第15話 震度計に聖女は必要ですか?
私が地鳴り対策本部の広間へ戻ると、ちょうど教授が円卓の前で他のもふもふ聖獣たちに説明をしているところだった。
「今後は午後に来る予定の王立学院や魔術院の関係者も装置の開発・製作や運用に関わることになる」
「装置?」
途中から聞いた私が尋ねる。
「地鳴りの観測装置です」
ワン公が円卓の真ん中にクッキーやフィナンシエなどの焼き菓子を乗せた大皿を置きながら答えてくれる。
「ああ、元の世界みたいに計測できるものを作るんですね」
「そうだ。研究者たちに聞いたところ、この世界では人や建物の被害状況から揺れの大きさを判断しているらしい。しかも被害が起きてから各地に確認しに行くというが、もっと早く詳細な観測記録が欲しい」
教授が説明を加える。
「シャルさん、なに、他人事のように言ってるんですかっ」
ハムさんが、突然私に向かって言う。
「聞きましたよ。震度分かるらしいじゃないですか」
え、もしや、先日のあれも共有したの? とワン公を見ると、すっと目を逸らした。
「シャルさんも開発に参加してもらいます。ふふふ」
ハムさんがそう言って、笑う口元を手で隠す。
「ええっ、私、素人だから、何もできないよ」
と、そこでまた私は、微かに揺れを感じる。
「あ、来た」
ハムさんが不思議そうに私を見た。
「え、どこ見てます?
もしや、話を逸らそうと……」
眉根を寄せてそう言い終えるかという時、モニターがガタガタと鳴り、円卓や椅子がゆさゆさと揺れ始めた。
「皆、頭を守って円卓の下へ!」
ネコ師匠が声を掛け、皆さっと円卓の下へ潜った。
やがて、揺れが収まった。
「震度三」
私はいつも通り、口にする。
しかし、気が付けば周囲の目が私に向いていた。
「……確かに。これは、貴重な人材だ」
教授が言う。
「やっぱり、初期微動らしきものから気付いてますかね」
ワン公が教授に話しかける。
「これは、シャルさんも震度計開発に参加で確定ですね。震度の基準を機械に教え込んでもらいます~へへっ」
ハムさんが嬉しそうに話を蒸し返す。
「ハムさんてば楽しそうにっ。なら、もふもふ前払いだ!」
変なテンションになっているハムさんの手や腹を私がもふもふする。
「ひっ、何するのっ」
ハムさんがのけぞって、私は笑いながらさらにもふもふする。
「シャルさんファイトっ!」「頑張れー」
あさちゃんとみかちゃんもお菓子を食べながら応援してくれていた。可愛い……って、それどころではない。
「今からでも地鳴りのあった時間と震度を記録しておこう」
教授は真顔で侍従を見やり、書くものを用意させた。
「そうですね。時間は正確ではありませんが、この前のシャルさんの引っ越しの日とか、震度も分かりませんが僕らが召喚された日も書いておきますか」
ワン公が教授に聞く。
「ああ。午後に来る王立学院の先生たちにその前いつ頃から起こり始めたかも記録しているか聞いてみよう」
教授が頷いた。
「シャルロッテ様、そろそろ神殿へ行くお時間です」
聖騎士が入口の前で声を掛けてきた。
「すみません。すぐ行きます!」
今日も神殿で聖女の魔法の訓練を受ける約束をしていた。
「焼き菓子、まだ食べ足りないでしょう。少し持ってって」
みかちゃんが私に小さな布袋を差し出した。
「婚約者さんのお花は後でシャルさんのお部屋へ持って行ってもらうわね」
広子さんも声を掛けてくれた。
焼き菓子の袋を抱え、私はばたばたと馬車へ乗り込んだ。
午後に来る関係者とも挨拶したかったけれど、その機会もいずれあるだろう。
――どうやら私の震度計作りへの参加は、もう確定のようだから。
【人物紹介】
主人公 シャルロッテ・マンダリン(シャル)/中身は天野小夏:マンダリン王国の十八歳の第三王女(母は側妃)で聖女。ただし現在の中身は、日本で暮らしていた四十歳の会社員・小夏。揺れの大きさを体感でかなり正確に当てられる特技がある。甘い物が好き。この世界でもふもふに目覚めた。
◆観光タクシーごと日本から召喚された七人のもふもふ聖獣◆
兎川源一郎教授&夫人/教授&広子さん:白い垂れ耳ウサギの大学の名誉教授とその妻。教授は地震の専門家で勇者として召喚されたと思われる。広子さんは炊事や掃除が得意。
柴谷勇/ワン公:大きなサモエド似の白い犬でパティシエ。
三毛与志朗/ネコ師匠:白い虎猫で観光タクシーの運転手兼ガイド兼空手の師範。落ち着いていて頼れるが、肉球はぷにぷに。
文月あさ/あさちゃん:大型の文鳥で建築士。みかちゃんとは友人同士。
小鳥遊実花/みかちゃん:大型のインコで看護師。
羽村公平/ハムさん:大型ハムスターでITエンジニア。教授や魔術師たちと行う震度計開発にシャルを巻き込む予定。




