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跡地  作者: 陸奥こはる
第2章―女執事、現れました。―
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2章6話:ここにもいました。

「ヴァルジャンが丁度良く来てくれて助かった。相手に、もしかすると、1級か2級がいるかも知れないからさ」

「1級ですか……」


 まぁ、なんとかなるだろう。ヴァルジャンはそう思った。よほどの特化型であるならば、苦戦する可能性もあるが、それでも負ける事はまずありえない。


「で、戦うのは別に良いんですけど、この時間にって事は暗殺か何かですか? 主からの命令ですか?」

「いや、命じられたワケじゃなくて、私の独断だ。目的は脅威の事前排除。……私の主は、まだ小さくて、初等学校に通っている。もちろん貴族が通う学校」

「……それが、今回の一件とどう繋がるのですか?」

「繋がるんだよ。なんでも、そこの学校の子たちを、一斉に誘拐して身代金を要求しようって企てている連中がいるらしいんだ。野良の魔術士もだいぶ集めたらしくて、街の警邏隊もビビって動かない。――だから、私が潰してやろうって思ってるってワケ。主が安心安全に学校に通えるように」


 とんでもない事を考えるものだ。ヴァルジャンは深い溜め息を吐く。


「……もしも仮に私が来なければ、ユキは一人で複数の相手、それも1級か2級がいるかも知れない集団を相手に、それでもやるつもりだったんですか?」

「そりゃ勿論」

「負けるでしょう」

「……無理そうなら、一旦逃げる気してた」

「その後は?」

「親戚に来て貰えるように連絡回そうとは思ってた」

「あぁ……なるほど」


 ユキの一族は、優秀な執事の家系として有名だ。それが意味する所は、同時に魔術士としても優秀である、という事に他ならない。

 彼女の一族で、成人を超えた者は皆、最低でも4級以上の魔術士である。

 中でも、当主を務めている婆は、”特1級”と言う、特級と言うには足りないが、1級と称するには実力が比類無し、とされたものが持つ肩書を持っていた。


 仮に、ユキの親戚が一同に会したら、大概の者は相手にならない。

 それが、集団であってもだ。

 例外は、ヴァルジャンのような”特級”くらいなものだろうか。

 特級であれば、個人であっても良い勝負になるか、あるいは状況によっては勝つ事も出来る。


 が、特級は非常に数が少ない。


 例えば、ヴァルジャンとアルマが元々いた国では、二人しかいなかった。ヴァルジャンとその父アルドーだ。

 けれども、今はもう一人としていない。

 アルドーが死に、そしてヴァルジャンがアルマと一緒に国外追放されるという事態に陥った結果、あの国から特級魔術士は消えたのだ。


 世界中を探し回れば、見つけられなくもないが……そうして全ての特級を掻き集めたとしても、両手で数えられるぐらいしか集まらない、とされている。


 この事から、ユキの一族は、事実上の最強集団とも言えた。……まぁ、きちんと集まれば、だが。


「……集まります? ユキの親戚」

「うっ……それは……」


 結構癖の強い人物が多く、故意に集めようとしても、大体集まらない事が多い。

 ヴァルジャンは、幼馴染と言う事もあって、その事を知っていた。

 痛い所を突かれて、ユキの眉がピクピクと動く。


「そ、そんな事より」


 と、急に、ユキが話題を変え始めた。

 親戚の集まりの悪さをネタにされては、勝ち目がないと思ったのだ。

 が、しかしだ。

 だからといって、差し触りのない話題に変えようとしたわけではない。次の話題は、それはそれで真剣で重いものであった。


「……一つ聞いて置くが、手紙にアルドーおじさんを殺したとあったが、それは本当か?」


 ユキが話題に出したのは、アルドーの事だった。

 ヴァルジャンは、ひと呼吸おいてゆっくりと瞬きをすると、


「……本当ですよ。経緯は手紙に書いた通りです」


 そう言って頷いた。

 ユキは、少しだけ、残念そうに眉を八の字にする。


「仕方のない事情であったのは見たが、それでも、死んだとなると少し寂しいな……」

「……」


 ヴァルジャンには、ユキの気持ちが、分からないでも無い。

 小さい頃を、良く覚えている。

 父アルドーは、ユキに優しく接していた。よく「元気な子だ」と言って、微笑みながら頭を撫でていた。

 それは、ユキの目から見れば、強くて優しいおじさんに映っていた事だろう。

 暴走する国王を止めず、あまつさえ息子と対峙したり等、そのようになるとは、考えもしていなかったに違い無い。


「……婆ちゃんに、なんて説明すれば良いんだろうな」


 アルドーはユキの一族の出身ではないが、けれども、特級となる以前に、当主の婆から魔術の手ほどきを受けていた事があった。

 その縁で、ユキの父親とも友人知人の関係になり、今のヴァルジャンとユキの関係にも繋がってくるのである。


 ユキも、婆とアルドーの関係については、既知だ。そして、婆が自身の教え子から”特級”が産まれた事を、本当に喜んでもいたのを知っている。

 更に、その子どものヴァルジャンまでもが”特級”に至った時には、天にも届きそうなほどに鼻を伸ばし、周りからウザがられるほどに自慢していた。


 ……ヴァルジャンにとっても、ユキ一族の当主の婆については、会えばお小遣いを貰ったりと、良くして貰った思い出があった。

 そうした記憶もあるせいで、色々と居た堪れない気持ちには、なってくる。だが、あの結末は自らが覚悟を持って選んだものでもあり、それについての後悔は無い。


「……いずれ、私が直接話をしに行きますよ」

「……そうしてくれ」


※※※※


 誘拐犯を企てている集団の住処は、街はずれの、廃工場であった。本来であれば、真っ暗と静まり返っているハズの廃工場に、明かりが点っている。

 集まっていたのは、数十名もの、野良の魔術士だ。

 誰も彼もが、発動体を身に着け、いつでも臨戦態勢を取れるようにしているのは、誘拐の決行がいつになっても良い、と言う心構えの現れだろうか。


 傍から見れば、如何にもなこの集団は、けれども、普通の犯罪者集団とは違う点があった。集団の頭目の出で立ちだ。


 ヴァルジャンは、該当の人物を遠目に見て、思わず眉を顰めた。ユキも、瞼を思い切り持ち上げて、目を見開いた。


「あの姿……」

「な、なんだあいつ……」

「似ています。……私が倒した、国王の変わり果てた姿と」


 ――未だ記憶にも新しい、倒した前国王の変わり果てた姿に、酷似している化け物がそこにいた。


 しかし、なぜ、あのような存在がここでも発生しているのだろうか。

 以前に居た国であれば、まだ遺灰が残っていたとして、それがあればと復活も理解は出来るが……この国は、あそこからはだいぶ離れているのだ。


 それに加えて、おかしな点がまだあった。

 周囲の人間が、誰一人として、あの化け物に違和感を持っていないのだ。

 が、その理由については、すぐに判明した。

 あの化け物が、幻の類の魔術を、周囲の人間に掛けていたのだ。良く見ると、各人の額に小さな陣が浮かんでいるのが見える。

 ヴァルジャンは、その事にいち早く気づいた。


 なぜ、あの化け物は”魔術を”行使出来ているのだろうか……。

 国王と対峙した時も、その後に相手をした類似の化け物も、”魔術”使ってはいなかったし、そのような素振りも見せては来なかったと記憶している。


 これは一体どうしたことか。ヴァルジャンの心中に広がったのは、困惑だった。

次が2章の最終話です。

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