第23話 防災予算、申請します② 被害状況調査
翌朝、朝食を食べ終わった後、もふもふたちと私はフード付きの外套を羽織り、オランジェリー宮の玄関へ向かった。入口の前には既に二台の馬車があり、シトロン神殿長と数名の馬に乗った聖騎士たちが馬に乗って待っていた。
「おはようございます」
シトロンが馬から降りて私の方へ歩み寄ってきた。
「皆さんもうお揃いですか?」
「おはようございます。はい、これで全員です」
私は周囲を見回す。
ネコ師匠がシトロンの前に出る。手には二枚、同じ地図があった。
「今日はどこを周るんですか?」
一人の聖騎士がシトロンの隣に進み出る。
「本日は、先日主に被害を受けた王都のいくつかの建物と、治療院を予定しております」
「大人数にはなるが、全部全員で周る感じかな?」
「はい。その予定です」
聖騎士が予定している場所を伝え、ネコ師匠が手持ちの地図の訪れる場所に印をつけていく。
「今日は良い天気で良かったですね」
「絶好の調査日和ね」
そんなことを話しながら、四人ずつ馬車へ乗り込んだ。
教授夫婦とネコ師匠、ハムさんが一台目に。
私とワン公、あさちゃん、みかちゃんが二台目に乗り込む。
ネコ師匠が先ほど印をつけた地図の一枚を私に渡してくれていたので、それを見る。
「ここの皆は王都へ行ったことがあるんだよね」
「うん。僕らは以前広子さんが市場や食料品のお店を見たいと言って一緒に行ったのと、僕はその後も時々必要なものがあると連れて行ってもらってる」
ワン公が言って、あとの二人も頷く。
「私は前に治療院にも連れて行ってもらった」
みかちゃんが加えた。
「私は初めて。楽しみだな」
窓の外を見ると、ヨーロッパの一都市かと思われる街の建物が並んでいた。中世ヨーロッパの気配もある。最近私は神殿と王宮、オランジェリー宮を行き来するばかりだったから、旅行のようで何だか楽しい。目的は被害状況を見ることだから、そうも言っていられないけれど。
少し日が経ったこともあるのか、馬車の中から見ている限りではそれほどひどくはなく、人や荷車、馬車が行き来して活気がある。
「着きました」
少し大きめの店舗の前で馬車が止まり、降りる。
外観も綺麗な店舗。中へ入ると食器や瓶などが並んでおり、一部立ち入り禁止にしているところがあった。
「既に片付けたのですが、棚から食器や瓶がいくつか落ちて割れまして、直後はかなりひどい状態でした」
店主らしき恰幅の良い男性が出て来て言う。足元の木箱の中には欠けた陶器やガラスが入っていた。
「揺れた時にすぐ店員が棚や食器を抑えに行ったので、少しはましだったと思うのですが。あと、片付ける際にも一部手を切った店員がおりました。軽傷ですが」
話しを聞いていたネコ師匠が顔をしかめる。
「駄目だよ。揺れが来た時はまず、商品ではなく自分たちを守らないと」
そう言って店内を見回す。
「まず、姿勢を低くして頭を守る。すぐ傍に丈夫なテーブルなどがあればその下に入るとなおいい」
頭を守ってしゃがむと、カウンターの下に入って見せた。
「でも、それでは商品が割れてしまいます」
「それは、前もって対策すると良いです」
あさちゃんが棚の前へ行く。
「棚を固定するとか、落下防止で棚の縁に落下防止の柵を付けるとか、扉に留め具を付けるといったやり方もあります」
店主やシトロン、聖騎士が目をぱちくりさせる。
「棚を、固定?」
「無いんですか? 固定する器具とか」
あさちゃんが尋ねる。
「無いですね。想像もつかない」
シトロンが答える。
その後同様に近くの商店などを見た。
「どこも、棚を固定したり、頭を守る物なんかが足りないな」
「地鳴りが起きた時の対応も不十分ですね」
ネコ師匠やあさちゃんたちの話を私は記録した。
「神殿長、この辺の人達が避難するところはどこだ?」
「特に決まっておりませんが、集会所ですね」
商店の店主が代わりにネコ師匠に答えた。
それから集会所へ案内してもらった。
「周囲を高い建物に囲まれているわね。そこの時計台も古くて折れそう」
あさちゃんが周りの建物に目をやる。
「広さも、皆が集まるには狭いかもしれないな」
