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スキル×カード  作者: 村上 瑠留
20/35

光の都と猫と騎士

見付けられた誤字脱字等は修正致しましたので、新章突入です。

まだ直しきれていない物もあるかも知れませんが、ご指摘など有れば適宜直していきます。

 


「コレはエリクサー。金プレート三枚はする万能魔法薬さ」


 会合の後日。爵位勲章についての貴族会議は時間がかかると言われているので、数日はゆっくり過ごすことにした。

 お金も入ったし、全然この国を見て回っていないので、目に付いたお店を片っ端から見ていた。

「万能魔法薬?」

 入ったお店は薬屋みたいで、尖りくたびれている帽子に、着古した黒いローブ。これでもかってくらい魔女スタイルのお婆さんが一人でやっている場所だった。

「ああ、腕が千切れようが足を失おうが、不治の病に罹ろうがそれ一本で全てを綺麗に治す神薬さね」

 お婆さんが座るカウンターの後ろに一際目立つ、紺色のガラスに銀装飾がされた豪奢な瓶について説明される。

 ほへー。これさえ有れば怪我傷病気全てが解決するのか。

 専ら不治の病とかに使われるんだろうな。

「一つ頂戴」

 目の前に金プレートを三枚置くと、お婆さんはひっくり返った。

 ただエリクサーが置いてある事が薬屋のステータスらしく、それを自慢したかっただけみたいだ。

 態度をコロッと変えてへらへらし始めたお婆さんからエリクサーを受けとる。

 クロユリを連れてお店を出て、バッグの中で早速エリクサーを複製する。

 道端の枯れ草にかけてみると、すぐに力強く根を貼り花を開く立派な雑草になった。

 効果は本物みたいだな。

 一口試しに飲んでみると、何と無味無臭で水のようだった。

 花にかけた液体は青色で、まさか味がしないなんて思わなかった。

 そしてエリクサーを飲んだ俺は全身に活力が漲り、無駄な全能感が体を巡った。

 これ精力剤的な側面も有るんじゃね?

