第五話 まだ終わらせない!
俺のハイスクールライフは終わった、そう思っていた時期がありました。
『そう思っていた』というのはどういうことなのか、説明しよう。まず俺は前日に計画した自己紹介の一部すらもできず、甘えた声で無計画に自己紹介をさせられた。思い出したくもない、人生最悪の記憶の一ページである。
しかし、実はこのクラスには俺とは一味違った、イカれたクラスメイト達がいたのだ。もちろん、前提として、俺はイカれているわけではなく、久我先生に羞恥を強制させられただけなのだが。
俺のセンサーによると、このクラスにはイカれている奴が自己紹介の時点で最低でも二人いる。一人ずつ紹介させていただこう。
まずは神宮寺尊だ。こいつは俺のクラスを代表する変人といって良いだろう。こいつの見た目は金髪の優男といったところで、家柄についても侯爵家らしく申し分ない。見た目と家柄だけでいえば、俺のクラスにおいては一番といっていいだろう。しかし、こいつには問題があったのだ。
こいつの自己紹介を少し思い出してみよう。
『やあ、一年F組のみんな。僕は神宮寺尊だ。僕の名前が名簿に漢字で表記されていることからわかる通り、僕は貴族だ。侯爵家の長男だから、あまり気安く話しかけないでくれ。じゃあ、三年間よろしく』
ここまでは、俺からすれば貴族階級が存在する世界はこんなものかと思えたが、これといって大きな問題はなかった。それに、漢字の表記が貴族の特権であることもわかり、貴重な情報を教えてくれた神宮寺君には感謝すらしていた。
ただ、少し前から気にはなっていたのだが、明らかに神宮寺君の格好はおかしいのだ。なぜか、神宮寺君の制服のポケットは、はち切れそうなほどにパンパンなのだ。そして問題となったのはこの後に神宮寺君が続けた言葉だった。
『そうだ、言い忘れていたが僕は決闘が好きだ。僕が決闘をしたいと思ったやつがこのクラスにいれば、遠慮なくハンカチーフを投げさせてもらうから、よろしく』
いろいろ言いたいことはあるが、俺がまず思ったのは『ポケットの中身はハンカチだったのね』ということだ。それにしても、神宮寺君はあんなにハンカチを持って、いったいどれだけの人数と決闘をするつもりなのだろうか。いずれにしても、神宮寺君はイカれており、見事に俺の自己紹介の印象を弱めてくれた。
そして今から二人目の変人、いや、変人のなかの変人といって良いだろう人物が自己紹介を始める。彼は伊藤異能学校の伝統ある入学式において、歴史上はじめて爪痕を残し、校長によって凍らされた伝説の男。
その名もオオヤマダ・ミツル君だ。
「よう、みんな元気はあるか? 俺の名はオオヤマダ・ミツル、高校一年生だ。みんなは俺のことを知っていると思うが、俺はあの鮮血の魔法使い寺山毅の氷結魔法をこの身に受けた。しかし、無傷で生還した。つまり、俺は現在この学園において最強ということだ」
俺はお前こそ元気はあるのか、と心配に思った。だが、最強とかなんとか意味の分からないことを口走っているところを見ると、まあ気にするほどのことでもないかと思い直した。
ただ、こいつは何が言いたいんだ? 鮮血の魔法使いというのは、オオヤマダ君に氷結魔法を当てた人物なのだろう。氷結魔法が何なのかはよくわからない。だが、入学式における彼の黒歴史の話をしているのだと思う。
そして彼は続けた。
「俺たちは明日からこの伊藤異能学園にあるダンジョン攻略の資格を得る。つまり、俺が何を言いたいのかわかるな? そう、俺たちは明日からパーティを組んでダンジョンを攻略したり、授業を受けたりする必要がある。つまり、だ。俺はお前たちに俺と組むチャンスを与えてやっている。で、俺と組みたい女子はいるか?」
このとき俺はようやく理解したオオヤマダ君、いや、こいつの狙いは自分のすごさをアピールしてモテることなのだと。
だが俺は思った。
――クラスメイトは皆、お前が凍らされて教師に救助されているところを見ている。
それってむしろお前が弱いことの証明になっているんじゃないか、と
そんなこいつの恥ずかしい様子を見かねて、久我先生は話し出した。
「確かにオオヤマダの言うように、お前たちにはダンジョンを攻略する権利が明日から発生する。だが、ダンジョンは命懸けだ。こんなつり橋効果を狙ったようなバカと組むのはおすすめしないぞ」
この辛辣な久我先生の言葉にはさすがにあいつも反省した様子で、
「久我先生、生徒に嫉妬ですか?」
いや、まったく反省していなかった。そして彼は続けた。
「ああ、久我先生は俺のことが好きなんですね。安心してください、俺は年齢に関係なく人を愛することができます。というわけで、実里先生、俺と一緒にダンジョンを攻略しましょう」
オオヤマダはどこか恥ずかしそうで、それでいて希望を感じているような、何とも言えない表情だった。そして決まったと思っていそうなオオヤマダの雰囲気が合わさると、何となく気味が悪いというか、気持ち悪いと思ってしまう、そんな感じだった。
このオオヤマダからの突然の告白に久我先生は真っ赤になってしまった。もちろん、オオヤマダの甘いことばに、久我先生が惚れてしまったというわけもなく、
『オオヤマダ、お前、今死ぬ覚悟はできているか?』
そう言って、久我先生はオオヤマダをどこかに引きずって行ってしまった。
そして数分後、彼のものと思われる悲鳴が学校中に響きわたり、その悲鳴は、『白昼の旋律』と呼ばれ、伊藤異能学園の七不思議となった。
この大騒動のおかげで、俺のおぞましい自己紹介の記憶が上書きされ、クラスメイトの記憶には『絶対に久我先生を怒らせてはならない』という教訓が残ることとなった。
俺はあの憐れなオオヤマダ君のはたらきに感謝し、再び彼と友情を育んでいこうと決意したのだった。
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