第3話 勇者を探せ① 召喚された観光タクシー
森の中は薄暗かった。
枝葉が重なり、昼間だというのに足元まで影が落ちている。
しばらく進んだところで、先頭の騎士が「あっ」と声を上げた。
「何だ、これは」
「見たことのないものだな」
私も騎士に支えられながら馬を降り、彼らの後を追った。
折れた木々の間に、それはあった。
斜めに傾いた、一台の大型タクシー。八人乗りくらいだろうか。
窓ガラスは割れ、車体には枝が突き刺さっている。
私は思わず息をのんだ。
「中に人はいないな」
「魔獣に襲われたのだろうか」
騎士たちが周囲を警戒する中、私も開いている横のドアからそっと車の中をのぞいた。
座席の間には、鞄や飲みかけのペットボトル、上着などが散らばっている。
「これは何でしょう」
「読めませんね」
最前列の助手席の辺りを調べていた騎士たちが何かを見つけたようだった。
「……見て良いですか?」
私が受け取ると、クリップボードに二枚の紙がはさまれていた。
一枚目には、「ふもと観光 断層とグルメめぐり日帰りツアー 旅程表」と書かれていた。
その観光会社の名前に、私は見覚えがあった。ニュースで目にした名前だった。
「ああ……」
思わず声が漏れた。
めくった二枚目には、名簿もある。
運転手兼ガイドさんのものなのか、印刷された名前の上にはボールペンで読み仮名、横には細かいメモ書きも添えられていた。一番下には、運転手さんのものと思われる名前も記載されている。
乗客は、六名。運転手を加えたら七名か。
(全員、無事でいて……)
私はその場で両手を組み、祈りを捧げた。
その瞬間、車がかすかに光った気がした。
一行はさらに森を進む。
「魔獣だ!」
騎士の叫び声に、私は顔を上げた。
木々の奥から現れたのは、ヒグマほどもある巨大な獣だった。
狼に似ている。だが、毛並みは黒く濁り、目は赤く光っていた。
騎士が剣を抜き、魔獣に斬りかかる。
すると魔獣は太い前脚でざっ、と騎士を払った。
同時に、
『……ヤメテ』
私にはそう聞こえた気がした。
「だめ! 待ってください!」
咄嗟に身体が動き、私は止めに入っていた。
「聖女様、危険です! 下がってください!」
「でも、今、声が――」
止めたところで、どうすればいいのかは分からない。
けれど、斬ってはいけない。
これは、たぶん魔獣ではない。
私は震える手を組んだ。
(神様、助けてください!!)
その瞬間、魔獣の体が白い光に包まれた。
ウウウウウ……。
苦しげなうなり声とともに、巨大な獣の姿が少しずつ変わっていく。
濁っていた毛並みが明るくなり、目から赤い光が消えていく。
「あれは……」
「魔獣では、なかったのか?」
騎士たちがざわめいた。
やがて光が収まる。
「ありがとう。助かった」
そう言って、そこに立っていたのは……白く大きな犬の着ぐるみのような生き物だった。
三角形のふわふわの耳。
サモエドを思わせる、ふさふさのしっぽ。
抱きついたら沈みそうな、ふくよかなお腹。
身体の大きさに似合わぬ、黒くつぶらな瞳。
その犬のような生き物は、ぺこりと頭を下げた。
「柴谷です」
私は、しばらく言葉を失った。
「こ、これは……」
そして、ようやく声を絞り出す。
「……もふもふ?」
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ/中身は天野小夏:王女で聖女? ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技がある。甘い物が好き。
柴谷さん:日本から観光タクシーごと召喚された七名のうちの一人。見た目はサモエド似の白い犬。




