第11話 王との謁見
二日目の捜索が終わって王城へ帰ると、ほっとした私は、遅めのお昼を食べて部屋に帰ってすぐベッドに倒れ込み、眠りについた。
次に目を覚まして窓を開けると、外は明るく晴れていた。
眼下に庭園が広がっている。もふもふたちのいる離宮は遠すぎて見えない。
物音に気付いた侍女が部屋へ入ってきた。
「おはよう、ネロリ。私、あのまま朝まで寝てしまっていたのね」
「シャルロッテさま、おはようございます。もうすぐお昼です」
――寝過ぎたか。
でも、勇者たちを探すという最初の仕事は無事終わった。少しぐらい休んでも許されるだろう。たぶん。
(さっそく離宮へ、もふもふたちに癒されに行くかな……)
顔がほころぶ。
だが、知らない騎士がやってきた。
「シャルロッテ様、国王陛下より、この後の聖獣様方の謁見にご同席いただきたいとのことです」
――嫌です。と、言える雰囲気ではない。
「分かりました。ネロリ、準備を」
まあ、もふもふには会える。それで良しとしよう。
国王のことを元シャルロッテに聞かないまま会うのは不安だけれど……。
◇◇◇
謁見の間の前に着くと、すでにもふもふ聖獣たちが揃っていた。
先頭に、神殿長がいる。
「お待たせしました」
「シャルロッテ様、短期間に勇者一行を全員無事に見つけられましたこと、遅ればせながら御礼申し上げます」
神殿長の隣へ案内される。
「いえ、仕事ですから」
とても、もふもふが目的とは言えない雰囲気だ。
「……あ、そういえば。聖女の回復魔法などのきちんとした使い方を、教えていただけないでしょうか」
神殿長の顔が、ぱっと明るくなる。
「もちろんです。明日にでも指導できる者を紹介いたします」
そんな話をしていると、目の前の大きな扉が開いた。
「どうぞ中へ」
神殿長に合わせて赤い絨毯の上を進む。
後ろに聖獣たちも続く。
一気に緊張が頭の先まで湧き上がる。
やばい。
私、お葬式でもいつも前の人の真似で乗り切ってきたのに。
頭の中で異世界漫画や中世映画の場面を高速検索する。
「聖女シャルロッテ様、神殿長シトロン。国王陛下と王妃殿下にお目にかかります」
神殿長がお辞儀をするのに合わせ、私は記憶にあったカーテシーらしきものを真似た。
「この度は、勇者一行の召喚と救出、大儀であった」
顔を上げる。
玉座には、明るい金髪と髭をたくわえた、元の世界の私と同じ位の年齢に見える整った男性と、蜂蜜色の髪を結い上げた美しい女性が座り、微笑んでいた。
(マドレーヌ姉さまは王妃似で、シャルは目や髪色とか父親似かな)
国王が続ける。
「勇者一行は、召喚時に事故で魔障の森へ飛ばされたと聞く。無事で何よりだ。疲れているところ申し訳ないが、早めに挨拶をしておきたかった」
そして、私を見る。
「シャル、勇者一行を紹介してくれるか?」
「はい」
私は順に勇者たちを紹介する。
「こちらのうさぎ姿の兎川教授は地鳴りの専門家で、隣が広子夫人です。
猫の姿の方が三毛さんで、一行のまとめ役で武道の師匠です。
文鳥姿の文月さんは建築士、インコ姿の小鳥遊さんは医療の専門家です。
その後ろが犬姿の柴谷さんで菓子職人。最後ハムスター姿の羽村さんは機械系の専門家です」
国王の傍に控えていた側近の男性が首を傾げながら必死にメモを取っている。
「うむ。名前が難しいのと、見慣れない動物もいるが……さすが、勇者一行は様々な分野の専門家が揃っているな」
「はい。私は順に、『教授』『ひろこさん』『ネコ師匠』『あさちゃん』『みかちゃん』『ワン公』『ハムさん』とお呼びしております」
王妃とシトロン神殿長が驚いた顔で私を見た。
「……そうか。それはそうと」
国王は小さく咳ばらいをして、話を進める。
「召喚の目的については既に聞いているか」
「いや、まだだ」
教授が答える。
国王が真顔になる。
「この国では、かつて二百年ほど前に地鳴りを起こす魔王が現れた。異世界から召喚した勇者とその弟子により魔王は封印され、その後は平穏であったのだが……」
教授が眉を寄せる。
「『地鳴り』と言うのは……」
私が補足する。
「『地鳴り』は、地面が揺れる、教授たちの世界で言う『地震』です」
「ああ、それで、我々が呼ばれたのか」
「そのようです」
国王が続けた。
「最近再び地鳴りが増え始めた。魔王の封印が解かれた可能性があると考え、勇者召喚を行った。協力して欲しい」
教授は腕を組み、少し考えていた。
