第10話 ある男の過去
その少年は病弱だった。
先天性疾患を抱えており、それによって病室の外に出ることも許されない。
幸い少年の家庭は裕福であり、少年は家族に愛されていた。
だから、生活するのに困ることは無かった。
少年の外に対する憧れ以外を除けば、最高の環境だった。
少年にとって、VRとは全てだ。
家族から外に出れないならせめて意識だけでも、と送られたVR機器。
少年がそれを着けて一度潜った瞬間、少年にとってVRの世界の優先度が現実を上回った。
広大な大地、途方もない海、どこまでも続く自然、進化し続ける未来都市。
そしてその中を縦横無尽に駆け回る自分。
この世界で、自分は、自由だ!!、と少年は感じた。
ある時、悪質なPKクランに少年は出会ってしまう。
そのPKクランは、自身に未来が無いと勝手に思い込んだ大人が集まってでき、ターゲットは未来ある少年/少女。
粘着してキルをし続け、違う鯖に行ってもログから辿ってVRを辞めるまでキルし続ける。
少年は自由《全て》を失った────かに見えた。
「え…?」
いつの間にか自分を追っていたPKクランのメンバーがキルされていた。
代わりに立っているのは自分よりも若い子供。
「大丈夫か?」
子供にしては不躾な言い方で自分の安否を確認する子供《救世主》。
「はい…」
ぼんやりとしか答えられなかった。
その答えを聞いた子供はここから去って行った。
その後、ネットニュースを眺めていると、自分を助けた子供が一面記事となって、自らの目に入る。
名前はSAW。
曰く、彼は最年少プロになったらしい。
曰く、彼は全国大会でいい成績を残したらしい。
曰く、彼は悪質なPKクランを逆に粘着して壊滅に追いやったらしい。
最後にコラムのように乗ったその情報が少年にとっての最重要事項であり、その時少年は彼の生涯のファンになることを誓った。
そして少年は青年となり、V事務所に所属することになり、とあるイベントを主催する。
理由は彼が休業しても尚、応援するファンがいることを教えたかったから。
ネットニュースにでもなって、目に止まったらいいというとても私的な理由。
イベントが却下されることは考えもしなかった。
なぜなら、隠されてはいるが青年が所属する事務所に入るためには、ある要件が必須だから。
それはSAWに救われ、SAWのファンである者。
ニートで夢も希望もなかった社長自身がSAWによって救われ、同志を求めて設立した事務所、それがアウロラ。
よって所属するスタッフ及びV全員がSAWの熱狂的なファンであり、イベントが却下されることなど、天地がひっくり返ってもあり得ないのだ。
青年の名はユリウス。
SAWとSAWのファンを除く全ての人間に無感情を抱き、SAWのファンに対しては家族のような親近感を覚え、SAW本人に至っては抱かれてもいいと思うほどの愛を持つ男。
ちなみにノンケである。




