第八話 初めてのダンジョン攻略
お待たせしました!
今回も少し長めになっています。
俺は今人生で最もエキサイトしていた。なぜなら、今からラノベの定番の一つであるダンジョンの攻略をすることが確定しているからだ。
もちろん、ダンジョンの中に入ることには不安もある。例えば、初めての実習でイレギュラーなモンスターが出てきてしまい、パーティの中で最もヒエラルキーが低いやつが肉壁にされてしまうとか、パーティの失敗をすべて背負わされてしまうとか、そういったことだ。
もっとも、それは俺の身に起こることではなく、能力が『肉壁』で頭の構造がハトのあいつに起こる可能性があることなのだが。まあ、そんなことはどうでもいい。今は久我先生の説明に集中しよう。
「よし、全員揃ったな。さすがにダンジョン攻略の初日から遅刻してくるやつはいなかったみたいだな。若干一名入学初日に遅刻してきたやつはいたが」
すでに俺の体力はモンスターによって削られ始めていた。ダンジョンって精神的な傷をえぐってくるような攻撃も持っているんだな。
「では、今日のダンジョン攻略について説明を始める。心して聞くように」
その瞬間クラスの雰囲気が一変した、気がした。俺以外のやつにはメリハリがあったようで、浮ついた奴なんて俺を除けば一人もいなかった。
「まず、以前説明したように、この学園の卒業に必要な単位はダンジョン攻略の授業のものだけだ。それ以外にも卒業できる特殊な条件はあるが、まず達成できるものはいないから、実質的にはダンジョン攻略の授業がすべてだと考えてくれて構わない」
せっかく違う世界に来たことだし、前の世界にはなかったような体験を楽しみながら、ゆっくり卒業できれば良いと思っていたが、それ以外の条件のほうが楽に卒業できるということであるのならば、そちらを選ぶこともやぶさかではない。だが、それ以外の条件ってどういうものなんだろうか。
そういえば、西宮がダンジョンに入ったあとに全部教えると言っていたから、そのときに覚えていたら、聞いてみるか。
「では、今日の授業課題について説明する。授業課題というのは名前から分かるように、授業ごとに課される達成すべき目標のようなものだ。ちなみに、達成できなかった者には達成できるまでじっくりと補習を受けてもらうことになる、真面目に取り組むように」
最悪だ。授業というからには課題が出ることくらいは想定していた。しかし、それがまさか達成できるまで終わらないものだとは思わなかった。この事実が意味するのは、達成できるまで終わらない地獄が存在するということだ。
「終わった……」
「どうやら、補習を受けたくない者がいるようなのでお前たちが喜ぶようなことを特別に教えてやろう」
久我先生、いくらなんでも耳が良すぎやしませんか。
「お前たちに課される課題というものは、はっきり言って、一度で達成できるものではない。ほとんどのパーティは複数回補習を受けて達成をする。もっとも、ごくまれにだがすべての課題を一度で達成する者もいる。だが、そういう者は今でも第一線で活躍しているダンジョン攻略者のような者のみだ。どうだ、希望は持てそうか?」
なるほど、俺たちの中に第一線で活躍できるレベルの能力や作戦力、統率力を持っている奴がいれば一切補習なしで卒業できるかもしれないってことだな。……つまり、みんなで補習なら怖くないよねっていう話か。どうやら、久我先生は俺たちに絶望を与えたかったらしい。
「というわけで今日の課題について説明する。今日の課題はダンジョン一層にいるゴブリンをパーティの人数分討伐することだ。今回の課題の目的はお前たちの能力の向上と、精神的なハードルを越えてもらうことだ。もちろん、教師がお前たちの周りについているから、死ぬことはほとんどない。だが、気は抜くなよ。私からはそれだけだ、質問等が特になければ開始する」
いや、待てよ。今日の課題滅茶苦茶簡単じゃないか。あのファンタジーおなじみの雑魚敵、ゴブリンさんの討伐じゃないか。どうやら、皆もあまりに簡単すぎる内容に驚きを隠せないようだ。
「質問はないようだな。では、作戦を立てて気を付けて課題に取り組むように」
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「よし、さっそくゴブリンを討伐しに行くか」
俺が意気揚々と言い放つと、西宮は困惑した表情を浮かべた。
「アオキ、あなたは何を言ってるのよ。作戦を立てないでダンジョンに入ったりなんかしたら、痛いだけじゃすまないわよ」
「西宮は心配性だな、ゴブリンだぞ、ゴブリン」
「ゴブリンだから、よ。あなただって知っているでしょ、ゴブリンが高い知能を持っていることくらい」
たとえ、ゴブリンが高い知能を持っていようと、武器はこん棒、防具は腰蓑とかそんな感じだろう。文明もなければ、力もない、そんなやつらに負ける想像なんてできやしない。
「でも、ゴブリンだぞ、雑魚ブリン」
「はあ、とにかく作戦は立てるからね」
