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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第七BF:ヌー マラソンクイズおそろしや

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ノックは三回。ゆっくりと 5



「「うわぁああああ!」」


 飛び起きた。

 隣のベッドで寝てた垂須さんとほとんど同時に。

 スプリングが悲鳴を上げるように軋み、現実へと引き戻される衝撃が、

 背中から頭蓋へと突き抜ける。


 呼吸が荒い。

 肺が焼けるみたいに熱い。

 心臓がうるさい。

 生きてる、っていう証明みたいに、うるさい。


「市籠」


「垂須さん」


 互いの名を呼ぶ声が重なった。

 顔を見合わせる。

 ――いる。

 目の前にいる。


 1Fのフロントに、ホテルマンに異常事態を知らせに向かった垂須さんが。

 隣のベッドで。

 寝巻を身に纏って。


 どういうことだ?


 夢?


 いや、あれが夢で片付くなら、心臓はこんなに暴れてない。


 でも。


 どうでもいい!


 そんな理屈、今はどうでもいい!

 とにかく垂須さんは無事だった!

 俺も生きてる!

 それだけでいい!


「「よかったぁぁ」」


 大の大人二人が、情けない声で抱き合う。

 腕に伝わる体温。

 背中に回した手に感じる、確かな質量。


 ああ、本物だ。

 ここは現実だ。


 その安堵に、全身の力が抜けていく。

 膝から崩れ落ちそうになるのを、互いの体で支え合う。

 その、安堵の空気に水を差すように。


「いかがでしたか? 当ホテルのナイトメア・サービスは」


 と、声。

 ゆっくりと振り向く。

 そこに立っていたのは、カイゼルすぎる髭の紳士。

 ホテルオーナーのバンパイア。


「「ウルティモ畜生!」」


 ほぼ反射だった。

 理性を通さない、純度100%の罵倒。


 今完全にわかった。

 全部だ。

 全部、繋がった。


 俺たちは黄石や閑君。

 さらにはサンタフェさんにまで担がれていたのだと。


「恐ろしい恐ろしいアンデッド国家・ヌー」


 あの紹介。

 あの空気。

 あの、じわじわとした違和感。

 あれ全部、この質の悪い企画のための布石だったのか!


「そりゃ冷静に考えれば。命の危険がある場所で素人にロケなんてさせないよな」


 垂須さんが、疲れたように笑う。

 その言葉は、あまりにも正論で。

 同時に、今さら過ぎて、ちょっと腹が立つ。


「今にして思えば、街に人影がなかったことも怪しいです」


 俺も苦笑するしかない。

 あの静けさ。

 あの不気味さ。

 全部、演出だったってわけか。


「してやられてってことですよね?」


「はぁ…… ひっかからなかった人なんているのかな?」


 乾いた笑いが、部屋に転がる。

 ナイトメア・サービス。

 つまりは悪夢を見せられてただけ。

 危険なんて一つも無かった。


「楽しんでいただけたようでなによりです」


「「怖かっただけだよ!」」


 声が揃う。

 息もぴったり。

 こんなところでシンクロしたくない。


「文句は番組スタッフまでどうぞ。アデュー!」


 責任を軽やかに放り投げ。

 紳士バンパイアはコウモリと化して窓から飛んでった。

 逃げやがった。

 ああ、もう。

 ほんとにウルティモだ。


「「うわあああああ!」」


 しばし後、隣の部屋から絶叫。

 港ヶ陸と墨市氏だな。

 ああ、よかった。

 あいつらも無事で。


 同時に、ちょっとだけ安心する。

 引っかかったのは自分たちだけじゃないっていう、妙な連帯感。


 時計を見る。

 24時5分前。

 秒針の動きが、やけに重く見える。


『ノックは三回、ゆっくりと』


 ……ごくり。


 喉が鳴る。


 あの声。

 あの距離感。

 あの温度。


 夢だったか?


 そうかも知れない。

 違うかも知れない。

 どっちとも言い切れなくて気持ち悪い。


 だから。


 確認しなくちゃいけない。


「垂須さん、俺、ちょっと夜風に当たってきますけど?」


 自分でもわかるくらい、声が少し上ずっている。


「僕はもう動く元気ないから、このまま寝るよ。キーは持って行って」


「あ、はい」


 鍵を受け取る。

 ひんやりとした金属の感触。

 現実の重み。


「禁忌1:招いてはならない。鍵持ってたら適応されませんもんね」


「流石に二番底は無いと信じたい」


 その言葉に、小さく頷く。

 ……信じたい。

 でも、ウルティモだしな。

 完全に信じきれない自分がいる。


 垂須さんの介入が無いことが確定し。

 俺は、ひとりで廊下へ出る。


 静かな廊下。

 さっきまでの悪夢が嘘みたいに、普通のホテルの空気。

 ……普通、だよな?


