「お姉さん」
小話
お姉さん
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昼過ぎ。
ナナの家。
リビングには、
穏やかな時間が流れていた。
ナナは、
ソファの前で洗濯物を畳んでいる。
そのそばでは。
魚クッションが、
ふわふわと宙を漂っていた。
ミルとノワも、
ナナを手伝っていた。
ミルは一枚のタオルを手に取る。
ばさっ。
端と端を合わせて。
ぱたん。
もう一度。
ぱたん。
ミル
「できました!」
ノワ
「前より随分早くなったわね」
ミル
「ふふん!」
「ミルも成長してるんです!」
ナナ
「本当ね」
「綺麗に畳めてるわ」
ミル
「はい!」
ミルは、
得意そうに畳んだタオルを置く。
少し離れたテーブルでは。
ルナが本を読んでいた。
ミル
「次です!」
新しいタオルを手に取る。
ばさっ。
ぱたん。
ぱたん。
ノワ
「随分ご機嫌ね」
ミル
「当然です!」
ノワ
「何が当然なのよ」
ミル
「今日はいっぱいお手伝いしてます!」
ノワ
「私もしてるわよ」
ミル
「それに!」
ミルは、
胸を張る。
ミル
「ミルは長女ですから!」
ノワ
「……そうね」
ノワは、
若干引きつった顔で答える。
ミル
「なんですか、その顔は!」
ノワ
「別に」
ミル
「今ちょっと不安そうでした!」
ノワ
「気のせいよ」
ミル
「絶対違います!」
ナナ
「ふふっ」
ミルは、
少し頬を膨らませる。
そして。
今度はルナを見る。
ミル
「ルナ!」
ルナ
「何?」
ミル
「もっとお姉さんを頼ってもいいんですよ!」
ルナ
「そう」
ミル
「はい!」
ルナ
「じゃあ」
ルナは、
手元の本へ視線を戻す。
ルナ
「洗濯物、頑張って」
ミル
「任せて下さい!」
ノワ
「上手く使われたわね」
ミル
「頼られました!」
ノワ
「幸せそうで何よりだわ」
ミル
「はい!」
ノワ
「褒めてないけど」
ナナは、
そんな二人を見ながら楽しそうに笑う。
魚クッションも。
ミル達のそばを、
すいーっと泳いでいった。
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しばらくして。
一枚。
また一枚。
洗濯物が、
綺麗に畳まれていく。
以前、
家事を手伝った時よりも。
ミルの手つきは、
随分と慣れていた。
ミル
「これもできました!」
ナナ
「上手上手」
ミル
「次も任せて下さい!」
ノワ
「張り切りすぎて、
また全部崩さないでよ」
ミル
「もうしません!」
ノワ
「本当に?」
ミル
「多分です!」
ノワ
「そこは言い切りなさいよ」
ミル
「大丈夫です!」
「今のミルは、
あの時のミルとは違います!」
ノワ
「そんな昔の話みたいに……」
ミル
「成長しました!」
ナナ
「ふふっ」
その後も。
ミルとノワは、
洗濯物を畳んでいく。
やがて。
二人の前には、
畳み終えた洗濯物が積み上がっていた。
ノワ
「これくらいかしら」
ミル
「いっぱいです!」
ノワ
「向こうに置いてくるわね」
ナナ
「お願い」
ノワ
「ええ」
ノワは、
畳み終えた洗濯物を両腕に抱える。
そのまま、
歩き出した。
その時。
足元にあったタオルへ、
ノワの足が引っ掛かった。
ノワ
「……あっ!」
ぐらっ。
身体が、
大きく傾く。
ミル
「ノワ!」
次の瞬間。
ミルは、
駆け出していた。
ミル
「危ないです!」
ノワ
「ミル!?」
倒れかけたノワへ。
咄嗟に、
両手を伸ばす。
しかし。
ノワの身体と、
抱えていた洗濯物。
その勢いを。
ミルの小さな身体では、
受け止めきれない。
ミル
「わっ!」
ノワ
「きゃっ!」
どさっ!