俺の所属するパーティの西宮はもちろん、他のパーティの面々も皆作戦を立てているようだ。さすがに心配し過ぎだと思うが、初めてのダンジョン攻略だから慎重になっているのだろうか。
オオヤマダは西宮の顔を覗き込み、確認するように言った。
「それで、西宮、今回はどんな流れで行くつもりなんだ?」
「そうね、まずはあなたがゴブリンの攻撃を受けて、ゴブリンの動きを『肉壁』で制限してちょうだい。そのあとに、一度あなたが離脱して、そこに私が『雷魔法』で攻撃をする。基本はその流れでお願いしたいわ」
今回の作戦は盾で止め、フレンドリーファイアを避けつつ高火力で押し切る、というオーソドックスなものみたいだな。このくらいは、俺も中二病を経験した高校生だ、理解できる。
「了解した。動きを制限すればいいんだな」
「そのときにヤマモトさんの手が空いていたらヤマモトさんにも攻撃をお願いしたいわ」
「分かったよ、できるだけ『光魔法』で援護するね」
なるほど、この世界においての光魔法は攻撃もできるんだな。よく光魔法は回復しかできないとか、攻撃しかできないなんて設定もあるから、これは結構重要な情報だな。まあ、こうなってくると闇魔法は回復できるのか、という疑問も出てくるな。たぶん、攻撃はできるだろ。
「アオキは、能力を使えそうなところがあれば使ってどんな能力なのか検証してちょうだい。それ以外のときは近接系の武器を持って、後方を警戒しておいて」
俺に戦闘経験はないから、ただの中二病経験者による評価となってしまうが、西宮の作戦は短い時間の中でもよく考えられたものだと思う。……でも、やっぱり、わざわざ作戦を立てる必要あるか?
「分かった、理解はできたんだが、どうやって能力を使うんだ?」
「それについては、ゴブリンが出てくるところまで長いから、道中で説明するわ」
「分かった、それで頼む」
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俺のイメージだと、ダンジョンはコケやツタが大量にくっついていて、ガタガタの石造りの建物という感じだった。だが、実際は、というかこの世界のダンジョンは石造りではあるが、コンクリート打ちっぱなしが一番近いようなかなり近代的な様子だった。
「能力の使い方が知りたいのよね?」
そういえば、西宮がダンジョンに入ったあとにこの世界のことを全部教えてくれることになっていたんだったか。
「ああ、できれば能力が何なのかというところから教えてほしい」
俺がそう言うと、西宮はため息をついた。
「なんであなたがそんなことすら知らないのか、まったく理解できないけど説明するわ」
西宮の言葉の節々からいつもとげを感じるんだよな。多分不勉強なやつが嫌いなんだろう。でも申し訳ないがこの世界に来てから、恥をかかされたりいろいろ忙しすぎて、スマホなんか見たことがない。それに、自分で調べようにもどうすればいいのか分からない。となると、手段がないんだよなあ。
「本当に申し訳ないんだが、よろしく頼む」
「もういいわよ、そんなに気にしていないわ。まずは能力について説明するわ。能力っていうのは一言でいうと、『想像によって現象の発生を強制する力』のことよ」
「なるほど、よく分からん」
「そうでしょうね。だから、具体的に説明するわ。」
俺の理解力の低さを察していたからか、具体的に説明をしてくれるようだ。これに関しては、西宮には感謝しかない。
「まず、能力っていうのは鑑定石に表示された名前、私だったら『雷魔法』、あなただったら『式典』ね、この名前に関係する現象を想像して、それを明確に使うと意識することで現実に想像した現象を発生させることができるの。ここまでは理解できたかしら」
なるほど、つまり入学式のときに校長がオオヤマダを凍らせられたのは、校長がオオヤマダを凍らせるイメージをもって、能力を発動させたから、ということか。
「分かりやすいな、理解できたぞ」
「じゃあ、続けるわね。ここからは、発展的なことになるのだけど、能力は想像した現象をそのまま発生させることができるの」
「すまん。さっきの説明と何が違うんだ? 要は、想像したことを現実でも発生させられるっていうことだろ?」
「そうね、ただ、今の説明で重要なのはそのまま現象を発生させられるということよ」
「なるほど?」
正直言って何が違うのかさっぱりわからない。
「理解できていないみたいだから、具体的に説明するわね。例えば、火のついたマッチ棒を水の中に入れたら、どうなるかわかるかしら」
火のついたマッチ棒を水に入れると……? まず、火のついているマッチ棒の先端の周りの温度が低下し、燃焼状態が……ってこんなこと考えるまでもない、当たり前のことだ。幼稚園生でもわかるだろう。
「さすがに分かるぞ。火が消えるんだろ」
「もしそのまま燃え続けるとしたら?」
「……あ」
そういうことか! そのまま発生するというのは、実際には起こりえないような現象でも想像さえしてしまえば、能力によって強制的に引き起こすことができる、そういうことか!
