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聖女さま、震度五です! ~異世界召喚された聖女はもふもふ勇者パーティーと一緒に地震から世界を守ります~  作者: 海原のどか


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第24話 防災予算、申請します③ 未報告の被害

「折角だからもう少しだけ、この辺を歩いてみたい。避難場所になりそうな広場などないかな」

ネコ師匠が馬車へ乗らずに地図を見ながら歩きだす。

「建物の様子ももう少し見てみたいわ」

あさちゃんもネコ師匠の後に続く。

「……承知いたしました」

シトロンがしょうがないなという顔をして、もう少し歩き回るのを許してくれた。


大勢で歩き、人の大きさで二本足、フードを被っているとはいえ、のぞく顔は毛むくじゃらの動物。

すれ違う人や子供が「あれ?」という顔で見る。

石畳の上を歩く。

あさちゃんはあちこちの建物の上から下まできょろきょろ見ながら歩いている。

広子さんやワン公は食べ物や用品屋さんをちらちら見ている。

ネコ師匠の足が止まる。

「ここ、学校か?」

「ええ、そうですね。子供たちの学校です」

シトロンが答えて、門の中へ案内した。

小学生か中学生くらいの子供たちが垣根の中の庭で走り回り、ボール遊びをしている子供もいる。

「ここは校庭が広いな。あっちにある大きい建物は講堂かな? 避難場所の候補になりそうだ」

「あ、確かに」

私は手元の地図にメモをする。

「中も見ますか?」

「急だから今日はいい。今度また連絡を取って見に来よう」

ワン公が近くにいる先生らしき人にまた「少しですが」と外套の内側からクッキーの袋を取り出して渡していた。中に細工をしているのだろうか。どうなっているのか気になる。


「これで終わり?」

私は師匠に聞く。

「うーん、あと、この辺も気になるな」

ネコ師匠が地図のある場所を指す。王都の端の方、少し歩いた川の近くにも、広いところがあった。

横から見ていたシトロンが声を掛ける。

「その辺りは、少し治安の良くないところもございます。聖騎士たちが一緒なので今日は問題ありませんが、普段はお近づきにならないようにしてください」


歩いて行くと、古くひびの入った建物がいくつも見えてきた。

「長屋みたいに続いていて、これは火災が起きたら怖いね」

「崩れやすそうな塀も結構ある」

あさちゃんをはじめ、皆の表情が真剣なものに変わる。

「この辺りの被害状況は?」

私はシトロンに聞く。

「特段報告は来ておりませんが……あっ!」

近くに見えた足を引きずる者に、みかちゃんが近づいて、話しかけた。

「この怪我は、以前からのものですか?」

少し警戒する若い男に、ワン公がクッキーの子袋を渡した。

「いえ……先日の地鳴りで、ちょうど登っていた梯子から落ちてしまいました」

「手当は?」

そう言って足を見る。

「一度だけ、治療院へ。でも、お金もかかるし、働かないといけないから……」

「飲める綺麗な水は無いかしら」

「この辺だと、井戸かな」

少し入った井戸まで案内してもらって、男を小さなベンチに座らせる。

聖騎士たちが周囲を警戒しながら前後に付く。

みかちゃんが外套の懐から取り出した布を水に浸して拭う。

「手が、羽根なんだね」

若い男がふふっと笑う。

「そう。インコっていう鳥の姿の聖獣なの」

「痛っ」

みかちゃんが私に振り向いた。

「骨折ほどではないけど、擦り傷と打撲。治せるかな?」

「分かった」

まずは回復魔法をかける。わずかに光った。

「あ、痛くなくなった。ありがとう」

「ここに、他にも怪我した人はいる?」

若い男が周囲を見る。

「出てきても大丈夫だ」

ぼろ切れのような服を着た子供がわらわらと出てきた。

ワン公がまた外套の内側からクッキーの袋をいくつか出して配る。

「うちでじいちゃんが地鳴りで転んで怪我して寝てる」

「母さんが上から落ちてきたレンガで怪我してうちにいる」

それから中へ案内してもらい、何人かをまたみかちゃんが手当てし、私が治した。

一日に何人も治すのは初めてで、さすがにかなり疲れた。女神に祈る限度は分からないが、魔力は限りがありそうだ。今日はゆっくり休んでおこうと思う。

「被害はあるけど、報告できていないところもあるんだね……」

みかちゃんの一言を、私はそっと書き留めた。


「建物も、これはまずいね」

出てからあさちゃんが呟くように言う。

「川に近い地域だと、地盤が緩い可能性がある。過去の記録や震度記録などでも確認した方が良さそうだな」

教授は足元を踏みしめる。


「うむ。この近くの孤児院も気になるな」

ネコ師匠が地図を見ながら言う。

「孤児院は、別で許可が必要です。本日のところはここまでとさせてください」

シトロンが区切りをつけて、やっとこの日の現場調査が終了となった。


シトロンも、聖騎士たちも、悪い人たちではない。

でも、治療院へ行けなかったり、余裕がなくて被害を報告できていない人もいる。

神官や騎士たちが走り回っても確認するには限度があるし、管轄の問題もありそうだ。

今日一日でずいぶんと書き込みの増えた地図を手に、まだ答えの見えない思いを抱えながら、私は帰りの馬車に揺られていた。


【人物紹介】

主人公 シャルロッテ・マンダリン(シャル)/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられるため震度計開発にも参加中。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。最近は危険な婚約者に翻弄されていたが、一旦忘れて防災予算の申請に注力することにした。


シトロン神殿長:勇者達の召喚の儀式を行った。マンダリン王国の女神信仰と聖女の歴史を知る人物。シャルの記憶喪失を知ったうえで、過去の聖女について教えてくれる。


◆観光タクシーごと日本から召喚された七人のもふもふ聖獣◆

兎川源一郎教授&夫人/教授&広子さん:白い垂れ耳ウサギの地震の専門家とその妻。広子さんは食事などで皆を支え、防災は食糧備蓄などを担当予定。


柴谷勇/ワン公:大きなサモエド似の白い犬でパティシエ。美味しいお菓子で皆を癒してくれる。妙に地震について詳しい。防災は食糧備蓄などを担当予定。


三毛与志朗/ネコ師匠:白い虎猫で観光タクシーの運転手兼ガイド兼空手の師範。防災用具や避難訓練などを担当予定。


文月あさ/あさちゃん:大型の文鳥で建築士。みかちゃんとは友人同士。建物の耐震や避難所・仮設設営などを担当予定。


小鳥遊実花/みかちゃん:大型のインコで看護師。あさちゃんとは友人同士。救護対応などを担当予定。


羽村公平/ハムさん:大型ハムスターでITエンジニア。教授や魔術師たちと地鳴り観測装置を開発中。最近は魔術師たちと研究室に籠る日が多い。


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