第24話 名前
ユリウスは一度、一息ついてから4人を再度見渡し、本題の話に入る。
「じゃあ、承諾も取ったし…本題の僕らが参加するイベント、リーグ戦について話そうか。」
奏はそこで少し眉をひそめた。
何故なら、リーグ戦の苦楽を最も理解している奏だからこそ、配信業と平行して行えるのか、疑問が生まれたのだ。
「リーグ戦をするのか……他の配信活動はどうするんだ?まさかこれに全注力を注ぐってわけでもないだろ?」
ユリウスは奏の質問に対し、薄っすら笑みを浮かべながら告げる。
「そのまさかだよ。参加するチームのほとんどは、普段の配信をこのリーグの練習配信にして戦う腹積もりだよ。このリーグは3回目の開催なんだけど、前回・前々回共にどのチームもガチガチに取り組んで、マジバトルが勃発してたしね。」
「…それで配信のバリエーションが持つのか?視聴者も置いてきぼりになる事はないのか?……いや、前回・前々回共に成功して第3回が開催されていると考えると、その辺は考慮しなくていいのか。」
奏が自問自答で円滑な大会進行が行えるのかの是非を確認した瞬間、ユリウスが指を鳴らしながら、その理由について補足を加える。
「そう!その辺も初回時に考慮されていたことだけど、今でもトップクラスに位置しているVの主催が強行して開催。そして意外にも多数の視聴者がそのリーグを追い続けて、無事大成功。ああ、もちろん他の配信もたまに行うよ?そして今回3回目の開催に招待されたのがアウロラってわけでね?」
「正確には、このリーグは様々な事務所が招待されて、その事務所から5~10チームが出場出来るんですよ。私たちは全……何チームなんでしたっけ?」
アカネがウィンドウを開いて公式ページや公式アカウントに飛ぶ前に、ユリウスは答える。
「7だよ。珍しいね?アカネちゃんがこういうイベント事の詳細をド忘れするの。」
アカネはユリウスの咎めるような言い方ではないが、アカネ自身の行動を責めるような言い方、カチンと来た。
そして、眉間に皺を寄せてユリウスへと指を堂々と指して、告げる。
「元はと言えば、あなたのせいですよ!?あなた主催のイベントにこちらは全精力を投じたんですから!」
「アカネさんの本気度凄かったよね~?エヴァちゃん?」
「オリヴィアが言ったように、本気度が周回ペースに表れて、スピードがRTAじみてたからな。1週ごとのタイムスタンプも作って、1時間にエグイペースのゴールド稼ぎしてて……ちょっと引いた。」
苦笑いを浮かべながら言う二人に対し、アカネは慌てながら弁明をする。
「い、いいじゃないですか!?自分の推しの為ですよ!?本気くらい出したって…!」
「ハイハイ。バイザーさんが置き去りだから。話を戻すよ……それで僕らの事務所が出るチーム数の数は7。僕らのチームの位置づけは…7チーム中、大体2番目って感じかな?」
ユリウスは奏が話に付いてこれていない雰囲気を醸し出しているのを感じ取り、アカネ・エヴァ・オリヴィアの3人を諫めながら、話を戻す。
その話にどうやら奏は質問があるようで、顔の斜め前の辺りで人差し指を上げながら、質問内容を口に出すことの是非をユリウスへと問うため、許可を伺う言葉を吐く。
「一ついいか?」
「うん?どうぞ?」
そしてユリウスからの承諾を得ることができ、奏は質問内容を口に出す。
「これはチーム間の争いなのか?それとも事務所間の争いなのか?」
「まあ色々あるけど…チーム間よりも事務所間の争いの方が近いかな?」
「色々?」
ユリウスは有志で作られた、過去行われた大会の概要wikiをスワイプするかのような指の動きを空中で行い、その動きに伴って奏の目の前までwikiが載ったウィンドウを飛ばす。
「支払われる報酬は事務所の順位で決まっていて、その報酬を事務所内で分け合う時にチーム間のポイントを参照して決める、いわゆる成果主義型な方式なのさ。」
「なるほど……もう一つ。ポイントというのはいわゆる稼ぐ方式なのか、それとも事務所間で奪い合うのか、どっちなんだ?」
ユリウスは端的に奏の質問に答え続ける。
