第19.5話 誰の物でもない宇宙(そら)を目指した男の話
その男は、自身に付けられた名前に恥じない偉業を目指した。
かつて人類の未開の地であった宇宙に、初めて乗り込んでいった偉大な開拓者ユーリ・ガガーリン。
母親からその偉業を語れる男。
そのうち、男は自身と同じ名前のその男と同じように、誰も到達したことが無い偉業を求め始めた。
そして選んだ舞台がAS。
男が高校生の頃に発表、そして発売されたASに自身の全てを投じた。
男が創設したsolves、それはASの第1回世界大会にて初代王者へと輝く。
当時にしてはあり得ないぐらいに洗練された黒くを引っ提げた男は、現在でもただ3人しか達成していない、世界大会での全ての試合でノーデッドを達成した。
2年目は他のチームも台頭し、世界大会準優勝に留まるが、男はまごう事なき最強のプロの1人に数え上げられていた。
それからも、世界大会優勝は無いがASという選手の新陳代謝や競争力が激しい競技で、トップの地位にしがみついていた男は、ある年の世界大会にて自分よりも15歳若い天才に完全に打ち砕かれた。
その少年の名前はSAW。
世界大会でBO5にて0-3にてノックアウトされた。
男はSAWに触れることすらできず、ただ嬲られ蹂躙された。
男はその無様を祖国アメリカの国民に非難され、その年の世界大会の会場だったイギリスからの帰国の際には、野次と生卵が男のチーム全員を襲った。
男は引退を考えるほどまで追い込まれ、一時期はシーズンで1キルも取れず、他のチームメイトのおかげで、世界大会に出場できた金魚の糞だと批判された。
そんな時、男は世界大会前のSAWのインタビューを見た。
見て、しまった。
そのインタビューの中に初代王者である自分についても言及され、SAWはそれに対し、こう答えた。
「…?だれ?」
男は自分の地面が崩れ落ちたと錯覚した。
これまで抱いてきた自信や自負、地位が壊れていく音が聞こえる。
そして、男はいつの間にか、天井につるしたバスタオルへと首をかけるために、椅子の上へと立っていた。
その瞬間、かつての自分を思い出す。
誰も到達したことが無い偉業、それを目指し続けた自分。
かつて母に言った自分の言葉。
『俺も、母さんの誇りになってみせるよ』
はたしてそれは成し遂げられたのか?
答えは……
『…?だれ?』
「no!!」
そして男はすぐさまバスタオルを脅威的な力で引きちぎり、ベッドへと向かいダイブの準備をする。
自分と同じ土俵に立っているプロにさえ、覚えられていなくて誰が、誰も到達したことが無い偉業を達成したというのか?
そんなわけがない。
男は自分のスキルの再構成を始めた。
そうして生まれた4段階目│未だ見果てぬ大偉業《no man's sky》はSAWのチームに敗退はしたものの、その少年と世界に凄まじい強烈な記憶を植え付けた。
男は気づいていないが、世界大会のトロフィーには、その年の優勝したチームメンバー全員の名前が刻まれる。
今もトロフィーには悠然と輝いている。
アダム・ユーリ・ガガーリンという名前が。




