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スキル×カード  作者: 村上 瑠留
19/35

黒狼の意志19(終)

黒狼の意思編最後になります。

次章もスグにスタートするので、お待ちください。



「我が国は、今日この時をもって、黒の森に棲むブラックウルフと手を組み、共に歩いていく事をここに宣言する」


 催しをそっちのけでリルフと語り合った王様は、この催しの閉会の挨拶でそう宣言した。

 リルフと国王イリギュルトが並んで立ち、貴族とブラックウルフも集まって聞いていた。

 クロガネの隣でクリムリアが毛並みを撫でているのを横目で見ながら、王様の後ろで続きを聞いていた。

 あの森って黒の森って言うんだね。初めて知ったよ。


「法の整備は後日、ブラックウルフの長を交えての会議を行った後に決定する」


 釣り大会は大成功に終わり、今日使った釣具は全てプレゼントする事を伝えた。

 そしてその最後に、この発表があった。

 後日改めて発表するらしいけど、今日参加している貴族には先んじて知らせておくようだ。

 当然会場には困惑する声が上がるが、心から嫌がる人もブラックウルフも少数の様だった。

 今日の釣りでもある程度交流して、お互いその認識を改めた者が多く、さっきからクロガネにデレデレしているクリムリアがその最たる例だろう。

 さっきまで勇者様ーってデレデレしてたのにな。

 今回の事は、レイジガルドがブラックウルフを正式に守護獣として認める形らしく、ライトキャットと言う魔獣を守護獣にしている帝国と同じ形になるのだそうだ。

 初めての事なので、帝国に使者を送って色々聞いたりするのだろう。

 国家間の事は良く分からないけど、リルフが嬉しそうだから何でもいいや。


 全ての貴族を送り出し、会場には俺とルシールさん、リルフやクロユリを含めたブラックウルフ。

「今日は楽しかったなフタツキ。今度は我が家にも来るといい」

 それと何故かギリムリーズが残っていた。

「ギリム、帰らなくていいの?」

「いやなに、今日は全ての予定をキャンセルしたからな。暇なのだ」

 あー、そっか。

 釣り大会の予定に、終わりの時間を設定して無かった。

 何となくで終わらせたけど、本来忙しい貴族にはかなり駄目なイベントにしてしまっていたのか。

「ごめん、そこまで考えてなかった。誰も何も言わないし·········」

 あんだけ企画詰めてたミルキュートにさえ言及されなかったぞ。

「いいんだ。貴族達も多分感謝しているぞ? 羽を休める大義名分が出来たのだからな」

 だからこそ敢えて誰も言及しなかったのか。

 んー、暇なのは良いんだけど、片付けどうしようか。

 [デリート]の一言で消してしまうつもりだったんだけど、人前ではなるべく使いたくない。

 レクシール戦で大いにやらかしているから今更かもしれないけど。

 俺が悩んでいると、クロユリがリルフに耳打ちをする。

 俺の心を読んだ上で、何か思いついてくれたのだろうか。

「フタツキ、ここの物は全て壊してしまっていいんだな?」

 リルフの言葉に頷くと、リルフが会場跡にある影全てから『影界掌握』で闇を生み出した。

 釣りの仕掛け以外は全部残っている会場が暗闇の竜巻に包まれ、凄まじい音の後に闇が晴れる。

 そこには大量の木片と、グシャグシャになったバーベキューコンロの山がそれぞれ出来ていた。

「············凄まじいな」

 唖然とするギリムリーズ。俺もまさかここまで凄いと思っていなかった。

 これが神獣級。俺よくレクシールに勝てたな。

「ふん。後は燃やして、鉄は街で溶かせば役に立つだろう」

 一仕事終えたリルフは、残りのブラックウルフに指示を出した。

「縄張りの群れに伝えろ。我々は今日からレイジガルドの守護獣になり、人間と歩んでいくと。縄張りは維持出来る様に部隊を組み直せ。棘猪如きに神聖な深域は渡さん」

 連絡部隊を編成して、深域と街を繋ぐ中域にも縄張りを作り駐屯地にする事や、街に駐屯する部隊など矢継ぎ早に決めるリルフは、なんかカッコよかった。

「あ、王が君に用事があるって言っていたよ。後でリルフ君を連れてきてくれと」

「ギリムはどうするの?」

「君に時間があれば、ブラックウルフと交流を深めたい。王はあまり法を変えないが、変えようとする時は必ず通すからな。今から出来る事をして置かなければ、王族として恥になる」

