第15話 反転
「ここだッッッ!!!」
ズドンッッッッッ!!!!
ズバァ。
「おらぁッ!!!」虚実が雄叫びを上げる。
大江の左手首が宙に舞った。
「ぎゃああああああああ。」大江悶絶。
それを虚実はただ見つめる。
一撃のカウンターに賭けた『実』。
おそらく大江は何があったか目で追うことができなかっただろう。
はじめて人を切り落とした。今までは無意識のうちに刃を貫通させることはなかった。今回はしっかりと振り切った。
そんな中、虚実が剣の本質にたどり着く。
「大江さん、俺、覚醒しました。」
「なんだと?」
「剣とは、武器とはこう使うのが最も良い、と。それに気づきました。」
「どういうことだ?」
「武器とは…」
そういうと虚実は剣を構える。
しかし、どこかおかしい。したに刃を突き刺すような持ち方で、逆手に持っていた。
「エネルギーの反転。虚から実。攻から守。正から
負。そんな『反転』を用いて使うのが正しい。」
「……。」
「たどり着いた答えがこれです。」
『虚』状態で、逆手に持った刀を振り始めた。
「『虚』で構えながら『虚』で応戦する今までのスタイルはナンセンス。今後は確実に『実』をつかいます。さらに静止していた今までの構えも良くない。もともと動いておくべきだ。でないと反転の材料がない。」
「それが、兄ちゃんの答えか。」
「はい。」
「左手首。俺の4つの武器ン中じゃあ、1番弱いやつだ。なくたって戦える。」
「では、やりましょう。」
「いいね。これが血湧き肉躍るってやつだ。」
「行くぜオラァ!」
ビュンッ!
「フォオッ!あぶねえ。腹かすりやがった。」
「当たらないのか。」
ブンッ!
ブンッ!
両者譲らず。
しかしここで、虚実に限界が訪れる。
『虚実』の切り替えを多用し、その境目がなくなりつつある。エネルギーを反転する際、その絶対値の大きさにより、強さが決まる中でそれが極端に小さくなっている。
さらに達人・大江にも変化あり。
「反転。いいテーマだ。それは俺にも当てはまりそうだよな。例えばこう、相手の顎にアッパーをいれるとき、足でしっかり踏ん張る。ちょっと違うかもしれないが、大枠はそうだ。つまり…」
ビュッ!バチン!!!
「こういうこともできる。」
今までであれば右足での蹴りがくる踏み込み。しかし実際に放たれたのは左足。
「今のは効いたか?」
「過去受けた攻撃で一番です。」
「の割には元気じゃねえか。」
「痩せ我慢ですよ。あなたの左手と同じ。」
「そうか。」
「最終局面です。思う存分やりましょう。」
「そうだな。」
ドガガガガガ!!!
ザクザクザクッ!
「オラァ!!!」
「シャアッッッ!」
無数の切り傷と打撲。それでも止まることはない。
ビュッ。
大江の右の突きが放たれた。
ように見えた。
しかし、実際は違う。
それを虚実は感じ取り、右足に対処。
ベキッ。
「ぎゃああああああああ!!!!」大江再度悶絶。
しかし、虚実も倒れている。
虚実は右足の蹴りに完璧に対処した。
だが、実際飛んできたのは左手。
大江の手元にない武器である左手。
それは虚実が勝手に足した概念だった。
大江からすれば左手はまだあった。
手首から先はないかもしれない。
しかし、人を殴れないかと言われるとそうではない。
ノーマークの武器。それを使わない手はなかった。
「上下でなく左右。」
震えた声で虚実が言う。喋るのがやっとだ。
「痛いがな。」
「負けか。」
「ああ。俺の勝ちだ。」
「嫌だ。」
「は?」
「俺は勝つ。」
「無理だ。もう動けねえだろ。」
「なぜそう思う?」
「ダメージを受けすぎだ。」
「しかし、物体的には動けるはずだ。飯はいっぱい食った。カロリーは使い切っていない。それを100%効率よく出し切れば動けるはずだ。」
「悪あがきだ。そんなことができるわけない。」
「どうだか。」
そう言うと、虚実は目を閉じた。
ストン…。
まぶたが開くと黒目が一色になっている。
「なんだ『虚』じゃねえか。」
なんの返答もない。その代わりに虚実は立ち上がった。
「おいおいマジか。」
よく見るといつもの『虚』ではない。
黒目が限界まで絞られ、ドーナツ部分の穴が潰れた格好になっている。
スッ。
逆手に刀を持った。
大江は斬撃を警戒する。先程の戦いで多用した構えから持ち替えて切るという攻撃。
ドスッ。
「えっ。」
一瞬あと、大江の腹に刀が突き刺さっていた。




