20 馬車の行き先
グレゴールから場所を聞き、翌日の午後に現地へ向かうことになった。ヴィオレットには午前中に先約があったため、それを終えてから出発する。グレゴールは場所まで案内すると約束し、その日は帰っていった。
翌日、ヴィオレットは午前中の依頼を予定通り終えた。
亡くなった父親へ結婚を報告したいという女性からの依頼だった。父親の幽霊は娘のそばに残っており、結婚を喜んでいることを伝えると、女性は泣きながら何度も礼を言った。
ヴィオレットの手を硬く握り、その上に透明な涙が滴った。
依頼人を見送った後、ヴィオレットは出かける準備をした。
「そろそろ行くか?」
エドガーに尋ねられ、ヴィオレットは頷く。
「はい」
約束した時間になると、グレゴールも現れた。
三人は王都の外れへ向かった。
目的は、二十年前にアッシュフォード家の実働要員として働いていた幽霊たちと話すこと。そして、生還したはずのハロルドが、なぜ死者となって彼らのもとへ戻ってきたのかを確かめることだった。
◇◇◇
辻馬車に乗って移動する。
ヴィオレットは少し大きめの馬車にしようと思ったのだが、エドガーとグレゴールが、「俺たちは良い良い!」と断るので、二人ほど乗れば満員になる程度の小さな馬車にした。
エドガーとグレゴールは屋根の上だったり、御者の隣だったりに座って、というのもおかしいが、そのような姿勢で移動した。
辻馬車は行き先を何度も聞いてきた。
人気がない、今はほぼ無人の村だからだろう。
この村で過去に有毒なガスが発生したため、住民を避難させた。今は無毒化されているが、廃村同然ということになっている。
アッシュフォード侯爵家とその部下が、仕事をしやすくするための隠れ蓑だ。
「私はその村を管理している、アッシュフォード侯爵家の者です。
事情があって村を見に行かねばなりません」
そう言うと、御者は納得した。
「女の子一人で、大変だねえ……。事情があるんでしょうけども」
うんうんと頷く御者は、ヴィオレットを席に乗せてドアを閉めると、表で業務の開始の手続きを行なって馬車を出した。
加護の恩恵でこの国の技術は歪に進化している。
途中式が空白のまま、式と答えがイコールで結ばれた数式のように、何故そうなるのか分からない高度な技術がある。
それを魔法と呼ぶ。
原理が分からなくても大抵の人は「そういうもの」と捉えて技術を活用している。
何らかの加護を、魔法を活かして作られた無線の連絡機で、辻馬車会社に口頭と文字で数言伝えると、馬車はカタカタと動き出した。
「侯爵家のお嬢様ならご存知でしょうが、西の隣国などは魔法と科学?何やら学問を合わせた技術が発達しているらしくて、馬車もお役御免なんだそうですね。
もっと早い鉄の車があるとか。
私ゃ、この生き物が運んでくれるのが好きなんですが、世話も含めて楽しいと言いますか…。
この国の人たちは有難いことにそういった趣をまだ味わってくれているように思うんですけど、時代の流れが来たら、私たちもお役御免になるのでしょうなあ」
御者は行き先を告げる時にヴィオレットと会話したためか、それとも貴族を乗せることがないため慣れていないのか、普通なら声を掛けるだけで注意を受けるような身分のヴィオレットに、ずっと御者席から世間話をしていた。
ヴィオレットはこういったことに慣れていない。
最近は商売のために多少会話をするようになったが、それにしても依頼者は幽霊という自分ではどうにもならない存在に疲弊していることが多く、こういった穏やかな会話を長く続けることはあまりなかった。
ヴィオレットは、ええ、そうですね、そうですか、と相槌を打ち続けている。機械人形のようだなと思ったりした。
窓の外は木ばかりだ。あえて迷いやすいようにしている地域なのだ。
小さな窓で、四角に切り取られた視界では、自分がどこにいるのか全く分からない。
「ヴィオレット!馬車を止めさせろ!全然違う場所に行ってる!」
グレゴールが叫んだ。
「御者が迷ってんのか?まあこの辺来る人間なんていないもんな」
エドガーのヤレヤレといった雰囲気の言葉に、グレゴールは吠えるような大声で言った。
「違う!別の拠点に向かってる!こいつはお嬢ちゃんを狙ってるってことだ!」