 複製したエリクサーの空の瓶に[デリート]をかけて消し、次のお店を探す。

 ちなみにルシールさんは仕事である。

 復帰した次の日にまた休んだので、しばらく仕事漬けらしかった。

 貴族街の門近くまで見て回ると、今度は魔具屋を見つけた。

 中に入ると、個人営業の電器屋さんみたいな作りのお店で、奥のカウンターにはエルフのお兄さんが座っていた。

「いらっしゃい」

 見回しても、どんな品物なのか少しもわからない商品ばかりだった。

 エルフのお兄さんが立ち上がり、カウンターから出てきて要件を聞いてきた。

 どうやらオーダーメイドの魔具作りもやっているみたいだ。

「魔具って物にまだ慣れてなくて、どんな物があるのか見たかったんだ」

 要は冷やかしだと言ってるのに、お兄さんは嫌な顔しないで店にある魔具の説明をしてくれた。

 おおよそ、電化製品と同じような効果の物が多くて、ほんとにここ電器屋さん何じゃないかと言う錯覚に陥った。

 まず冷暖房魔具に、冷蔵庫魔具。

 映像記録魔具とそれの再生機器もあった。

「魔具と言うのは無くても生活出来る。だが有れば確実に豊かに暮らせるんだ」

 誇らしそうに魔具を撫でるお兄さんは、クロユリの質問にも怖がること無く答えてくれた。

「コレは風を生み出す魔具でね、温風と冷風を使い分けられるんだ」

 実際にクロユリに風を送ってみるお兄さんが手に持つソレは、スティック状の筒の先から風が出ると言う、形こそ違うがドライヤーだった。

 この間ルシールさんに、お風呂から戻るのに時間がかかるのは、自分とクロユリの髪や毛を乾かしていると言われた事を思い出した。

「あの、それオーダーメイドで作ってもらう事は出来ますか?」

 あのスティック状のままだと使いづらそうだから、俺がよく知るドライヤー型にしてもらおう。

「構わないが、高いよ? これでも金貨八枚するし、オーダーメイドなら銀プレートになる」

 金プレートを手に入れて複製しまくる俺にとって、銀プレートはもう大した金額では無かった。

「お願いします。機能はそのままで、形をこんな感じで······」

 書く紙が無いので身振り手振りで何とか分かってもらう。

 お兄さんが羊皮紙を取り出してオーダーメイドの依頼書を書いてくれたのでサインして、前金で金貨五枚を支払い店を出た。

 さて、あらかた見て回ってしまったので、暇になってしまった。

 日が真上に来ているので昼食を取ろうとクロユリに相談してみる。

「それなら、服を買ってこの間のカフェに行きましょう」

 クロユリはあのカフェが相当気に入ったようで、またケーキが食べたいと言った。

 提案通りに今着ている服を買った店に行き、貴族街に入れる服を見繕ってもらう。

 選ばれたのは燕尾服の形をした紺色に深緑の糸で薔薇柄の刺繍で施された物だった。

 そのまま着替えて料金を支払い、着ていた服を宿に届けて貰えるようにお願いして、来た道を戻った。

 貴族街の門には、シュテル騎士団の人が門番をしていて俺の顔を知っていた。

 ギルドコイン先生を見せること無く貴族街に入る事ができ、カフェまで問題なくたどり着けた。

 前回とは違うスタッフが入口に立っていたけど、服を着替えた効果か止められることなく入店する事が出来た。

 ブラックウルフに少し怖がるスタッフにお願いをして、前と同じ席に案内してもらった。

 メニューが相変わらず意味不明なので、俺はオススメの物を見繕ってもらい、クロユリには適当な肉料理を頼んだ。

「ケーキは食後な」

 ケーキを頼もうとするクロユリを止めて注文を終えると、たまたまホールに出てきていたオーナーに見つかってしまった。

「勇者様! また当店にお越しいただきありがとうございます」

 スタッフを押し退け腰を折るオーナーに軽く挨拶をする。

「どうも。クロユリがここを気に入ったみたいで、昼食はここがいいと」

 クロユリが笑顔で頷き肯定すると、オーナーは嬉しそうにまた頭を下げる。

 それから、料理が運ばれてきて昼食が始まった。

 俺の小さい皿には鳥の煮込み料理が乗っていて、よく分からない野菜と一緒に柔らかくなっていて、クロユリには軽食とは無縁のステーキが数枚運ばれてきて、むしろ俺そっちが良かった。

 この世界に来て魚と鳥しか食ってねぇよ俺。

 今日は貴族の利用者が少なく、俺達以外には一人だけでコッチにも興味が無いようだった。

 お陰で今日はマナーを気にせずたべれる。

 あらかた食べ終わり、クロユリが食べ終わるのを待ちながら『創造複製』を使って拳銃の作成をする事にした。

 レクシール戦では大して役に立たなかった事が気がかりだったので、もっと威力のある大型拳銃を作りたいのだ。

 イメージは言わずとしれた化け物拳銃。 拳銃の中で最大クラスの弾丸を発射するオートマチックマグナムで、人を撃つことを本来想定しておらず、普通のハンドガンでは止められない猛獣等に対しての護身として存在する破壊の化身。


