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琴陵姉妹の異世界日記・改訂版  作者: 此花サギリ


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第五話:影の蠢動と裏社会の解体

テラスの重厚な石造りの手すりに、煙を上げる三体の暗殺者が不自然な体勢で転がっていた。


焦げたレザーギアとタンパク質が焼ける嫌な匂いが、夜風に乗ってふわりと鼻腔をくすぐる。容子は『魔導加速型HK416C・改』のセーフティを親指でカチリと押し込み、慣れた動作でマグウェルからマガジンを抜き取った。に残弾を目視で確認し、再び叩き込む。


「さて……『構造解析・弱点看破』」


容子の瞳に淡い青色の光膜が走り、倒れたリーダー格の男の全身が網目状のワイヤーフレームで透視されていく。


男の懐、内ポケットの奥に隠された一枚の革製の羊皮紙。そこには、赤黒い漆ろうで封印された紋章と、未知の暗号化された文字が記されていた。


容子は耐切創グローブを嵌めた手で羊皮紙を容赦なく引っ張り出すと、スキルをそのまま羊皮紙の筆跡と魔力残滓へと適用した。


【解読完了:裏ギルド『黒い蠍』暗殺依頼書】


【依頼主:ウルフェン商業連合会副会長・アルフォンス】


【目的:ガルド商会における新製品(ハーブ石鹸・化粧水・魔導機器)の製法奪取、および琴陵容子・琴陵宥子の身柄確保(抵抗時は殺害)】


「アルフォンス……あの大通りの大型店舗を仕切っている豪商ね。商工ギルドのボロフを迂回され、市場の利権を奪われると危惧して刺客を放ったというわけか」


容子は冷徹に呟くと、羊皮紙をスマートフォンで何枚も撮影し、画像データとして保存した。完全な物理的・デジタル両面での証拠確保だ。


「容子ー? どうしたのー? テラスの方から変な音がしたけど……」


パーティ会場の喧騒を抜け出し、グラスを持った宥子がテラスの扉を開けて顔を出した。首元の『紅白』と『赤白』が、床に転がる黒装束の男たちを見て「シャーッ」と警戒の威嚇音を上げる。


「宥子、ちょうどいいわ。この男たちの『記憶の因縁』と『依頼主との繋がり』を、あんたのスキルで補強しなさい」


「ひえっ!? なにこの煙が出てる男の人たち!? 容子、また凄い撃退の仕方したでしょ!?」


「自衛よ。それより、この男たちは『黒い蠍』っていう裏ギルドの刺客。黒幕は商業連合会の副会長アルフォンスよ」


宥子は驚きつつも、素直に手根をかざした。


「えっと……『因縁補強・証拠固定』!」


宥子の指先から伸びた透明な光の糸が、気絶した暗殺者たちと羊皮紙、そしてアルフォンスの存在へと結びつき、不可視の証拠の鎖となって空間に固定された。これで、どれほど腕の立つ弁護士や汚職役人が介入しようと、言い逃れのできない『因果の証拠』が完成したのだ。


「よし。ガルドさんとエレノア様を呼びなさい。今夜のうちに、ウルフェンの裏社会の病根をひとつ、外科手術(外科的排除)するわ」


証拠の提示と伯爵家の介入

三十分後。伯爵邸の最奥にある重厚な応接室。


重々しいオーク材のテーブルを挟み、東方伯爵本人、エレノア令嬢、そしてガルドとボロフが青ざめた顔で座っていた。床には、容子が完璧に縛り上げ、口に猿ぐつわをませた三人の暗殺者が転がされている。


「……な、なんということだ……! 我が伯爵家の夜会の最中に、このような裏ギルドの無頼漢どもが侵入していたとは……!」


東方伯爵は怒りで髭を震わせ、机を叩いた。


「伯爵様、怒るポイントがズレているわ」


容子は淡々と撮影した画像データをプリントアウトした用紙(日本から持ち込んだポータブルプリンターで即座に印刷したもの)をテーブルの上へと滑らせた。


「これは、この男たちが所持していた暗殺依頼書と、その解読データよ。依頼主はウルフェン商業連合会副会長のアルフォンス。彼はガルド商会を潰し、私たちが持ち込んだ現代技術とクラフト製品を独占しようとしていたわ」


ボロフが顔を真っ青にして身を乗り出した。


「ア、アルフォンスだと……!? あ奴、我がギルドの正規取引を無視して、裏ギルドに手を回したというのか! これは明確なギルド規約違反……いや、伯爵家に対する反逆罪に相当するぞ!」