 そう言ってブラックウルフを見る。

 彼はクロユリに対しても、最初から嫌悪は抱いていなかったと思う。

 俺には刺々しい態度だったけどね。

「ギリムリーズさんは良い人ですね。最初は嫌な人だと思ってました」

 基本階級や権力など気にしないブラックウルフのクロユリが屈託無く言うと、ギリムリーズは吹き出してしまった。

「ふは、確かに初対面は失礼をした。ただ貴族街で冒険者が一国の姫とお茶をしていたんだから、あの態度は仕方ないと思うぞ?」

 クロユリの言葉は心を見た上での事だが、それでも彼の言う通りか。

 貴族街は貴族の街であり、冒険者が本来歩いていい場所では無い。

 そこに自国の姫と茶を飲んでる冒険者、そりゃあの態度になるよね。

「でもさ、逆説的に貴族街で姫と一緒に居る冒険者なんて、噂の勇者様くらいだろ?」

「今思うと確かにな。でも姫は大事な身内だ。妹の様な者が何処の馬の骨とも分からん奴と仲良くしてたら、考える前に動くだろう?」

 ギリムリーズはミルキュートと血縁的にかなり近いらしい。

 本当に妹の様に大事に思っていたのなら、あの場面は確かに動くよな。

「ギリムは、姫が俺をどう思っているか分かる?」

「見たままだろう。アレが分からない様な奴は貴族として生きていけないな」

 だよねー。鈍感難聴系主人公なら分からんけど。

「ギリムはそれについてどう思う? 俺ほら、平民だし?」

 国王の思惑も分からないし、近い権力を持っている王族に聞いておきたかった。

「逆に聞きたいな。フタツキはミルキュート様をどうしたいんだい?」

「んー、姫と良い仲になる気は無いよ。もう恋人も居るしね」

「あのギルドの者かい?」

 リルフ達の方でモフモフしているルシールさんを顎でさすギリムリーズに、クロユリも紹介した。

「この子もさ。狼だけど、大切な彼女だよ」

 流石に予想外だったギリムリーズは目が点になる。

 クロユリはちゃんと紹介された事に照れて、その場に伏せて顔を前足で隠してしまう。

「·········君は、獣趣味だったのかい?」

「獣趣味?」

「獣に欲情する者に対する蔑称さ。君の場合愛情なのだから失礼すぎる言葉かも知れないが」

 この世界ではケモナーやズーフィリアはそう呼ばれるのか。

 元の世界でもそう呼ばれてたりするのかな?

「そうだね、俺は獣趣味の気もあるよ。流石に手当り次第に欲情なんてしないけど、大事な相手には成りうる」

 クソ虫だらけの元の世界で、心を許せる相手なんて動物くらいだった。

 親友も一人いたけど、だいたい野良猫とかに癒しを求めていた結果が、このケモナー基質だ。

「ふむ。それを姫に言えば一発で目が覚めるんじゃないか?」

「恋人や婚約者の存在を伝えるのって、国王の娘を振る形にならないか? 波風立たない方が有難いんだけど」

「それもそうか。難儀だな」

 結論は出そうに無いので、ギリムリーズをルシールさんがモフモフ祭りしている所に放り込んで、存分に交流を深めてもらった。



 リルフ、クロユリ、ついでにクロガネを連れて、ギリムリーズの案内の元にルシールさんと付いていく。

 リルフにはパートナータグをちゃんと付けて、クロガネにはリルフの物を複製して付けた。

 警報が鳴ると困るからな。

 案内されるのは執務室らしく、謁見の間的な煩わしさは無いらしい。

 部屋の扉は食堂と違い、無駄な装飾がはぶかれている作りで大きさも普通だった。

 従者が扉を開け中に入ると、王妃様とミルキュートに挟まれた国王イリギュルトが執務机に居た。

「呼びつけて済まなかった。クラウンクエストの報酬の準備がやっと終わったところでな、催しのついでに渡しておこうと思ったのだ」

 そう言う国王の座る執務机の上には、木造りに金の装飾が施された、品のある小物入れサイズの箱があった。

 ミルキュートが横からその箱を開けると、中には真ん中に銀貨が埋め込まれている金製の板が十枚入っていた。

 初めて見る通貨だ。コレがゲルオのオッサンが言っていた金プレート?

