第18話 アウロラ VS ASTRAの元プロ⑤
一瞬の膠着状態の後、奏はユリウスに向かって駆け出す。
(来た…!)
ユリウスは剣を下段から中段へと戻し、迎撃態勢に入る。
(無理矢理近づいていて来ている!5m範囲に僕…いや、二人を捉えるのが目的か!)
ユリウスは奏の狙いを読み、叫ぶ。
「後退だ!!」
(事前の通りに。)
「はい!」
「おう!」
((了解!))
口頭での後退指示と、思考の共有による作戦の実行指示をしながら、二人を追わせないために足止めを試みるユリウス。
「来い!」
更に奏へ向けて叫ぶことで、意識を自分へと寄せたユリウスは
「邪魔だ。」
「なっ!?」
奏が5m以内に侵入した途端に呆気も無く抜かされた。
(二人を下がらせたことが、裏目に出た!)
奏がやったことは単純。
5m以内にユリウスが入った時に片足をユリウスの背中へと転移、そしてそのまま踏み抜いて、ユリウスの体勢を崩して抜くだけ。
前傾姿勢にさせられたユリウスと自ら前傾姿勢になり翔ける奏。
その差は歴然である。
今まで視界の共有があったことで、この初見殺し的な動きは出来なかった。
(二人の目無しで対応するには段階が足りない!)
姿勢を崩したユリウスは失策を察しながらも、迎撃体勢だけは取ろうとしたが、
「当たれ!」
そうして振るわれた剣に当たるはずもなく、側を通り抜けられた。
それでもその背中を追おうと、無理矢理振り返った後に見えた光景は、奏が両手両足を適度に転移させながら、意味不明なスピードで離れていく様子だった。
一度、アカネのスキルによって辺り一体の廃墟などが吹き飛んだが、それらには2〜3分のリスポーン時間が設定されており、壊れた箇所がそのまま時が戻るように直る。
それを前提とした瓦礫を利用した質量作戦を3人で実行しようとしていた、ユリウスにはわかっていたことだった。
問題は、
「はっ…速すぎる!?」
そんな環境で少しは足止めできると思った、ユリウスの浅い考えだった。
転移した腕が体を引き寄せ、転移した足が体を持ち上げる。
通常であれば間接可動域の限界によって、不可能な足運びや手捌きも、部分的な転移が可能な│黒く《オブスキュア》の第2段階なら関係ない。
もはや追いつく事が不可能な事や、無理矢理追いついても迎撃されて自分が落とされる事を悟ったユリウスは作戦の切り替えを2人へと伝える。
(ごめん2人とも。もうこの共有の射程範囲である1km以内に潜伏しなくていい。)
(どういう事ですか?)
(僕は無視されて抜かれた。恐らく作戦も上手くいかないだろう。だからこの待ち伏せ質量作戦から、僕の極光の最終段階まで行って戦う作戦に切り替える。だから2人は出来るだけ時間を…!)
(……わかったぜ、確かに極光の最終段階は意味不明だからな。だけど約束しろ。ぜってぇ負けねぇってなあ!?)
(もちろん。負けたら僕の極光は半年使えなくなるからね。負けるわけにはいかないよ。)
(相変わらずその条件。厳しすぎますね?)
(第一段階から、彼《SAW》の身体捌きをトレースして、彼に近い身体操作が出来るようにしたんだ。その内容でこの条件なら、寧ろ安上がりすぎて修正が怖いよ。)
(っ!?エヴァこっちに来た!?もう…落とされ……)
その言葉と共にオリヴィアの死を告げるログが、2人の前へと表示される。
ユリウスはそんな話をしている間にも、既に段階を進める条件を踏んでいる。
(…もうすぐこっちにも来て落とされるな…じゃあ負けんなよ。)
(ああ…そっちもがん)
その瞬間通話スキルが途切れ、ユリウスはこの広い荒野の中、1人になった。
オリヴィアが奏によってキルされたのだ。
「一人、か…」
間も無く、エヴァもキルされて本当の意味でユリウスは一人になるだろう。
それでも彼は両手で剣を握りしめる、託されたのだから。
そして、
「やあ、ずいぶん早い帰宅だね。」
「…どうする、降参するにはいいタイミングだぞ?」
「フッ…アッハッハッハ!!」
ユリウスは面白そうに笑い声を上げ、それによって出てきた涙を拭いながら、進んで言う。
「冗談!!」
「だよな。」
そして二人はお互いにスキルの進化を告げた。
「3連覇!」
「深淵。」
本来ならば成立さえしない戦いが始まる。




