第23話 始まりのエピローグ
奏はユリウス以外の3人から補足を受けながら終えた話の、概要を理解したうえである事項に戦慄する。
「アカネ……お前アレ、出来るのか…!?」
「……アレ、とは?」
「そりゃ……バイザーさんが言ってるのは、あの人外ヨガだよ……」
「え゛?あんなの体柔らかい人なら誰でも……」
アカネの驚愕の顔と共に放った振動の「え」という言葉に、エヴァは思わず叫んでしまう。
「人体の可動域ギリギリを攻めるのは誰でも出来るわけじゃねぇぞ!?」
「っ!?……エヴァ!急に叫ばないでください!」
「おもっくそ見当はずれの認識の身内が居て叫ばないやつがいるかぁ!?何度も言ってんのに認識を改めないし!」
「なっ…!?それはそっちの認識が的外れなんですよ!!公式が推奨してるんですよ!?」
その主張に待ったをかけるのは、会議に参加しなかった、いや参加できなかったユリウス。
「いや、あれは僕の健康管理員も言ってたけど、かなりやってる内容だ…って言ってたよ。」
「ソ…ソウナンデス…カ?」
自分以外の全員からの指摘に、自分が外れ値だということにようやく気付いたアカネは、片言な言葉を発することしかできなかった。
「うん。ヨガガチ勢でもきつい内容なのに、それをダイブして凝り固まった体をほぐす内容として推奨するのはおかしいって。」
「……あぁ……」
アカネはさらに身体の健康の造詣が深いことを、リアルの様子から予測できるユリウスの追撃で撃沈しかける。
「それに確か公式から推奨する柔軟って変わったはずじゃあ?去年に公式から発表があった気がするけど?」
「確かにユリウスの指摘の言う通り、去年の世界大会前のセレモニーで、火柱と同時の発表の一部にその情報もあったな……あの時死ぬほど熱かったんだよな……」
奏は朧げなな記憶を探るようにして話すユリウスの発言に覚えがあったので、その発言の補足と共に自身の嫌な記憶も思い出してしまい、呟く。
「あの火柱かなり問題になったよね?観客に火の粉がかかるのが問題提起されてたし、何より選手にも影響あったって情報を大会関係者が漏らした、っていう情報とかもあったよね?」
「ええ。オリヴィアも言う通り、アレはかなり騒動になりましたし、AS運営も謝罪声明と会見を行いましたからね………というか、バイザーさん現地に居たんですか?世界大会のチケットって外延部の最後方でも数百万から数千万しますよね……?火の粉が掛かる位置となると……最前列付近?」
(説明が面倒だな。)
「……………………ああ、かなり金はかかったがな。」
奏はそこで気軽に肯定してしまった。
「もしかしなくても、バイザーさんって相当金持ちですか?最前席付近って最低数億はしますよ?」
「……………………株が……成功したんだ………」
「おいまじかよ…!オフ会の奢りはバイザーさんな!」
「ああ……」
(最前席ってそんなにするのか……)
ASの世界大会は様々なプラットフォームで配信されており、同時接続数は合算すると、平均して10億付近をうろうろしている。
それゆえ現地観戦のチケットの値段は死ぬほど高くなるのは当然であり、それに加え売り方も抽選で当たった人とかではなく、公式からオークション形式で販売されるので値段は跳ね上がる。
アカネの最前席が数億するという情報も正しくは最低でも10億は超え、ASがこの地位を確立してから、これまでの販売の歴史で最も安く落札されたのは7500万ドル。
この時代の為替レートでの日本円にして、おおよそ11億円である。
ちなみに、最高額は前々回の世界大会、ASTRA VS Every path Leads to We(通称ELW)の決勝であり、値段にして4億ドルであった。
「まあ、僕は時代遅れだと思うけどね。世界中でプレイされているどころか日常の一部になっていて、プロシーンの関心もどの国でも90%以上あるASで、十数万人規模の特設アリーナを作って世界大会をするって……今の人口はおおよそ100億近くいるのに、ちょっと需要と供給が合わなすぎる。さっさと仮想現実AS内で開催すればいいのにな、とは常々思ってるよ僕は。」