 それより、すごく気になっている事があるし、俺はこのお金受け取っていいのか併せて聞いてみよう。

「このお金はレクシール討伐の物ですよね? 聞いた話からレクシール生きていると思うんです。撃退じゃなく討伐が依頼だったなら、私は依頼に失敗していませんか?」

 クラウンランクになっておいて今更なのだが、聞いた話をまとめると、多分レクシールは生きているって答えになるのだ。

 それを聞いた王族組は根拠を求めた。

「簡単ですよ。ガルヴァルドルグはワイバーンは皆殺しにして捨て置いたのに、レクシールは持っていったんですよね? それはレクシールに息が有ったからではないでしょうか。強力な回復魔法も使えたらしいですし、多分今頃は回復しているのでは?」

 ガルヴァルドルグが次こそ襲撃を止めるだろうから安全でしょうが、と付け加えておいた。

「···············確かに、そう言われると討伐は出来ていないのかも知れない。ただ、クラウンクエストは他の依頼とは毛色が違うのだ」

 通常の依頼だと、依頼者が成功の是非を問うわけだから、当然依頼内容に記載されている事は漏れては行けない。

 だがクラウンクエストの場合、王族が発注するが正確には、『国からの依頼』なので、そのクエストの合否は国民まで含めた国の総意で判断されると国王は言う。

「つまり、クラウンクエストの内容は『龍王レクシールに挑み国に認めれる功績を収める』が正確な物になるのだ」

 そう言って王は箱を前に押し出す。

 ミルキュートがそれを手に取り、俺の前に差し出してくる。

「万が一、勇者様に報酬を払ってないと国民に知られたら、王家の信用は地に落ちてしまいますの」

 そこまで言われては受け取る他無かった。

 ミルキュートが持つ箱から、金の板を十枚取り出してバッグに入れる。

 それを頷いて見ている国王は更に続けた。

「さらに、クラウンクエストの功績から、勇者には他の貴族と相談の元に、相応の地位を与えようと思う」

 やっぱり来た。ミルキュートと結婚させるための布石を善意の顔で打ってきやがった。

「恐れながら国王陛下、報酬なら既に充分過ぎる量を頂いております。これ以上は過分にございます」

 謹んで辞退させてくれ。そう思うもミルキュートが退路を塞ぐ。

「救国の英雄に対する報酬としてはまだ少ないくらいですのよ。勇者様は胸を張って受け取ってくださればいいのです」

 めっちゃ張り切っているミルキュートは、やはりコレが結婚の布石だからなのか。

「いえ、私はそもそも国民ではありません。流れ着いた旅の冒険者で、いつかは国に戻る事も考えています。なので冒険者のままで、身軽で居たいのです」

 まぁ元の世界に帰る気なんてさらっさら無いけどね!