あさちゃんとネコ師匠の言葉を私はメモして、シトロンも興味を持って聞いていた。
それから私たちは、治療院へ立ち寄った。
「みかさん、お久しぶりです」
「院長、相変わらずお忙しそうですね」
「そうですね。少し落ち着きましたが、エレンデール公爵領からも負傷者が運ばれてきまして。屋根瓦が落下して頭に当たった方や、転んで怪我推した方など、幸い死者はありませんでしたが、重症者は二十名ほど、軽症者が多くいらっしゃって」
みかちゃんに院長と呼ばれた女性は微笑んでいたが疲れて見えた。
「今日は聖女様もいるんですよ。少し中を見せてください」
みかちゃんの言葉に、院長の表情にぱっと色が戻る。
「聖女様が? ぜひご覧ください」
軽症者は治療をして帰すので残っていなかった。
中のベッドの部屋に重症者がいた。階段を落ちて足を折った人、物が当たって頭を負傷している人、と院長が入口で説明して、中へ入って行く。
「聖女様と聖獣様たちがきてくださいましたよ」
寝ていた人たちも起き上がった。
「ちょっと見せてくださいね」
骨折者をみかちゃんがざっと診て、私が習いたての回復魔法を使う。手をかざすとぽうっと光る。
「あ、だいぶ痛くなくなりました」
みかちゃんが足を触る。
「痛っ!」
「まだ骨折は治ってないみたいですね……」
「じゃあ、これはどうかな」
私は今度は祈ってみる。痛そうな骨折が治るイメージをして、この人に元気に歩けるようになって欲しい、と願う。
すると、前よりぶわっと明るく光った。
「あ、治ったかも」
「え?」
骨折者が足に縛り付けられていた木の棒を取って、ベッドから降りた。
「すごい。治りました」
すたすたと歩く。
それから私は残りの患者も祈って治した。
みかちゃんはその後、聖女様のチート能力は置いておいて、今回の地鳴りの被害で包帯や薬をどの位使って、さらに大きな地鳴りでは何が不足しそうか、ベッドの床数など救援施設の余力を院長に聞き取って、私も隣でメモを取った。
ワン公が持ってきたクッキーの袋を院長に渡し、院長が嬉しそうに受け取った。
「予定していたところは以上です」
シトロンが言った。
「今回特に大きく揺れた報告があったところなどはどこだ?」
教授が聞いた。
「報告があった所では、先ほどの商店の辺りですね」
聖騎士が馬車へ乗り込むよう促した。
私も馬車へ乗り込もうとした。
しかし、ネコ師匠はそのまま地図をじっと見ていた。
「……もう少し、この辺を歩いてみたい」
そう、呟いた。
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ・マンダリン(シャル)/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられるため震度計開発にも参加中。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。最近は危険な婚約者に翻弄されていたが、一旦忘れて防災予算の申請に注力することにした。
シトロン神殿長:勇者達の召喚の儀式を行った。マンダリン王国の女神信仰と聖女の歴史を知る人物。シャルの記憶喪失を知ったうえで、過去の聖女について教えてくれる。
◆観光タクシーごと日本から召喚された七人のもふもふ聖獣◆
兎川源一郎教授&夫人/教授&広子さん:白い垂れ耳ウサギの地震の専門家とその妻。広子さんは食事などで皆を支え、防災は食糧備蓄などを担当予定。
柴谷勇/ワン公:大きなサモエド似の白い犬でパティシエ。美味しいお菓子で皆を癒してくれる。妙に地震について詳しい。防災は食糧備蓄などを担当予定。
三毛与志朗/ネコ師匠:白い虎猫で観光タクシーの運転手兼ガイド兼空手の師範。防災用具や避難訓練などを担当予定。
文月あさ/あさちゃん:大型の文鳥で建築士。みかちゃんとは友人同士。建物の耐震や避難所・仮設設営などを担当予定。
小鳥遊実花/みかちゃん:大型のインコで看護師。あさちゃんとは友人同士。救護対応などを担当予定。
羽村公平/ハムさん:大型ハムスターでITエンジニア。教授や魔術師たちと地鳴り観測装置を開発中。最近は魔術師たちと研究室に籠る日が多い。