「ええ。だからこそ、今から動くのよ」


容子はHK416Cを肩に担ぎ直し、冷たい笑みを浮かべた。


「アルフォンスの館と『黒い蠍』のアジトへ、私たちが直接『家宅捜索』に入るわ。伯爵様、憲兵隊の正式な捜索許可証と、同行の騎士を数名貸していただけるかしら?」


「む、勿論だ! 我が東方伯爵家の名誉を汚した罪、そしてエレノアの恩人たちに危害を加えようとした罪、到底許し難い! 騎士隊長ガイン率いる精鋭十名を同行させよう!」


ガルドが恐る恐る手を挙げた。


「じ、嬢ちゃん……本当に今から行くのか? アルフォンスの館は私兵で固められておるし、『黒い蠍』の本拠地は迷路のような地下水道の中だぞ……?」


「問題ないわ」


容子はスマホの画面に表示された『構造解析』の熱源レーダーとマップデータをタップした。


「建物の構造も、敵の配置も、抜け道も……すべて私の『構造解析』で丸裸にしてあるわ。兵站と戦術が完璧なら、夜襲こそが最も生存率の高い選択よ」


電撃の家宅捜索と「ナイトビジョン」の圧倒

深夜二時。ウルフェンの富裕層エリアに建つ、アルフォンスの広大な邸宅。


月明かりすら届かない深い闇の中、容子を先頭とした東方伯爵家騎士団の隠密部隊が、敷地を囲む高い石壁の陰に潜んでいた。


騎士たちは緊張で唾を呑み込み、手を震わせている。暗闇の中での突入は、防衛側に圧倒的に有利だからだ。


だが、容子の目元には、日本から持参した最新型の『四眼型暗視装置(ナイトビジョン・GPNVG-18)』が装着されていた。


緑色の鮮明な熱画像と暗視視界の中で、屋敷の庭園に配置された十五名の私兵たちの動きが、まるで昼間のパレードのようにハッキリと見えていた。


「ガイン隊長、聞こえる?」


容子はインカム(小型トランシーバー)を通じて、後方に潜む騎士隊長ガインへ静かに指示を出した。


「あ、ああ……容子殿、この耳に装着した小箱から声が聞こえるのは何度経験しても奇妙な感覚だな……」


「無駄口は叩かないで。これより敵の哨戒網を無力化するわ。私の合図とともに、正面突破ではなく東側の勝手口から突入しなさい」


容子は『魔導加速型HK416C・改』を構え、サプレッサー(消音器)の調整ダイヤルを微調整した。


ノズル内の『風の魔導石』が静かに共鳴し、発射音を極限まで減衰させる準備が整う。


シュパッ……!


第一射。屋根の上にいた弓兵の膝を、超音速の真空波弾が完璧に撃ち抜いた。声を上げる暇もなく、男は瓦の上で昏倒する。


シュパッ! シュパッ!


間髪入れずに、庭園を巡回していた二人組みの警備兵の足元へ精密な点射を浴びせる。


「な……何が起きて……!?」


私兵たちが混乱に陥った瞬間、容子は左腰から抜いた『パルス・ブレイカー』を握り締め、暗闇の中を影のように駆け抜けた。


「『構造解析・弱点位置指定』」


バチチチチッ――!!


「グワァァッ!?」


「ひぎぃっ!?」


闇の中から突如現れる紫色の電光。数十万〜三百万ボルトの高周波パルスが次々と私兵たちの神経系を麻痺させ、次々と石畳の上に叩き落されていく。


暗闇で目が見えない私兵たちにとって、暗視装置と消音器、そして高電圧兵器を駆使する容子は、まさに「見えない死神」そのものだった。


わずか一分三十秒。


十五名の私兵は一人の死者を出すこともなく、全員が完璧に無力化・拘束された。


「と、突入……! 容子殿に続けぇぇっ!」


ガイン隊長率いる騎士たちが勝手口の扉を蹴り開けた時には、既に屋敷の防衛線は完全に崩壊していた。


証拠の押収とアルフォンスの失脚

屋敷の最上階、豪華な執務室。


金庫の中から帳簿と金貨をかき集め、裏口から逃亡しようとしていたアルフォンス副会長は、扉を破って飛び込んできた容子と騎士たちを見て、腰を抜かしてへたり込んだ。


「ひぃっ……!? か、騎士団……!? なぜここが……『黒い蠍』の奴らはどうしたのだ!?」


「彼らなら、今頃伯爵邸の地下牢で冷たい石畳を舐めているわよ」


容子はゆっくりと歩み寄り、デスクの上にあった巨大な金庫のダイアル鍵に手を置いた。


「『構造解析・内部機構復元』」


カチ、カチ、カチ……ガチャン!