 ここで引けばチャンスを永久に失うと言わんばかりのミルキュートは、一歩も引く気が無いようだ。

 俺だってコレ受け取ったらミルキュート攻略ルート確定しちゃうから、全力で言い訳を羅列する。

「だったら、フタツキに爵位勲章だけ与えれば良いんじゃないか?」

 腕を組みながら後ろで見ていたギリムリーズが折衷案を出すと、ミルキュートが飛び付いた。

「それは素晴らしい考えですわ!」

 この国には、王様を除いて貴族階級が五つあり、公爵、伯爵、男爵、子爵、騎士の順に階級が高いらしい。

 元の世界とどう違うのか分からないけど、この世界の爵位というものはどの国もその五つらしい。

 王族は公爵、中級の貴族が伯爵と男爵、下級貴族が子爵で、平民が何か功績を残し国に認められたら騎士になれるのだとか。

 貴族街で店を持ったり、メイド長や執事長、料理長などが騎士階級の元平民であり、その下の人間は騎士が貴族に許可を取り雇用している平民だと言う。

「つまりギリムは公爵なの?」

「ふふ、ギリム公と呼んでもいいのだぞ?」

 ちょっと得意気なギリムに笑って、勲章に付いて詳しく聞いてみた。

 爵位勲章とは、その国でだけ効果を発揮する貴族特権の証で、国を出ても失効しない。

 国に対する奉仕を義務とする貴族と違い、既に相応の働きを前払いしている形で受け取るため、フットワークは軽いままで居られるのだとか。

 現在クラウンランクのギルドコインで例外的に貴族街と城に入っている俺が、正式な権利として出入り出来るようになるのだ。

 さらにその勲章が持つ階級は本物で、例えば公爵の爵位勲章を持っている人間は、ちゃんと公爵として扱われて、伯爵、男爵、子爵より強い権力を持つのだとか。

 なるほど。貴族として扱いたい国と、身軽で居たい俺の意見がどちらも反映されているシステムだ。

「では、子爵勲章辺りを頂けるのでしょうか?」

 言うて俺は旅の冒険者、高位の爵位は有り得ないと思っていると、ミルキュートが国王に詰め寄った。

「お父様、まさか勇者様を子爵程度に据えるおつもりですか? 伯爵勲章でも足りないとわたくしは思いますけど」

 ミルキュートの中では伯爵までが婚約を結べる貴族なのだと推察して、絶対に回避すべくギリムと結託を試みる。

「冒険者の身で伯爵など冗談が過ぎますよ。なぁギリム?」

「いや、フタツキが居なかったら国が無くなっていたんだ。公爵でもいいんじゃないか?」

「ギリム!?」

 裏切られた!

 さっき事情説明したじゃん!乗っとけよこの野郎!

 その言葉に大いに頷くミルキュートと絶望してる俺の対比がすごい。

 その様子に心まで含めて観察していたクロユリとルシールさんが吹き出した。

「フタツキさん、大丈夫ですよぅ」

 笑いを堪えながら俺の肩を叩くルシールさんに、ギリムリーズが同意するように頷いた。

「しかしながら王よ、フタツキに公爵勲章を与えた場合、クラウンランクの英雄を抱え込もうと、各貴族がフタツキに娘を宛てがう為に群がることが予想されます」

「でしたらわたくしが·········!」

 ここぞと飛び付くミルキュートを、ギリムリーズがぶった斬った。

「なので、勲章授与式でフタツキの婚約者にも同じ勲章を授与することを提案致します」

 暗に、『既に婚約者が居る』と何食わぬ顔で言い放った。

「···························婚約者?」

 動かなくなったミルキュートに、ギリムリーズが後ろの二人を紹介した。

「ギルド職員のルシール嬢、そしてフタツキのパートナーのクロユリ嬢がそうだ」

 国王と王妃がアチャーって顔をして、ミルキュートは青くなって動かない。

 ルシールさんとクロユリはニコニコ笑って居る。

「ご紹介に預かりましたルシールです。フタツキさんとは先日龍王討伐から目覚めた折りに婚約を致しました」

「僕はその、人間じゃありませんが、それでも良いとマモルさんが言ってくれました」

 ルシールさんが丁寧に、クロユリは言葉足らずに報告をして、固まるミルキュートを見ていた。

「ギリム、どうすんのこの空気」

「ん? 波風が立たないようにしてやったぞ?」

「竜巻起きそうなのは気のせいか?」

 ミルキュートがまさに竜巻を生み出しそうな空気の中、肩を竦めたギリムリーズが一つ一つ説明してくれる。

「いいかい? まず前提として、姫は君にまだ何も言っていない。そして婚約者発表の提案は公爵たる私がした。つまり君は貴族に一方的に勲章授与式で婚約者と勲章を賜れと言われただけに過ぎない訳だ」

