第11話 主催と最強の問答
「何回も飛びつかないでください!?」
「へぶっ!?」
何度もアカネの蹴りによって宙を舞うユリウス。
それを指差しながらエヴァが言う。
「あれがオレらのイベントの主催、ユリウスだ。」
「エヴァちゃん?先輩なんだからさんは付けた方がいいと思うよ…?」
「アレにぃ!?」
奏はとても先輩に対する態度とは思えないエヴァを見て、ユリウスというのは相当ヤバいやつなんだなと、認識を再確認した。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ……全く!貴方にはモラルっていうものがないんですか!?」
「いやいや…ちゃんとゴールドを持って帰って来てくれたことが嬉しくてね……それとエヴァちゃーん!!」
「うげ!?なんだよ…」
急に大声で呼ばれたエヴァはビクッと身体を震わせて、ユリウスの続きの言葉を待つ。
「配信!つきっぱ!!」
「え゛!?まじ!?」
「え?ほんとに?」
その言葉を聞いたエヴァは自身の配信画面を呼び出し、オリヴィアは配信サイトからエヴァの名前を検索する。
「マジじゃん!?」
「うわー…やっちゃったね?エヴァ…」
エヴァは自身の配信がつきっぱなしである事を確認して、直ぐに配信を終了させた。
その後、マネージャーからの大量のメッセージ通知を見て、顔を青ざめて通話を開始し、手元を忙しなく動かす。
オリヴィアも失言が有無を確認するために、自身のマネージャーにメッセージを送る。
そんな二人を見て、奏は「大変そうだな」と他人事のように(実際他人事だが)思い、そのまま二人の対応作業が終わるのを待とうとすると、
「エ〜ヴァ〜?」
「ひぃっ!?…あ…姉貴…」
鬼が直ぐそばまで、迫って来ていた。
「説教は後です。今は対応作業に集中してください。いいですか!?」
「は、はいぃぃぃぃ!?」
アカネの剣幕に押され、エヴァは更に手元を早く動かして、対応作業をするのだった。
「失礼、エセ京都弁絶対殺すマンさん?」
「!?」
いつの間にか、奏の直ぐそばまで来ている、銀髪銀眼の男がやって来ていた。
服装は騎士風の胸当てと籠手をつけ、その他は布で出来ている騎士というよりも、カッコつけた騎士風の装いをしている。
男は礼儀正しく、奏へと挨拶をこなす。
「僕の名前はユリウス・フォン・アウレリア・グランツ=ヴァルデンハイム=ローゼンクロイツ・ツヴァイシュテルン・エーベルシュタイン=ノルトマルク=アルトシュタット=カイザーリンゲン。同じ変な名前仲間として歓迎するよ、君を。」
「俺の呼び方はバイザーでいい…それで、ユリウス…えーと?」
「ユリウス・フォン・アウレリア・グランツ=ヴァルデンハイム=ローゼンクロイツ・ツヴァイシュテルン・エーベルシュタイン=ノルトマルク=アルトシュタット=カイザーリンゲンだよ。長いのならユリウスでいい、バイザーさん?」
「……わかった。ユリウス。」
そしてユリウスは奏へと手を差し出し、奏も気後れしながらも握手へと応じる。
「君には感謝をしている。もちろん、ゴールドの件もあるが…僕の同僚を救ってくれて、ありがとう。」
「別に理由は「特には無い、だろ?配信、見ていたよ。」…そうかなら説明は要らないな?」
「ああ。」
そしてユリウスは再びギャアギャアと騒いでいる3人へと目を向ける。
「いいトリオだと思わないか?あの3人?」
「ああ、相性はいいと思うな。なんせ、ほぼ初対面の俺を交えて、30分の間話が続いたからな。」
「配信にも乗っていたよ、彼女のレート。かなり上がっているようだね。」
「お前がナンバーワンか?」
奏の突拍子もない質問にユリウスは、
「答えはNo、だ。僕は3番目。1番は今もレートを回しているよ…何せ追いつきたいらしいからね。」
「追いつきたい?誰にだ?」
「このイベントのゴールドの贈り主だよ。二人から名前が聞けなかったからって、安直だね君は。」
「バレてたか…なぜ助けに来なかった?」
奏の再びの問いにユリウスは片目を閉じながら答える。
「答えは簡単だよ。彼らは単独犯では無かったという事だ。」
「単独犯じゃない……なるほど。ユリウス達にも来ていたのか、刺客が。」
ユニコーン勢。
その軍団は組織的に動き、このイベントに参加した全Vに襲撃を仕掛けていた。
ユリウスには10人。
アカネには20人。
No.1には100人で。
いずれも各個撃破されてしまい、手も足もできずに負けた。
しかし、目的自体は達成していた。
足止めという目的を。
ユリウスは腰の剣の柄をポンポンと叩いて言う。
「あの程度の奴らなら更に倍、来ていても問題なかったけど…いかんせん時間稼ぎが目的だったからね。ウザかったよ、実に。」
「それで遅れたというわけか。」
「最初はただのアンチでゴールド稼ぎの邪魔をしに来ただけだと思ったけど…嫌に消極的だったからね。コメント欄を見ても同時多発的に同僚が襲われている事をね…改めて、感謝したい。ありがとう。」
そう言って頭を下げるユリウス。
奏は「いや、俺も暇なだけだったから…」と、遠慮しながらもユリウスの誠意を察して、「どういたしまして…?」と一応の返事をする。
奏はこの雰囲気を早く変えたかったので、聞きたかった事を更に聞く事にする。
「そもそもなんであの2人だったんだ。ユリウスかアカネ、No.1のやつが集金役になればいいだろ?」
「集金役の条件は弱すぎず、そして強すぎず、だ。」
ユリウスは負い目など一切ないような態度で答える。
「強すぎず…なるほどな、ゴールド稼ぎに奔走する必要があったのか。」
ゴールド稼ぎは強者であればあるほど、稼ぐ速度が速くなる。
よって集金役に求められているのは、ゴールド稼ぎの主軸とならない程度の強さを持った人。
今回ではエヴァとオリヴィアを含む10人余りがそれに当たる。
「そして突発のゴールド狙いの襲撃者を迎撃するため、V同士の相性による配信事故を防ぐため、強さが適正な10人余り全員を集金役として集めさせるのはゴールド稼ぎの効率が悪くなるため…僕らほどでもなくても、彼/彼女らはある程度稼ぐ能力を持っているからね。以上3点…いや強さも含めると4点、これが彼女ら2人が選ばれた理由だよ。」
ユリウスは要因を挙げるたびに指を立てて奏に説明した。
奏も抱いていた疑問を全て解消出来たのでそれ以上問うこともなく、2人の間に静寂が訪れる。
それは嫌悪感や面倒などで起きるものではなく、お互い聞きたいこと、答えることが全て済み、エヴァとオリヴィアとアカネの騒ぎがひと段落するまでの、張り詰めない静寂。
奏とユリウスどちらかが、もう一方に話しかけようと思えば、何の憂いもなく話しかけれる静寂。
それは3人の騒ぎを眺めながら、続いていく。