 デザートイーグル。


 破壊力だけが欲しいので、見た目は別に真似しない。

 ただ拳銃で強いって言うとその銃が一番イメージしやすかっただけである。

 頭の中でオートマチック機構を正確に組み上げて、外見を決める。

 排莢する為の窓、エジェクションポートをデザートイーグルの様に半円を描く様に開けて、スライド全体はガバメントの様に丸みを意識して作る。

 そして全体を肉抜きして軽量化もしてみた。

 グリップもマガジンが無いのである程度握りやすく改造して、頭の中で組んだ銃を『創造複製』で作り出し、それに対応する弾丸もフルメタルジャケットで一緒に作った。

 出来上がったのは、エジェクションポートが広がって巨大化した黒いガバメントといった形。

 側面には狼のエンブレムも入れてみた。

 スライドを引いて弾を入れ、『自動複製』まで施して完成だ。

 この銃は所謂ボス用の武器として使うつもりで、人間相手には『絶壁付与』しても使うつもりは無い。

 それからホルスターも革製では無くプラスチックでがっちりハマるタイプを作ってバッグに取り付ける。

 その後腰のナイフで側面に『hati』と手で掘った。

 ハティ。月を追い続ける神話の狼の名前だ。

 巨大なレクシールに今度こそ傷を付ける為の俺の武器。

「ハティを使うならスコルも作らなきゃな」

 ガバメントを[デリート]で消して、ベレッタをベースに銃身を長く、中にサプレッサーを仕込んだ消音器一体型の拳銃を作り出す。

 側面には勿論狼のエンブレムも忘れない。

 作り出してからナイフで『skoll』と手彫りしてコッチも銀色の拳銃が完成。

 ホローポイントの弾を入れて『自動複製』を施し、ハティと同じタイプのホルスターも作った。

「美味しかったですー」

 満足そうなクロユリが、口元を汚しながら笑っていた。

『創造複製』でハンカチを作って拭いてあげて、汚れたハンカチは『複製削除』で消す。

 やっぱりこのスキル戦闘より日常生活が超潤うタイプのチートスキルだね。

 クロユリのケーキを頼もうと店員を探すと、新しいお客さんが入ってきた。

「あれ? あの人メイドさんじゃないですか?」

 クロユリの言う通り、何度か会った事のあるメイドさんだった。

 クロユリもちゃんと一人の客として対応する人で、俺は城の中ではギリムリーズ並に信用していたりする。

 今日は休みなのか、メイド服ではなく黒の長いフレアスカートに灰色のシャツだった。

 スタッフが丁度居ない時に入ってきたみたいで、席を探してキョロキョロしているのが目に入り、ちょっと手を振ってみた。

 気が付いたメイドさんは、俺が分からないのか少し怪訝な顔をして、隣のクロユリを見てやっと分かったのか、驚いてこっちの席に来てくれた。

「も、申し訳ございません! お召し物がいつもと違うのでっ·········!」

 目の前まで来たメイドさんに、良ければと相席を勧めて話しかける。

「気にしないでください。確かに装いが違いすぎますからね」

 冒険者のラフな格好から燕尾服だし、俺だって誰だよってなると思う。

「し、失礼します」

 相席に緊張するメイドさんは、仕事の時とはだいぶ違って見えた。

 城にいる時は凄い丁寧な対応をしてくれていたのに、今はガッチガチになっててぎこちない。

 仕事スイッチが入ってないとこうなのかな?

「別に取って食べたりしませんから、楽にしてください」

 紅茶を飲みながら今度こそ店員さんを呼ぶ。

 クロユリのケーキとメイドさんの注文を済ませて話題を振ってみた。

「今日は随分雰囲気が違いますけど、お休みですか?」

「あ、はい。今日はお休みでして、お給金も入ったので少し贅沢でもしようかと」

 メイドさんはクロユリと同じでここのケーキが好きなんだそうだ。

 クロユリが美味しいですよねーって気さくに話し掛けても、彼女はいつも通りクロユリには怖がらない。

「名乗り遅れました。私はフラムスールと言います」

「俺は双月護です。フラムさんでいいですか?」

 長いとすぐ略したくなる。

「フラムスールさんだからスーちゃんです!」

 クロユリはフラムスールさんを凄く気に入っているみたいで、ルシールさんと同じ様なあだ名で呼び始めた。

 幸いフラムスールさんは嫌な顔をしないで頷いてくれた。

「スーちゃんはいつも、僕の事褒めてくれるんですよ。心の中がマモルさんみたいで優しいんです」

 仕事中は口数が少なかったけど、心の中ではクロユリを怖がるどころか好意を見せてくれていたらしい。

 言われた事がよく分かってないフラムスールさんに『読心視術』を説明した。

「なるほど、心が読める······。では私が仕事中にクロユリ様を撫でたかった事も筒抜けなのですね」

「はい! なので今触っていいですよ!」

 嬉しそうに頭を差し出すクロユリは、本当に彼女を信頼してる様に見えた。

 少し嫉妬してしまう。

「えへへー。マモルさんが一番ですよ」

 心を覗かれて慰められてしまった。

 一番なのは嬉しいけど、違うんだよ。独り占めしたいって事なんだよ。

 流石に口に出せないけど、クロユリには伝わる。

 照れてしまったクロユリから向き直ると、フラムスールさんが色々教えてくれた。

 守護獣としてブラックウルフを受け入れるに当たり、群れの個体全員分のテイマーのパートナータグを作らなければいけない事とか、今日早速開かれた貴族会議は難航するだろうという事など。