 そうか、このタイミングでギリムリーズがそう宣言する事で、俺は貴族が貴族達だけで決めた事を聞いていただけで、ミルキュートの好意を無下にした訳じゃないのか。

「ギリムお前最高かよ」

「ふ、もっと褒めるがいい」

 全てを聞いていた姫は、そのまま床にヘタり込んで、その目に涙を貯めた。

「あの、あの、わたくしの気持ちはもしかして、皆様お気付きに······?」

 王様、王妃、ギリムリーズ、ルシールさん、クロユリが大きく頷き、俺は目を逸らした。

 とうとう泣き出したミルキュートに、慌ててしまう俺は、傍に駆け寄ったしまった。

 しゃがんだ俺に、泣きながら唇を寄せてきたミルキュート。

 あ、やばい。恋人の前で姫様とキスは最高に不味い。

 しかし動転している俺は動けず、ミルキュートの唇が迫り、

「流石に見過ごせませんよぅ」

「ダメですよー。僕らもまだなんですからね」

 恋人二人に助けられた。

 クロユリが俺の体に抱き着いて後ろに引き、ルシールさんがミルキュートの首根っこを掴んでいる。

「こら! ミルキュート! 何をしているのですか!」

 王妃の雷がミルキュートに落ちるも、また泣き出してしまう。

「なんでバレたんですのー!」

 あのキスは狙ってやったらしいミルキュートが、泣きながらルシールさんを見上げる。

「私は狐人フォクシーですので、姫様がフタツキさんの唇を奪うことで責任問題にしようと思ったことも丸見えですよぅ」

 ルシールさんは容赦なく全てをバラすと、王様が立ち上がって怒り出す。

「ミルキュート! いくら何でも手段を選びなさい! 失礼にも程があるぞ!」

 泣き続けるミルキュートに代わって、王様が頭を下げてきた。

 当の俺は震え上がっていてそれどころじゃなかったけど。

 もしキスされていたら、王族のしがらみへレッツゴー!だった事を思うと、今更ながらに肝が冷えた。

 二人がいて良かった。ホントに良かった。

「うふふふー。国の姫に対しての無礼は、大目に見ていただけると幸いですよぅ」

 ミルキュートの服を離して国王に謝るルシールは、そのままミルキュートに何やら耳打ちしている。

 それを聞いているミルキュートが段々赤くなっていって、顔を隠してうずくまってしまった。

「·········ルシールさん、何を?」

「うふふふー。姫様が食事会でしていた妄想などを、朗読して上げただけですよぅ」

 それ自殺もんのヤツじゃん。

 真っ赤になって動かなくなるミルキュートをルシールさんがクロユリに乗せて、王妃と一緒に部屋を出る。

「王妃様、是非姫様のお心をお聞き願いたいので、どこかお部屋を貸していただけませんか?」

「·········そうですね。もうこの様な無体な真似をさせない為にも、是非お聞かせ願いましょう」

 部屋に残った俺、ギリムリーズ、国王、クロガネ、リルフは姫の行く末に合掌した。

「なぁイリギュルト。私はこの茶番の為に呼ばれたのか?」

 部屋の外からミルキュートの悲鳴が聞こえてくるなか、リルフが疲れきった顔で国王を睨んだ。

「そんなわけなかろう。ワシだってアレは予想外だったからな」

 国王は空気を仕切り直すように咳払いをして、まず俺に向き直り話の続きをした。

「騒がせて済まなかった。勲章については、伯爵から公爵を視野に会議で決めよう。ご婚約者のお二方の分もな」

 どうやらギリムリーズのお陰で、一番良い回答をもぎ取れたと想う。俺何もして無いけどね。

 ギリムリーズに視線でお礼をすると、小さく親指を立ててくれた。

「それからリルフ。これは個人的な要件だが、城に住まないか?」

 今でもリルフを大事に思っている国王は、城にリルフの部屋を準備していると言った。

「どう言うつもりだ?」

「なに、他意は無い。古い親友と共に過ごしたいだけだ」

 リルフは嬉しそうに目を細めるけど、「考えておく」と回答は保留にしてしまった。

 その間、本当についでに付いてきたクロガネは凄い暇そうにしている。

 下手に喋るとリルフに怒られるから黙っているのだ。

 だけど、その目だけは殺意を込めて俺に向けられていた。

 話し合うリルフと国王から離れ、クロガネに近寄ると唸り声まで聞こえてきた。

「クロガネ? どうした?」

「············貴様、クロユリと番になるのか?」

 あ、やっべ。

 ギリムリーズが落とした爆弾は、ミルキュートを黙らせた代わりにクロガネが動き出すギミックだったのか。

「何も聞かされていないぞ。人間とブラックウルフで間違いは起こらないんじゃ無かったのか?」

「待ってクロガネ、間違いはまだ起きてないぜ? みんな純潔だよ」

 事実を言っているのに唸り声が強くなった。

「当たり前だ。もしクロユリに何かして見ろ。森の養分にしてやるからな」

 ギリムリーズが面白そうに見ているけど、笑い事じゃないのよ?

 妹を僕に下さい!的なイベントなのよ?

