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第22話 会議は踊る、朝から

光が溢れ、世界から音が消えていく。

そして意識が………膨らんで…縮んで…それが数回繰り返された後、アカネは目を覚ます。


「ん………」


体は昼寝をしていたような気怠さがあるが、意識・脳は完全に起きており、そこの認識と体のブレを戻すために開発陣から推奨されているストレッチ、通称「インドアには不可能ヨガフィットネスLv.MAX」を手順通りに行う。


「んぅ………最近さぼり気味だったからでしょうか?」


少し前までは出来ていた流麗な動きに淀みがあったことで、自身の錆を自覚するアカネ。

そんな違和感と自分への戒めの気持ちを静め、アカネはストレッチを終える。


「ふぅー………今は…深夜の3時。朝の10時からダイブしていたから………17時間ぐらい?」


生理現象による離脱を含めても、おおよそ15時間にわたるダイブをしたことに改めて気づき、

今回のイベントへの自分の入れ込みようが凄かった事が、時間として表れて、アカネは少し嬉しくなると同時に本来であれば、もう2〜3時間は早く終わる予定だったのを自身の妹が壊したことに思い至り、微妙な表情になる。


「まあ………いいですけど…ね!」


アカネは寝転がった体勢から飛び起きて、飾り気のない実用的な部屋の中で、唯一飾られている写真立てへと眼を向ける。

そこには黒髪赤眼の少女と、膨大なスポンサーのロゴで布部分が埋め尽くされたユニフォームを着た、無表情の少年とのツーショットの写真があった。

満面の笑みの少女と無表情の少年で風邪を引きそうなくらい温度差ががある2人。

少女はもちろんアカネである。

そして少年は言うまでもなく。


「…また、何処かで…会えたら…」


そんな言葉を漏らしながら、アカネは名残惜しそうに写真を見つめ、これからのマネージャーらとの話し合いの為に一度、長時間のダイブでジワっとした肌をスッキリさせる為に、シャワーを浴びる。

シャワー後、毛先の跳ねた黒髪ロングをハーフアップにして、目立つ赤眼を黒いカラコンで隠す。

アカネは今まで前例にない症状を患わっている。

それが虹彩のメラニン色素のみ欠如しており、眼だけにアルビノ症状が現れる。

よってアカネは発展した科学技術で開発された、特殊なコンタクトを付けなければ、まともに眼が見えない。

だから、アカネは飾りなどを部屋に置かない。

理由は見えないから。

そんな中でも、置いてある写真はアカネにとって、それほどまでに特別なのだ。


そして、諸々の準備を終えて、家から出るアカネ。

目的地は東京近郊にあるアウロラの事務所本部……ではなく、

出入りする車でV本人が特定されないように設置された、幾つかの支部のうちの一つに向かい、到着していた。

そしてそこから全面スモークガラスの車に揺られ、秘密裏にアウロラ本社事務所へと出勤していた。

着いて早速関係者専用ロビーに居たのは、やらかした愚妹エヴァとその友人オリヴィア


「あ!姉貴!」

「リアルではお久しぶりですね、アカネさん。」

「ええ。半年ぶり……ですかね?前回から間が空いたので、凄く会いたかったですよ………それと、名前。本名でいいって言ったじゃ無いですか。」

「ああ………じゃああざみさん………今日はマネージャーへの説明代表、よろしくお願いします!」

「はい、承りました………後藤ユリウスさんは?」


薊はこの場に来れないが、いつも通話でミーティングに参加する男を思い浮かべながら、寧々《オリヴィア》へと尋ねる。


「主催の計画時からずっと忙しそうだったので、今回は不参加です。体の事もあるので………」

「あの人も大変だよな……オレじゃ無理だな、あの体であそこまで動き回るのは。」

刹那エヴァちゃん、そういうことはあんまり言わない方がいいよ?」

「あーい……姉貴も目は大丈夫なのか?」

「ええ。コンタクトがあれば問題なしです。」

「そういえばそのコンタクトのお金って…?」

「姉貴の症例は珍しいから、無償提供だとよ。その代わり月1の検診が必要だけど。」

「それが中々だるいんですよねぇ……刹那、変わってくれてもいいですよ?」

「オレは別にその病気罹ってないから意味ねぇだろ、姉貴?それに、一目見ただけで門前払いされちまうよ……だって、なぁ?」


刹那は自身と薊を見比べて(主に胸と身長)、告げる。


「そうですか……そんなに怒られてたいのなら、言ってくださいよ。」


薊は思い切り拳を握りこんで、構える。


「ちょちょちょ!?冗談だって!?」

「これは刹那ちゃんが悪い……」

「でも……あぶっ!?」

「あ!避けないでください!!」


そうして、年齢に見合わず子供の様な鬼ごっこを二人がしていると、3人を迎えに来たチームマネージャーと鉢合わせ、少し苦言を貰うとともに、事務所の第3会議室である3階奥の部屋へと移動するマネージャーを含めた4人。

その部屋には、前回の会議の名残なのか薄く消し跡が残ったホワイトボードと少し崩れた配置の机と椅子、壁一面の大型モニターやプロジェクターなどもあり、その中でも最も目につくのは、大型モニターとは反対の壁一面に描かれたイラスト。

