ミル

「頑張ります!」


ノワ

「ちゃんと畳むのよ」


ミル

「もちろんです!」


魚クッションも、

ぷかっと一度上下に揺れた。


ミル

「魚クッションもやる気満々です!」


ノワ

「頼もしいわね」


ノワは一枚のタオルを手に取る。


ノワ

「まず半分にして」


ミル

「半分です!」


ぱたん。


ノワ

「そう」


「それをもう一回ね」


ぱたん。


ミル

「できました!」


ノワ

「次はこれ」


ミル

「はい!」


最初は順調だった。


一枚。


また一枚。


洗濯物が、

少しずつ綺麗に畳まれていく。


ミル

「お手伝い!」


「楽しいです!」


ノワ

「遊びじゃないのよ」


ミル

「分かってます!」


ノワ

「本当に?」


ミル

「もちろんです!」


ノワ

「じゃあ手を動かして」


ミル

「はい!」


その横を。


掃除道具を持ったルナが、

静かに通り過ぎる。


ルナ

「頑張って」


ミル

「任せて下さい!」


魚クッションも、

ルナの後ろをぷかぷかと浮かびながら、

小さなゴミを集めていた。


ルナ

「ありがとう」


魚クッションは、

嬉しそうに一度揺れた。


━━━━━━━━━━━━━━━


しばらくして。


二人の隣には、

畳み終わったタオルが積み重なっていた。


ミル

「結構できました!」


ノワ

「そうね」


ミル

「次はこれですね!」


ミルが次のタオルへ、

手を伸ばす。


その時。


肘が、

積み上がったタオルの山へ触れた。


ぐらっ。


ミル

「……!」


ノワ

「あっ」


タオルの山が、

ゆっくりと傾く。


ミル

「危ないです!」


ミルは慌てて、

倒れかけたタオルの山へ手を伸ばす。


ミル

「よいしょ……!」


なんとか支えようとする。


しかし。


ミル

「あっ」


足を滑らせる。


ずるっ。


ミル

「わぁっ!?」


どてんっ!


ミルはそのまま、

床へ転んだ。


そして。


支えを失ったタオルの山が。


ぐらぁ……


ミル

「……」


床から見上げる。


ばさっ!


ばさばさばさっ!


