第4話 勇者を探せ② 一人目の救出
「せ、聖女様……?」
騎士に話しかけられ、私は正気に戻る。
「今、何と? もふ……?」
「もふもふ、それは素晴らしい生き物。言うなれば……神の恵みです」
「……聖獣、といった意味でしょうか?」
「そ、そう。聖獣、なんじゃないかしら」
すると、「おおー!」「聖女様が魔獣を浄化された」と周囲から歓声が上がる。
「こちらは、勇者様とは違うのでしょうか」
私は名簿を見る。記憶が正しければ、地震専門の教授が観光タクシーに乗っていて、彼が勇者として呼ばれた。
そして、それは兎川教授。
たった今このわんこは「柴谷」と名乗った――つまり別人だ。
名簿にも、「兎川源一郎」の名前と、その横に「友人で大学の先生。断層や地震に詳しい」というメモ書きがあった。
それと別で、「柴谷勇」という名前がある。メモには、「お菓子に興味あり」ともある。
――きっとこの人だ。
「違うと思います」
私は話しかける。
「あの、柴谷さん……でしたか、お菓子がお好きなんですか?」
「はい。柴谷勇、パティシエです」
「パティシエ!?」
私は思わず声を上げ、口元を抑える。
「そ、それは何でしょうか? 戦闘職?」
聖騎士の一人が尋ねた。
「いえ、甘いお菓子を作る職人さんです」
「菓子職人? この犬みたいな……聖獣が?」
柴谷さんは、不安気に見ていた。
「あの、ここはどこですか? 僕はどうなるんでしょうかでしょうか?」
「ここは異世界ですが、安心してください。私は聖女で、あなたは聖獣。大事にお連れします」
柴谷さんはほっとして見えた。が、「異世界?」「聖獣?」と、若干戸惑っている。
「あと、柴谷さん、はこちらの世界ではなじみの薄い名前で呼びにくいですね……『ワン公』とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
ただ、私がそう呼びたいだけだった。
「は?」
「可愛らしい犬の姿をされているので」
「……い、良いですけど」
こうして無事、私は「ワン公」と呼ぶもふもふをゲットした。
上手くいけば美味しいスイーツまで作ってもらえるかもしれない。絶対、大事に連れ帰って傍に置いておかなければ、と拳を握りしめる。
「それにしても、勇者様はどこに……」
隣で聖騎士が呟いて、私は思い出す。
「あ、そうだった。本題はこちらね。ワン公さん」
「はい?」
「兎川教授って、一緒じゃなかったですか?」
「ああ、教授と奥さんが、一緒でしたが」
「どうされたか知ってますか?」
「いえ、急にバスがこの森の中に落ちて木にぶつかって、気付いたらこんなで」
「ああ……そうですか……」
「でも、多分ですけど、僕と同じならこの森の中にいるのではないかと。自分であちこち動き回れるとは思えないので」
「何人いたんですか?」
「教授夫婦、僕と同じ男性一人で来ていた人、あと女性のお友達同士二人組。それと、ガイド兼運転手さん……僕を入れて七名ですね」
「やっぱり……多いですね」
私が名簿を見て予想した人数だった。
横の騎士が微笑む。
「でも、勇者様が見つかったら、目的は達せられます」
「だめです!」
私は咄嗟に叫ぶ。
――あと六名のもふもふをゲットするチャンスを奪われてはならない。
騎士が、驚いた顔をしている。
「も、申し訳ありませんでした。全員、助けられたいということですね。さすが聖女様です!」
「そ、そうです。聖女ですから」
ワン公の話を頼りに、私たちはさらに森の奥へと進んで行くことにした。
騎士が小枝を剣で薙ぎ払いながら進む。
獣の声のような音が森に響く。
森にもやっとした瘴気が満ちている中で、怖いような、疲れてきたような気がする。
そこで私は時折祈る。そうすると、浄化されたのか、黒っぽい靄が薄まり皆が少し元気になる。
私は皆を奮い立たせる。
「頑張りましょう!」
「ワン公、手、出して」
「え? こう?」
白いもふもふした腕が目の前に出された。
「騎士の皆さん、ご一緒に」
私はそう言って、ワン公の手に、自分の手を重ねる。
騎士たちも、怪訝な顔をしながらワン公の手に、手を重ねていく。
「お、おお……」「なんだかこれは……」騎士たちの表情が緩む。
「そうです。癒される、これがもふもふの力」
「さすが聖獣……!」
そして私は掛け声をかける。
「全ては、もふもふのために!」
騎士たちも続く。
「もふもふのために!」
森に元気な掛け声が響いた。
私をはじめ皆、満足気な顔をしていた。
ただ一人、意味の分かっているワン公を除いては。
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ/中身は天野小夏:王女で聖女? ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技がある。甘い物が好き。そして今、もふもふに目覚めた。
柴谷勇/ワン公:日本から観光タクシーごと召喚された七名のうちの一人でパティシエ。見た目はサモエド似の白い犬っぽいもふもふ。




