第21話 感想戦
ここは、奏と4人の戦闘が始まった、都市外の荒野。
既に壊れた建物は修復されており、既視感溢れる光景が広がる。
そこに奏が一人で突っ立っていると、アカネが確かな足取りでこちらへと歩を進める。
「一体何時。」
「ん?」
「何時、条件を踏んだんですか?」
最初にデスしたのでリスポーンも早かったアカネが、奏と顔を合わせた瞬間、開口一番問いただす。
決闘の際はデスしたものは、再び同じ戦闘を行おうとすると即座にデスし、基本的に参加できない。
その代わり、デスした者には俯瞰視点での映像を見ることが可能であり、3人はユリウスの戦いの結末まで見ていた。
だから、アカネは問いただす。
「黒くの4段階目以降への条件ですよ。あれ、ただ一人の為に作られたスキルでしょう?」
黒くの4段階目、|未だ見果てぬ大偉業《no man's sky》はアダムがインタビューで自分を覚えてない宣った、ただ一人に向けて作られたスキル。
その条件は、その一人と対峙し、一体一の状況で10分間以上生存すること。
そして、移行してから3分後に発動者は体の末端から灰になっていき、灰になり始めてから2分後に全身が燃え尽き、デスする。
その異常な限定性と時間制限により、このスキルは無法の火力を手にできる。
「単純なことだ。その対象をユリウスに変えただけだ。」
「そっ…そんなわけないでしょう!?他者が作った特定の敵に対するスキルというのは、その特定の敵の内容を少し変えるだけで、大きく効力を失います!スキルというのはその開発者の思いや願いが込められている作品のようなものです!だからあなたの言っていることは、間違いだと断言できます!!」
「だから、絞ったんだよ。」
「…?絞った?」
「本来、|未だ見果てぬ大偉業《no man's sky》の能力は星々を呼び寄せ顕現させるスキル。ただあの時の戦闘ではそもそも移行できなかったから、条件の変更を余儀なされた。だから能力の内容を絞った。天狼と牽牛、後はその二つの融合爆発の紫微に絞った。」
「……それで帳尻合うんですか?」
「合うだろ。なにせ無限にも思える星から、たった3つだけに絞ったんだぞ?それにこのスキルを知った時、宇宙関連の書籍を死ぬほど読んだからな。」
「……│未だ見果てぬ大偉業《no man's sky》で呼び出せる星は、本人の知識量でその総数が決まるからですか……」
「そういうことだ。」
「だったら、なぜユリウスに限定したんですか?」
アカネは更に身を乗り出しながら、奏に問う。
その場面は最早、勉強熱心な生徒と疑問に答える先生にも見えた。
「流石に能力を発動してから対象を変えるのは、帳尻合わせが出来ないはずです。何故、オリヴィアやエヴァではなく、ユリウスに?」
「何でって…この中で俺にとって一番未知数なのはユリウスだからだろ。俺があいつらを助けたこと、もう忘れたのか?」
「あ…そうでしたね…なるほど、一度見たことが会ってそのスキルの概要はつかめていたから、対象から外したんですね……」
正確には、分かっていたのはエヴァだけであり、オリヴィアに関しては今回の戦闘中に見極め、対象から外した。
エヴァは実際に助けた時の配信は追っているが、無鉄砲で荒々しい運転で周りの状況はよく見えず、しかもオリヴィアのスキルは目視で確認できないものなので、すっかり奏が助けた時に、情報を全て掴んだと勘違いした。
「それにあの中でユリウスが最も強いだろ?身のこなしで力量は大体読めるからな。アカネの順位からして大体、10000位ぐらいだろアイツ。」
「正解!!」
「きゃっ!?…急に声を出さないでくださいよ!?来たなら来たと言ってください!!」
「いや~…なかなかに可愛い声だったね?バイザー君。いや、もうバイザーさん、かな?」
「反省してますか、あなた?…そうですね…私たちは負けたんですよね…それじゃあ…」
「実力の証明は済んだな。」
「「「………」」」
「おーい!!」
「三人集まってるなら連絡しろよ~!!」
