第六BF:スピリットフォレスト 3
クイズは進む。
テンポが上がっている。
問題の難度だけじゃない。
空気そのものが加速している。
誰かが押す。
誰かが答える。
正解か不正解か。
その一連の流れが、もう呼吸みたいに繰り返されていく。
「荒火くん」「ゲシュタルト崩壊」ぴんぽん!
迷いがない。
言葉がそのまま答えとして飛び出してくる。
「港ヶ陸くん」「アンバサダー」ぴんぽん!
精霊の動きと、本人の知識。
その噛み合いが、見ていて気持ちいいレベルに仕上がってる。
「茂侍くん」「ええじゃないか」ぴんぽん!
あの茂侍が。
理詰めの塊みたいなあいつが。
ちゃんと流れに乗っている。
「墨市くん」「ロンリーウルフマン」ぴんぽん!
影がすっと伸びる。
音もなく、正確に。
無駄がない。
クイ研上位三人に茂侍が絡む。
最初は一歩遅れていたはずの男が、
いつの間にか同じ土俵に立っている。
いつメンも負けてはいない。
「垂須くん」「村長最高!」ぴんぽん!
「舞網さん」「えっとー……日本っ!」ぴんぽん!
「モーリー様!」「『アザトース』」勝利の交響曲!
最後の世界観違うやん。
黄石も無意識に様付けで呼んでるやん。
誰もツッコまないのが一番怖い。
ひょっとして頭おかしくなってるのは俺だけなのか?
啓蒙高まってないか?
『大丈夫ですよ。貴方は正常です』
お姫様に正気に太鼓判を押してもらえたぞ!
わぁい!(語彙消失)
そして十一問目。
もう、衿衣を除く解答者は全員。
「問題。」
のコールがあったら精霊をダッシュさせるようになった。
考える前に動く。
迷う時間の間に、押せる体制を確保しに行く。
それがこの場での最適解だと、もう全員が理解した。
俺も迷わず鳥ちゃんを飛ばす。
たった10数メートルの距離なら、俺と鳥ちゃんは意志疎通できる。
言葉にしなくても、意図が通じる。
これは大きなアドバンテージ。
誤解ない完璧なタイミングで押せる。
『絆』
『そうだね、俺と鳥ちゃんの絆だ』
『ふふん』
ちょっと誇らしげな返答。
かわいい。
「上級政令指定都市とは――」
来た。
知識問題。
でも、この番組でそのままはまず来ない。
① 定義で短く問われるか?
② ここから長文で捻ってくるか?
③ 都市名を列記したあとに穴を埋めさせるか?
どれが……
思考を巡らせる。
選択肢を並べる。
その間にも時間は進む。
「人口何――」
これは①の流れ!
迷いが消える。
『ゴー!』
鳥ちゃんは即座にボタンを押す!
迷いがなかった分、動きも速い。
「市籠くん!」
「110万」
ぴんぽん!
胸の奥で何かが弾ける。
読み切った感触。
達成感。
「人口何人以上が必要か。よくわかったな新人類!」
「先読みあたりました」
素直に答える。
変に取り繕う必要はない。
「垂須お前! 公務員お前! 自分の勤務先でしょうが!」
「いいから次の問題!」
今日も戦闘モードの垂須さんは元気にイラついておられる。
もう慣れた。
むしろそうでなくちゃの想いすらある。
『やった』
『ありがと』
鳥ちゃんとのほのぼの会話で心を潤す。
一語だけ。
でも、その一語の間で呼吸が整う。
あと一ポイント。
勝ち抜けが見えてきた。
「こっちほら、ホームホーム」
大渓さんが迷走する鼠を大げさな身振りで呼び戻してる。
苦労してるなぁ。
あの人、何でもそつなくこなす雰囲気あったんだけど。
や、人の事は今はいいや。
自分のことに集中しろ。
俺もリーチがかかってるんだ。
集中力を切らさず行こう。
「問題。」
十二問目のコールと共に一斉に精霊たちがダッシュ開始。
一斉に、というより、反射。
ふらふらになった李野くんが笑顔でハットをかぶりなおす。
ギリギリの状態でも楽しそうなのが、あいつらしい。
衿衣がスナイパーライフルが如く左腕を早押し台に向ける。
ぶれない。
一切の揺らぎがない。
「岡山民謡「でもっちゃこ」で――」
あ、これは分からんやつだ。
聞いたことすらない。
が、どう曲げてくるのかわからんのがウルティモ。
プログラム言語から音の類似性だけで元素記号まで振ってきたからな。
一応理解脳は休ませずに……
「女性踊り手が被る花笠の事を」
「ママ!」
茂侍が祈った。
命令じゃない。
指示でもない。
呼びかけ。
他の精霊が誰も動いていない早押し台。
その中央にあるボタンに茂侍のママはふわりと着地して。
ぽーん!
軽い音。
でも、その一撃が全てを決めた。
「茂侍くん!」
「もっちゃもっちゃのもっちゃ!」
ピンポンピンポンピンポン!
勝ち抜けコール音が高らかに響いた。
一瞬、場の空気が止まる。
そして、黄石が爆発する。
「一抜け! おめでとう!」
茂侍の肩に飛び乗ってほおずりする妖精型精霊、ママ。
あの「ひらひら」が。
あの掴めなかった存在が。
今はしっかりと寄り添っている。
茂侍は彼女の背中を愛おし気に撫でると、俺に向き直り。
「先生ありがとうございました!」
45度最敬礼!
おい。
やめろ。
ほんとにやめろ。
「なんだぁ茂侍くん。その先生っていうのは?」
ああっ黄石に嗅ぎつけられた。
これ絶対ネタにされるやつ!
だから先生とか呼ばないように言い聞かせたのに!
『ふふっ、先生?』
鳥ちゃんも楽しまないで。
俺のバディでしょ!?
「精霊と親和できなかった俺に、市籠先生は道を示してくれたんです! この勝利は先生の献身無くしてはありませんでした!」
言うなって。
全部言うなって。
「感動的な話じゃないか!」
じゃあその愉悦に満ちた目を辞めろ。
カメラから見えない角度だからって舌なめずりすんな。
「でも市籠ぉ。お前にそんな他人を気にしてる余裕、あるのかぁ?」
来た。
この感じ。
逃げ道を塞いでくるやつ。
なんかどう答えても、もう一段イジワル仕込んでくる雰囲気あるな。
じゃあ、もう。
変に奇なんか衒わないで。
テレビ映りなんて気にしないで。
正直に言っちゃうか。
「旅の仲間なので」
言葉にした瞬間。
自分でも少し驚いた。
でも、しっくり来た。
一瞬、黄石の呼吸が止まり。
その瞳が切ない光を灯し。
でも声色を変えることなく。
俺をヘッドロックして、こう言った。
「新人類卒業だなこの野郎!」