「事務所間での奪い合いだよ。リーグ戦オープニングセレモニー終了と同時に、事務所ごとに1万ポイント与えられる。それをチーム数で割ってチームごとに等分割でポイントの所持、及び他事務所のチームとのバトル、もしくは競技的なスポーツみたいなものの勝敗で奪い合うのが、このリーグ戦の全容だ。」
「競技的なスポーツ?サッカーや野球などか?」
「その通り。今まで開催された中には、カバディやセパタクローもあったよ。もちろん、原則としてスキルの使用はオールオッケーだよ。」
オリヴィアとエヴァとアカネはユリウスと奏の質疑応答中に、突如として入ってきたカバディという単語に苦い顔になった。
「カバディは酷かったですね……確か24時間以上やった試合がありましたよね?」
「あ~…あのV倶楽部と│STAR CRESTのやつですね……私も同時視聴配信したけど……正直途中でダウンして、配信がストップしました。」
「オリヴィアの言う通り、あの試合はクソだったな。どっちのチームも守りに全振りでポイント差が付くどころか、ポイント自体が0-0のまま24時間やって、スタクレのチームメンバーの一人が気絶してログアウト。そっからV倶楽部が1点取って勝利した内容だからな。」
「そんなのもあるのか……」
奏はそんな破綻していいのかと思う一方、まぁ公式が検証して開催したプロの大会と比べるのも悪いなと感じ、今後のリーグ戦に向けた心構えを作ることを決めた。
「そこから大会規定で6時間を超える、拮抗じゃなく膠着状態に陥った試合は即座に中断して、じゃんけんで決めるようになったんですよね。そもそもそんな試合はその試合しかなかったですけど。」
「「あれは酷かった……」」
ユリウスはエヴァとオリヴィアのげっそりとした表情に、込み上げてきた笑いをこらえることが出来ずに、少し含み笑いを孕んだ声で会話に入る。
「二人は同時視聴していたから、口伝で聞いた僕たちよりも、時間無制限のクソさをより実感しているだろうね。」
「で、だ。大体のルールの概要は分かったが、俺は基本的にコーチという立場らしいが…何をするんだ?戦闘?それともスキル構成?戦略?」
外れた話題から元に戻すために、奏は一度単音の言葉で溜めを作り、流れを断ち切ることで本題に入る。
ユリウスは今、プロリーグの次に最も話題になっているこのイベントへの奏の無知さに、世俗から離れた仙人の様だと思ったが、逆に自分達がコーチにした男の未知数さにワクワクしながら問いに答える。
「全部だよ。僕らはコーチの手と足となって必要と言われれば、どんなスキルも使いこなせるように訓練するし、どんな情報だとしてもそれが必要であるなら記憶するようにする。コーチに丸投げかと思われるかもしれないけど、これは事務所間のリーグだから負けるわけにはいかない。だから勝率が一番高くなるようにコーチの言う事は絶対、っていうのが第1・2回から全事務所が学んだことなんだ。」
そして、再び奏へと実例を示した記事やニュースなどのウィンドウを飛ばす。
「実際、コーチの言う事を無視して、独断専行で動いたチームは大抵負け越してる。その出来事があったから、プロもしくはプロに準ずるレベルのアマチュアのコーチに対して、僕らは必ず指示に従う方針で動いている。ああ、僕らっていうのはアウロラだけじゃなくて、全事務所がそういう動きだよ?負けたくないからね。」
「なるほど……じゃあコーチとしての俺から一つ、最初のコーチングをしよう。」
「「「「?」」」」
その言葉と共に奏は、今現在いる位置から一歩下がり、息を整えて言う。
「迷え。自分で考えて、考え抜いて……思考の息が詰まって、窒息しそうな時に俺からのコーチングを思い出せ。その苦しさを味わうまでは、この次からの俺のコーチングは無視しろ。ここは適応する世界、脳死で動くような奴は最初は勝てても、絶対後の方に対策されやすく、負けていくだろう。」
「……セオリーとは反するけど?」
「それは今までの奴が適応を諦めたからだ。だが俺は信じている。俺の興味を湧かせてくれたお前らが必ず適応し、優勝をかっさらうと。」
「「「「……」」」」
表れる静寂。