「協力とは、地鳴りへの対策か? それとも魔王とやらの封印か?」
「魔王の封印、できるならば討伐です」
シトロン神殿長が答えた。
「まさか、それをするまでわしらは帰れないのか?」
後ろからネコ師匠の大きな声が響いた。
聖獣たちが皆、一斉に国王を見た。
「……そうだ」
国王が、答えた。
重い、重い沈黙が、広間に満ちた。
「勝手だ……」
聖獣の誰かが小声で呟いた。
「まあ、こうなったら早めに帰れるようにするしかないのでしょう」
沈黙を広子さんが破り、教授を見た。
「そうだな」
教授がため息をついた。
「こちらの勝手に巻き込んだ手前当然だが、出来る限りの協力はする。何か要望はあるか?」
国王が申し訳なさそうに尋ねる。
教授がすぐに答えた。
「まずはこの世界の『地鳴り』のあらゆる知識を確認したい。この国の専門家、書籍、伝承でも良い。全容を知らねば動けない」
「分かった。ここに長のいる神殿の協力はもちろん、王宮書庫への出入りも許可する。王立学院、魔術院にも人を寄こすよう命じよう」
「他は?」
広子さんが前足を挙げる。
「長く滞在するなら、お米が欲しいです」
「米?」
国王がちらりと側近に目をやる。
「南部で少量栽培しておりますが……王宮の備蓄が足りなければ交易品も含め、手配いたします」
「ありがとうございます。町のお店も見に行きたいです」
「分かった。手配させる」
「あの、王国の建築を管轄する部署ってありますか?」
あさちゃんが声を発する。
「ああ。建設省がある。必要なら王立学院の建築に詳しい者も紹介しよう」
みかちゃんも手羽を挙げる。
「医療についても、どなたかとお話しできますか?」
「治療院を紹介させる。治療師や薬師などがいる」
あさちゃんとみかちゃんが顔を見合わせ、微笑んだ。
最後に、国王が私に目を合わせて言った。
「後からでも必要なものがあればいつでも申し出るがよい。シャルロッテ、お前が勇者たちとの窓口を務めよ」
「承知いたしました」
私は頭を下げたあと、ふと思いついて顔を上げた。
「あ、では、私も彼らのいる離宮へ移ります」
「……お前まで、離宮に?」
「その方がお互い便利でしょうし、神殿にも近いですし」
――それに、毎日好きな時にもふもふを楽しめる。
国王は少し驚いた顔をして私を見つめた。
「……まあ、良いだろう。元々神殿へ移る話もあったことだ」
「ありがとうございます」
こうして謁見を終え、私たちは王の間を後にした。
◇◇◇
「シャル……何だか前とだいぶ変わったか?」
閉じた扉をしばらく眺めていた国王が、ぼそっと呟いた。
隣の王妃が扇で口元を隠しながら応える。
「以前はただ大人しく控え目な子だったのが、何だか様子が違いましたわね。そういえば、マドレーヌが、シャルロッテが色々と忘れているようだ、と申しておりましたわ」
国王が、眉をひそめた。
「記憶が? それは、大丈夫なのか?」
「さあ。元気そうですから、心配ないのでは?」
王妃は扇でぱたぱたと顔を煽いで微笑んだ。
そしてその日のうちに私は侍女たちと準備を始め、翌日、もふもふたちの待つ離宮へ引っ越したのだった。
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ・マンダリン/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技がある。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。
マンダリン国王:シャルロッテたちの父。
マンダリン王妃:シャルロッテの義母でマドレーヌ姉さまの実母。
シトロン神殿長:勇者達の召喚の儀式を行った。
◆観光タクシーごと日本から召喚された七人のもふもふ聖獣◆
兎川源一郎教授&夫人/教授&広子さん:白い垂れ耳ウサギのもふもふ聖獣になった大学の名誉教授と、その妻。教授は地震の専門家で勇者として召喚されたと思われる。広子さんは食事などで皆を支える。
柴谷勇/ワン公:大きなサモエド似の白い犬のもふもふ聖獣でパティシエ。
三毛与志朗/ネコ師匠:白い虎猫のもふもふ聖獣で観光タクシーの運転手兼ガイド兼空手の師範。
文月あさ/あさちゃん:大型の文鳥のもふもふ聖獣で建築士。みかちゃんとは友人同士。
小鳥遊実花/みかちゃん:大型のインコのもふもふ聖獣で看護師。
羽村公平/ハムさん:大型ハムスターのもふもふ聖獣でITエンジニア。