ユリウスの私情盛り盛りの意見に、アカネは眉を顰め反論する。
「それはちょっとユリウスさんの私情も入ってますよね?私は未だ仮想現実は現実に追いついていないと思います。結局、仮想現実の中のプロも現実に存在する人なんですから。それに仮想現実の中での開催でも結局同じくらいのお金はかかると思いますよ?それが興行という物なんですから。」
「……いいじゃないか!?僕だって映像の中で行われる、プロの至極の戦闘を一番いい場所で見たいという気持ちがあるんだよ!?リアルでは見に行こうにも僕の体質が関係していけないし!!」
「さっきの話の中でも出てきていたが、ユリウスはリアルだと病人、もしくはそれに近い状態なのか?余り聞いていい事柄だとは思わないが、一応な。」
「……言ってもいいですか?」
アカネのその視線にもユリウスは飄々とした態度を崩さずに答える。
「どうぞ。僕は最早リアルについて未練はないから、恥ずべき事でもない。」
「そうですか……それじゃ言いますね……ユリウスさんはALS……えーと…wikiは……」
アカネはALSという名前と症状のみ知っており、正式名称を奏へと伝えるためにウィンドウを空中展開し、思考検索をかけて出てきた結果一覧の一番上のwikiを開く。
AIによる回答もされていたが、この検索エンジンのAIは少しいたずら好きで有名であるため、回答を無視してwikiを閲覧する。
「筋萎縮性側索硬化症という病気にかかっています。それも末期の。それによってユリウスさんのリアルでの肉体は現在、人工呼吸器を接続してやっと生きながらえている状態です。」
そうしてアカネから奏へと飛ばされたウィンドウの内容を、奏は吟味する。
「…wikiを見る限り、指定難病の一種で完治どころか治療そのものが行えず、出来るのは対症療法のみ…合ってるか?」
「合ってるよ。リアルの後藤明《僕》は、今この仮想現実の中で意気揚々としているユリウスとは対照的な状態に居る。」
ユリウスは思い出に耽り、忌々しい雰囲気を隠さずに話を続ける。
「発症時期は僕が3歳の誕生日を迎えたその次の日に、診断されたよ。前兆はたくさんあったからね。」
「……絶望したか?」
「ああ……ああ!もちろん世界に絶望した、し続けた。なんで僕なんだ…って、他じゃなきゃダメだったのか…って。数千万回思ったさ!?……死のうとも思った。それでも僕は今此処に生きている。この世界《AS》とたった一人のおかげで。」
ヒートアップした頭をクールダウンさせるためにユリウスは2回、深呼吸を挟んで改めて奏へと向き直る。
「……しみったれた話はここいらでお終いにして、バイザーさん。僕らはあなたをコーチとして雇うつもりだ。」
その言葉《事実》を紡ぐのはユリウス。
「バイザーさんから振ってきたこの話、今度はこっちから振らせてほしいかも。」
その言葉《意思》を繋ぐのはオリヴィア。
「話はDMで伝えたから、手っ取り早く答えて、承諾して貰えるとオレらは助かる。」
その言葉《願い》を綴るのはエヴァ。
「開催まで時間が無いので、無遠慮な態度を許して下さい。」
その言葉《許し》を請うのはアカネ。
「「「「僕(私)(オレ)達を指導してくれ(ください)。」」」」
4人の思いは今、重なる。
それは単純な願い。
「勝ちたい」という、純粋な願い。
後は1人。
「……俺からの返答は一つだけだ。」
奏は少し斜めっていた体を直し、向き合う。
「俺の出来ることは全てしよう。全てを望め。勝っても負けても満足するな。満足しずに頂点を目指し続けたその先の、俺の期待に応えて俺の知らない景色を見せてくれ。」
5人の心は
「「「「もちろん。」」」」
重なり
「じゃあ、契約成立、だな。」
「だね。」
これにてプロローグは終わりを告げ、本番が始まる。
次章『V戦争リーグ、第一回目競技、サバイバル•ストラグル』