それは奏の自分に対する絶対的な自信を感じ取ったことで生まれる、4人の静寂。
奏はただ一人待つ。
自分に意見を言われるまで。
それが正しいチーム構造だと、10年間実感し続けたから。
そして、そんな静寂を切り裂くような鶴の一声を発そうとするのは、もちろんこの場に居る4人の中でも最強の生徒。
「でも」
「コーチの言う事は絶対なんだろ?じゃあ聞いてもらうぞ。俺からのコーチングを。」
しかし、奏はそんな発言を一蹴する。
発言すらさせない。
大事なのは意見できる者が居ることであって、それをコーチが聞こうとするのかどうかはまた別。
何より、奏の狂気的なまでの研鑽で生まれた自己への絶対的な自信とユリウスが言った、「コーチの言う事は絶対」という単語が奏の生徒からの最初の意見は、必ず無視をするという決断をさせていた。
それにこんな静寂の後から出る言葉は、大抵苦し紛れなのが奏は分かっていた。
考えるために生まれた無音の空間ではなく、反対意見を考えられないから生まれた、この空間。
だから奏は否定する。
チームがコーチに対して遠慮なく考えをぶつけられる環境づくりをするため。
例え、最初のうちはチーム全体に圧力感をもたらすとしても。
だが、
「ふっ……あっはっはっはっは!!」
「ふふっ…」
「……よっしゃあ!」
「じゃあ」
「「「「わか(ったぜ)(ったよ)りました、コーチ。」」」」
生徒達はそんなに弱くなかった。
奏は少し面を喰らったが、内心でこのチーム全体の評価を上げ、覚悟の意思を示した4人へと言葉を返す。
「…………じゃあ、次のコーチングと行きたいが……初戦はいったいどの形式での試合なんだ?」
「それは僕も知らないんだよね。それに今日呼んだ理由がそれなんだ。」
「つまり……今日発表ということか?」
ユリウスはまるで、その通り!とでも言いたげな表情と動作、指パッチンをして問いに答える。
「正解!今は時間は14時ぐらい、そして約2時間後の16時からオープニングセレモニーの生配信が始まるから、今日はその配信を僕らでミラー配信をするために集まったってわけ。」
「それとチーム発表も兼ねて行うので、配信自体は15時ぐらいから始める予定です。バイザーさんも事前準備をお願いできますか?主にリアルの体のケアなんですが……」
仮想現実にログインし続けることは専用の機材が無いと不可能である。
短期間《十数時間》での主に消化器、排泄をする臓器へのダメージが凄まじいからである。
だからダイバーは準備を怠らない。
もちろんプロであった奏がそんなミスを犯すハズも無く、
「その辺は大丈夫だ。今日からコーチングする気で来たからトイレも水分・エネルギー補給も済んでいる。大体21時ぐらいまではダイブし続けられるぞ。」
「じゃあ、15時からお願いします、コーチ。」
「……一つ思ったんだけどさ。」
オリヴィアがずっと気になっていた事を全員に向けて切り出す。
その要件は──
「何だ?」
「バイザーさんの事を正式に何て呼ぶのか決めておかないと、視聴者が困らないかな?今は暫定的にバイザーさんって呼んでるけど、それだと……なんかね?」
「コーチじゃダメなのか?それと別に俺はアバター名で呼ばれても構わないが?」
「コーチだと味気ないし、アバター名の方は……ちょっと……」
奏以外の4人は奏の頭の上へと表示されているアバター名へと目線が1つに集まる。
|エセ京都弁絶対殺すマン《あまりにも酷い名前》へと。
「じゃあ15時までその名前を考える時間にしようぜ?オレも正直、バイザーさんって名前はどうかと思ってたし。」
「名前か……」
そこで、ユリウスはずっと保留にしていた事を口にする。
「後、チーム名も必要だよね?」
その瞬間、オリヴィアは勢いよく手を挙げながら、自信満々に自分の案を言う。
「はいはーい!!私はチーム名はユニゾンがいいと思います!」
「ユニゾン?確か……音楽用語の一種ですよね?何でまた?」
「それは……我々事務所の推しの名前の漢字を訓読みすると、音楽をするという意味になるからです!」
「ほう。」
アカネのまんざらでもない声とその他のメンバーの雰囲気から、さらに理由を続けるオリヴィア。
