第21話 もふもふ勇者たちの決意
夕食の席で、ワン公が王立学院の研究者セミノールから聞いた勇者の話を皆に共有した。
教授は本を早く読み進めたいとのことで、今日は広子さんが差し入れたおにぎりを食べながら自室にこもっているらしい。
「前に王様と謁見した時にも魔王を倒すか封印しないと帰れないと言っていたけれど、セミノールさんの、過去の勇者の話でも同じく、魔王を封印した後帰るか残るか選べることになったらしい」
「やっぱり帰れるのね!」
みかちゃんが嬉しそうに言う。
「ただし、前回の勇者は心臓に病を抱えていたので、結局は亡くなってしまって、遺体の状態で帰ったんだけど」
みかちゃんたちの顔がさっと曇る。
「でもまあ、元気なら戻れた、と言う事だろう。で、魔王はどこにいるんだ?」
ネコ師匠が腕組みをする。戦うつもりだろうか。
「前回の勇者は地震関係の学者とその弟子で、各地を歩き回って見つけたらしい」
「歩き回るって……」
あさちゃんが遠くを見る目になる。
「詳しいところはその弟子がこの世界へ残って記録を記した本があって、それを今教授が読み解いている最中だけど……」
ハムさんの目が光る。
「そこで今回は、震度計をまず作っているわけですよ」
私はハムさんに言う。
「早く詳細な観測記録を取れるようにするって言ってたよね。今回はそれで探すわけか」
「まあ、そうですね。詳細は出来た時のお楽しみということで」
連日魔術師たちに地鳴り対策本部の奥の部屋へ連れて行かれて長時間出てこないハムさんだが、本人のやる気もあるようで良かった。
「と言うことで、僕らの目標としては、一刻も早く魔王を見つけて、倒すか封印するかすること、だな」
ワン公が話を締めようとする。
「待って」
みかちゃんが声をかけた。皆の視線がみかちゃんに集まる。
「その間にも、地鳴りが起きるんだよね。もし、大きな地震が起きたら、皆が被害を受けるよね。その対策はしないの?」
「王様は、それは僕らを呼んだ目的だとは言っていないね」
「でも、確かに被害を受けたら最悪死傷者が出るよね」
あさちゃんもみかちゃんに加勢する。
「防災対策もしたい、ってことだね」
私も確かめるように言う。できればした方が良いだろう。
「皆が同じ意見だったら、王様……父に話してみるよ」
あさちゃんとみかちゃんが、ほっとした顔をした。
こうして翌朝、私は早速王の元を訪ねることにした。
◇◇◇
王の元へは、説明のためにワン公も連れて二人で訪れた。
執事を通して行く旨を連絡しておいたところ、本宮に着くとすぐに庭園の東屋に通される。
オランジェリー宮の庭園も充分素敵だと思っていたが、こちらはさらに手入れが行き届いていて、大輪のバラが咲き誇り、濃厚でくらくらするほどの香りを放っていた。
「お父様、お忙しいところお時間を頂きありがとうございます」
「シャル、元気そうだな。魔法の講義を頑張っていると聞いているぞ」
「お陰様で」
「そちらは先日の聖獣さまだな」
「菓子職人で、聖女様にはワン公と呼ばれております」
ワン公がお辞儀をする。
「こちらをお持ちしました。オレンジとレアチーズのグラスムースです」
手土産のグラスムースを、持ってきた籠ごと侍女に渡した。オレンジムースと白いレアチーズ、スポンジが透明なグラスの中で層になり、上にオレンジの果実が添えられている。
「これは、何とも美しい……さっそく一緒にいただこう」
侍女が王と私たちの前に配る。
「それで、今回はどうした?」
私はグラスムースを一口いただいてから、話し始める。甘酸っぱく、ひんやり口の中で溶けて美味しい。
「先日はそこそこの被害が出たようですね。ですが、地鳴りはより大きいものも生じるのではと勇者さま達は懸念しております」
「ああ。わしもそれを案じておる。過去の魔王が出た際も相当の被害であったと伝わっているからな」
「ですので、勇者様たちは、魔王の探索に加え、防災対策もしたいと言っています」
「防災?」
王が首を傾げる。
「はい。被害を受ける前に、建物を強くして受けにくくしたり、被害を受けた後人々の受け入れ先を決めておいたり、しばらくの食事を備蓄しておいたり、といったことです」
「それは願ってもない。国民のためにも国のためにもぜひお願いしたい」
王の顔が明るくなる。
私は思い切って切り出す。
「それで……その防災対策の金銭面のお願いで参りました」
ワン公が追加する。
「あと、探索の旅費もですが、魔術師さんたちと震度計を開発中で、それを量産して全国各地に置く必要もあります。その費用も」
「うむ。どの位掛かりそうか分かれば支援させる。金額によっては王国評議会の承認も必要だが。 財務卿を後日向かわせよう。シャルの大好きな叔父上に会うのも久しぶりだろう」
王が目を細めて微笑んだ。
――大好きな叔父?
厄介なことにならないよう、今夜元シャルに聞いておかないと。
帰りの馬車の中で、ワン公が難しい顔をして呟いた。
「何をするかまとめないといけないんだな……」
「それは私に任せて!」
私はワン公に笑いかける。
「何にいくらかかるかは分からないけど、叔父様が来るまでに日本での会社員経験を活かしてみんなに聞き取ってまとめておく」
「おお、さすが元会社員」
「それにしても、ワン公はさすがパティシエだね。オレンジムース美味しかった」
「沢山作ったから戻ったら食べられるよ」
「やった!」
「太らないように気を付けてね」
こうして、私たちは魔王の探索と並行し、防災対策も行うことになった。
そのために、私はまず、叔父様や議会での予算取りの説明資料を準備しないといけない。
でもきっと、もふもふとお菓子と私の会社員経験があれば、どうにかなるだろう。
この時の私は、その程度に思っていた。
この後、思いもかけない障害が現れるとは夢にも思わずに。
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ・マンダリン(シャル)/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技があるため震度計開発に巻き込まれた。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。最近は危険な婚約者に翻弄されている。
マンダリン国王:シャルロッテの父。シャルが聖女になって色々変わったなと思うなど気にかけている。
過去の白熊の勇者&ペンギンの守護者(著書にはランドルフ・ヴェルムと記載):約二百年前に召喚され地鳴りを調べるため各地を旅して魔王を封印した勇者とその弟子。記録を本として残した。王室図書館にあったその著作を現在教授が読んでいる。
◆観光タクシーごと日本から召喚された七人のもふもふ聖獣◆
兎川源一郎教授&夫人/教授&広子さん:白い垂れ耳ウサギの大学の名誉教授とその妻。教授は地震の専門家で勇者として召喚されたと思われる。広子さんは食事などで皆を支える。
柴谷勇/ワン公:大きなサモエド似の白い犬でパティシエ。美味しいお菓子で皆を癒してくれる。妙に地震について詳しい。
三毛与志朗/ネコ師匠:白い虎猫で観光タクシーの運転手兼ガイド兼空手の師範。落ち着いていて頼れるが、肉球はぷにぷに。
文月あさ/あさちゃん:大型の文鳥で建築士。みかちゃんとは友人同士。防災に積極的。
小鳥遊実花/みかちゃん:大型のインコで看護師。あさちゃんとは友人同士。防災に積極的。
羽村公平/ハムさん:大型ハムスターでITエンジニア。教授や魔術師たちと地鳴り観測装置の開発を行い、最近は魔術師たちと研究室に籠る日が多い。




