タイトル未定2026/07/02 02:45
大門がbar「ジェシカ」に訪れていた同日。
流花は田中と野田と駅で待ち合わせをして、電車に乗って出かけた。
いくつかの駅を通り過ぎ、駅を降りると、駅から出ている路線バスに乗った。
一番後ろの座席に、流花を真ん中にして座った。
流花は、薄色の水色のティーシャツの上に薄色の白いフード付きのパーカーを着て、ジーパンとスニーカーと言うお馴染みのスタイルだった。
田中は、黒の半袖ティーシャツにジーパンとスニーカーを履いていた。
野田は、濃い青色のティーシャツに、大きなポケットが付いてゆったりとした、カーキ色のカーゴパンツを履いていた。
スニーカーは、厚底のスニーカーを履いていた。
三人とも社会人なのに、はたから見たら、三人とも学生に見える。
路線バスは、住宅街を抜けた。
目の前には、一面の湖が広がっていた。
「凄い!」
流花は、声を上げた。
湖は太陽の光に照らされて、まぶしかった。
バスはスピードを緩め、バス停で停車をした。
流花たちはバスを降り、野田を先頭に湖の周りを歩いた。
湖を眺めながら、田中が言った。
「よく、こんな場所を知っていたな」
「ネットで、見つけたんだ」
風もなく、湖は波一つ立たなかった。
まるで、鏡のようだった。
湖の周りを歩いていると、屋根付きの東屋があった。
田中と野田が隣同士に座り、流花はテーブルを挟んだ田中と野田の向かいに座った。
野田は肩に下げていた白いバックからノートパソコンを出して立ち上げると、流花と田中に見えるように、ノートパソコンの位置を変えた。
モニターには流花と田中が描いた設計図が、映像化されていた。
野田がマウスを動かすたび、モニターの中の設計図が動く。
流花と田中は、モニターに釘付けになっていた。
野田がノートパソコンの電源を落とすと、流花が言った。
「私と田中君が描いた設計図が、映像化されて動くなんて夢みたい。野田さん、ありがとう」
「俺の方こそ、良い経験をさせてもらったよ。ありがとう。ねぇ、お腹空かない?」
「そうね」
「あの道の方に、店があったよ。確か、テイクアウトもできるよ。俺、適当に買ってくるよ」
野田が立ち上がると同時に、田中も立ち上がった。
「田中君、俺が買ってくるから」
「あんたばかりに、いい格好なんてさせないよ」
爽やかな笑顔の野田を、田中は睨んでいた。
そんな不穏な空気を、流花がかき消した。
「私が行く!二人は、ここで待ってて」
立ち上がった流花は、田中と野田が何かを言う前に、どんどん歩きだした。
田中も野田も、力なく座った。
野田は突然、笑い出した。
「白田さん、最高!最高すぎる」
「おい、ゲームをしないか?」
「ゲーム?」
「十分間だけ、お互い流花ちゃんと二人きりになるゲーム」
「十分間だけの、フリータイム」
「あぁ、十分間だけはお互い邪魔をしないルール」
「ちょっと、面白そう。田中君が、そんなゲームを思いつくなんて意外だな」
「じゃあ、やるで良いんだな?」
「うん。そのゲーム乗った!で、どっちが先に白田さんと二人きりになる?俺は、どっちでも良いよ」
「じゃあ、俺が先になるよ」
「わかった。昼ご飯食べたら、俺は適当な事を言って、ここを離れるよ」
流花の知らないところで、ゲームの話し合いをしていると、両手に食べ物や飲み物を抱えた流花戻って来た。
流花に気がついた野田は、手を振った。
「適当に、買ってきたよ」
流花は言いながら、テーブルの上に並べた。
テーブルの上に、ハンバーガーとドリンクと、ポテトが人数分並んだ。
「お金払うよ、いくらだった?」
野田が言うと、流花は慌てて言った。
「いいよ。野田さんには、設計図をパソコンで見せてもらったし」
「俺は、払うよ」
田中が言うと、流花は野田の時と、態度をガラリと変えた。
「そうね。田中君には、払ってもらおうかな……な〜んて、冗談よ。冷めないうちに、食べよ」
流花は真っ先にハンバーガーに、手を伸ばした。
昼ご飯を食べ終えると、野田が言いながらテーブル席から立ち上がった。
「ちょっと、トイレに行ってくる」
野田がいなくなると、流花が田中に言った。
「田中君、よく今日一緒に出かけたね。田中君のことだから、当日になってやっぱやめるって、言いだすと思った」
流花の言葉に、田中は笑った。
「偏見な目で、俺を見るなよ。流花ちゃんと一日を一緒に過ごせる。そう思ったら、あいつがいようがそんなことはどうでもいい。俺一人だったら、流花ちゃんは来ないだろ」
「うん、行かない」
「ハッキリ言うなよ」
流花と田中は、笑った。
笑い終えると、それまでとは真剣な表情で田中は流花に言った。
「彼氏がいるのに、流花ちゃんよく今日俺たちと出かけたな」
黙ったまま湖を眺めていた流花は、肩の力を抜いて田中を見て言った。
「ズルいよね、野田君って。家の設計図をパソコンに取り入れるって聞いちゃったら、見たくなるじゃない」
「彼氏より、設計図を選んだ……てか。俺と流花ちゃんは、大学時代から今もずっと一緒だ。俺と流花ちゃんは、お互い目指しているものも同じだ」
田中の鋭い目でじっと見つめられた流花は、金縛りにあったように動けなくなり、何も言えなくなっていた。
「彼氏と会う時間なんて、あんまりないんだろ。そんなんでその男、彼氏なんて言えるのか?」
目の前の田中をみつめ、流花はラーメン屋の店主もえの言葉を思い出していた。
(彼氏が流花ちゃんの前から居なくなったらって、考えたことがないの?)
