タイトル未定2026/07/02 02:40
設計事務所の定時の時間は、すでに過ぎていた。
机の椅子に座って、流花と田中は指導社員の安達と、話をしていた。
「仕事は慣れた?」
安達の言葉に、流花が言った。
「だいぶ、慣れてきました」
流花の隣で、田中は黙ったまま頷いた。
「五月連休が明けたら、一緒に外回りをするから」
「はい、宜しくお願いします」
流花が言い、流花と田中は揃って頭を下げた。
「五月連休は、何か予定があるの?」
安達の言葉に、流花は天井を仰ぎ、田中は微動だにしなかった。
「連休なんて、忘れていました」
流花の言葉に、安達は笑った。
「お疲れ様です」と言いながら、流花と田中は、設計事務所から出ていった。
流花の隣を歩いていた田中は、不意に言い出した。
「連休、何処かに出かけないか?」
「何処かって?田中君と出かけるの?」
「一日くらい、いいだろ?」
「いいだろって……私には、マスターがいるんだよ。それを、知っていて誘う?」
流花がそう言った後、突然田中は流花の手を握った。
「田中君、手を離して」
田中は、頑として手を離さなかった。
「離さないよ。流花ちゃんが俺の方を振り向かないなら、今この時が俺の全てだから」
「怖いよ……田中君に、飲み込まれそうで」
「それで、良いじゃん。俺に、飲み込まれろよ」
流花と田中は黙ったまま歩き、目的の駅につくと改札を抜け、ホームに入って来た電車に乗った。
車内は混んでいて、流花と田中は立っていた。
田中は自然に流花の背後に手をまわし、流花の肩を抱いた。
誰が見ても、恋人同士に見える二人だった。
さすがに流花は、小さく抵抗をした。
「……ちょっと、田中君やめて」
その時電車が大きく揺れ、流花の肩を抱いていた田中の手が、更に力強くなっていた。
田中は、低く笑った。
「流花ちゃん、マスターって呼ぶんだ。彼氏なのに」
今まで、対して気にもとめなかった。
田中の言葉に、少なからず流花は動揺していた。
「もう、いいかげんにして!」
電車を降りた時、肩を抱いていた田中の手を、流花は思い切り振り払った。
田中は黙ったまま、流花の隣を歩いた。
改札を抜けて駅を出ると、駅前で野田が流花と田中を待っていた。
「流花ちゃん!……あっ、田中君」
「何だよ、俺はおまけかよ」
野田は、明るく笑った。
流花は思い出したように、田中に聞いてきた。
「田中君、家の設計図できた?」
「あぁ、完成だ」
流花と田中の会話に、何も知らない野田が入ってきた。
「家の設計図って、何のこと?」
田中の問いに、流花が答えた。
「仕事の休憩中、 田中君と家の設計図を描いていたんだ。仕事とは関係ないから、自由に描いていたけど」
「その設計図、今持ってる?」
田中はカバンから流花と描いた家の設計図を出し、野田に渡した。
野田は設計図を広げ、しばらく眺めた。
設計図を眺めていた野田は、ため息まじりに言った。
「凄い……こんな設計図が描けるんだ。ねぇ、この設計図しばらくの間、預かっても良いかな?」
「どうして?」
流花が聞くと、野田は笑顔で答えた。
「この設計図パソコンに落として、立体化してみたいんだ」
「そんなことが、出来るのか?」
珍しく田中が、興味をしめした。
「やったことがないから、やってみたいんだ……そうだ、五月の連休までに完成させるよ。連休、仕事は休み?」
流花と 田中は頷いた。
「じゃあ、それまでに完成させるよ。連休中三人で、遊びに行こうよ。その時、完成したのを見せるよ」
野田の行動力に、呆れながら田中が言った。
「何処に、遊びに行くんだよ?」
「一度行ったんだけど、静かな場所で俺のお気に入りの場所」
流花がすぐ、反応をした。
「それは、ちょっと行ってみたいな」
「でしょ!超お勧め」
連休中に三人で会うのをきっかけに、野田は流花と田中のラインにつながった。




