「構って下さい」
小話
「構って下さい」
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夕方。
ナナの家。
窓から差し込む夕日が、
リビングを優しく照らしていた。
ノワは本棚の前に立つ。
棚へ並ぶ本を一冊一冊眺めると、
その中から一冊だけ取り出した。
「想い人」
ノワはその本を手にソファへ腰掛ける。
ぱらっ。
ゆっくりとページを開いた。
ミルはその様子を見つめる。
ミル
「また本です?」
ノワ
「ええ」
ミル
「ノワ、最近ずっと本ですね」
ノワ
「文字が読めるようになったから」
「楽しいのよ」
ミル
「なるほどです!」
ノワは静かにページをめくる。
ぱらっ。
ミルは少し考える。
そして。
ノワの横へ座った。
じーっ。
ミルはノワを見る。
ノワは本を見る。
じーっ。
ノワはページをめくる。
ミル
「……」
少し待つ。
ノワ
「……」
ぱらっ。
ミル
「むぅ」
ミルはそっと本を覗き込んだ。
ミル
「どんなお話です?」
ノワ
「大好きなご主人とはぐれた猫が」
「色んな困難にぶつかりながら
必死に探す話よ」
ミル
「見つかるんですか?」
ノワは静かにページをめくる。
ぱらっ。
ノワ
「まだ途中」
ミル
「気になります!」
ノワ
「私も」
ミル
「早く見つかるといいですね!」
ノワ
「そうね」
ノワはまた本へ目を戻した。
ミルは立ち上がる。
部屋の中を少し歩く。
ちらっ。
ノワを見る。
読んでいる。
また歩く。
ちらっ。
まだ読んでいる。
ミル
「むぅぅ……」
ミルは猫じゃらしを持ち上げる。
ふり。
ふり。
ノワの視界の端で揺らす。
ノワ
「ミル、読めないわ」
ミル
「遊びましょう!」
ノワ
「後で」
ミル
「今です!」
ノワ
「後で」
ミル
「むぅぅぅ……」
ミルはノワの真正面へ回り込む。
にこっ。
変顔。
ノワ
「……」
ミル
「どうです?」
ノワ
「何してるの」
ミル
「変顔です!」
ノワ
「そう」
ぱらっ。
ページをめくる。
ミル
「効きませんでした……」
今度は両手を広げる。
ミル
「ノワー!」
ノワ
「な、何?」
ノワが少し困ったような表情を浮かべる。
ミル
「呼んでみました!」
ノワ
「びっくりさせないでよ」
ぱらっ。
ミル
「うぅ……」
「いい作戦だと思ったんですが……」
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キッチンでは、
ナナが夕飯の準備をしていた。
その隣でルナがお皿を並べている。
ナナ
「ふふっ」
「今日も賑やかねぇ」
ルナ
「最近」
「ずっとああね」
ミルは二人の方へ歩いてくる。
少しだけ頬を膨らませていた。
ミル
「大変です!」
ナナ
「あら?」
ミル
「ノワが」
「ルナみたいになってしまいました!」
ルナ
「?」
ナナ
「どういうことかしら?」
ミル
「本ばっかり読んで」
「全然遊んでくれません!」
ルナ
「……」
少し考える。
ルナ
「私?」
ミル
「はい!」
ルナ
「そうだったわね」
ナナは思わず吹き出した。
ナナ
「ふふっ」
「確かに少し似てきたかもしれないわねぇ」
後ろからノワの声が聞こえる。
ノワ
「聞こえてるわよ」
ミルはぱっと振り返る。
ミル
「聞こえてるなら!」
「構って下さいよぉ!」
そう言って、
ノワの隣へ駆け寄る。
ノワは本を閉じない。
けれど。
そっと片手を伸ばした。
ぽん。
ノワはミルの頭へ手を乗せる。
ミル
「あうっ!」
そのまま。
優しく撫でる。
なで……
なで……
ミル
「!」
ノワ
「これでいい?」
ミルは少し考えた。
そして。
にこっと笑う。
ミル
「もうちょっとです!」
ノワ
「欲張りね」
ミルは少しだけ笑う。
それから。
自分の猫フードへ手を伸ばした。
ひょいっ。
脱ぐ。
ぽんっ。
ミルは白猫の姿になった。
小さな足で。
ぴょん。
ノワの隣へ飛び乗る。
くるり。
丸くなる。
ミル
「にゃ♪」
ノワには
その鳴き声の意味は分からない。
それでも。
優しく頭を撫でる。
なで……
なで……
ミルは気持ち良さそうに
喉を鳴らした。
「ゴロゴロ……」
「ゴロゴロ……」
ノワは片手でミルを撫でながら、
もう片方で本を読む。
ぱらっ。
「ゴロゴロ……」
その音は。
やがて静かな寝息へ変わっていた。
ノワは眠るミルを見下ろす。
小さく微笑む。
ノワ
「甘えん坊ね」
優しくもう一度撫でた。
ナナはその様子を見て、
ふんわりと微笑んだ。
ナナ
「ふふっ」
「仲良しねぇ」
ルナ
「ええ」
窓の外では、
夕日がゆっくりと沈んでいく。
穏やかな時間が、
静かに流れていた。
小話
「構って下さい」
終