……私は、一級建築士を目指している。そんな私の勝手で、マスターが私から離れていく?そんなことは絶対ない!でも……絶対ないって、言い切れる?。
流花は、自問自答を、繰り返していた。
そんな流花に、田中は言った。
「俺はずっと、流花ちゃんの側にいるけどな。年増男の彼氏なんて、どんどん捨てろよ」
そう田中が言った時、野田の声が聞こえた。
「トイレ、めっちゃ遠かったぁ」
野田がそう言うと、田中は立ち上がりながら言った。
「そうなのか。俺も、トイレに行こうと思っていた」
「ここを真っ直ぐ行くと、トイレがあるよ。めっちゃ、遠いけど」
「わかった」
田中は野田と入れ違いに、トイレに出かけた。
田中がいなくなると、野田はあたりまえのように、流花の隣に座った。
田中の言葉がずっと響いていた流花は、野田が隣に座ったことに気が付かなかった。
「田中君と、何を話していたの?もしかして、口説かれていた?」
流花は驚き顔で、野田をみつめた。
「あれれ〜図星ぃ?」
野田の言い方に、思わず流花は吹き出した。
「あっ、やっと笑ってくれた!」
流花は自分でも気が付かない内に、硬い表情をしていた。
「野田さんって、いつもそうやって、女性を楽しませているの?」
「女性を、楽しませる?まっさかぁ」
野田は笑った後、淡々と切り出した。
「白田さん、きょうだいは?」
「一人っ子だけど?」
「一人っ子なんだ。それも少し、淋しいね。俺は、男三人兄弟」
「男、三人。賑やかでしょ」
「そうでもないよ。兄は凄く勉強ができて、いつも比べられていたよ。弟は、甘え上手で誰からも好かれて昔から人気者だった」
「野田さんだって、人気者でしょ」
「俺、昔から兄と比べられていたから、対人恐怖症だった。他人と話すのが苦手で、いつも部屋にこもってパソコンの前にいた」
野田の言葉を、信じられない流花だった。
「でも、彼女の一人や二人はいたでしょ?」
野田のアイドル並みのルックスなら、彼女がいてもおかしくない。
流花の言葉に、野田は笑いながら言った。
「対人恐怖症で、ずっと部屋に引きこもっていたんだよ。男子高だったし、そんな男に彼女なんてできるわけない」
「でも私と出かけたり、こうして話をしているじゃない」
「大学に入ったら、変わろうと思っていた。そんな時、白田さんを見かけた。いつも前を向いていて、明るく笑う白田さんに俺は夢中になった。なんとか話しかけたいと思っていた。でも勇気がなくて、四年になった時やっと白田さんに話しかけた。自分から生まれて初めて、女性に話しかけたんだよ」
サラサラヘアーに、濡れたような大きな瞳。
グロスを塗ったような、艷やかな自然に口角があがった唇。
明るい笑顔と、やさしい眼差し。
全てが、アイドル級だった。
それが、対人恐怖症?部屋に引きこもっていて、彼女いない暦が年の数?
疑うなと言うのが、無理な話だ。
しかし、野田の表情は真剣そのもので、嘘をついているようには見えない。
「白田さんが、俺を変えてくれたんだよ。ありがとね」
野田は不意に流花を抱き寄せ、そっと流花にキスをした。
突然のキスに、流花は目を見開いたまま動けなくなっなっていた。
ゆっくり唇を離した野田は、流花を抱きしめ流花の耳元で、小さな声で言った。
「俺初めて女性に、キスしちゃった。初めてのキスの相手が、白田さんで嬉しいよ」
流花から離れた野田は、恥ずかしそうに流花から視線をそらしていた。
そんな二人を離れた場所で、田中が見つめていた。