「フタツキ様が公爵になる事は、基本どの貴族も納得しているんです。ただフタツキ様を抱え込みたい場合には、位が高いと中級や下級の貴族は手が出せなくなります」

 だから下級貴族と中級貴族に反対する人が多いのか。

 当たり前だけど、王族より中級貴族の方が数は多いし、中級貴族より下級貴族の方が数が多い。

「誰にも抱え込まれるつもり無いんだけどねぇ」

 やっと運ばれてきたケーキにクロユリが顔を綻ばせているのを眺めて、フラムスールさんと世間話を続けた。

「今日は予定も特になく、とても暇だったのです。フタツキ様に会えたのは幸運でしたね」

 はにかむ彼女に何か暇潰しでもプレゼントしてみようかと思い、バッグの中に手を突っ込んで『創造複製』を使う。

 丁度リバーシでも作ろうかなって前に思ってたし、彼女にあげよう。

「えっと、これは?」

 バッグから取り出した折り畳み式マグネットリバーシを見て、首を傾げるフラムスールさんに、使い方を説明した。

「二人で遊ぶボードゲームでして、真ん中に白と黒を二枚づつ並べて、それから交互に石を置いていくんです」

 色を挟んでひっくり返し、最終的に色の多い方が勝ちだと説明してから、実際にやってみた。

 途中まで長考気味で慣れていない様子だったけど、すぐに定石などに気付いていい勝負になってきた。

 数回ゲームをすると、ギリギリの攻防の果てに俺が負けてしまった。

「か、勝ちました! やっと勝てましたよ!」

 やっとって、今日初めてコレなんだからフラムスールさんが強いんだよ。

 仕事中には決して見れないであろうはしゃぎぶりは可愛いけど、負けたのは普通に悔しかった。

「プレゼントするので、是非同僚と暇潰しにでも使ってください」

「え、頂けません。こんな見た事も無い素敵な品、従僕の身には勿体ないです」

 恐縮して困った顔になるフラムスールさんに、バッグの中に今複製したリバーシをチラッと見せる。

「一点物では無いですし、なにより板に線引いて石を白黒にするだけの物ですよ? 遠慮しなくて大丈夫ですよ」

 なんなら今リバーシで勝った景品って事でもいい。

 別に本当に要らないなら『複製削除』で消すだけだし、俺はどっちでもいいけど。

 暫く話して、この国では珍しいだけで、俺の国では貧しい家でも自作できるポピュラーな物だと言い張って、受け取ってもらった。

 クロユリもやりたがったけど、石をひっくり返せない。

『影技』は壊す事に特化していて、精密作業など乱暴に獲物を縛るのが関の山らしく、こんな小さな石はひっくり返す時に砕いてしまうと。

『絶壁付与』するか代打ちも提案するけど、クロユリが首を振った。

 ちゃんと普通に自分でやったみたいと。

「こんどクロユリが遊べる様に作ってみるよ」

 残念そうなクロユリを宥めていると、外のいつもの場所に馬車が止まる。

「なんで立候補したんだ君は本当に······!」

「国の大事に姫として責任を持ちたかっただけですわ」

 馬車からは護衛が数人降りた後、ギリムリーズにミルキュート、あと一人ギリムリーズと同じ歳くらいの知らない男が降りてきた。