ミル
「あうっ!」
ノワ
「いたっ……!」
ミルは、
そのままノワの下敷きになった。
そして。
宙へ舞った洗濯物が。
ばさっ。
ばさばさっ。
二人の上へ、
次々と降ってくる。
魚クッション
「!?」
ナナ
「二人とも!」
ルナも、
すぐに立ち上がる。
しかし。
その前に。
ミル
「ノワ!」
ノワ
「え?」
下敷きになったまま。
ミルは、
心配そうにノワを見る。
ミル
「大丈夫です!?」
ノワ
「私は大丈夫だけど……」
ノワは、
自分の下にいるミルを見る。
ノワ
「アンタの方が大丈夫なの!?」
ミル
「はい!」
「ミルは大丈夫です!」
そして。
ほっとしたように笑う。
ミル
「ノワが無事で良かったです!」
ノワ
「……」
少しの間。
ノワは、
ミルを見つめる。
ノワ
「……ありがと」
ミル
「はい!」
ナナとルナが、
二人のそばへ駆け寄る。
ナナ
「本当に大丈夫!?」
ミル
「大丈夫です!」
ノワ
「私は大丈夫」
「それよりミルが下敷きに…」
ナナ
「それミルが大丈夫じゃない!」
ナナは少し焦ったようにミルに視線を移した。
ミル
「ちょっと痛かっただけです!」
ノワ
「痛かったんじゃない!」
ルナ
「どこかぶつけた?」
ミル
「お尻です!」
ノワ
「……」
ナナ
「……」
ルナ
「……」
ミル
「でも大丈夫です!」
ノワ
「本当にもう……」
ノワは身体を起こす。
ミルも、
ゆっくり起き上がる。
魚クッションが、
心配そうにミルの周りを泳ぐ。
ミル
「大丈夫ですよ!」
魚クッションは、
少し安心したように上下へ揺れた。
その周りには。
二人が運んでいた洗濯物が、
見事に散らばっていた。
ミル
「……」
ノワ
「……」
ミル
「増えました」
ノワ
「…ごめん」
ミル
「大丈夫ですノワ!もう一回畳みます!」
ノワ
「わっ、私もやるわよ!」
ミル
「はい!」
二人は、
散らばった洗濯物を拾い始める。
その様子を。
ルナは、
何も言わず見つめていた。
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少しして。
散らばった洗濯物も、
綺麗に畳み直された。
ミル
「ふぅ〜」
「今度こそ終わりました!」
ノワ
「その…ありがと」
ミル
「はい!」
ミルは、
満足そうに微笑む。
ナナ
「二人ともありがとう」
ノワ
「ええ。ナナにも悪かったわ」
ナナ
「大丈夫よ。二人が無事なら何でもいいわよ」
微笑むナナ。
ミル
「何より今日は!」
胸を張る。
ミル
「ミルはノワも助けました!」
ノワ
「それは……」
少しだけ間を置く。
ノワ
「そうね」
ミル
「ふふん!」
ノワ
「調子に乗らない」
ミル
「むぅ……」
ナナ
「ふふっ」
ルナは、
そんな三人のやり取りを静かに見つめていた。
ミルがノワを助けた時。
考えるより先に、
身体が動いていた。
長女だから。
お姉さんだから。
そんな言葉を口にする暇さえなく。
ただ。
ノワが危ないと思った瞬間に、
飛び出していた。
ルナ
「……」
その表情が、
ほんの少しだけ柔らかくなる。
ナナは、
三人を見回す。
ナナ
「それにしても」
ミル
「?」
ナナ
「姉妹かぁ」
ミル
「はい!」
ナナ
「なんだか、
いいね」
ノワ
「そう?」
ナナ
「うん」
ナナは、
三人を見ながら柔らかく笑う。
ナナ
「やっぱり羨ましいかも」
ミル
「?」
ミルは、
きょとんとナナを見る。
その横で。
ルナは、
静かにナナへ視線を向ける。
ほんの少しだけ。
何かを考えるように。
けれど。
何も言わない。
ミル
「何言ってるんですか、ナナ」
