第6話 勇者を探せ④ 勇者救出と、王城の王女
ネコ師匠やワン公のしっぽや腕に触れて癒され、時折祈りを捧げて瘴気を払いながら、私はさらに、森の奥へと進んで行った。
木々の合間の空を見上げると、既に白い月が出てきていた。
「もう暗くなってしまいました。急ぎましょう」
すると、間もなく木陰で二人で寄り添い、抱き合うようにして震える魔獣が見つかった。
垂れた長い耳に、靄を発する黒い身体。
騎士たちが剣を構える。
『ひろこ……』
『あなた……!』
私には聞こえた。
夫婦、そして、片方の名前がひろこ。と、言うことは――。
咄嗟に、騎士の前に出て止める。
「待って、この人たち……たぶん、勇者さまです!」
私は両手を組み、祈った。
二人の黒い魔獣はみるみるうちに濁りが取れてゆく。
ずんぐりした巨大な姿は段々と縮んでゆく。
やがて月の光に照らされた、中くらいと少し小柄な一組のたれ耳うさぎの姿が白く浮かび上がった。
「兎川教授と、奥様ですね」
私が話しかける。
「ああ。わしは、兎川源一郎。大学の名誉教授をしている。
こちらは妻の広子だ」
「地震の専門家の……」
そして今は、立派なもふもふでもある。
私は二人の手を取った。
「あなた方を助けるために来ました。お連れします。詳細はまた後で」
この日はここまで、と、いうことになった。
一日目にして、勇者と思われる召喚者が見つかった。
だが、私は諦めていない。
全てのもふもふを救出するため、次の日も捜索を続ける。
帰路、もふもふの手を取りながら、決意をあらたにしていた。
◇◇◇
勇者捜索の一日目が終わり、夜は王城に戻った。
救出したもふもふ聖獣たちは、古い離宮で過ごすことになった。
今はほとんど使われていないため開いている部屋が多く、また王城の敷地内の神殿寄りにあるという利便性も考慮してのことらしい。
私は本宮の自分の部屋へ戻る。
とは言え、初めての場所だ。私はぼろぼろに疲れて一人で歩けないと言って、侍女に肩を借り、長い廊下を部屋へ向かった。
すると、向こうから、月明かりに照らされて、赤い絨毯の上を歩いてくる女性の人影があった。
宝石だろうか。服が星のようにきらきらと眩しい。
「あら、神殿に住むんじゃ無かったの?」
顔が見えるほど近づくと、その女性が大きな羽の扇を口元に当てて言った。
大きく緩やかに巻かれた艶やかな長い蜂蜜色の髪。
大きな目と高くとおった鼻筋。
そして、ウエストを絞り、裾に向かってひらひらと広がる華やかなドレス。
私は思わず立ち止まり、凝視していた。
「何よ。まさかこの前言ったこと、恨んでるとか?」
「……きれい」
一瞬、女性が動きを止める。
「は? そ、そうだけれども、何を今さら」
扇で仰ぎながら、満更でも無さそうな顔をする。
「あ、すみません。この前言ったこと……どれのことでしょう?」
「は?」
女性が小さく顔を歪めた。
「それは、嫌味?」
「いえ」
そこで私は一呼吸して考える。
(敵かもしれない人に、正直に記憶がないというのは良くないかも)
「……最近、忘れっぽくて」
「え、大丈夫?」
何だか心配されてしまった。
「まさかとは思うけど、あなた私のことも忘れていたりしないわよね。
あなたの姉の、マドレーヌよ」
姉だったか。
「まさか! マドレーヌ姉さまを忘れるはずがないですわ。
ちょっと、今日は色々ありまして、疲れすぎておかしいみたいです。明日もまた引き続き大変なのでこの辺で失礼いたします。うふふふ……」
侍女に合図し、苦笑いをしながら退散した。
それにしても、姉妹揃って美しい。
この時は、美しい女性、という程度の認識しかなかった。
だが、彼女の一言がこの入れ替わりのきっかけになっていたことを、私は間もなく知ることになるのだった。
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ/中身は天野小夏:王女で聖女? ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技がある。甘い物が好き。そして今日、もふもふに目覚めた。
兎川源一郎教授&夫人/教授&広子さん:白い垂れ耳ウサギのもふもふ聖獣になった大学の名誉教授と、その妻。教授は地震の専門家で勇者として日本から観光タクシーごと召喚されたと思われる。
柴谷勇/ワン公:大きなサモエド似の白い犬のもふもふ聖獣。日本から観光タクシーごと召喚された七名のうちの一人でパティシエ。
三毛与志朗/ネコ師匠:白い虎猫のもふもふ聖獣。召喚された観光タクシーの運転手兼ガイド兼空手の師範。落ち着いていて頼れそうだが、肉球はきっとぷにぷに。
マドレーヌ姉さま:シャルロッテの姉だと言う長い蜂蜜色の巻き髪の美女。シャルロッテに何か言ったらしい。