 白髪で品のあるパーマが特徴的な男は、服装を見ると公爵なのだろう。ギリムリーズとミルキュートに劣らない立派な物を身に付けていた。

 それよりこのカフェでギリムリーズとミルキュートの遭遇率が今のところ十割なんだが。

 棘のある声で言い争いをしながら店に入ってきた貴族三人は、なんと俺に気付かずに別の席に座った。

 店を一応見回して俺も見たはずなのに。

 そこでフラムスールさんも最初気付かなかった事を思い出して納得した。

 俺が貴族っぽい格好をしている上に、クロユリがフラムスールさんに隠れて見えないんだ。

 まだ言い争いをしている三人にオーナーが注文を取りに行くのを尻目に、王族に跪くフラムスールさんとその影に隠れたクロユリを見る。

「せっかくバレていないので、隠れました」

 隠れきれていないけどね。

 ミルキュートが手で合図をすると、一人だけ居た貴族とフラムスールさんが席に戻った。

 俺は座ったままだったけど、そもそもあの三人コッチほとんど見ないからね。

 ミルキュートも合図しながら視線はギリムリーズ達に向けられていたし。

「イーリスハイル帝国に向かう大使になんて立候補して、本当は何を狙っていたんだ?」

「本当だよ。守護獣の事を聞きに行くのになんで姫様が行くんだよ」

 白髪の彼とギリムリーズはこめかみを抑えてミルキュートを睨んでいた。

 なんか姫様がやらかしたらしい。

「帝国で姫の護衛を全うできる人間なんて、それこそ噂の勇者様くらいじゃないのか?」

「·········! まさかソレを狙ったのか!?」

 話を聞いていたら何故か俺の名前が出てきて紅茶を吹き出しそうになった。

「あら、わたくしはそんな事考えていませんよ?」

 ニコニコと二人の怒りを流すミルキュートは、しかし確信犯の顔をしている。

 クロユリも「嘘ですね」と言っているので間違いない。

「そんな事より、ギリムリーズ様はズルイですよ。勇者様とあの様に親しげに話しておられるのを、とても羨ましく思っていますわ」

 ミルキュートは話を無理矢理ぶった斬り、訳の分からない避難をギリムリーズに投げた。

 それを聞いて、話が平行線で嫌気がさしていた白髪の貴族も話に乗った。

「確かに、噂ではかなり気を許しているみたいじゃないか。相手は英雄とは言え平民の冒険者だろ?」

「それは私が吹っ掛けた勝負事で返り討ちにあったからだ。そうじゃなくてもフタツキは平民らしからぬ態度で貴族に接しているし、そのような見下す発言は控えてくれ」

 テーブルを指でトントン叩いて白髪の貴族に返事をするギリムリーズに、なんかちょっと嬉しくなった。

「随分信頼しているんだな? 公爵勲章を最初に与えようとしたのはギリムリーズだったらしいじゃないか」

 確かにハッキリと公爵勲章をと話しを進めたのはギリムリーズが最初だった。

「当たり前だ。爵位勲章は本来国に対する貢献度でその爵位が決まる。国を滅亡から救ったフタツキは公爵勲章を与えて当然だろう?」

「その通りですわ。勇者様には公爵になっていただき、わたくしを娶って頂くのです」

 ギリムリーズの言葉にミルキュートが乗っかるけど、話がぶっ飛んでいる。

 まだ諦めてねぇのアンタ!?