「なるほど! 能力なら想像さえできれば何でもできる、そういうことだな!」
「そうよ、能力は想像した現象が鮮明であればあるほど、現象を強制する力が強くなるの。だから、実際に見たことのあるもの、体験したことのあるもの、よく理解しているものなんかはより強い強制力を持たせて使うことができるわ。これが、異能学園なのに普通の授業がある理由の一つよ」
なんだか、能力を使うのが楽しみになってきたぞ。
「さらに言うと、能力名と直接的には関係なくても、能力名に関係させて鮮明に想像できることなら現象を発生させることができるわ」
「そういうことか、分かってきたぞ。つまり、シズカちゃんの『光魔法』だったら、直接的には関係ないけど、光を集める想像をすることで火を起こせるってことだな!」
ちょっと待てよ、俺の能力は『式典』だ。ということは、俺はマナー講師にでもならないといけないのか? 俺は食事のマナーくらいなら自信があるが、式典のマナーなんて入学式や卒業式レベルのことしかわからないぞ。これは、本格的にまずいかもしれないな。何も思いつかない。
「そういうことになるわね。能力についての説明はこれでおしまいよ。何かほかに聞きたいことはあるかしら?」
「いや、特に……あった。能力を複数持っているやつっているのか?」
「っ…………そうね、ごくまれにだけどいるわよ。もっとも、そういう人たちは先生が言っていたみたいに第一線で活躍しているダンジョン攻略者くらいのものよ。まあ、複数持っていなくても第一線で活躍している人たちも多いから、そんなに関係はないのだけどね」
「そうか、やっぱりいるのか……」
正直に言って、滅茶苦茶残念だった。やっぱり、能力の多重起動みたいなのってかっこいいし、憧れちゃうよなあ……。俺も『式典』とかいう使いづらい能力じゃなくて、『聖剣』とか『魔剣』とかのほうがよかったな。あ、でも聖剣も魔剣も知らないから、逆に使えないか。まあ、現状を受け入れていくのが一番だな、切り替えていこう。
「大丈夫……?ほかには聞きたいことはないのかしら?」
「ああ、じゃあ最後に、能力を使ってくるモンスターっているのか?」
能力を使ってくるモンスターがいるかいないかで全く違ってくるからな。これは重要な質問だ。
「いるわよ、ただ、そういうモンスターはダンジョンの深層と呼ばれる部分にしかいないわ。中層まではモンスターの肉体のスペックや知能がダンジョンに深く潜るほど上がっていくだけよ。だから、ひとまずゴブリンについては能力を使われる心配はないわ」
「なるほどな、いろいろと質問に答えてくれてありがとう。これからも、知識が足りなくて頼ることもあると思うが、そのときは頼む」
正直、質問をするたびに嫌味を言われたり、蔑まれたりすると思っていたからこんなにも丁寧に、面倒くさがらずに答えてくれるとは意外だった。
「ええ、さっきのあなたの様子を見ていて分かったわ。あなたに悪意はなくて、ただ本当に何も知らないってことがね。改めて、パーティメンバーとしてよろしくね」
「ああ、よろしくな」
何も知らないっていうのは少し引っかかるが。
あ、卒業の特殊な条件について聞き忘れた。でもこのいい感じに誤解が解けて絆が深まったみたいな流れで改めて質問するのは気が引けるなあ。まあ、後で思い出したら聞けばいいか。
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「おお、急に道が広くなったな」
「俺も実際に見るのは初めてだ」
「ええ、私もよ」
「ここから先は、ゴブリンが出てくるかもしれないんだよね」
「そうよ、ここから先は会話は控えて警戒しながら進むわよ。何かあったら知らせてちょうだい」
どうやら、ゴブリンの出現を警戒して、会話を控えて進むらしく、皆西宮の言葉に無言でうなづいた。
というわけで、俺は暇になってしまったので、ゴブリンが現れるまではいろいろと自分の能力の使い方とか、この腰にさしてあるショートソード的な武器の使い方について考えてみようと思う。
最後までお読みいただきありがとうございます!




