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タイトル未定2026/07/02 02:43

 新緑が眩しい、五月の連休。

 日中は動くと、汗ばむ気候だった。

 今日はbar「ジェシカ」で、大門が「ジェシカ」の料理人たきこと会う日だった。

 大門は、朝から落ち着かない。

 マスターと朝食を食べた後、大門はテーブルを拭きながら、台所で食器の洗い物をしているマスターに聞いてきた。

「七海、何時頃行く?」

「そうですね。洗濯がまだだから、洗濯物を干してから行きましょう」

「洗濯機、僕がまわすよ!」

 大門はテーブルを拭いていた布巾を台所に持っていくと、洗濯機が置いてある浴槽に小走りに行った。


 洗濯物を干した後、マスターと大門はマンションを出て、バス停に向かった。

 バス停に着いた時にはちょうどバスが来て、すぐバスに乗ることが出来た。

 バスには数名の客しか乗っていなく、駅までのんびり過ごすことが出来た。

 バスを降りた後電車に乗り、繁華街に向かった。

 繁華街は夜の雰囲気と違い、車が通る騒音の他は、どことなく静かだった。

 静かな街並みの中をマスターと大門は、人々にまぎれて歩いた。

 bar「ジェシカ」に着くと、大門は店の建物を見回した。

「七海はここで、仕事をしているんだ」

 繁華街の片隅に、ひっそりと建っているbar「ジェシカ」を大門は、しばらく見つめていた。

 マスターは鍵をまわし、ドアを開けた。

 大門は、ゆっくりと店の中に入っていった。

 カウンター席に、テーブル席が四つあった。

 入り口付近にはトイレがあり、決して広くはないが、落ち着いた店内を大門は見回していた。

「barの店って、僕初めて!」

 マスターを見上げて言う大門の肩に、マスターはそっと手を置いた。

 ……大門。この店に来るのは、今日で二回目ですよ……。

 大門がまだ園児の頃、マスターは大門をbar「ジェシカ」に連れて行った事があった。

 その時、大門の側には大門の母親瞳がいた。

 店のドアが開き、ドアの上についている鐘が小さく鳴った。

 マスターと大門は、ドアの方を振り返った。

 大きな買い物袋を抱えた、料理人のたきこがやって来た。

 たきこは、すまなそうに言った。

「遅れてしまって、申し訳ありません」

「遅くなんてありませんよ。たきさん、一緒に暮らしている大門です」

 マスターの言葉に大門は、(えっ?)と、とまどいながらたきこに軽く頭を下げた。

「初めまして、厨房で仕事をしているたきこです。大門君、よろしくね」

「初めまして、宜しくお願いします」

 頭を下げる大門に、たきこはやさしく言った。

「私のことは、たきさんって気軽に呼んでね」


 自己紹介の後、マスターはお酒の在庫整理を始め、大門とたきこは厨房に入って行った。

「たきさん、レシピありがとう」

「あんなレシピで、良かったかしら?」

「凄く見やすくて、わかりやすかった!あのレシピ見ながら、カレーを作ったんだ」

「カレーを、作ったんだ。嬉しいな。今日のお昼は、二人で作ろうね。材料をいろいろ仕込んできたけど、何を作ろうか」

 言いながらたきこは買い物袋の中から、野菜や肉を出した。

 野菜や肉を出した後、冷蔵庫の扉を開けた。

 大門はたきこの側に行き、声を上げた。

「わぁ、大きな冷蔵庫」

 冷蔵庫の中に野菜や肉が入っていて、たきこは野菜と肉を出すと、買い物袋から出した野菜と肉を冷蔵庫の中に入れた。

 たきこは、思い出したように言った。

「そうそう、デザートも作ろうか」

「デザート!たきさん、デザートも作れるの?」

「本格的なデザートは無理だけど、簡単なものならね」

 明るく言うたきこを、大門は憧れの眼差しで見つめていた。


 その頃店内では、在庫整理を終えたマスターが店内の掃除を始めた。

 この際だからと、普段行き届かない場所まで掃除をした。

 掃除を始めると、隠れた汚れが目につき、マスターは一人で黙々と時間をかけて掃除をした。

 時間をかけて店内の掃除をしたマスターはカウンターの中に入り、ノートパソコンを出すと、売り上げの計算を始めた。


 昼ご飯はとんかつ、豚汁、ポテトサラダに決まった。

 ポテトサラダなら、大門は何度か作った事があった。

 先にポテトサラダを、大門とたきこは分担をして作った。

 出来上がったポテトサラダを冷蔵庫にしまい、とんかつの付け合わせの千切りキャベツや豚汁の野菜を包丁で切った。

 包丁で切る時、切り方をたきこは大門に丁寧にわかりやすくやさしく教えた。

 とんかつの下ごしらえを終えると大門は、たきこに教わりながらデザートのムースを作り始めた。


 下ごしらえが一段落つくと、たきこと大門は椅子に座り、冷たいお茶を飲んだ。

「大門君、料理が好きなの?」

「作るのも、食べるのも、どっちも好き!」

「あらぁ、私と同じね」

 大門とたきこは、声を上げて笑った。

 お茶を飲んだたきこは、大門に聞いた。

「大門君、五年生だったよね」

「うん」

「将来の夢とか、あるの?」

 大門は、少し恥ずかしそうにうつむいた。

 そんな大門を見て、たきこはイタズラっぽい笑みをして言った。

「将来の夢、あるんだ。教えてよ」

「誰にも、言わない?」

「うん、言わない」

「あのね……」

 恥ずかしそうに、大門は将来の夢を語りだした。

 大門の将来の夢を聞いたたきこは、軽く息をついた。

「大門君五年生なのに、そこまで考えているんだ」

「おかしい?」

「そんなことない。凄いよ大門君。私にできることがあったら、何でも言ってね。協力するわ」

「たきさん、ありがとう。ねぇ、たきさん」

「ん?」

「このことは、誰にも言わないで。内緒だよ」

「わかった。二人の秘密ね」

  ……あれっ、今の会話……そうだ、夜中に七海が泣いている事を流花お姉ちゃんに話したら、(二人の秘密にしよう)って言ったんだ……。

 ゆっくりお茶を飲むたきこを、大門はみつめた。

 ……たきさんって、なんだか流花お姉ちゃんみたい!


 その夜大門は、日課のジョギングを休む気持ちでいた。

 マスターは、ジョギングに行く支度をしていた。

「今日は、疲れちゃった。七海、ジョギング休んでもいい?」

「たくさん、料理を作りましたからね。お風呂にゆっくり入ったら、ボクに構わずすぐ寝てください」

「うん。あっ、七海」

 大門の言葉に、マスターは振り返えった。

 何か言いたそうな大門だったが、何も言わず、マスターをみているだけだった。

 マスターが声をかける前に、大門は慌てて言った。

「なんでもない。七海、行ってらっしゃい」

「……行ってきます」

 マスターはジョギングに出かけ、大門は浴室に向かった。

 髪の毛と身体を洗い、湯船に浸かった。

 湯船に浸かりながら、たきこに紹介をされた時の、マスターの言葉を思い出していた。

「たきさん、一緒に暮らしている大門です」

 ……一緒に暮らしている。確かにそうなんだけど……。

 大門は、天井をゆっくり仰いだ。

 ……なんで七海は僕のことを、「息子」って、紹介しなかったんだろう。

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