タイトル未定2026/07/02 02:23
四月初めの土曜日、繁華街の夜。
朝は少し肌寒いものの、日中は暖かく、夜はまた朝と同じく少し肌寒く感じられた。
繁華街は明るく、賑わいを見せていた。
繁華街にある、チェーン店の居酒屋。
繁華街の中でもひときわ大きく、土曜日の夜と言うこともあり、店内は店員の威勢がいい声と、お酒ですっかり気分が大きくなった客たちの声が溢れていた。
店内のテーブル席に、マスターと白田流花が並んで座り、テーブルを挟んだ向かいに、馬場と友光ちはるが並んで座った。
最初に頼んだビールのジョッキが運ばれ、四人は「乾杯!」の掛け声と共にジョッキを持ち、ビールを飲んだ。
「この四人で、飲みに来る日がくるとはな」
電子タバコを吸いながら、馬場が言った。
「卒業するまで待って、ってシロが言い張るから」
愚痴っぽくちはるが言うと、流花が言った。
「無事に卒業するまでは、落ち着かなくて。すみません」
笑顔で言う流花に、ちはるは言った。
「ちっとも、すみませんって顔をしていないよ!」
マスターと馬場は、声を上げて笑った。
笑いが収まると、ちはるが流花の服装を見て言った。
「黒のジャケット白のブラウスに、黒のパンツ黒のローファー。完全にリクルートファッションね。シロのことだから、ジーパンにスニーカーで仕事に行くと思ったよ」
ちはるの言葉に流花は、呆れて笑ってしまった。
「マスター、お店休んじゃっても良いの?」
昼間は、実家の診療所の仕事。
週末の夜は不定期で、barの仕事をマスターはしていた。
ちはるの問いに、マスターは答えた。
「barを休まないと、皆さんとこうして飲むことができませんから」
電子タバコを、空い終えた馬場が言った。
「相変わらず、マスターはやさしいな」
やがて、オーダーをした刺し身の盛り合わせ、焼き鳥の盛り合わせ、だし巻き卵、アスパラのバター焼き等がテーブルの上に並んだ。
テーブルの上に並んだ後、各自好きなお酒をそれぞれ注文した。
次々に、お酒がテーブルの上に届く。
酎ハイを飲みながら、馬場が流花に聞いてきた。
「シロちゃん、仕事はどうだ?」
「もういっぱい、いっぱい。仕事から帰ってきてからも、一級建築士の資格の勉強をして。そのまま寝ちゃって。朝起きて、慌ててシャワーを浴びて。そんな感じ」
流花の言葉を聞いたマスターは、心配な表情をして言った。
「そんな生活を繰り返していたら、身体に悪いですよ」
「そうでもしないと、資格が取れない」
「そんなに、慌てなくても。資格は、仕事に慣れてからでも、遅くはありません」
「資格を取って、できれば自立がしたい」
「向上心がありすぎるのも、困りものですね」
マスターはため息まじりに言ったが、内心はそんな流花を誇らしげに思っていた。
それまで黙って目の前のマスターと流花の会話を聞いていた馬場とちはるは、そっと顔を見合わせた。
ハイボールを飲みながら、流花がちはるに聞いてきた。
「前から気になっていたんだけど、馬場さんとちはるさんは、付き合っているんですか?」
ハイボールを飲んでいたちはるは、思わず吹き出しそうになり、慌てて言った。
「冗談やめてよ!誰が、こんなゴリラと!」
ちはるの言葉を聞いた馬場は、負けずに言い返した。
「俺の好みは、シロちゃんみたいに可愛くてやさしい子がタイプだ。友光とは、大違いだ!」
流花は、声を上げて笑いながら言った。
「二人とも、お似合いですよ」
流花の言葉に、マスターは吹き出しそうになった。
「シロ!あんた本当に、なんにも考えずに、言いたいことを言うのね」
「えっ、けっこう遠慮をして言っているけど」
流花とちはるのやりとりに、マスターと馬場は笑った。
「マスター、シロちゃんって、いつもこんな感じ?マスターに、言いたいことズバズバ言っている?」
馬場の言葉にマスターは何も言わず、ただ笑っていただけだった。
さすがに流花は少し不安気に、マスターを見つめた。
「そんなこと、ありませんよ」
マスターは、流花にやさしく言った。
「もぉ、マスターはシロに甘々なんだから!」
少し羨ましげに、ちはるが言った。
お酒や料理が進んだ後、馬場は
通りかかった店員に声をかけ、メニューを指さして言った。
「この、イチゴパフェ一つ」
店員がいなくなると、ちはるは顔をしかめて言った。
「あんたって、ホント甘い物好きね」
「馬場さん、甘いものが好きなんですか?」
「おう!大好きだ!……あっ、シロちゃんには内緒にするつもりだったのに」
「大ぴらに注文して、何が内緒にするつもりだったよ」
ちはるが毒づくと、馬場が言った。
「せっかくのダンディズムが、台無しだぜ」
この言葉に、テーブル席は凍りついてしまった。
居酒屋を出ても、繁華街はネオンの光で明るく、人通りが絶えなかった。
居酒屋の前で、マスターと流花は、馬場とちはると別れた。
マスターと流花が歩きだすと、どちらともなく、手をつないで歩いていた。
手をつないで歩くマスターと流花の後ろ姿が、次第に小さくなっていく。
ふと流花が立ち止まり、マスターも一緒に立ち止まった。
流花は手を伸ばして、何かを指さした。
流花が指をさしている方をマスターも流花と一緒に見上げ、マスターは流花の肩を抱いて一緒に笑いあった。
笑いを収めると、マスターは流花の肩を抱いたまま歩きだした。
寄り添って歩くマスターと流花の後ろ姿は、繁華街の明かりの中で見えなくなっていった。
居酒屋の店の前で、馬場とちはるは見えなくなるまで、マスターと流花を見守っていた。
「マスターとシロちゃん、仲良くやっているじゃん」
「恋人って言うより、仲の良い親子って感じ」
ちはるの言葉に、馬場は笑った。
「これから、どうする?どっか行く?」
「う〜ん……今夜は、このまま帰る」
「そうか」
馬場とちはるは肩を並べて、繁華街を歩いた。