三人それぞれが、今後についての展望の考えを巡らせて生まれた静寂を、晴らすようにオリヴィアとエヴァが合流する。
そしてエヴァとオリヴィアは期待の眼で奏を見つめる。
「「コーチになるのは決まったの(か)!?」」
「いや、まだだよ。でも…僕は異論ないかな。連携が甘かったとはいえ、この人数差を返せるのは本物だよ思うよ。」
「私もです……強いて言うなら、全力だったのかどうか気になりますけど………」
「え、アレで全力じゃなかったのか!?」
「私の目からはかなり余裕を持って対応されたと思うのですが……」
「僕もかなり余裕を持ってたと思うよ…そこの所、」
「「どうなんだい(ですか)?」」
「……まあ、」
実力者二人が奏のコーチ枠での採用を認める発言をしたことで、ほぼチーム内に入ることが確定した奏。
よって、奏は二人の質問に正直に答える。
すでにコーチになっている気持ちで。
「かなり余裕を持っていたのは確かだな。もうコーチになったつもりでお前らの改善点を言うが、お前らは攻めが単調すぎる。」
「やっぱり余裕だったんですね…それで単調だったという理由は?私目線ではかなり多角的に連携して攻めていたと思うのですが……」
「ああ、そっちじゃない。」
「え?」
「俺が言ってるのは攻撃にバリエーションを持たせるということだ。」
「バリエーション?それはエヴァの銃やユリウスさんの近接、アカネさんの魔法じゃ足りてないんですか?」
「オリヴィア、それらすべては直接的な、もっと簡潔に言うなら、全て俺にダメージを与えるための攻撃ばかりだ。」
そして、奏はスキルで手元から光を出す。
「例えばこれをお前らはただのエネルギーの放出として扱う。ユリウスの光の斬撃やエヴァの炎が顕著だな。俺なら……」
そして奏は光の光量を上げて、辺り一帯を照らす。
それは夜、見上げた時の夜空の星々の光というよりも、昼に不意に見上げた時に目に入ってしまう太陽の様な目が眩む、鮮烈な光。
「うわっ…」
「まぶしっ…」
「こう使う。」
そして奏は4人全員が目を眩ませ、エヴァとオリヴィアが思わず眩しさに対する言葉を漏らした時に、光を消す。
そして、いつの間にか掛けていたサングラスを外して、目をシパシパさせる4人に対して言葉を続ける。
「光なら目眩しに、炎なら延焼や着いたら消えない炎などで相手の行動エリアの制限、水なら相手に被せて一時的な行動の阻害、もしくは自分が出した水を操作するみたいなスキルで、その水を吸った相手の服を操作して体勢を崩したり…」
奏は周りを見渡して、全員が話についていけてるのかを目視で確認して、全員の目をそれぞれ見た時にちゃんと目と目が合ったので、話を続ける。
「俺が使っていた│黒く《オブスキュア》も、ただの不意打ちじゃなくて、相手の体勢崩しと自身の加速を同時にこなしたりしたろ?人間っていうのは予測と外れた事が起こると、どんな奴でもコンマ数秒は思考が止まる。」
そして奏は手元で出していた、人形が奏の発言通りの反応と動きを見せる劇場を出すスキルを解除する。
「だからこそ、自分が性質を乗せた攻撃を、わざわざ物理的な破壊のみに注力して使うのは勿体無い。日本勢の悪い癖だな。近代《1945年》以降からの平和や事なかれ主義の民族的な傾倒があったから、こういう他者を陥れる手が思いつかない。最初にそういう手が掲示されているならそれなりに上手く使えるんだが…まぁ自由に考えて何かアクションを起こせと言われると、途端に何か出来ない世代からはよくはなったんだがな。」
「そういうのはSNSの普及によって改善されていったと僕は思うんだけど…」
「あくまでもSNSはSNS、人づてに聞いた話と差異はない。それに昔からよく言うだろ?日本はハングリー精神が足りないみたいなやつ。」
「ああ…オレが見た昔のアニメとか、確かによくそういう描写はあったな…スポーツ物とか?」
「特にそういうのが見られたのはスポーツ、特筆していうならサッカーだろうな。」