ミル

「わぁぁぁぁ!!」


大量のタオルが、

ミルの上へ降ってきた。


ノワ

「……」


ルナ

「……」


魚クッション

「!?」


そこには。


崩れたタオルの山だけが残っていた。


少しの間。


もぞっ。


タオルの隙間から、

ミルの顔がひょこっと出る。


ミル

「……やってしまいました」


ノワ

「見れば分かるわよ」


ミル

「助けようとはしたんです……」


ノワ

「それも見てたわ」


ミル

「うぅ……」


少し間。


ミル

「でも」


「タオルが降ってくる瞬間、

ちょっとドキワクでした!」


ノワ

「……」


ミル

「……」


ノワ

「反省しなさい」


ミル

「はい……」


魚クッションは、

タオルを一枚くわえると、

ミルの頭の上からそっとどかした。


ミル

「ありがとうございます!」


魚クッションは、

嬉しそうに上下へ揺れる。


ノワは小さくため息を吐くと、

ミルへ手を差し出した。


ノワ

「ほら」


ミル

「ノワ……!」


ノワ

「もう一回畳むわよ」


ミル

「はい!」


ミルはノワの手を取り、

立ち上がる。


魚クッションも、

床へ散らばったタオルを

一枚ずつ運び始めた。


ルナはその様子を見届けると、

静かに掃除へ戻る。


━━━━━━━━━━━━━━━


その後。


ミルとノワは、

床と窓の拭き掃除を始めた。


ミル

「雑巾がけです!」


ノワ

「私が床を拭くわ」


「そっちは窓の端までちゃんと拭くのよ」


ミル

「はい!」


二人は、

床と窓を丁寧に拭いていく。


ごしごし。


ごしごし。


ミル

「こういうのも、

結構楽しいです!」


ノワ

「ちゃんと手を動かして」


ミル

「動かしてます!」


魚クッションも、

近くでぷかぷか浮かびながら、

二人を応援していた。


少し失敗して。


やり直して。


時々ルナに助けてもらいながら。


三人と魚クッションは、

家事を進めていった。


やがて。


ルナ

「終わった」


掃除道具を片付ける。


部屋の中は、

すっかり綺麗になっていた。


ミル

「こっちも!」


最後の窓もしっかりと拭き終える。


ミル

「終わりましたぁ……!」


その場へ座り込む。


ノワ

「つ、疲れたわ……」


ルナ

「お疲れ様」


ミルは、

綺麗に片付いた部屋を見る。


ミル

「ナナとルナって」


「いつもこういうこと、

やってくれてるんですよね?」


ルナ

「うん」


ノワも、

綺麗になった部屋を見回す。


ノワ

「掃除も洗濯も」


「ご飯の用意もしてくれてるのよね」


ルナ

「そう」


ミルは、

改めてルナを見る。


ミル

「ルナ」


ルナ

「何?」


ミル

「いつもありがとうございます!」


ルナ

「……」


少しだけ目を丸くする。


ノワ

「そうね」


「ナナにもルナにも、

ちゃんと感謝しないとね」


ルナ

「……うん」


ミルは、

もう一度洗濯物を見る。


ミル

「ナナにも」


「とても感謝です……」


ノワ

「ええ……」


二人は顔を見合わせる。


ミル

「やってみると」


「すごく大変です……」


ノワ

「本当ね……」


魚クッションも、

静かに一度上下へ揺れた。


ミル

「もう動けません……」


ノワ

「私も……」


ルナ

「休んでていい」


ミル

「そうします……」


ノワ

「そうね……」


二人は猫フードへ手を伸ばす。


ひょいっ。


ぽんっ。


白猫のミル。


黒猫のノワ。


二匹は、

その場でゆっくり身体を伸ばした。


ノワはふと。


畳み終えた、

大きなバスタオルを見る。


ふかふか。


黒猫のノワは、

とことこと歩いていく。


その上へ乗る。


くるり。


身体を丸めた。


ミルも、

ノワに寄り添うようにごろんと寝転がる。


魚クッションは、

二匹の様子を見てから、

満足そうにぷかぷかと浮かんだ。


━━━━━━━━━━━━━━━


しばらくして。


ガチャ。


玄関の扉が開く。


ナナ

「ただいま!」


買い物袋を手に、

ナナが帰ってきた。


その瞬間。


ぷかぷか。


魚クッションが、

嬉しそうに玄関まで飛んでくる。


ナナ

「ふふっ」


「ただいま」


魚クッションは、

ナナの周りを一周すると、

リビングの方へ飛んでいく。


ナナ

「みんなどうしてるかな?」


ナナはリビングへ向かった。


ナナ

「……!」


ナナは足を止める。


部屋は、

隅々まで綺麗に掃除されていた。


洗濯物も、

きちんと畳まれている。


ナナ

「すごい……」


ルナは最後の片付けをしていた。


その近く。


大きなバスタオルの上では。


白猫のミルと。


黒猫のノワが。


身体を寄せ合うように、

気持ち良さそうに眠っていた。


魚クッションは、

その隣で静かにぷかぷか浮かんでいる。


ナナは思わず微笑む。


ナナ

「ふふっ」


「二人とも疲れちゃったんだね」


ルナ

「うん」


ナナ

「全部終わったの?」


ルナ

「終わった」


ナナ

「すごいね」


「ありがとう」


ルナは、

眠っている二匹を見る。


ルナ

「途中は大変だったけど」


「二人とも最後まで頑張ってくれた」


ナナ

「そっか」


ナナは、

もう一度部屋を見回す。


綺麗になった床。


綺麗に畳まれた洗濯物。


今日は。


ミルとノワが、

一生懸命頑張ってくれた。


ナナは二匹の前へしゃがみ込む。


そっと頭を撫でた。


なで……


なで……


ミル

「にゃ……」


「にゃにゃ……♪」


ノワ

「んにゃ……」


眠ったまま、

気持ち良さそうに身体を寄せ合う。


ナナ

「ふふっ」


「何か夢見てるのかな?」


ルナ

「多分」


「いい夢」


魚クッションも、

嬉しそうに上下へ揺れた。


ナナ

「今日は本当にありがとう」


ナナは立ち上がる。


そして。


ルナの方を見る。


ナナ

「ルナもありがとう」


「最後まで見てくれて」


ルナ

「当然」


少しだけの間。


ルナ

「家族だから」


ナナは、

優しく笑う。


ナナ

「うん」


「そうだね」


ナナは買ってきた食材を取り出す。


ナナ

「じゃあ」


「ご飯作るね」


ルナ

「手伝う」


ナナ

「お願い!」


二人はキッチンへ向かった。


━━━━━━━━━━━━━━━


しばらくして。


リビングいっぱいに、

夕飯のいい匂いが広がり始める。


その瞬間。


ミルの鼻が、

ぴくっ。


ぴくぴくっ。


ミル

「にゃ……」


くんくん。


くんくん。


ミルはゆっくり目を開ける。


ミル

「にゃ!」


隣では。


ノワも鼻をひくひくさせていた。


ノワ

「にゃ……」


二匹は起き上がり、

近くに置いてあった猫フードを被る。


ぽんっ。


白猫のミルは、

人間の姿へ戻る。


続いて。


ぽんっ。


ノワも人間の姿へ戻った。


ミル

「ナナ!」


ミルは嬉しそうに、

キッチンへ駆け寄る。


ノワもその後を歩く。


ナナ

「あっ」


「おかえり」


ミル

「ただいまです!」


ノワ

「逆でしょ」


ミル

「あっ」


少し考える。


ミル

「……おかえりなさいでした?」


ノワ

「そうよ」


ナナ

「ふふっ」


「二人とも夢の世界から帰ってきたみたいだから、

間違ってないかもね」


ミル

「なるほどです!」


ルナ

「寝ながら」


「嬉しそうにお話ししてた」


ミル

「えっ」


ルナ

「『にゃにゃ……♪』って」


ミル

「!!」


ミルの顔が、

みるみる赤くなる。


ミル

「き、聞いてたんですか!?」


ルナ

「うん」


ノワ

「ふふっ」


ミル

「忘れて下さいー!」


ノワ

「多分無理ね」


ルナ

「ノワも」


「何か言ってた」


ノワ

「……え?」


ルナ

「『んにゃ……』って」


「嬉しそうだった」


ノワ

「……」


少しの沈黙。


ノワ

「……忘れなさい」


ミル

「一緒です!」


ナナ

「ふふっ」


「もう少しでご飯できるから」


「待っててね」


ミル

「はい!」


ミルは勢いよくソファへ座る。


ぴんっ。


尻尾を真っ直ぐ立てる。


ミル

「ドキワク待機です!」


ノワ

「本当に分かりやすいわね」


ルナ

「いつものミル」


リビングには。


今日も温かな笑い声が響いていた。


小話


「猫の手も借りたい」


終

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