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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第七BF:ヌー マラソンクイズおそろしや

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ノックは三回。ゆっくりと 2


 ミイラ男のウエイターが慇懃にメインディッシュを持ってきた。


 布でぐるぐる巻きにされた腕の動きは妙に滑らかで、ぎこちなさが一切ない。

 包帯の隙間から覗く暗がりに視線を向けると、そこに目があるのかどうかすら分からないのに、確かにこちらを見ている気配だけは感じる。

 それでも動作は一流のホテルマンそのもので、銀の蓋を持ち上げる所作ひとつ取っても、やけに洗練されていた。


「こちら魂のてんぷらでございます」


 さらりと出てくる単語が怖い。

 料理名として成立しているのが一番怖い。


「これこれ! これが食べてみたかったのよ」


 椰子泉さんが珍しくはしゃいでる。


 その声音はいつもの落ち着いたものより半音高くて、目もきらきらしている。

 異文化に対する好奇心なのか、それとも単純に珍味への興味なのか。

 どちらにしても、この状況でそれを楽しめるのはすごい。


 空にしたジョッキは「生命の雫」なるエール。


 ……エールでいいんだよね?


 見た目は普通の琥珀色。

 でもグラスの内側に、時折きらりと光る粒子が浮かんでいるのが見える。

 泡も、なんというか……少しだけ粘度が高い気がする。


 飲んだらどうなるのか。

 飲んだあと、自分は自分のままなのか。

 そんなことを考え始めるとキリがない。


「まむまむ」


 衿衣が静かに味わっているのが許可された二足獣鍋。


 いくら許可されてても二足はアカン!


 って衿衣を止めにかかったところ、二足歩行化したグリズリー系モンスターだと説明があってほっとした。


 カンニバリズムは流石に勘弁。


 鍋の中では、しっかりと火の通った肉がぐつぐつと煮えている。

 見た目は普通の肉料理だ。

 普通の、という言葉の定義が少し揺らぐが。


 衿衣は一切動じることなく、淡々と箸を進めている。

 こういう時のあいつは強い。


 で、俺が頂いてるのがブラウンシチュー、精気を混ぜ込んで。


 我ながら攻めた逸品だと自負している。


 スプーンで掬うと、濃厚なとろみ。

 香りはビーフシチューに近いけど、その奥にほんのりとした何かがある。

 甘いような、鉄っぽいような、不思議な匂い。


 一口含むと、舌に絡みつくコク。

 そして遅れて、鼻に抜ける刺激。

 精気、ね。

 これがそうなのか。


「天馬くん交換しよ、交換!」


 ハナさんがホワイトシチュー(※精気込み)を掬ったスプーンを差し出してくる。


 これは?


 もしや?


 あーんというやつ?


 本当に距離感バグってるな、この人は。


 距離というか、壁というか。

 そういうものを一切感じさせない動き。

 自然体でここまで来られると、拒むほうが不自然に思えてくる。


「冷めちゃうよ?」


「あーん」


 それを見て椰子泉さんが苦笑する。


「寿美子が見たら呪いそうな光景ね」


 双滝寿美子。

 第4BPで散ったカースメーカー。

 幸せなカップルを羨まずにはいられない嫉妬の化身。

 清楚な外見してるんだから、男人気はあったんだけどな。


 ここに彼女がいたら、確かに呪詛の一つや二つ飛んできそうだ。

 いや、十や二十では済まないかもしれない。


「どう? どう?」


「精気がまろやかすぎるかな。普通のクリームシチューとして頂く分には、十分美味しいんだけど」


「わー、意見がグルメだー。じゃあブラウンをちょうだいちょうだい?」


「あ、好きに掬ってどうぞ」


「天馬くんがあーんしてくれないと交換じゃないもん」


「あ、それじゃあどうぞ」


「あーん?」


「あーん」


「寿美子じゃなくても呪いたくなるかな?」


「まむまむ」


 ハナさんの無自覚な舌が官能的に動く。

 スプーンを受け取る仕草も、咀嚼の仕方も、いちいち無防備だ。

 見ている側が勝手に意識してしまうタイプのそれ。


 ……だからこの人は危険なんだ!


 だけどともだちだからね、「ともだち」。

 その距離感は大事にしたい。


「まむまむ」


 この子がここにいる以上、この子を意識しちゃってる以上。

 ハナさんは「ともだち」。


「あ、来たよつーんと来た!」


「鼻に抜ける感じ、強いでしょ?」


「ミルク混ぜたい!」


「それじゃあホワイトと変わんないよ」


「私も食べ比べたい」


 鍋を底まで綺麗に平らげた衿衣が自らのレンゲを構えて参戦宣言。


「「はい、どーぞ」」


「ちゅるちゅる」


「……なんかあなた達って三人で完成されてるわね」


 呆れと感心をミックスさせた声で椰子泉さんが目を細める。


 俺ですら感じ取った。

 その表情から滲み出る一抹の淋しさを。


 双滝さん、大渓さん、後さん、塩湖さん。


 いわゆる「大人組」という名の飲み仲間たちは、すべて日本へと帰されて。

 いまの椰子泉さんは一人だと。

 そういうのを敏感に察して、迷いなく飛び込むのが、ハナさんという女性だ。


「ともだち?」


 俺たちをスプーンで指して、ほら来たぞ。


「「ともだち」」


 当然の如く唱和する俺と衿衣。

 椰子泉さんの目が泳ぐ。


 だが残念だったな雪花、もう手遅れだ。

 次はお前の番!

 ハナさん時空に引きずり込めぇ!


「セッカさんもともだち!」


 このテンポ、この距離感。

 気づけば自然と巻き込まれている。

 抗う余地がない。


「「ともだち」」


 だから抗わずに唱和する。

 絶対悪いことにはならないから。


「私の周り、こういうノリってなかったんだけど……」


 椰子泉さんはため息を一つ零すと。

 三杯目となるエールのジョッキを掲げて、言った。


「ともだちに」


 俺たちもドリンクの器を掲げて唱和した。


「「「ともだちに!」」」


 グラスが軽く触れ合う音。

 その響きが、この不穏な街の中ではやけに明るく感じた。


 このハナさんのあけっぴろげな牽引力たるや。

 これで25歳だなんてとても……

 無邪気さと大人っぽさが同居してる。

 そのバランスが、周囲の空気を一気に柔らかくする。


 と、その時。


 膝の上に置いてあった左手に、ふわり。

 あたたかな感触。

 何事かと思って視線を下にやると、ハナさんの手が重なっていた。


 指が絡む。


 柔らかい。


 そして、しっかりとした力で逃がさない。


「ハナさん……?」


 そうしたらハナさんは、俺の耳に顔を寄せてきて。

 吐息がかかる距離で、囁いた。

 声は、ほとんど空気に溶けるくらい小さい。


「今夜十二時。 会いに来てくれないかな……?」


 今まで聞いたことのない切なげな囁き。

 背筋がぞわりと泡立つ。


 冗談じゃない。

 さっきまでの軽さとは、まるで別物の声音。

 一瞬で、空気の温度が変わる。


 冗談じゃない、よな?


「ノックは三回。ゆっくりと」



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