「何故貴様、この、許さんぞ······」

 言いたい事が多すぎて、口から出てこない様子のクロガネが超怖い。

「しかも番がもう一人居るじゃないか貴様、どう言う事だ貴様ホント、貴様許さんぞ」

「クロガネ落ち着けって」

 殺意が漲る目に、若干の涙が見えてきて罪悪感が凄い。

 未だに聞こえるミルキュートの悲鳴をBGMに、クロガネ説得と言うクエストに挑む。

「なぁクロガネ。クロユリ可愛いよな」

「当たり前だ貴様、あんなに可愛い生き物他に居るか」

「そんなクロユリとずっと一緒に居たら、好きになっちゃうのも当然じゃないか? あんなに可愛いんだぜ?」

「当然だ貴様こら、群れの同胞だってどれだけの数がクロユリに気があると思っているんだ」

「じゃぁ後はクロユリの気持ち次第じゃないか?」

「当たりま·········。貴様ァ! 何言わせようとしているんだ貴様! 人間は言葉の使い方が巧妙すぎるぞ! そう言う事じゃ無いだろう!」

 ついに激怒したクロガネ。あと少しだったのに。

「だいたい、なぜ貴様なんかにクロユリが惚れなすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 怒りを吐き出すクロガネの態度が、何故か目を瞑り全力の謝罪に変わる。

 後ろを向くと原因が分かった。

 俺のすぐ後ろにリルフが冷たい目をして立っていたからだ。

「クロガネ、煩いぞ?」

 国王との話し合いの途中、クロガネが叫び出して煩かったようだ。

「クロユリは先ほど幸せそうだったが、貴様はアレが不幸に見えたのか? 一番大事なのはクロユリの気待ちでは無いのか? 貴様の嫉妬の方が大事なのか? どうなんだ?」

 前足でタシタシと床を叩くリルフはイラついていた。

「気持ちは分からなくも無いぞ? だがフタツキを否定するのは、貴様の妹が選んだ人間の否定。つまりはクロユリが見る目の無い可哀想なブラックウルフだと言う事だが、相違ないか?」

「リルフ、リルフ、クロガネ泣き始めたからそろそろ辞めたげて」

 クロガネが言い返せなくて、それでもやっぱり悔しくて、号泣している。

 そこに一通りの拷問を終えた一行が帰ってくる。

 ミルキュートは泣き叫んだのか、クロユリの上にぐったりしていて、ルシールさんはニコニコ。

 王妃様は慈しむ様にミルキュートを撫でていた。

「運んでもらってごめんなさいね」

「大丈夫ですよ。ミルキュートさん軽いので、マモルさん乗せるより楽ですから」

 王妃様と仲良くなったのか、クロユリとの雰囲気が柔らかかった。

「あれ、兄さんどうしたんですか?」

 大号泣しているクロガネに気付いたクロユリが、ミルキュートを乗せたまま寄ってきた。

 上に乗るミルキュートは俺を見ると、顔を真っ赤に染めてクロユリの毛並みに突っ込んだ。

「兄さん? クロガネ兄さーん?」

 テシテシとクロガネの頭を叩くけど、涙が止まらない。

「えっとね、さっきのギリムの話でクロガネも俺とクロユリの仲を知っちゃってさ」

「あー、そんな事でこんなに泣いているんですか?」

 嗚咽を漏らしながら、クロユリの顔を見上げる顔がグッシャグシャだ。

 何やら言っているけど、嗚咽に混じって俺は聞き取れない。

「兄さん、僕は幸せですよ? 僕は狼だから望みが無いと思っていたのに、マモルさんは受け入れてくれました」

 まだテシテシ叩きながら、優しい声音で囁くクロユリに、俺の頬が熱くなる。

「これ以上無いくらい幸せなのに、兄さんは祝ってくれないんですか? 僕はクロガネ兄さんも大事ですから、反対されるのは悲しいですよ」

 やがて前足でクロガネの首を抱いた。

 その様子は、家族の居ない俺には眩しくて、少し目を逸らしてしまった。

「大事にしてもらってますよ。見てくださいこの飾り。マモルさんが僕に、名前と同じ花の飾りを作ってくれたんです」

 クロガネに見える様に顔を傾け、光が銀の百合に反射した。

「兄さんだって、マモルさんが良い人なのは分かってますよね。信頼してるから不満を漏らせるんですよね」

 クロガネの頭を器用に撫でて、力強い瞳で見据える。


「皆は国と、僕はマモルさんと。僕らブラックウルフは人間と共に生きるんですよ。誇りを持ったまま、一緒に生きるんです」


 そんな兄妹のやり取りを最後に、今日の会合は終わりを迎えた。




黒狼の意思、これにて終了になります。

次章は置いてある伏線などを軽く整理したり、説得力の弱い箇所の補強などにも気を配って行きたいと思います。


次章に行く前に、黒狼の意思を読み返し、誤字脱字等の修正と、表現の変更など少し手を加える予定ですので、ご了承ください。

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