容子のスキルによって金庫内部のシリンダー構造が透視され、わずか三秒で絶対開かないと言われていたドワーフ製の極上金庫が呆気なく解錠された。


中から転がり出たのは、裏ギルド『黒い蠍』との長年にわたる不法取引の記録、汚職役人への賄賂帳簿、そして違法な魔導薬品の売買契約書だった。


「な……なにを行っている……! それは私の個人的な……!」


「アルフォンス副会長。あなたを国家叛逆協力罪、および違法暗殺依頼の容疑で拘束するわ」


ガイン隊長が重々しい鉄枷をアルフォンスの両手首に嵌めた。


アルフォンスは絶望の叫びを上げながら引きずられていき、ウルフェン商業連合会における彼の権力は、一夜にして完全に失墜した。


『黒い蠍』地下本拠地の掃討と新素材の獲得

アルフォンスの屋敷から押収した裏帳簿により、裏ギルド『黒い蠍』の地下水道のアジトの位置が完全に特定された。


「容子、私も行くよ!」


宥子が白蛇たちを従え、自作の『催涙ハーブ弾 launcher(手製スリングショット改)』を携えて志願してきた。


「いいわ。ただし私の後方三メートルを維持しなさい」


二人は東方伯爵家の騎士団とともに、ウルフェン地下に広がる古代遺構の地下水道へと突入した。


湿った暗がりの中に潜む『黒い蠍』の残党たち。彼らは暗闇に乗じて毒矢や麻痺毒の短剣で奇襲をかけてきたが――


「宥子、催涙ハーブ弾投擲!」


「いっけぇぇぇっ!」


宥子が放った特殊な陶器弾が地下水道の壁に激突して砕けると、中から宥子が特製調合した『唐辛子・超高濃度カプサイシン&ハーブ抽出エキス』の濃密なガスが爆発的に広がった。


「ゴホッ……!? ぐぁぁぁっ!? 目が……目が燃えるような痛みがぁぁっ!?」


「鼻が……息ができない……! なんだこの悪魔の毒ガスはぁぁっ!?」


現代のクマ撃退スプレーを上回る超強烈な催涙ガスが充満し、暗殺者たちは武器を捨てて涙と鼻水を流しながら転がり回った。


そこへ、容子の『魔導加速型HK416C・改』による精密な非致死打撃(脚部や肩部への点射)と、パルス・ブレイカーによる電撃が襲いかかる。


「降伏しなさい。抵抗すれば次のパルスは心停止レベルまで出力を上げるわ」


容子の冷徹な宣言に、残った刺客たちは総員降伏を余儀なくされた。


地下アジトの奥深く、暗殺者たちが溜め込んでいた強奪品の宝物庫を開放した瞬間、容子の目が輝いた。


そこには、大量の銀貨・金貨だけでなく、一般の市場には絶対に流れない超希少な素材が山積みされていたのだ。


『深淵の魔導銀(アビサル・シルバー)』のインゴット五本(魔法の伝導率が通常の銀の十倍以上を誇る伝説の金属)


『赤竜(レッド・ドラゴン)の背皮』の加工前シート二枚(耐火性・耐摩耗性が極めて高く、防弾ベストの強化材として最高峰)


古代文明の『魔導演算コア』の破片三個(未知の古代回路が刻まれた高純度結晶)