ナナ
「え?」
ミル
「ナナは」
「ミルのお母さんじゃないですけど」
「大事な家族ですよ!」
ナナ
「……!」
ミル
「もちろん」
「魚クッションもです!」
魚クッションが、
嬉しそうに大きく揺れる。
ナナ
「……そっか」
ナナは、
少し照れくさそうに笑う。
ナナ
「ありがとう、ミル」
ミル
「はい!」
その時。
ミルが、
何かを思いついたように胸を張る。
ミル
「あっ!」
ナナ
「?」
ミル
「なんなら」
「ミルがナナのお姉ちゃんに
なってあげますよ!」
ナナ
「え?」
ノワ
「……」
ルナ
「……!」
ミル
「ミルは長女ですから!」
得意そうに、
胸を張る。
ノワ
「さっそく調子に乗ってるわね」
ミル
「乗ってません!」
ナナ
「ふふっ」
「じゃあ、
お願いしようかな?」
ミル
「任せて下さい!」
「ミルお姉ちゃんです!」
ノワ
「はいはい」
ミル
「なんですか、その反応!」
ナナは、
楽しそうに笑っている。
そして。
少しだけ楽しそうに、
ミルを見る。
ナナ
「じゃあ」
少し間を置いて。
ナナ
「よろしくね、ミルお姉ちゃん」
ミル
「……」
ぴたり。
ミルの動きが止まる。
ノワ
「……ミル?」
ミル
「……わぁ〜」
口を少し開け。
ミルは、
蕩けたような顔でどこか遠くを見つめている。
ミル
「ミルお姉ちゃん……」
「えへへ……」
魚クッションが、
ミルの顔を覗き込むように近付く。
ノワ
「ちょっと」
「意識飛んでない?」
ミル
「飛んでません〜……」
ノワ
「飛んでるわね」
ミル
「……ドキワクですぅ……」
ノワ
「何がよ」
ナナ
「あははっ!」
その隣で。
ルナだけが、
何も言わずミルを見つめていた。
ほんの少しだけ。
驚いたように。
そして。
その表情が、
ゆっくりと柔らかくなる。
ルナ
「……ミル」
ミル
「……はい?」
まだ少し蕩けたまま。
ミルが、
ルナを見る。
ルナ
「やっぱり」
「お姉さんは、
あなたで合ってるわ」
ミル
「……!」
その言葉に。
ミルの目が、
ぱっと輝く。
ミル
「本当です!?」
ルナ
「うん」
ミル
「聞きましたか、ノワ!」
ノワ
「聞いてたわよ」
ミル
「ルナが認めてくれました!」
ノワ
「良かったわね」
ミル
「はい!」
嬉しそうに、
大きく頷く。
そして。
ミル
「では!」
ルナ
「?」
ミル
「ルナも」
「ミルお姉ちゃんって呼んで下さい!」
ルナ
「それは嫌」
ミル
「なんでです!?」
ノワ
「そこは別問題でしょ」
ミル
「お姉さんって認めたじゃないですか!」
ルナ
「認めたわ」
ミル
「だったら呼んで下さい!」
ルナ
「それとこれとは別」
ミル
「そんなぁー!」
ナナ
「あははっ!」
ノワも、
堪えきれず笑う。
魚クッションも。
楽しそうに、
四人の周りを泳いでいく。
ミル
「いつか絶対!」
「ミルお姉ちゃんって呼んでもらいますからね!」
ノワ
「頑張りなさい」
ミル
「ノワもですよ!」
ノワ
「私は無理ね」
ミル
「なんでですかー!」
ルナ
「ふふっ」
賑やかな声が、
リビングいっぱいに広がっていく。
長女だからと、
張り切って。
少し調子に乗って。
それでも。
大切な誰かが危ない時には、
考えるより先に手を伸ばす。
そんなミルを。
ルナは、
静かに見つめていた。
その表情には。
先程までよりも、
少しだけ柔らかな笑みが浮かんでいた。
ミル
「ルナ!」
ルナ
「何?」
ミル
「今なら呼んでもいいですよ!」
ルナ
「呼ばない」
ミル
「なんでですかー!」
再び。
楽しそうな笑い声が、
リビングへ響いた。
終




