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2 心が死んでいく

 父のロランド侯爵は炎の加護を持ち、次期当主の兄クロードも同じく炎の加護を引き継いだ。亡き母も風の加護持ちだったと聞く。


加護持ちだからこそ貴族に召し上げられたのに、家族は皆加護持ちなのに、ヴィオレットに加護がないことは奇妙な空白として映るのだろう。


 そしてその欠陥を埋めるために光の加護を持つ義妹が家に迎えられた。

義妹は私の代わりをしてやっているのだと、己の立場を確保するのに大変なのだろうと思った。


ただやり方は間違っていると思うが。

しかし義妹を指導するのはヴィオレットの役割ではないし、そもそもこの家の人間は誰もヴィオレットの言葉は聞いていないから、ヴィオレットはそれを放置している。


言葉が届かないなら話し合いなど出来ないし、理解などしあえようもない。


 元は平民らしい義母と、早くに亡くなった男爵の一人娘で、行く当てがなくなって困窮した過去もあるそうだ。

その時に王命によって、領地が近かった父が領地の合併と共に引き受けた。幼い義妹には父が救世主のように見えていてもおかしくない。


 実娘を差し置いて、貴族の家族の関わりにしてはかなり親密に父親にくっ付いていても、マナーはさておき、そうしたい気持ちになることに矛盾はなかった。


 そんな風に思いながら、ヴィオレットはいつもその光景を影のように眺めているだけだった。ヴィオレットは一度も父に抱き締められたことはなかった。


 ヴィオレットの黒でも白でもない灰色の髪が窓から吹き込んだ風でふわりと揺れた。


 この髪色に絡めて、光の加護のイザベラの影、加護がないという貴族としてグレーな存在、そんな陰口の意味を込めてイザベラの友人たちには「灰色の令嬢」などと呼ばれているようだが、だからどうしたとしか思っていない。

ヴィオレットは耳に髪をかけなおした。


 父はヴィオレットを表立って責めることはしないが、視線の端で何かを諦めた色を見せることがある。


兄は多忙を理由に屋敷に戻ることが少なく、ヴィオレットのことをそもそも考える暇がないように見えた。


継母は、嫌がらせをしてくることもないが、義理の娘との距離をはかりかねているのか、ほとんど言葉を交わさない。


 無関心は、時に悪意より深く静かに人を傷つける。

今のヴィオレットはどうとも思わないが、発熱したまま数日ベッドに寝かされっぱなしでだった三歳、自分だけ誕生日会のない五歳のバースデー。


サイズの合わないワンピースの自分と可愛らしいドレスを着た義妹を比較して、他の貴族からあからさまに馬鹿にされた六歳のパーティー会場で、両親や兄は各々の友人たちと楽しそうに話すばかりだった。


 そんな毎日が剣となり槍となり、少しずつヴィオレットの感情を殺していった。


 ヴィオレットはいつの頃か忘れたが、涙が枯れ果てた日に心を決めていた。

もう誰にも期待しない。自分は幽霊のように在ってもいないものとして生きていく。

傷つかない、心を揺らさない。いつか風のようにこの家を出ていく。


 彼女が加護を持っていないと、家族は思っている。使用人たちも、義妹も。社交界の顔見知りたちも、誰もかれも恐らく。

 けれどそれは正確ではない。


 今のヴィオレットには加護がある。ただそれを誰にも言わなかっただけだ。

だって誰もヴィオレットの言葉は聞こえないようだから。

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