タイトル未定2026/07/02 02:38
マスターと大門がカレーを食べていた頃、流花は行きつけのラーメン屋に向かっていた。
路地裏にあるラーメン屋で、うっかりしたら通り過ぎてしまいそうな、小さなラーメン屋だった。
店内は、お世辞にも綺麗ではない。
流花は、この店の味と店主のもえが気に入っていて、数カ月にに一度は店に顔を見せていた。
しかし大学四年生になった頃、忙しくなりすっかり遠のいてしまった。
社会人になった今、やっともえの店に行くことができた。
流花のお気に入りのメニューは、炒飯と餃子。
流花の顔を見るともえは、何も言わなくても直ぐ炒飯と餃子を出してくれる。
流花が店内に入ると、ちょうど先客たちがいなくなった後なのか、店内に客はいなかった。
カウンターの中にいたもえは、流花に気がつくと、花がパッと開いたような明るい笑顔でカウンターから出てきた。
「流花ちゃん、久しぶり〜もぉ、忘れられたかと思ったわぁ」
男性なのに、気持ちは女性の店主のもえは、小柄で大きな目をしていて、エプロンから下っぱらが出ていた。
涙ぐみながら言うもえに、流花は言った。
「忙しくて、お店に行くことができなかったです。社会人になってようやく行くことが、できました」
言いながら流花は、カウンター席に座った。
「社会人になったのね!どんな仕事?」
「設計事務所で、仕事をしています」
「あらぁ〜すごいじゃないのぉ。流花ちゃん、飲める口?」
「はい」
「飲めるなら、ビール出すわ。アタシのお・ご・り。炒飯と餃子と一緒に出すから、待っててね。そうだわ、のれんをしまっちゃお」
そう言うと、もえは外に出てのれんをしまい、店内に戻るとカウンターの中に入って行った。
カウンターの中で、もえは大きな中華鍋を思い切り振り上げた。
そんなもえの後ろ姿を、流花はカウンター席から眺めていた。
「お待たせ〜」
もえが炒飯と餃子とグラスを運び、冷蔵ケースから瓶ビールを出した。
カウンター席に座っている流花の隣にもえは座り、ふたつのグラスにビールを注いだ。
グラスを持ち上げ「乾杯」をして
流花ともえは、ビールを飲んだ。
一気にグラスを空ける流花を見たもえは、声を上げた。
「まぁ〜いい飲みっぷり!遠慮しないで、どんどん飲んで」
言いながらもえは、空になったグラスにビールを注いだ。
流花はビールを半分ほど飲み、目の前の山盛りになった炒飯を見つめた。
「……もえさん。炒飯の量多くない?」
「サービス、サービス」
流花は両手を合わせると「いただきます!」と言って、レンゲで炒飯をすくった。
「もえさん!パラパラの米。硬すぎず軟らかすぎない卵。もぉ、完璧すぎです」
「そんなに、絶賛してくれるのは、流花ちゃんだけよ」
流花は餃子を食べ、ビールを飲んだ。
「この餃子、ビールに合う!」
「ちょっとぉ〜流花ちゃん社会人になって、おやじになったんじゃないの?」
「おやじ?私が?」
「アタシはそんな流花ちゃんが好きだけど、彼氏の前でもそんな風なの?」
「そうですけど」
平然として言って、炒飯を食べ続ける流花を、もえはビールを飲みながら見つめていた。
食事が終わった流花に、もえは聞いてきた。
「設計事務所で、仕事をしているのよね」
「はい。実績を積んで、一級建築士の資格を取るのが今の目標です」
「まぁ、そうなの。流花ちゃん、彼氏の結婚とか考えていないの?」
「結婚?……自分のことで精一杯です」
「それが原因で、彼氏が流花ちゃんの前から居なくなったらって、考えたことがないの?」
「そしたら、もう諦めるしかありません。私は、彼を縛りたくないし。自分も、縛られたくありません」
「流花ちゃんって、意外とドライなのね」
「もえさん、心配してくれてありがとう。彼はそんなことで、私から背を向けるような人ではありません」
「ちょっとぉ〜言ってくれるじゃないの。愛されているって、良いわね。アタシも、素敵な彼に愛されたいわ!」
「私が、いるじゃないですか」
「あら、やだ、ホントだわ」
店内は、流花ともえの笑いに包まれた。




