第9話 残りのもふもふを探せ① 洞穴の住処
召喚された観光タクシー乗客の捜索二日目。
朝食を食べ終わると、神殿から昨日と同様の騎士が迎えに来た。
「離宮へ寄ってから、森へ向かいます」
昨日と同じように騎士は別で馬に乗り、馬車には私だけ乗って移動する。
離宮に着くと、入り口の前に既にワン公とネコ師匠が立っていた。
私は一度、馬車を降りる。
「教授夫妻は?」
ネコ師匠が一歩私に近づく。
「疲れているので、ここで待っていてもらうことにした。
わしは、ガイドをしていたから、全員知っている。今日はわしが行けば問題ないだろう」
「確かに。これ、タクシーの中から見つけたものです」
私は手に持っていた名簿を差し出す。
ネコ師匠は、手のもっちりした肉球で、すっとそれを拒んだ。
「わしは頭に入っている。それは、あなたが持っていなさい」
「はい。では今日は預かります。……助かります」
私は名簿を持つ手を引き戻した。
「あ、僕も、気になるので一緒に行きます。役に立たなそうですけど」
ワン公もそう言って、師匠の後ろで手を挙げる。
「大丈夫。私にとってはありがたいです」
――もふもふ癒し担当として、と、私はにっこり本心から笑う。
「雲行きが、怪しいな」
馬車に乗り込むネコ師匠が、空を見て呟いた。
森の上の方からその向こうの山の上まで、どんよりした灰色の雲が流れていた。
◇◇◇
森に着いて、馬車から降りた。
「ちょっと待ってください」
すぐに歩き出そうとする聖騎士を止める。
「ワン公、手、出して」
「あ、ああ」
白いもふもふしたワン公の手が、目の前に出された。私はその手に、自分の手を重ねる。
「皆さんも、ご一緒に」
騎士たちも、次々と手を重ねていく。
「さあ、師匠も!」
戸惑うネコ師匠に、私は声を掛けた。
「……こ、これで良いか?」
白に虎模様の入った手を、一番上の騎士の手に乗せる。
その上に、私はもう片方の手を乗せた……ふわふわだ。
「うふふ」
思わず笑みが漏れて、コホン、と咳ばらいで誤魔化す。
そして私は掛け声をかける。
「全ては、もふもふのために!」
皆も続く。
「もふもふのために!」
森に元気な掛け声が響いた。
ネコ師匠だけ、まだ分からないという顔をしているが。
「残りは三人です。今日と明日で、全員見つけましょう!」
騎士たちが印を書き込んだ地図を見ながら、教授夫妻が見つかった辺りまでずんずんと進んで行った。
ポツリ、ポツリ
雨が降り始めたと思ったら、やがて雨粒が大きくなり始める。
「通り雨でしょう。この近くに洞穴があるはずです。ひとまずそこへ」
地図を持った聖騎士が私たちを先導した。
木々の間に、土壁が現れる。その一角に人の背より少し高い位の高さで、大人二人が並んで入れる位の幅の洞穴があった。
暗くて中が見えない。
二人の聖騎士が大きめの枝を拾って魔法で火を付けてたいまつを作り、先に中へ入っていった。
全員が洞穴へ入る。
穴はさらに奥へ続いていた。
「あれ、奥に、何か枝のようなものがある」
ワン公が奥の方を見て言った。
「え?」
たいまつを持った騎士の一人がそちらの方を照らした。
沢山の枝が積まれている。
「これは……何かの巣でしょうか?」
私も目で追う。
「それにしては、ずいぶん整然と組まれていませんか?」
太い枝を軸に、細い枝が不自然なほどきれいに組まれていた。
ネコ師匠が枝の一部に近づき、呟く。
「……文月さんかな」
「え?」
「建築士だ」
その時。
近づけたたいまつが、じりっと枝を焼いた。
細く黒い煙が立ち上る。
『やだ、怖い!』
巣の奥から、聞こえた気がした。
「あ、誰かいる」
私が言うと同時位に、ばさばさっと音がして、巣の奥から突風が吹いてきた。
「うわあ!」
たいまつを持っていた騎士が後ろへ飛ばされる。
「危ない!」
咄嗟にネコ師匠がたいまつだけ人のいない方へ蹴り飛ばした。
私は巣の奥へ向かって跪き、急いで祈る。
すると、巣の中が一瞬、ピカっと光った。
だが、何も出てこない。
そのまま、しばらく沈黙が続いた。
(しばらく、待つ感じ?)
私は振り向き、後ろに先ほど飛ばされた騎士が転がっているのを見つける。
(これは、聖女の回復魔法のチャンス!)
すかさず走り寄って、軽く血が出ている膝の上に手をかざして祈ってみる。
ぽわっと光って、怪我が消えた。
「おお! 聖女様、ありがとうございます!」
このやり方で良かったようだ。落ち着いたら聖女の魔法の使い方などをちゃんと誰かに教えて欲しいけれど。
一方、巣の前では、ネコ師匠が巣の中へ足を踏み入れた。
「……文月さん、迎えに来た。ガイドの三毛だよ」
中へ向かって呼びかける。
皆、緊張して様子を見守る。
「……え、三毛さん?」
少しして、奥から可愛らしい若い女性の声がした。
中から、姿を現したのは……私くらいの大きさの、白い体に赤い嘴の、文鳥だった。
「文月さんですね。私たち、神殿から助けに来ました」
話しかけてみる。
「はい。文月あさです」
そう言ってから、きょろきょろ見回す。
「あれ? 三毛さんは?」
「わしが、三毛だよ」
ネコ師匠が手を挙げる。
「ええっ、猫さん!?」
「それで、僕が柴谷」
隣にいたワン公も小さく手を挙げた。
「えっ、犬さん!?」
動揺している彼女に、私は話しかける。
「ここでは、ネコ師匠とワン公と呼んでいます。あなたのことは、『あさちゃん』と呼んで良いですか?」
「え、は、はい……」
洞穴の外を見ると、雨はもう止んでいた。
私たち一行は、さらに先へと向かうことにした。
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ・マンダリン/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技がある。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。
兎川源一郎教授&夫人/教授&広子さん(教授夫妻):白い垂れ耳ウサギのもふもふ聖獣になった大学の名誉教授と、その妻。教授は地震の専門家で勇者として日本から観光タクシーごと召喚されたと思われる。
柴谷勇/ワン公:大きなサモエド似の白い犬のもふもふ聖獣。日本から観光タクシーごと召喚された七名のうちの一人でパティシエ。
三毛与志朗/ネコ師匠:白い虎猫のもふもふ聖獣。召喚された観光タクシーの運転手兼ガイド兼空手の師範。落ち着いていて頼れそうだが、肉球はきっとぷにぷに。
文月あさ/あさちゃん:大型の文鳥のもふもふ聖獣。召喚された観光タクシーに乗っていた建築士。