「それで、ユニゾンは複数人が協力して、完全に一体化音楽を奏でるという意味を持つので、チームワークを高める効果も期待……出来るかもしれません!!」
「なるほど……ユニゾンか……うん、いいんじゃないかな?今のところ発表されているチームに似た名前は無いし、それなりの意味も持っていて語感もいい。僕は賛成するよ。」
「でも、少し安直な気がしないか?ユニゾンなんて今大回のチームが使ってないだけで、過去にどっかのチームが使ってないか?被りは嫌だぞ、オレ。」
その奏の指摘にいち早くアカネは反応して検索ウィンドウを開き、AI検索で調べる。
「ちょっと待ってください……あ、ありましたね。2年前にとあるプロチームが使っているみたいです。これは……イギリスリーグのチームですね。あ!日本でも使っているチーム居ますね。」
「ちょっと被りが多いなぁ…ごめん、私の案安直すぎたね……」
「いや、出すだけ嬉しいよ。こういうの大体メンバー全員が受動的になって話が進まないって、僕のお爺ちゃんがよく言っていたし。」
しょんぼりしたオリヴィアをフォローするユリウスに、そんな時代もあったことを資料で知っていた奏は反応する。
「昔の日本人の悪い癖の一つだな。……そうだな、じゃあユニゾンズはどうだ?これなら更なる意味の追加、被りを防げるかもしれない。」
「……複数形にしただけじゃないですか?意味とは?」
「俺達は2つのスキルという組み合わせ、つまり共鳴をさせて戦闘を行う。そして、そんな個人でユニゾンができる奴等が集まっている。だからユニゾンズ。」
「……被りも無いみたいだね。あっても10年以上の前の奴ぐらい。」
「じゃあ…」
「僕らのチーム名はユニゾンズで決定だ!」
「「おー!!」」
「「……」」
手を空へと突き出す3人と、無言でその様子を見つめる2人。
2人の目には羨望の視線などでは無い、冷え切った物が垣間見える。
「このチームはアカネ以外ハイテンションだな。」
「それは私も少し悩んでいます……」
「それじゃあ後は、バイザーさんの名前だけど……それなら僕はカナデという名前を提案するよ。」
「「「え?」」」
「……」
ユリウスの突飛な提案に思いっきり反応するファンガ達と、そのファンガ達が推している、特に反応もせずに黙っている本人。
ユリウスはそんな状況を無視して話を続ける。
「このチームを総括するコーチという立場、そしてユニゾンという音楽的意味。だから僕は、僕たちというチームを奏でる者であるバイザーさんには、敢えてカナデという名前を授けたい。そういう風に呼びたい。後、僕らの推しの名前の訓読みだしね。」
「…………私もユリウスさんの意見に賛成するよ。でも、」
「でも?」
「《《奏》》とそういう風にってところでダジャレを仕込んだところは、ちょっと無いなぁ…って思っちゃった。」
「確かに。センスが無いですよ、ユリウスさん。」
「オレもそう思うぜ。あ、これはダジャレじゃないぞ。」
ユリウスは思っていない方向からのダメ出しに、少し肩を落として名づけをされた張本人へと是非を問う。
「別にわざとじゃないのに……バイザーさん、いやカナデさんはどう思いますか?」
「……まあ、いいんじゃないか?俺は見てわかる通り、名づけのセンスが皆無だから、名前の是非はお前らに任せるつもりだったしな。あと、呼び捨てでいいぞ。」
「それじゃ、カナデコーチ。これから約1年よろしく。」
「ああ…………これ1年もあるのか?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
ユリウスの確かめの為の問いに対しても、脳内で高速で記憶を引っ張り上げながら奏は答える。
「少なくとも言われた記憶はないな。wikiにも期間は特になかったぞ。」
「ご、ごめん。言い忘れてた。」
「別に構わんが……俺は逆にお前らが心配だ。」
「え?」
「俺のシゴきに1年か……まぁ、頑張ってくれ。」
「え?…………え?」
4人はお互いの顔を見合わせる。
「「「「……………………え??」」」」
この先が不安になる4人であった。