「······姫は姫で、ずいぶんと勇者様にお熱なんだな? そんなにいい奴だったの?」

 会ったことも無い彼にとって、竜を一人で退けた人間に対してまだ信用出来ない人物なのだろう。

 何回も言うけどアレは不意打ちを重ねた上で相打ちに持ち込んだ泥臭い戦いだった。

 だけど貴族にとっては俺個人が相当な戦力を保有している事になるし、その戦力が国の制御を受けない状態で野放しなのだ。

「それに噂じゃ獣趣味なんだって? そんな奴のどこがいいんだ?」

 その言葉を聞いた瞬間スコルに手を掛けていた。

 俺は実際獣趣味だし、それは良い。

 ただその言葉で俺を否定するのはクロユリを否定するのと同義だ。聞き逃せない。

 席を立って白髪の貴族に詰め寄ろうと考えた所でクロユリに止められた。

「マモルさん。僕は大丈夫ですよ。他の誰でも無いマモルさんが認めてくれているなら、僕はそれ以外の全てに否定されても気にしません」

 諭すような目でそう言うクロユリに、頭が冷えていくのが分かった。

 そしてギリムリーズとミルキュートも白髪の貴族に激怒してくれた。

「ロッテンマーズ、口を慎め! フタツキに対する侮辱も、クロユリ嬢への侮辱も許さんぞ!」

「ロッテンマーズ様、今の発言は取り消して下さいませ。わたくしも到底許せませんので」

 二人は確かに俺のために怒ってくれた。

 その事実に胸が熱くなり、湧き上がっていた怒りは完全に消えてなくなった。

「二人とも落ち着きなよ。会ったこともない人間に対する評価なんて取り消し様が無いじゃないか」

「フタツキに対する評価じゃない。彼が大事に思っているクロユリ嬢と彼自身に向けた侮辱を取り消せと言っているんだ」

「勇者様のパートナーは、下手な貴族よりも話しの分かるブラックウルフですわ。会ったことも無いなら、それこそ不当な発言はお控えくださいませ」

 二人の剣幕に肩を竦める白髪は、特に反省した風も無く話を続ける。

「そうは言っても、一国の姫より狼を選んだんだろ? マトモじゃないと思うけどな」

「まだ言うか! フタツキにとって地位より大事な物があるだけだろう!」

 ギリムリーズは掴みかかりそうな勢いで怒り、ミルキュートは心底嫌そうな顔でそっぽを向いてしまう。

 そしてその向いた方向がコッチだった。

 目が合ってしまったので、気付かれていないけど手を振っておく。

 暫く誰かを思い出すように思案顔になった後、ようやく俺に気付いた。

「勇者様!?」

 ガタッと席を立つミルキュートの言葉に、ギリムリーズと白髪の貴族もコッチを見た。

 ちょっと気まずくて手を振り続けると、ギリムリーズがコッチにやって来た。

「フタツキ、居たのか!?」

「あーはは、うん。居たよ。ありがとねギリム。怒ってくれて嬉しかったよ」

 王族がやって来て固まってしまったフラムスールさんの後ろ、クロユリもギリムリーズに前足を上げて挨拶をした。

「ギリムリーズさんこんにちは。このお店でよく会いますね!」

 今の話を聞かれていた事に、ギリムリーズは少し赤くなる。

「いや、なんだ、友人が不当に侮辱されたら誰でも怒るだろう」

 バツの悪そうなギリムリーズに、友人とまで言ってくれた事に嬉しくなった。

 ミルキュートと白髪の貴族も席を立ってギリムリーズの後ろに立つ。

 値踏みするような視線を向けてくる白髪の貴族に、俺も椅子から立ち上がり腰を折った。

「お初にお目にかかります。クラウンランク冒険者の双月と申します」

 それを満足そうに見ていた白髪の貴族は、一つ頷いてから口を開いた。

「なるほど、確かに粗暴な冒険者では無いらしいな。俺はロッテンマーズ・ペテルフィールド。シュテル騎士団統括のグレイズロッドの息子だ」

 国王の様に頭を下げないで自己紹介をした白髪の貴族、ロッテンマーズはグレイズロッドさんの息子なのか。

 髪色は違うけど、パーマはよく似ていた。

「フタツキ、今日は服装がだいぶ違うが、どうしたのだ?」

「あぁ、クロユリがこのカフェ気に入ったみたいでさ、ドレスコードに引っ掛からない為に買ったんだよ」

「そんな物無くても、救国の英雄を追い出す店なんて無いだろう?」

 わざわざカフェに来る為に服を用意した事が不思議なのか、首を傾げるギリムリーズに説明する。

「この店のドレスコードは、利用者が気持ち良く過ごすための物だろ? 俺がギルドコインを見せて無視する度に店の品位は落ちるじゃないか」

 そもそも王族に関わりたくないとすら思っていた。それが王族の様な権力でルール無視とかなんの冗談だよって話だ。

 その説明に納得して何度も頷いてくれるギリムリーズと、また目をキラキラさせているミルキュート。

 そして目を見開いているロッテンマーズが口を開いた。

「······随分腰が低いんだな? 君が居なければ滅んだ国だ。好き勝手しても良いんじゃないか?」

「そうする事にメリットが有ればそうしますね。横暴を重ね恨みを買い、自分の周囲まで危険に晒す事の対価が少しばかりワガママを通せるだけだなんて、あまりにも貰いが少ないとは思いませんか?」