「……掘り出し物もいいところね」


容子は口角を釣り上げ、宥子の『アイテムボックス』へそれらの超希少素材をすべて回収させた。


「これで……私たちの装備と現代技術の融合は、次元の違う領域(真の魔導サイバネティクス)へと進化できるわ」


こうして、ウルフェンを裏から支配していた闇の組織『黒い蠍』は一晩で壊滅し、その莫大な財産と希少素材は、すべて琴陵姉妹の兵站基地へと組み込まれたのだった。


工房の拡張と『魔導サイバネティクス』への挑戦

それから三日後。


ガルド商会の二階工房は、一連の事件の功績により東方伯爵家から贈られた『隣接する大型倉庫』を取り込み、三倍以上の広さへと拡張されていた。


ソーラーパネルの増設工事が完了し、日本の秋葉原から追加で持ち込んだ大容量ポータブル蓄電池がズラリと並んでいる。


「ふぅ……これで電力インフラは安定したわね」


容子は、地下アジトから押収した『深淵の魔導銀』と『赤竜の背皮』を、デスクの上に置いた。


そして、日本から持ち込んだ産業用3Dプリンターの押出機(エクストルーダー)のノズルを、耐熱ダイヤモンドノズルへと換装する。


「宥子、実験を始めるわよ。『深淵の魔導銀』をミクロレベルで粉末化し、カーボン樹脂と混合した『魔導伝導性フィラメント』を生成するの」


「はいはいっ! 研磨は『構造解析』の指示通りに削ったよー!」


宥子が差し出した高純度の魔導銀粉末を、3Dプリンターの原料投入口へ流し込む。


ウィーン……カチカチカチ……


PCのCAD画面上で容子が設計したのは、新しい防護ギアと銃器パーツだった。


『魔導伝導型アッパーレシーバー』:HK416Cのレシーバー全体を魔導銀配合樹脂で整形し、使用者の魔力をダイレクトに弾丸の加速力へ変換するシステム。


『赤竜皮組み込み型ハイブリッド防弾ベスト』:超高分子量ポリエチレンの防弾板に赤竜の背皮を積層し、現代の9mm弾どころか、サイエスの最高級貫通魔法すら無効化する最強のアーマー。


『高圧魔導パルス・キャノン』:スタンガンの技術を応用し、深淵の魔導銀回路を通じて三百万ボルトの雷撃を「光線」として照射する遠距離電撃兵器。


「これ……もう完全に『未来のSF兵器』じゃない……?」


宥子が完成した黒と銀の美しいレシーバーパーツを見つめて呟いた。


「いいえ。これは『現代技術と異世界魔導の完全なる融合』よ」


容子は新しく組み上げた『HK416C・魔導極(キワミ)』のボルトを引いた。


重厚な金属音とともに、レシーバー全体に刻まれた魔導銀の回路が、鮮やかな青紫色の光を放って脈動を始める。


その初速エネルギーは、理論値で日本の法定基準の『五倍以上』。もはや小型の機関砲に匹敵する威力を、片手で扱える重量と無音さで撃ち出すことができる怪物兵器だ。


「さあ……資本も、地位も、最強の装備も手に入ったわ」


容子は窓の外、ウルフェンの街並みの向こうに広がる巨大な山脈――『王都へと至る大街道』を見つめた。


「ガルドさん、エレノア様。そろそろ次の段階へ進むわよ」


「つ、次の段階だと……!? 嬢ちゃん、まだ何か企んでおるのか!?」


ガルドが目を見開いて叫ぶ。


「企むんじゃないわ。ビジネスの規模を拡大するのよ。……目指すは、サイエスの中心地――『王都グラン・サイエス』よ」


王都の巨大市場、最高峰の錬金術師たち、そして更なる利権と古代遺物。


日本とサイエスを二十分の一秒(時間圧縮)で往復しながら、現代兵器と魔導技術を操る琴陵姉妹の伝説は、ウルフェンという一地方都市を越え、サイエス全土へと広がり始めていたのだった。


異世界間物流と「常温保冷技術」の革命

王都への進出を前に、容子が着目したのはサイエスにおける「物流と食料保存」の破滅的な技術不足だった。


サイエスでは、肉や野菜などの生鮮食品を長距離輸送する際、大量の氷(氷魔法使いが精製する高価な代物)を使うか、塩漬けにして水分を完全に抜くしかなかった。そのため、王都で美味しい新鮮な魚や肉を食べられるのは、一握りの超上流階級だけに限られていたのだ。


「……ここに着目しない手はないわね」


容子はガルド商会の倉庫で、日本から仕入れた『真空断熱クーラーボックス』と『ポータブルペルチェ式冷凍冷蔵庫』を並べた。


「ガルドさん。サイエスの北方の港町『セルカ』で獲れる新鮮な『白身魚(ドラド)』は、ウルフェンや王都でどれくらいの価値になるの?」


「セルカのドラドだと……!? あそこから王都までは馬車で二週間かかる! 届く頃にはドロドロに腐って臭気物じゃ! もし生きたまま、あるいは新鮮な状態で王都に届けられれば……銀貨一枚の魚が、金貨一枚(百倍)で取引されるぞ!」