間に挟まれるユリウスやエヴァの質問に的確に答えていく奏。
「ASの世界的な流行も│それ《安定志向》を打破する契機にはなったんだが……いかんせん気質や文化がなぁ…」
「日本人って自分だけが損するのを嫌いますよね。あと同調圧力も強いですし。」
「その思考パターンがチーム間、もといプレイヤー間の戦闘方法の一極化につながってるんだよな………話を戻すが、お前らの攻めはとても対応しやすい攻めだった。だから俺一人でも4人…いやサポートのオリヴィアを含めずに言うと、3人での同時の攻めを受けきれた。」
奏は右手にハンドガンを出現させ、無造作に構える。
「エヴァの弾だってそうだ。弾幕を張る戦術は現実では強いが、ASもといVR内だと照射する相手が基本的に人外の動きをする奴や、硬い装甲を持つ奴ばっかだ。そういう奴等には」
そして奏は発砲し、衝撃を芸術的な身体捌きで流す。
撃ちだされた弾は正確に、廃墟の建造物の上に立てかけれていたボロボロの看板を撃ち抜く。
「こっちの方が通用する。受けても問題ないレベルのミニガンの弾の威力をはるかに上回る威力と精密性、そしてそれをいつ撃ってくるのか分からないから、思考の一部をそっちに裂かなきゃいけない。」
「…オレはそんなんできねぇんだけど?」
「だったら練習しろ、俺がもしお前らのコーチになった時にエヴァ、お前に第一に言うのはこれだ。」
奏は話を終えようとしたときに、ふと思い出したことが有ったのか、再びエヴァへと向き直る。
「そういえばお前、薙刀使いだったよな?薙刀は?」
「構成的に使えねーだろ?前衛中衛補助が居て、後衛が居ないのはまずいから、役割が被ってるオレとユリウスの内、弱い方のオレが暫定的に後衛やってんだよ。」
「…そうか。」
「まぁー、別に銃撃つのも楽しいから良いし、たまに交代して4人で戦うのもあるのもいいからイイけど…………おい?聞いてる。」
「無論だ。」
改めて奏はエヴァ以外にも視線を向ける。
「ユリウスは能力を用いずにあの体術を使えるようになる事。アカネはもっと使う魔法に熟考しろ、最低限込めた性質に明確に意味を持たせるぐらいに。オリヴィアもサポートに回ったのなら、もっと考えを回せ。俺の戦法《ユリウスの体勢崩し》を予測できるぐらいに。」
「「「………」」」
「っとまあ、これがコーチになった時にお前たちに掲示する課題だ。」
奏は話を終えて、全員に問う。
「俺をコーチに据える/据えないを決めてくれ、別に答えは今じゃなくてもいい。じっくり話し合って決めてくれ。」
奏は言うべきことは言い切ったので、ログアウトの準備をするため、メニューウィンドウを空中に出現させ、操作する。
「最後に、」
「ん?」
ユリウスが最後の質問を投げかける。
「僕の剣閃は完璧に君を捉えたはずだ。どうやって躱したんだい?」
「………単純だよ。お前みたいな一足一刀の領域を出して、敵を切り伏せる奴を俺はよく知っている。」
奏は頭の中で糸目エセ京都弁の男を思い浮かべながら話す。
「あとはこう、だ。」
奏は自分の分身を作りだして一歩を踏み出させる。
「僕の感知範囲を見切って?」
「いや?展開したと気づいてからは、常に分身を先行させるようにするのが俺の流儀だ。それが分身の最初の一歩で切られる程長いと思っていなかったから、そこそこ驚いたぞ。」
そして奏はログアウトの光を纏いながら、ユリウスに最後の一言を告げる。
「お前の敗因は、それと同時に俺の4段階目の条件が達成された運の悪さと、あの状況で俺を恐れて、即断即決の斬撃を放ってしまった事だ。│未だ見果てぬ大偉業《no man's sky》への移行中は意外と無防備だからな。これも覚えておいた方がいい。知識は力だからな。」
そして奏が消えたのを4人は黙って見送り、それに続くような形で全員がログアウトしていった。
話さずとも4人の考えは決まっていた。
それより3日後、奏へのコーチ枠での正式採用のDMが送られた。
後、奏のアカウントのフォロワーが4人になった。




