第六話 オオヤマダ、大丈夫か?
今回は少し長めです。
俺は今オオヤマダ君に懇願していた。
「俺をパーティに加えてください!」
そもそも俺がなぜオオヤマダ君にこんなお願いをしているのか説明しよう。
俺は地獄の自己紹介の次の日、学校に登校し、ホームルームで久我先生から説明を受けていた。その説明は、これからの俺たちの授業、特にダンジョン攻略の授業にかかわるものだった。
そもそもダンジョン攻略の授業が何なのかというと、どうやら、ダンジョンの中に入ることで俺たちの身体に宿っている異能や魔法といった能力を成長させたり、ダンジョン攻略のノウハウを教えたりすることを通して、ダンジョンの深層へ進める人材を育成することを目的とするものらしい。
そして、久我先生によると、『伊藤異能学園はダンジョン攻略のために創設された学校のため、ダンジョン攻略の授業のみが卒業に必要な単位である』ということであった。もちろん、そのほかの授業も真面目に受けないと、補習授業に時間をとられてダンジョン攻略の授業の予習や自主トレーニングに影響が出てしまうため、ちゃんと取り組めということだった。
だが、俺が本当に言いたいことはそういうことではない。久我先生によると、俺たちのクラスは三年間、特別な理由がない限り、クラス替えがないということだった。
つまり、である。最初の一年でどのような関係を築けるか、言い換えると、誰とパーティを組んでダンジョン攻略の授業を受けるのかということが、高校生活を楽しいものにできるかということにかかわってくるのだ。
ここからが、俺が今オオヤマダ君に懇願している理由についての話となる。
俺は昨日、オオヤマダ君に救われたのだ。だから、というわけではないが俺はオオヤマダ君とダンジョン攻略の授業を受けたいと思っている。
それに、俺は今まで気づかないふりをしてきたが、どうやら俺の自己紹介の印象はオオヤマダ君を筆頭に我がクラスの変人たちのおかげで、薄まりはしたものの、依然として『やばいやつ』として記憶に残ってしまっているらしく、いくらかのグループや個人に声をかけてみたが、なぜかみんなパーティを組む予定があるといって断られてしまった。
これって、自業自得なんですかね。
まあ、オオヤマダ君も似たような状況だと俺は思っているし、同類同士仲良くしていきたいという気持ちがある。何にしても俺は俺と同じような境遇にあるオオヤマダ君とパーティを組みたい、そう思っている。
「……断る」
それは青天の霹靂だった。
「どうして……いや、そうか、分かった。君がそういうのなら、頼みかたを変えさせてもらおう」
「何のつもりだ」
「君がそのつもりならやり方を変えさせてもらう、ただそれだけだ」
俺はその瞬間姿勢を低くし、滑り込むようにして、彼の脚元に潜り込んだ。
「な、何をしているんだ。そんなことをしても、俺は考えを変えるつもりはな――」
「お願いします! お願いします! お願いします……」
俺は必死に地面に頭をこすりつけて、腹の底から叫び続けた。
――いわゆる土下座である。
結局のところ、日本人であるならば異世界だろうが、そうでなかろうが土下座をされてしまえば敵わないのだ。もちろん、代償はあるのだが。
「おい、あいつ入学早々土下座してるぞ。やばくね?」
「その隣は――入学式でファイトとかなんとか言ってたやつじゃないか。やっぱり、あいつには関わらないほうがいいってことか……」
ほかの生徒たちからの冷たい視線も気にせず地面に頭をこすり続けると、ついにオオヤマダ君は口を開いた。
「お、おい……」
どうやら、オオヤマダ君は土下座をされたことがなかったらしい。どう対応すれば良いのか分からず、落ち着きがないように見える。ふふふ、俺の策にうまくはまってくれたようだ。
「分かった、分かったから、場所を変えよう」
「それは、パーティへの加入を承認してくれるという認識で間違いないでしょうか」
「はあ!? それは違うだろ!」
パーティへの加入を認められないというのなら、同じことをするまでだ。単純だが、土下座を継続することが最も効果的なのだ。
「それではやめられません!」
そして俺は今までよりもより大きい声で、
「お願いします! お願いしま――」
「ちょっとあなた、そろそろその土下座している子のお願い、認めてあげてもいいんじゃないの?」
「あ、ああ、そうだな西宮」
「おい、お前、アオキって言ったか。とりあえず、パーティへの加入は認めてやるから、移動するぞ」
「はい!」
誰だか知らないけどナイスサポート!