「百倍……素晴らしいサヤ取り(アービトラージ)ね」


容子はポータブル電源に接続された冷却ユニットのスイッチを入れた。


「宥子、アイテムボックスの中にこの『超低温真空保冷ボックス』を十個叩き込みなさい」


「えっ!? アイテムボックスの中に入れておけば、時間も経過しないからずっと凍ったままになるよー!」


「そうよ。アイテムボックス内部の『時間停止・容量無制限』というチート特性と、現代の『超低温急速冷凍技術』を組み合わせるの」


港町セルカで獲れたての新鮮な魚をその場で真空急速冷凍し、アイテムボックスに収納。

そして一瞬で王都の高級料亭へ移動し、新鮮な生のまま解凍して提供する――。


「交通費ゼロ、腐敗リスクゼロ、品質保持率一〇〇パーセントの『次元超越鮮魚流通ルート』の完成よ」


ガルドは口をぐぐぐ……と歪め、両手で顔を覆った。


「お、恐ろしい……! 王都の老舗物流ギルドが束になってかかっても、この小娘一人に全滅させられるぞ……!」


「倒産させるのが目的じゃないわ。彼らと提携し、私たちの『保冷技術(ライセンス)』を貸し出して莫大な放映権料(ロイヤリティ)を回収するのよ。不労所得の自動生成システムね」


王都グラン・サイエスへの旅立ち

出立の日。


ウルフェンの東門前には、東方伯爵家が用意した豪華な四頭立ての大型馬車と、ガルド商会の荷車、そしてガイン隊長率いる護衛騎士団が整列していた。


街の住人たちや商工ギルドの職人たちが、二人を見送るために大勢集まっている。


「容子様、宥子様! 王都でもお健やかに!」


「ハーブ石鹸、待ってますからねー!」


歓声の中、エレノア令嬢がドレスの裾を揺らして二人の元へ駆け寄ってきた。


「容子様、宥子様! 王都へ到着されましたら、真っ先に我がシルフィード公爵家(伯爵の本家)の邸宅へお越しくださいませ! 父である公爵閣下に、お二人の素晴らしさをたっぷりと伝えておきますわ!」


「ありがとう、エレノア様。素晴らしい夜会と協力に感謝するわ」


容子はしっかりとエレノアと握手を交わした。


馬車に乗り込み、ふかふかの革張りシートに腰を下ろす容子と宥子。


窓の外では、ウルフェンの巨大な石造りの城門が徐々に小さくなっていく。


「容子……私、なんだかすっごく遠くまで来ちゃった気がするよ」


宥子が首元の白蛇たちを撫でながら、窓の外のサイエスの雄大な地平線を見つめた。


「何を今更言ってるの。私たちの拠点はあくまで若草荘の六畳間よ。……さあ、王都へ向かう道中で、新しい魔法陣の組み込みと、3Dプリンターの新しいフィラメント調合のテストを行うわよ」


「えぇ〜!? 馬車の中でもお勉強なの〜!?」


「当たり前でしょ。時間は有限なんだから……あ、待ちなさい。サイエス側では時間圧縮で無限に近いのだったわね」


容子は楽しげにクスリと笑い、ノートパソコンを開いた。


現代科学の理(ことわり)と、異世界の魔法(ゆかり)。

二つの世界を股にかける琴陵双子の冒険とビジネスは、王都グラン・サイエスという巨大な舞台へ向かって、いよいよ加速していくのだった。


第六話への予兆:王都の陰謀と『古代遺物』

王都への街道を順調に進む一行。


しかし、その道中、容子の『構造解析』は、王都を取り巻く巨大な「魔力波形の異常」を感知し始めていた。


王都グラン・サイエスの中央に建つ『国立錬金術アカデミー』。

そこで進められているという、古代遺物(アーティファクト)の暴走実験。

そして、サイエス全土の魔法バランスを崩壊させようとする暗黒の結社『深淵の天秤』の存在。


「……面白いわ」


容子は完成したばかりの『HK416C・魔導極』の漆黒のボディを撫で下ろした。


「どんな古代兵器だろうと、魔法の暴走だろうと……『構造解析』で解体し、現代の火工術と兵站で叩き潰すだけよ」


二人の少女の手によって、異世界サイエスの歴史が、今まさに根底から塗り替えられようとしていた。

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