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聖女さま、震度五です! ~異世界召喚された聖女はもふもふ勇者パーティーと一緒に地震から世界を守ります~  作者: 海原のどか


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第19話 婚約者の危険なお茶会

神殿長の特別講義を終えてから、馬車に揺られてオランジェリー宮へ帰る間も、私の頭の中は聖女の本のことでいっぱいだった。


本を読んだら、元の世界へ戻る方法が分かるかもしれない。


私の体感で震度を当てる特技も少しは役に立ちそうで、魔王や地鳴りの問題を、もふもふ勇者たちと一緒に解決したい気持ちも強まっている。

もふもふも、お菓子もある、今の生活は楽しい。


でも……四十歳の会社員から十八歳の王女になんて、いずれは戻るのが自然だろう。

王女と同じ位の年頃の美形婚約者とも、一緒にいるべきなのは自分ではない。


次の日、まだもやもやしながら、私はお茶会の席に着いた。


オランジェリー宮の、きれいに手入れされた庭園に面したテラス。

私たちは庭園を眺められるように、少しだけ離れて並んで座った。

侍女のネロリが紅茶を淹れに来たのに続き、まさかのワン公がホールケーキを持って現れる。

「三種のベリーのミルクレープです」

どやっという満面の笑みで切り分ける。自信作らしい。

私の気も知らずに婚約を後押ししにきたようだ。

「ミルクレープ?」

レオンが聞く。

「はい。何層にも重ねて、間にクリームを挟んでおります」

「初めて見た。凄いな」

「他に、マカロンや焼き菓子も用意しております」

別の侍女たちが、色とりどりのマカロンやフィナンシエ、マドレーヌなどを次々に持ってきてテーブルに並べた。


「ごゆっくりお楽しみください」

お辞儀をして、脇に立つ。

こんなに沢山。いったい何時間お茶会をさせるつもりなのか。


取り敢えずミルクレープを一口食べる――美味しい。

私は黙々と食べ進めた。

ベリーが、クリームが、止まらない。


レオンはそんな私の様子を楽しそうに見ていた。

と思ったら、レオンがナプキンを手に取り、私の口元をそっと拭った。

「クリームがついてた」

「わ! 気が付かなかった」

急に触れられて、どきっとする。

「前より隙が増えたよね」

そう言いながら笑う。

私は苦笑いをする。元シャルのマナーには隙が無かったという意味だろう。

「……気をつけます」

「いや、そのままでいい」

レオンは隣で私を見つめたまま、さらっと続ける。

「その隙に、僕も入れてくれれば」

心臓の音が大きくなる。


「二人きりにしてもらおう……ラプサン」

「はっ」

レオンが後ろにいた従者に声をかける。

ラプサンと呼んだその従者は他の人たちを下がらせ、防音魔法をかけると彼も下がった。


二人きりになってしまった。

(元シャルの言っていた、無言のお茶会なら、防音魔法要らないよね……)

緊張して、私はお茶を口にする。まだちょっと熱い。


「これで二人だけで話せる」

意外にも、レオンはそう言ったあとに続けた。


「シャル、君の記憶を無くした噂、君のお姉さんから聞いたんだけど……人の顔と名前を忘れているとか、刺繍もせずに聖獣たちのところに楽しそうに入り浸っているとか、最近の君の様子まで、随分よく知ってるようだったよ」

「マドレーヌ姉さまには、こちらに引っ越す前に廊下で会って少し話した程度かな。忘れっぽくて、とは言ったけど」

「でも、実際記憶が無くなったと教えてくれたよね」

そっちが事実だ。

そう。レオンと、その後神殿長、副神殿長にはいずればれるなら、と思って少しだけ加工して話した。

聖獣たちには本当のことを話している。


だが、それ以外の人には話していない。


「恐らく、君の近くに君のお姉さんへ様子を伝えている者がいると思う」

「誰だろう」

「さっき給仕をしていた子もそうかも知れない」

「ネロリも? 気にしてなかった」

普段から見ていたら、大丈夫かと思うくらい色々覚えていなくて、すぐおかしいと気付くだろう。


「と言うより、記憶を失う少し前、幼い頃からずっと君についていた侍女も辞めさせられたよね」

「え、そうなの? 」

レオンが黙る。

「……それも覚えてないのか」

小さく呟き、顔を上げる。


「そうさ。彼女が辞めさせられる前から君の周囲では何人も入れ替わっていて、君の昔からの味方はもうほとんどいない。だから、週に一度は直接話さないとって思ったんだ」

元シャルにはそういうことも辛かったのかも知れない。私には昔を知らない人ばかりの方が、むしろ都合が良さそうだけど。

「……なのにシャルは、新しい仲間と楽しくやってるみたいだけどね」

「ふふ。お陰様で」

「妬けるな」


「なら、一緒にもふもふします? 先ほどのワン公の他にも、いい子がいますよ」

「いや」

レオンが私の目をのぞき込み、その指先が私の手の甲に触れた。

そのまま、そっと手の甲をなぞっていく。

ぞくりとする。不思議と嫌ではない。


「僕は、もふもふより、君に触れたい」

「う、うぐっ」


レオンは私の手を取った。

そして、まっすぐに目を見つめたまま、私の手の甲に唇を落とす。


動悸がする。

若いから、きっと急死することはない。

……でも、心臓に悪い。


こうして、最初のお茶会は死にそうになって終わった。

……だけではなくて、味方が減らされている、という重要な情報もくれた。


どうやら彼は、私の味方らしい。

そしてまたこの危険なお茶会は、次回以降も毎週続くらしい。


【人物紹介】

主人公 シャルロッテ・マンダリン(シャル)/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技があるため震度計開発に巻き込まれた。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。


天野小夏/中身は元のシャルロッテ(元シャル):現在は鏡の向こうの日本で小夏として暮らしている本来の第三王女シャルロッテ。刺繍や裁縫が趣味で得意。彼女が女神様に祈って入れ替わった。日本で小夏としての生活を楽しもうとしている。政略婚約者のレオンには興味がない。


レオンハルト・グラントルテ(レオン):隣国の王子で美男子。元シャルとは無言のお茶会をしていたようだが、今のもふもふやお菓子三昧の生活を楽しむシャルには妙に積極的。「天使かと思った」「もふもふより君に触れたい」などと言ってくる危険な婚約者。


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