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「アオキ、お前は俺たちのパーティに入りたいと言っていたが、本気なんだな?」
「はい! もちろんです。なんだったら、今からまた土下座をしましょうか?」
「いや、それはいい! もう二度とあんなことはするな! 心臓に悪い」
そんなに鬼気迫った様子で言われるとは、軽い冗談のつもりだったんだがな。さすがに高校一年生に土下座はやりすぎだったか。まあ、俺もほとんど歳は変わらないけどな。
「まあ、それはそれとして、俺のパーティメンバーを紹介しよう。まずは、西宮のほうがいいか……、西宮、頼む」
おい、どうした、オオヤマダ君。急に疲れたような表情をして、そんなに土下座が堪えたのか。あとで、謝る必要があるかもしれないな。というか、お前、パーティメンバーいたのかよ。
「ええ、私からのほうがいいわね。私は西宮澪、漢字表記の西宮澪よ」
「え、じゃあ、貴族様なんですか」
漢字表記は貴族、この原則に当てはめれば前世というか以前までの俺は貴族ということになる。しかし、現在はカタカナ表記のアオキ・タカフミだ。漢字にしたら貴文とかそんな風になって貴族のような雰囲気の漢字になる。この名前の変化は何か意味があるのだろうか。
いや、今はそんなことより学生生活を充実させるために必要なことをしよう。
「ええ、私は子爵家の生まれよ。まあでも、オオヤマダとは長いし、神宮君みたいな考えは持っていないから、ため口で話しかけてもらっていいわ」
「はい。承知しました」
「あなた、本当に分かってる?」
「あ、えっと、まあ……」
どうやら、ふざけた返答をしたせいで、バカだと思われてしまったようだ。俺は適当にごまかしつつ、オオヤマダ君に視線を送り、最後のパーティメンバーの紹介を促した。
「あー、アオキ、こいつは悪いやつじゃないんだ、ただちょっと変わっているというか……」
なるほど俺と同類か。というか、お前も相当変わっていると思うぞ。今のところ、まともなのは西宮くらいだ。
「われは魔王なり。貴様は何者だ」
なるほど、そうきたか。しかも、魔王か、どっちかっていうと俺らはダンジョンを攻略する側だし勇者とかじゃないのか。まあ、考えは人それぞれだが。なんて返したものかな……
「あー、えっと、われは剣聖なり、この世界を知らぬものなり。ダンジョン攻略で成功して、自己紹介での失敗をなかったことにしたい! 心の底から、そう思っている! あー、こんな感じでいいか」
適当に言葉を紡いでみたが、これで大丈夫だっただろうか。中二病の裾野は広いと信じたいものだが。
「お、お前にはそのような反応は求めていない! それにこの世界を知らぬものとは、ただの世間知らずのバカではないか!」
「お前がそういうやつだと思ったから、合わせてやったのに。バカとはなんだ、バカとは。まったく、失礼なやつだ」
「おい、アオキ、そのくらいにしてやってくれ、なんというかそいつはアニメとか小説とかの影響を受けやすいやつなんだ……たぶん」
「ああ、何となく想像はついてる。要はあれだろ、あれ。中二病ってやつだろ」
そう言うと、魔王様は顔を真っ赤にして泣き出してしまった。
「ちょっと、アオキ、あなた言い過ぎじゃないの」
確かに、誰にも触れられたくはない部分ってのはあるもんだ。少しデリカシーにかけた発言だった。俺は正直に謝るべきかもしれない。やはり、西宮がこのパーティで一番常識がある。今回のことは感謝しないといけないな。
「えっと、魔王様、今回はちょっと俺も言い過ぎた。一言多かったな、本当にごめんな」
魔王様は鼻をすすりながら、言った。
「私も初対面の人に向かって、こんなふうに話すのは間違いだったし、後悔してる。でも、そんな私に付き合おうとしてくれたアオキ君にひどいことを言ってしまったことはもっと後悔してる。アオキ君、ごめんなさい。あと、私の名前は魔王じゃなくて、ヤマモト・シズカだよ。これからよろしくね」
え、普通にというか、滅茶苦茶いい子じゃないか? やだ、なにこれ恥ずかしい。俺、やばいやつじゃん。どうしよう、オオヤマダ君、頼む、助けてくれ。
「仲直りできてよかったな! よし、俺の自己紹介がまだだったな。アオキは俺にパーティに加入することを頼んだから知っていると思うが、俺の名前はオオヤマダ・ミツルだ。オオヤマダと呼んでくれ。改めてよろしく!」
んん? いや、助け舟を出してくれたことには感謝しかないのだが、さっきから、お前入学式の時とか自己紹介の時とかとだいぶ印象が変わってないか?
「もしかしたら、失礼に当たるのかもしれないが、お前、入学式とか自己紹介の時とかと比べて、印象だいぶ変わってないか?」
「あ、ああ……久我先生といろいろあってな。心を入れ替えたんだよ」
何か知らないがオオヤマダの目は遠くを見ている気がした。たぶん、本当に恐ろしい目にあったのだろう。
「ま、まあそんなことはどうでもいい。アオキ、お前の能力を教えてくれないか?」
「……能力、とは?」
まさに、寝耳に水というか炭酸水をぶち込まれた気分だった。確かに、校長が氷結魔法とかいうのを使っていたり、何かしらファンタジーな要素があるのだろうということは察していた。しかし、まさか俺にもあるとは……。
俺の能力か……ワクワクするな。
「まさか、あなた本当に知らないわけじゃないわよね?」
いや、まったく心当たりがない。
「俺が今ここにいるみんなとダンジョンを深層まで攻略したいという気持ちに嘘はない。ただ……」
「はあ、うちの学校に入った時点で、能力について知らないなんてことはあり得ないわ。まあ、言いたくないなら言わなくても構わないけど、どうせ鑑定石のところであなたの能力を鑑定してもらうから、すぐわかるわよ」
「いやあ、本当に分からないんだよねえ。あはは……」
何とか笑ってごまかそうとしてはいるが、俺は本当に何も知らないんだよなあ。そもそもこの世界にはまだまだ分からないことが多すぎる。能力はもちろんだが、高校生がダンジョン攻略? 意味が分からない。
入学式での校長の暴走だってそうだ、普通の感覚からすれば殺人未遂とかそんなレベルの異常だ。それに、俺がそんな状況でへらへらしていたのだって考えてみればおかしい、いったい何なんだ。
俺が今の状況に対して軽く混乱していると、オオヤマダが俺の変化に気づいたのか口を開いた。
「じゃあ、俺たちが知っていることをアオキに教えてやれば、これからはアオキも知らなくて困ることはないんじゃないか。どうだ、アオキ、俺たちと自分の知っていることを教えあわないか?」
おい、本当にオオヤマダ、お前どうしたんだよ。人格変わりすぎだろ。
「あ、ああ、じゃあそれで頼む」
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