 三階へ。

 女性部屋のフロア。

 足音が妙に響く。


 その、踊り場で。


「あ、天馬くん」


 聞き慣れた優しく甘い声。

 窓際に薄い月を背負って立つ影。

 ハナさんが、そこにいた。

 そして。

 静かに、涙を流していた。


 こんな涙、初めて見た。

 あの人はいつも全力だった。

 泣くなら大声で。

 笑うなら全身で。


 なのに、今は。

 音もなく。

 ただ、静かに。


「怖かったね?」


「それはもう」


 短い会話。

 それだけで、似た恐怖を体験をしたことが分かる。


「天馬くんはどんな夢だった?」


「李野くんが女児の声で笑って、廊下がダンジョンになって。後ろからいろんな声が聞こえて。最後サンタフェさんに裏切られました」


 自分で言ってて、意味わからんなこれ。

 でも、全部本当だ。


「ハナはね。十二時に三回ノックがあったから天馬くんきたーって思ったの。でも扉を開けたらそこに知らないバンパイアがいて、目を見られたら逆らえなくなって、がぶって喉を噛まれていっぱい血を吸われたの……」


 禁忌1。夜に招き入れてはいけない。

 なるほど。

 ちゃんとルールに沿った悪夢だ。


 でも、そのバンパイア。

 ……なんか、気に食わないな。

 理由はわからないけど。


「ね、天馬くん。天馬くんはホントに天馬くんだよね?」


 その言葉と一緒に。

 ハナさんの手が、そっと伸びてくる。

 頬に触れる。

 冷たい指先。

 でも、すぐに体温が移る。


 首筋。

 胸。

 確かめるように、怯えるように、触れてくる。

 俺は、何も言わずに、それを受け入れる。

 やましいとか、そういうのじゃない。

 ただ、ハナさんの手が冷たかったから。

 友達の温度と心拍数で、自然と受け入れていた。


 やがて、ハナさんの手が止まる。

 左胸。


「あはっ、本物だ。心臓がどくんどくんしてる!」


 笑った。

 いつもの、あの笑顔で。

 ああ。

 これだ。

 これが、ハナさんだ。


 さっきまでの涙も。

 この距離感も。

 全部ひっくるめて、この人だ。


「それで、ハナさん。俺を呼び出してしたかった話って、何?」


 なんか呪縛が解けたというか、開き直れた俺が。

 何の衒いも無く、まっすぐ聞く。

 逃げない。

 さっきの自分みたいに、勝手に変な方向に解釈しない。


「あ、あのね……」


 赤面。

 もじもじ。

 上目遣い。


「その、ね。」


 ……あ、これやばいやつ?

 やっぱりそういうそれだった?

 ともだちじゃない方向の。


 いや、でも。

 落ち着け。

 落ち着け俺。


「ハナ、すごく淋しいの…… 心が凍えそうなの…… だから……」


 ぴったり距離を詰めてくる。

 胸から太腿まで。

 押し上げるように密着。


 働け理性!

 高まれ自制心!


「お家に電話したいんだぁ」


 ……………………ん?


「でもでも、ハナはプーで。お金持ってないから電話できなくて」


 ……………………んんん?


「お金! 貸してください! 絶対返すから!」


 ホームシックか!


「あはははは」


 崩れた。

 緊張が一気に抜けて。

 笑いが止まらない。


「笑うなんてひどーい! ハナ真剣にお願いしてるのに!」


 全力でぷんぷんするハナさん。

 ああもう。

 ほんとこの人は。


 そうだよな。

 俺が空回りしてただけだよな。


 お金の話に遠慮して。

 回りに聞かれたくないから囁いて。

 それがたまたま、変な温度感をもっちゃった。

 ただそれだけ。


 それもちょっとはハナさんの解釈違いではあるけれど。

 天使とか妖精じゃなくて、人間だもんな。

 その位の後ろめたさは、あるか。


「あんな風にこそこそ話しなくても、普通に頼んでくれたらよかったのに」


「こんなこと、お父さんを亡くした無くしたこよいちゃんには頼めないし、聞かせられないし」


 あ……


 それがあったか。


 あー、俺ってノンデリだな。

 衿衣の事を気にしていながら、そっち方向の気遣いは全然無かった。

 小さなケガレ祓いでそこんとこ把握してたのにな。

 視野が狭かった。


 要反省だなぁ。



  *



「うん、あのね! ハナは元気! でも淋しかった!」


 フロント脇の公衆電話。

 ゴーストホテルマンにこっちの世界のテレホンカードめいたものを有償でお借りして、ハナさんは家族と魔道電波で繋がった。


「大丈夫。泣いてないよ! お友達いっぱいできた!」


 声がどんどん弾んでいく。


 仲の良い家族なんだな。

 こりゃ衿衣には見せられない姿だわ。

 亡父を赦す旅なんだからな。

 絶対わだかまりが起きてしまう。


「うんうん。ありがと。それじゃあ……」


 お、やっと電話が終わるのか。

 一時間。

 大体カード一枚使い切った感じだな。

 国際電話と比べてお高いのかどうなのか。


 高くてもまあ、しょうがないか。

 なんてったって異世界だし。


「それじゃあ次は、お母さんに代わって?」


 …………なんですと?



  *



 一時間後。


「うんうん。大丈夫だから。それじゃあ……お爺ちゃんに代わって?」



  *



 一時間後。


「うんうん。大丈夫だから。それじゃあ……お婆ちゃんに代わって?」



  *



 一時間後。


「うんうん。大丈夫だから。それじゃあ……お兄ちゃんに代わって?」



  *



 一時間後。


「うんうん。大丈夫だから。それじゃあ……ポチに代わって?」


「ポチはダメだろ!」



  *



「あ、おふくろ。オレオレ。天馬だけど。……うんそう。まだ異世界。で、急なお願いで悪いんだけどさ。ゆうちょの例の口座に、仕送りを前借り、できないかなぁ? や、無駄遣いじゃなくて。ちょっと必要経費っていうか……とにかくその、お願いしますお母さま!!」



  *



 そして翌朝、朝食後。


「荷物は全部持って、運動できる恰好で来てください。無い人には体操着とジョギングシューズを貸し出します」


 クイズの時間がやってくる。




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