第10話 残りのもふもふを探せ② 群れとの遭遇と、最後の一人
「実花……友人は、もう助けましたか?」
私と同じ位の背の文鳥、あさちゃんが、か細い声で私に尋ねた。
「いえ、まだです。恐らく、もっと奥にいるのかと」
あさちゃんは不安そうに森の奥を見つめた。
「実花は、私の隣に座っていたから、近くにいると思うのですが、大丈夫でしょうか……」
「きっと、大丈夫です」
私はしっかりと、その手(羽根)を握った。
――これはこれで、羽毛の良い感じの手触りだ。
あさちゃんの手を引き、雨露に濡れた枝を薙ぎ払う騎士と、その後のネコ師匠に続く。
さらに進むと、黒い羽根が一枚、騎士の前にひらりと落ちてきた。
「羽根だ」
頭上でばさばさっと羽音がして、見上げる。
何羽もの鳥型の魔獣が空を旋回していた。
「何羽も……」
私が思わず口に出す。
「いや、周りを見ろ」
ネコ師匠がそう言って、静かに構える。
見回すと、周囲の木々の間から複数の赤い眼が光っていた。鳥型の魔獣たちが枝から枝へ飛び移る。
どれも周囲に、黒っぽい靄を纏っている。
「群れか」
ワン公が、きょろきょろとあちこちを見る。
「もしかしたらあの中に、実花がいるかも……でも、多い」
あさちゃんの声が上ずる。
いるとしたら、どれだ。
私は気持ちを落ち着かせて、名簿を見返す。
それから、顔を上げた。
「あさちゃん」
「はい?」
「……お友達は、看護師さんですか?」
「そうです」
私は、すっと大きく息を吸い込んだ。
「この中に、医療関係者の方はいらっしゃいますか〜!」
森に、私の叫び声が響いた。
周囲に剣を向けて構えていた聖騎士たちがびっくりしてこちらを見る。
『はい!』
元気な声がして、一羽が片方の羽を上げながら地面に降りてきた。
私はすかさず両手を顔の前に組んで祈る。
すると、黒い靄が消え、同時に、周囲の鳥型魔獣たちを覆っていた黒い靄も消えていた。
小鳥や啄木鳥、色鮮やかな鳥たちが姿を現し、ばさばさっと一斉に森の中へ飛び去っていく。
後にあさちゃんと同じ位の大きさの、片羽根を上げたインコが残っていた。黄色の体と黄緑色の羽根、オレンジ色の嘴とほっぺたが可愛らしい。
あさちゃんがちょちょっと駆け寄る。
「もしかして、実花?」
「うん。そういうそっちは、あさ?」
「良かったー!」
「よかったがね!」
と、二羽は抱き合う。
微笑ましいな、と私の顔もほころぶ。
ネコ師匠が話しかける。
「小鳥遊実花さんだね」
「はい。小鳥遊です! もしかして、ガイドさん?」
「ああ。こちらの犬が柴谷さんで、教授夫妻も昨日救助された」
「あと、一人ですね」
「ああ。残るは羽村さんだな」
◇◇◇
私はネコ師匠、ワン公と並んで話しながら歩く。
「羽村さん……ITエンジニアの方ですね。どんな方ですか?」
「柴谷さん、話してたよね」
「一人参加が、僕と羽村さんだけだったので、話しましたけど……ゲームとか、アニメとか好きって言ってましたね」
「ワン公と羽村さんはなんでこのツアーに参加を?」
「僕は、お菓子作りの参考に。羽村さんは、地震関係のシステムを作るとかで。あとは、最近運動不足だから歩きたいとか……こんな話、参考になります?」
「いえ、分からないですけど。散歩みたいな感じで、歩いて行っちゃったんですかね」
「どうだろうね」
「お菓子とか、一番食べてましたけどね。案外お腹が空いて食べ物を探してるだけかも」
私は聖騎士に聞いてみる。
「木の実のなる木……」
「ああ、この奥に大きい木がありますね」
彼らの言う先を見ると、少し先に大きな木が見えた。
巨大な木を目指して進む。
やがて、その根元に黒くて丸い魔獣がいるのが目に入った。
「何かいる。木の実を拾っている?」
「あれは、背中かな?」
すると、黒い魔獣が振り向いた。
頬袋をパンパンにふくらましている。
だが、ちらちらこちらを見ながらも、まだ手を伸ばして地面から木の実を拾っては、口に入れて、もぐもぐしている。
「……あれだな」
ネコ師匠が言う。
「……でしょうね」
ワン公も、頷いた。
「じゃあ、祈りますね」
私は少し魔獣に近づいて、祈りを捧げた。
体がぽうっと光り、黒い靄が、ふっと消えていく。
やがて、薄茶色と白い腹の、大人の男性大のハムスターが現れた。
頬はまだパンパンに膨らんでいる。
「羽村さんだよね」
ネコ師匠が声をかける。
「ガイドの三毛だ」
「う……うぐっ」
羽村さんと呼ばれたハムスターが、突然むせる。
咄嗟にみかちゃんが駆け寄って、背中を叩いて木の実を吐き出させた。
「し、失礼しました。ごほっ。
……猫、三毛さんが……びっくりしてしまい」
みかちゃんはまだ背中をさすったりして落ち着かせている。
「ああ、すみませんでした。僕、羽村公平です」
「私は聖女です」
「せ、聖女さま!? え? まさかの異世界転移的な!?」
「そのまさかです。羽村さん……ハムさんと、呼ばせていただきます」
「なぜか突然のハムさん決定!?」
まだ動揺する者もいる中、彼らを乗せ、六人で狭くなった馬車は神殿へと向かう。
こうして私たちは、二日目にして、思いのほか早く全てのもふもふの回収――でなくて、勇者一行全員の救出を達成することができた。
だが、やっと揃った満足感もつかの間、私たちの本当の仕事はこれから始まるのだった。
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ・マンダリン/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技がある。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。
兎川源一郎教授&夫人/教授&広子さん(教授夫妻):白い垂れ耳ウサギのもふもふ聖獣になった大学の名誉教授と、その妻。教授は地震の専門家で勇者として日本から観光タクシーごと召喚されたと思われる。
柴谷勇/ワン公:大きなサモエド似の白い犬のもふもふ聖獣。召喚された観光タクシーに乗っていたパティシエ。
三毛与志朗/ネコ師匠:白い虎猫のもふもふ聖獣。召喚された観光タクシーの運転手兼ガイド兼空手の師範。落ち着いていて頼れそうだが、肉球はぷにぷに。
文月あさ/あさちゃん:大型の文鳥のもふもふ聖獣。召喚された観光タクシーに乗っていた建築士。みかちゃんとは友人同士。
小鳥遊実花/みかちゃん:大型のインコのもふもふ聖獣。観光タクシーに乗っていた看護師。
羽村公平/ハムさん:大型ハムスターのもふもふ聖獣。IT・システムに強い。
これで観光タクシーに乗っていた七人全員集合です。




