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聖女さま、震度五です! ~異世界召喚された聖女はもふもふ勇者パーティーと一緒に地震から世界を守ります~  作者: 海原のどか


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第8話 鏡の向こうのシャルロッテ② 入れ替わりの理由

私の顔をしたシャルは、とても辛そうな表情で俯きながら、入れ替わりの理由を語り始めた。


「わたくしシャルロッテは三女ですが、王妃ではなく側妃の子です。

 母はわたくしが幼い頃に病で亡くなりました」

「そうか……」

王妃とか、側妃とか、複雑そうだ。

「あ、話し方、もう少し崩してみても良いかも。練習も兼ねて」

あっ、と向こうのシャルが口元を抑える。


「姉のマドレーヌとシフォンは他国へ嫁いだのだけれど、マドレーヌ姉さまは二年前に離縁して戻ってきたの。

 彼女は王妃の娘で、両親に可愛がられて、社交的で……華やかでしょう」

私は先ほどすれ違ったとき見た姿を思い出し、大きく頷く。

「わたくしが部屋で裁縫ばかりして、たまに街へ出てドレスを見たり、刺繍糸や布を買ったりしていたら、『何の役にも立たない無駄遣いね』『遊んでばかりいるのね』などと意地悪を言ってきて。

 見ていた侍女や、パーティーで姉から話しを聞いた貴族の方々も、悪い噂を信じるようになってしまった」

「そうなんだね……彼女の派手な宝石に比べたら、裁縫なんてたかが知れてそうだけど」

向こうのシャルは、深く頷き、続ける。


「姉二人と同様、わたくしも隣国のレオンハルト王子と幼い頃に政略的に婚約が決められたの。

 でも彼は少し前から我が国に留学中で、悪い噂を聞いたのか、たまにお会いしてもほとんど何もお話されなくて……。

 きっと、ドレスと刺繍にしか興味のない、つまらない姫だとお思いなんだわ」

隣国との政略結婚というだけで、面倒そうでならない。

嫌な噂を信じてしまっているなら、なおさらだ。

「じゃあ、その噂とか、婚約者との不仲が入れ替わりの理由?」

向こうのシャルは、静かに首を振る。


「三月《みつき》ほど前、わたくしに聖女の力が発現したの」

「聖女の力って?」

「護衛騎士が少し怪我をしたので、大丈夫? と触れたら、怪我が消えましたの」

「へえ、治癒ができるんだ……」

私は今日、騎士たちが蹴散らされても治さなかった。何も言われなかったけど、おかしいと思われていたかもと、ヒヤッとする。

「王城の前で見ている方が沢山いらして、すぐに神殿へ連れて行かれ、神聖力を測る水晶玉に手をかざせと言われ……聖女だと判定されたの」

彼女の声が低く曇る。


「それは、良い事じゃないの?」

「普通は、良い事でしょうね」

向こうのシャルは、ため息をつく。

「でも、聖女は、力の使い方を学んだり、勤めを果たすため、通常は神殿に移り住まないといけないらしいの。数日前、マドレーヌ姉さまと王城の廊下ですれ違ったとき、

『婚約は破棄して、神殿に入るのも良いかもしれませんわね』

 って、耳元で囁いて、ふふって笑ったの」

彼女の顔が急に強張る。

「――そのとき、思ったわ。今までなんでも我慢してきた。

 でも、神殿に入ったら、好きな刺繍やドレスにも触れられない――それだけは嫌!!」

彼女の声が大きくなる。

「しーっ!」

私は人差し指を口元へ持っていく。

「あっ……ごめんなさい」


「……それが、入れ替わりの理由なの?」

向こうのシャルが頷く。

「聖女なら、国のために働かないといけない。

 王女で、側妃の子なら、なおさら。

 好きなドレスも刺繍も、わがままと言われるだけなら我慢できる。

 でも、もう好きなことができないなら……それで、試したの」


まだ十代で、もう一生好きなことができないと言われたら、絶望的な気持ちにもなる気はする。

勝手に人を巻き込むのもどうかとは思うけれど……。


「でも、だからって、四十の一般庶民のおばちゃんになるのは……明らかにあなたの方が損してる気がするけど」

「うん。でも、刺繍はできるでしょう。服も見られる」

向こうのシャルが、ふっと小さく笑った。


「しばらくは毎晩こうして話したいわ。明日も」

向こうのシャルが言う。

「その方が私も助かる。

 あと……フルーツ大福は、美味しかった?」

「え?」

「持ってたでしょ? 紙の箱に入っていたもの」

「ああ、あれね! もちもち、ふわふわで、すごーく美味しかった。こういうものがあるのね」

「普通にある訳じゃないのよ。あれは、特別な物の一つ……結局食べてないけど」

悲しそうだった向こうのシャルの顔が緩む。

「そちらの世界も、もっと美味しい物も沢山あるわよ。何せ、一国の王女ですもの」

「それは、楽しみね。うん、パティシエも確保できたし」

「パティシエ?」

「最初に保護したそちらから転移した勇者一行の一人が、パティシエ……菓子職人だったの」

「へえ、それは良かったわね」

「まだ明日も残りの人達を探さないといけないのだけれどね。と言う訳で、今日はそろそろ寝たいわ」

「うん、おやすみ。楽しんで。私もこちらの世界を楽しませていただくわ」

鏡の向こうのシャルが、ふっと消え、ただの鏡に戻った。


「あ! 話し方、私もシャルみたいに丁寧に話す練習しないとだな」

すっかり忘れていた、と、額を手でぺしっと叩いた。


明日もまた、捜索は続く。

そしてそれは、始まりに過ぎない。


でも、元のシャルと話せると分かって、少しほっとした。

疲れ切った私は、すぐに眠りについた。


【人物紹介】

主人公 シャルロッテ・マンダリン/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技がある。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。


天野小夏/中身は元のシャルロッテ:現在は鏡の向こうの日本で小夏として暮らしている本来の第三王女シャルロッテ。刺繍や裁縫が趣味で得意。彼女が女神様に祈って入れ替わった。日本で小夏としての生活を楽しもうとしている。


マドレーヌ・マンダリン(マドレーヌ姉さま):マンダリン王国の第一王女(王妃の娘)で他国から出戻った華やかな美女。彼女の意地悪な一言で元シャルロッテは入れ替わりを実行したらしい。


レオンハルト王子:隣国の王子でシャルロッテの婚約者。


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