タイトル未定2026/07/02 02:31
保育士の仕事を終えた若菜は、疲れ切っていた。
週の初めなのに、既に身体が重い。
水田若菜、保育士二年目。
水田菓子メーカー社長の一人娘。
保育士二年目となり、持ち場の仕事が増えてきた。
若菜は疲れ切った身体で、玄関のドアを開けた。
ドアを開けると、台所からいい匂いが漂ってきた。
若菜は、台所に入って行った。
「ただいまぁ~お腹すいたぁ!」
台所では、若菜と同じくらいの背丈で小柄な若菜の母親が、鶏の唐揚げを揚げていた。
テーブル席では、父親がビールを飲みながら、一足早く鶏の唐揚げをつまんでいた。
「パパ、早いじゃない」
「たまにはな」
早いと言っても、既に九時を回っている。
若菜は父親の目の前にあった鶏の唐揚げを、一つ手にしてつまんだ。
「美味しいぃ〜」
それを見ていた母親が、若菜を叱った。
「帰って来たそうそう、なんですか。行儀が悪い。手を洗って、着替えて来なさい」
「はぁい」
若菜は台所を出て、自分の部屋に行った。
台所を出て行く若菜を見ながら、母親は言った。
「いつまでも、子供なんだから。あれで本当に、園児達の世話ができているのかしら」
「園児の前では、常に気を張っているんだよ。家に居る時くらい、好きにさせてあげなさい」
「パパは、甘いんだから」
不満気に言った母親は、揚げ物の続きをした。
浴槽にのんびり浸かった若菜は、トレーナーとジーパン姿に変わり、台所に入って行った。
食卓には、鶏の唐揚げをおかずにした夕飯がテーブル一面に並んだ。
テーブルを挟んだ両親の向かいに、若菜は座った。
「いただきます」
若菜は早速、夕飯を食べ出した。
母親も若菜と一緒に夕飯を食べ、一足早く食べ終えた父親は、お茶を飲んでいた。
お茶を飲んでいた父親が、若菜に聞いてきた。
「若ちゃん、マスターとはどうなった?」
若菜は顔を上げず、夕飯を食べながら平然として言った。
「いつの話を、しているのよ。マスターは、シロちゃんと付き合っているよ」
「シロちゃん?シロちゃんって……白田さんと付き合っているのか!」
「うん。シロちゃんが大学生の時から付き合っているから、長いよ」
若菜と流花は高校生の時に出会い、若菜の家に流花が遊びに来たことがあり、若菜の父親は流花のことを知っている。
「パパがあれだけマスターを推していたのに、マスターを白田さんに取られるなんて!若ちゃんは、何をやっていたんだ」
「マスターが、シロちゃんを選んだんだよ。お互いペアリングを付けちゃって、お似合いだった」
「若ちゃんが、マスターと一緒になると思っていたのにぃ」
いつまでも未練がましく言う父親に、母親はピシャリと言った。
「パパ、いいかげんにして。みっともないわよ」
父親は、黙り込んでしまった。
母親は、若菜に聞いてきた。
「若菜。白田さんって、どんな子?」
母親は話だけで、実際流花には会ったことがない。
若菜は、持っていたお茶碗と箸を置いた。
「モデルみたいに背が高くて、大人っぽいよ。でも明るくて、一緒にいると楽しい。マスターも背が高いから、シロちゃんとお似合いだよ」
母親は若菜の話を、静かに聞いていた。
若菜は父親の方を向いて、思い出したように言った。
「そう言えば、亮さんってまだ海外勤務?」
「あぁ、そうだな。もう、四年になるな」
「もう、戻ってこないの?」
「いや、戻ってくる前提で海外に出した。そろそろ、戻ってくるんじゃないかな。また、向こうとも話をしてみる」
北神亮
男名だが、水田菓子メーカーの女性秘書。
仕事は有能で、控え目な性格の女性。
仕事終わり、水田と亮は偶然bar「ジェシカ」に訪れマスターと出会い、全てはここから始まった。
初めて出会ったマスターに、亮は恋に堕ちた。
夕飯を食べ終え部屋に戻った若菜は、パジャマに着替えた。
明日の準備をするとベッドに上がり、布団の中に潜った。
……亮さん、まだマスターのことを想っているのかな?
マスターに一目惚れをした亮は、マスターに想いが届かないとわかっていながらも、マスターを想い続けていた。
亮だけではなく、若菜もマスターに一目惚れをしていた。
若菜も亮と同じように、想いは届かず、それどころか若菜は辛い失恋を経験した。
若菜は幼い頃からの夢だった保育士になり、今は日々園児達と駆け回っている。
……マスター。
ストーカーに怯えていた若菜を、マスターは助け出し、若菜はマスターにそっとキスをした。
若菜はマスターにキスをしたが、マスターが若菜に振り向くことはなかった。
封印したはずの扉を、若菜は少しだけ開けて眠りに落ちていった。