そのイラストは伝説的な4連覇を果たした瞬間のASTRAのトロフィーを掲げる物で、イラストの片隅には10/10と記載されていた。


「前もこのイラストで会議したから変えようぜ?」

「私は別に構いませんけど…」

「私もいいよ!」

「…マネージャーは?」

「かまへんで~。」

「じゃあ…デビュー時で。」


そして刹那の発言と共に音声認識が作動し、一瞬壁がブラックアウトすると浮かび上がったのは幼いSAWの勝利シーン。

片隅には1/10の文字。


「これもいいよなぁ…姉貴は現地にいたもんな?」

「ええ。その時に声を掛けてもらったから今の私が居るんです。」

「いいなぁー!!オレも生声ききてぇ!画面越しでもまともに聞けてねぇのに!!」


SAWは一切話さないことで有名だった。

本人にはそのつもりが無かったが、デビュー初期は子供に無理矢理話を聞きに行くのは、かなりモラルに欠ける行為なのではないかという暗黙の雰囲気が漂っており、メディアなどもASTRAに入るまでたったの数回のインタビューしか出来ず、入った後は幼いから代役を立てられ本人に話を振る事すら不可能になった。

ASTRAはこれもブランディングと断じたのか、SAWの声の露出を一切避けるような動きを一貫し続け、ファンが唯一聞けたのは試合中の鼻息などだけだった。

プロシーンともなると、発言から狙いがバレることも多々起きており、SAWがASTRAに入った後は既に全チームが、チーム内のVCラインをスキルの枠を一つ食い潰してでも形成しており、試合中にまともに発言するのはほぼ消えていた。

プロの試合では聞けたとしても、大ダメージや致命傷を貰った時のリアクションで出る声や陽動の際に出す大声、珍しいので言うと辞世の一句などに限られる。

SAWは一撃を貰ったとしても声に出すことはほぼなく、辞世の一句などもする気質じゃなく、陽動なども声よりよっぽど効果的な手段をスキルでやってのける。

よってファンが聞けるのは、移動中や戦闘中の鼻息や気合を込めた時に発される「ふっ…」などの声のみであり、動画サイトなどにはSAW鼻息集なども星の数存在していて、どれも数十万から数百万、果てには億に届く再生数を誇っていた。

しかもASTRAもSAWに一切喋らせないので、最近でその声を聞けるのは世界大会などで行われる入退場でのファン対応のみ。

そこは動画撮影や録音禁止で、写真のみ可能の所であり、運営のASもSAWの声を世に出ない様にしていた。

だから舐めるようにしてSAWのコンテンツを堪能していた4人のVは気づけなかった。

目の前にいる男が誰だったのかを。


「本当に声を聞けんよなぁ…ウチも聞きたいんやけどなぁ。」

「それは誰しもが思ってますよ、うつぼさん。」

「せやなぁ……じゃあそろそろやろか!」

「「「はい(うい)。」」」


そして朝の5時から会議が、コーチとしてエセ京都弁絶対殺すマン…もといバイザーを雇うのかどうかの会議が始まる。

構図はマネージャー対チームのV全員。


「ええか、SNSもやってないヤツは少しリスキーだとウチは思う。それならコッチで用意した方が……」

「現状、彼より強い人を招集できるとは思えません。」

「それに関しては同意するんやけど……問題は信頼が置けるのかっちゅー話や。実際問題、他の所(他事務所)でもコーチ関連でのやらかしはかなり聞いとるし、最大の問題は雇うときの金、契約金や。」

「そこに関してはよぉ、無料でやってくれるみたいな話はしてたぜ?」

「そうは問屋が卸さんのよ。他のチームのコーチには金出してて、自分には出さんとかチーム外、しいては事務所への不和に繋がるんや。金関連でのトラブルは今も尚、健在なのは自分達が経験したやろ。」


3人はユリウス主催のイベントを思い出す。

あれも目的としてはSAWに金を送るというイベントであり、それでトラブル(襲撃)が起こった。


「ああいうのはまだ大丈夫なんやけど…今回のは他事務所も巻き込んだ大イベント。そこで信頼を落とす事をしてほしくないっちゅーのが、株主たちの本音。実際今回の軒の情報を回したら、ぎょーさん文句言うてたわ。」

「それでも、私は信頼に足ると思います!彼の強さやASに対する真摯さは戦ったら分かるぐらいには顕著でした!!」

「それはオレも思うぜ。あいつの指導なら反論無く聞けそうだしな。」

「私もかな~」


3人の反応に鱓は少し眉を顰め、更にさっき仕事用の端末に届いたある男からの長文メッセージを思い出し、タメ息を吐く。


「……はぁ~……そんなに言うなら、コーチたのもやないか。後藤も信頼できるって言うてるしな。」

「っ!!じゃあ!?」

「ただし!!」


一瞬、喜びかけた3人をたしなめるような声を出す鱓。


「絶対に優勝するコト、これが4人に出す条件や。」

「「「当然。」」」

「…即言い返せるなら上々やな、ちなちゃんと金は出すつもりやから、そこも練っていこか。」

「「「はい!」」」


そして会議は踊り、4人が帰れたのは昼を少し超えたあたりであり、鱓はそこで3人に昼を奢ることになった。


「ウチの寒い懐が…さらに極寒に……」

「「「ゴチです。」」」

「揃って言うなや!?」



そして3日後、メッセージを貰ってから呼び出され、過程からその顛末までをアカネ達から聞いた奏は、


「最後の話いるのか?」

「絶対言うてくれって、鱓さんが…」


話を落ちをつけたい鱓の関西人としての気質に戸惑うことになった。


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