 事実、謙虚に過ごした方が評価も上がり、色々なところに融通が効くようになると思う。

 そうして得た信用は、例え権力を失ってもある程度残るはずだ。

 権力を暴力に変えてもきっと残らない。人の信用とは権力よりも重い。

「·········違いないな。君は聞いていた通りの人間すぎて、些か驚いている」

 値踏みがやっと終わったのか肩を竦め、態度が少し柔らかくなった。

「立ち話もなんですから、座りませんか?」

 椅子は無いけどスペースは充分なので、店員を呼んで椅子の準備をして貰う。

「勇者様、今日のお召し物とてもおにあいですよ」

 ずっと言いたかった事が言えた様な達成感を得るミルキュートに、クロユリが苦笑いした。

「ミルキュートさんは諦めないんですね。僕は良いとしてルーちゃんにまた意地悪されますよ?」

「その時はクロユリさんがまた守ってくださいませ」

 例のミルキュート脳内暴露拷問は、クロユリがルシールさんを宥めることで終わりを迎えたそうだ。

 それでさっきミルキュートのクロユリ評価が高かったのかと納得した。

 誰とでも仲良くなれるクロユリに、ロッテンマーズも巻き込まれる。

「はじめましてクロユリです。ロッテンマーズさんはグレイズロッドさんと一緒で武器が好きなんですか?」

 俺の装備する武器をチラチラ見ていたロッテンマーズは少し目が泳いだけど、やはり興味はあるのか渋々認めた。

「父上に話だけは聞いたからな。ボウガンよりも強力で小型な武器なんて、気になって当たり前だろう」

 いっそ開き直る彼に、ホルスターから抜いてスライドを操作して弾を出し、チャンバーの中にある弾丸も[デリート]したスコルを渡してあげる。

「コレが父上の言っていたジュウか。見た目より重いがボウガンより軽いな」

 スライドをガチャガチャしたり、引き金を引いて首を傾げる。

「どうなるのか想像できない。何か功績とか実績は無いのか?」

 そう言われても、ドラゴンとクソ虫くらいしか撃ったこと無い気がする。

 記憶を探る俺を待たず、クロユリが森での出来事を語った。

「飛んでいるコクリルバードの頭を吹き飛ばした事が有りますよ」

「······はぁ!? 冗談だろ!?」

 驚いてスコルを落とすロッテンマーズの横で、ギリムリーズも目をパチくりしている。

 フラムスールさんすら驚いている中、ミルキュートだけはよく分かっていない様子だった。

「えっと······?」

「いいかい姫様、飛んでいるコクリルバードは弓やボウガンなんかじゃ絶対に落とせない鳥なんだ。射った矢が届く頃には矢が飛んだ倍の距離を移動しているんだ」

 滔々と姫に説明するロッテンマーズに、俺もつい聞き入ってしまった。

 アイツそんな早かったの?

 ミルキュートは武器の話などそもそも興味無いのか、テーブルに置いてあるリバーシを見付けて話題を変えた。

「コレはなんですの? 見た事が無い物です」

「あ、はい。コチラはフタツキ様に頂きました二人用卓上遊戯でございます」

 フラムスールさんは少し躊躇った後に仕事スイッチを入れたようで、さっきまでガッチガチだったのが嘘のようにつらつらと言葉を紡いだ。

 俺が説明したのと同じ内容をミルキュートにしていくと、ギリムリーズとロッテンマーズも興味を示した。

 スコルを返してもらった後に、バッグの中からリバーシを取り出して二人に差し出す。

 ロッテンマーズはまだ銃の事が聞きたそうだったけど、そもそも父親に銃の詮索を禁止されているのだとギリムリーズが教えてくれた。

 今度リボルバーでも作ってグレイズロッドさんに持って行ってあげようかな。

 この世界の技術力じゃオートマチックは難しいだろうし。

 フラムスールさんの説明を聞いた男二人が対戦し始め、ミルキュートがニコニコして俺の前にリバーシを出す。

「勇者様、是非わたくしと遊びましょう。ギリムリーズ様と遊んだ時と同じ条件で」

 未だにギリムリーズにだけ態度を崩しているのを根に持っている彼女は、ここぞとばかりに勝負を仕掛けてきた。

 まぁ当然俺が勝つんだけども。

 これでミルキュートにも態度を崩す事を約束させられてしまった。

「さぁ、勇者様?」

「·········分かった。約束は守るよミルキュート」


 それからロッテンマーズにも同様の勝負を挑まれ、三人に対して同じ対応をする事になった。

 ロッテンマーズは何気に勝ちに来ていたけど、一歩足りなかったね。




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