第20話 アウロラ VS ASTRAの元プロ⑦
「4段階目、│未だ見果てぬ大偉業《no man's sky》。」
その言葉が聞こえた瞬間、ユリウスは思い返す。
アダム・ユーリ・ガガーリンを。
世界《奏から5m以内》に闇が溢れる。
その闇からか細い光が溢れる。
それはまるで切り取られた夜空の様でも、全てを飲み込む宇宙にも見える。
か細い光は数秒ごとに輝きを、心臓の鼓動のようにタイミングよく増していき、やがてそれが何なのか、気づく。
それは星。
今現在進歩を続けている人類でさえ、観測することしかできない、未だ触れることすら果たせない恒星の輝き。
それが、来る。
│こっち《本来無い場所》へと、来る。
ユリウスは戦慄しながらも、まるで見惚れるかのように光を見つめ、放心している中、奏は遠慮なく告げる。
第一射。
「天狼。」
まるで古来より日本に伝わる妖怪変化の狐火のような、青白い輝きが5mの球型の別世界《夜空》からやって来る。
そこでユリウスは悟る。
自身の置かれた詰みに近いこの状況を。
「オーバー…!?「発散。」
そして、ユリウスの目前に蒼が広がる。
奏から後光が刺すようなその光景は、どこか神秘的な雰囲気を醸し出す。
「レイ!!!」
しかし、間一髪ユリウスの剣撃は間に合い、蒼白の光と黄金の光がぶつかり合い、拮抗する。
「ぐぅっ!?」
ユリウスは押し切られないように、全身の筋肉を使って押し留める。
これは喰らったら終わりだとはっきり分かる。
言いようもない絶望感、何をしてもだめだという無力感がユリウスの心を襲う。
しかし、ユリウスの4段階目もすぐそばまで近づいていた。
時間さえ、時間さえ稼げればそれで十分。
一縷の望みに賭けて、耐え続ける。
逆転の一手はすぐ
(目の前に!!)
その時、ユリウスの剣の刃の上から重なっていた鞘に罅が入り、その真の姿が露わになる。
後は、解錠するだけ。
ユリウスは叫ぶ。
その名前を。
「4連覇ぅっ!!。」
そして剣の黄金が最高潮に至る寸前で、
「牽牛。」
後ろから、溢れる紅の光。
「なん…で?」
光がある所には影が生まれる。
鮮烈な光であればあるほど、影は深く濃くその濃淡を強く付ける。
ユリウスが正面から晒された天狼の光。
それは等級にして1等星に値する、光り輝く一番星。
確かに影は出来たのだ、ユリウスの後ろへと。
遮蔽物はユリウスの体。
既に天狼の光は奏の夜空の空間を超え、この世界へと顕現済み。
奏はその場にとどまる必要はない。
3段階目にて解放された影への潜行。
1、2段階目にて解放された、部分的転移による、空中もしくは影内での高速機動。
ピースは揃った。
後は│完成させる《終わらせる》だけ。
「解放。」
紅が迫り、ユリウスを焼き焦がす。
紅は蒼と交わり、そして紫へと至る。
光と光が融合し、本来は色としての反応を見せない光同士の融合は、このスキルにおいては化学反応の如き超爆発を見せる。
「紫微。」
混ざった瞬間に奏が発するべき言葉は一言。
「コンバージェンス。」
爆発がユリウスを焼きこがし、辺り一帯も吹き飛ばす。
その影響は、ASの決闘システムによって、都市や他社には影響を与えないが、都市ではない荒野というフィールドには、広範な破壊をもたらす。
その光景はデスした後、観戦に回るしかなかった3人も目撃し、察する。
自分達の敗北を。
爆発の後、光の中でもできる影を作るスキルで潜伏していた奏は、ヒョイっと赤熱したガラス混じりの砂漠の荒野で一人立つ。
「まぁ…色々縛っていたが、十分に楽しかったな。」
奏の本来のプレイスタイルは相手のスキルに対するカウンター。
それを封印して、これである。
4人のVDiverの師匠となるこの男は、どこまで行っても怪物であり、だからこそAS界の一番星なのだ。
これにて決闘は終了。
アウロラVSASTRAの元プロの戦いは、かなり一方的な蹂躙に近い形で終わるのだった。




