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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
一次予選:二万四千分の百! ハリスタマルペケクイズ

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9/121

一次予選通過者ガイダンス 3


 ドアを開けた瞬間、空気が変わった。

 さっきまでの会議室のざわつきが、きれいに切り取られてる。


 小さな机が一つ。

 向こう側に―― 閑君(かんくん)総合プロデューサー。

 さっき栞を読み上げてたやつ。


 近くで見ると、印象が違う。

 背は高くない。むしろ低い。

 でも、詰まってる。

 肩幅と首の太さで、全体がぎゅっと固まってる感じ。

 白髪交じりの短髪。

 無駄がない。


 そして顔。

 輪郭がごつくて、目と口が前に出てる。

 カミツキガメ、って言葉が浮かぶ。

 静かに噛みついてくるタイプ。


 その横に、ビデオカメラ。

 赤いランプが回ってる。


 ――やっぱりか。


 座るように促されて、椅子に腰を下ろす。

 机の上には紙とペン。

 閑君は紙を見ていない。

 こっちを見たまま、ペンを持っている。


「この面談の目的は、あなたという人間を知ることにあります」


 いきなり結論から来る。

 声は一定。

 上がりもしないし、下がりもしない。

 丁寧なのに、温度がない。


「では、始めます」


 ペンが動く。

 紙面を見ないまま。

 カリカリ、と音がする。

 視線はずっとこっち。


「なぜ、このクイズに参加したのですか」


「えっと…… 友人に誘われて」


「そのご友人のお名前は」


「港ヶ陸穂積です」


「彼はクイズ経験者ですね」


「はい」


「あなたは?」


「……経験ないです」


 ペンが止まらない。

 目も逸れない。


「では、なぜ参加したのですか」


「いや…… だから、誘われて」


「断らなかった理由をお聞きしています」


 かぶせてくる。

 間を与えない。


「……なんとなく、です」


「なんとなくとは、どういう意味でしょうか」


 来た。

 この感じ。

 言葉を逃がさない。


「……深く考えてなかった、というか」


「考えないことを選択された、という理解でよろしいですか」


「いや、選んだというよりは……」


 うまく言えない。

 でも待ってくれない。


「君は就職活動中だとおっしゃっていましたね」


「はい」


「順調でしょうか」


「……あまり」


「それはなぜですか」


 短い。

 でも逃げられない。


「面接が…… うまくいかなくて」


「具体的には、どのように」


「その……」


 詰まる。

 視線が揺れる。

 でも戻される。

 あの目に。


 乾いた目。


「現在も同様に見受けられますが」


 静かに刺してくる。


「……はい」


 肯定するしかない。


 ペンが走る。

 紙は見ていない。

 それでも書いている。

 どうやって書いてるんだ、これ。


「あなたは、自分をどういう人間だと認識していますか」


 また来た。

 大きいやつ。


「……普通、だと思います」


「普通とは、どのような意味でしょうか」


 さっきと同じ。

 でも同じじゃない。

 ぐるぐる回る。


「特に……特徴がないというか」


「先ほどは考えないとおっしゃっていましたね」


 拾ってくる。


「それは特徴ではありませんか」


 逃がさない。


「……そうかもしれません」


「では、あなたは「考えないことを選ぶ人間」という認識でよろしいですか」


 言い方を固定される。

 違う気もする。

 でも否定できない。


「……わかりません」


「わからないとは、一体なぜですか?」


 終わらない。

 同じ場所を、少しずつ削られる。

 取調室ってこんな感じなんだろうな。

 知らないけど。


 同じ質問。

 違う角度。


 少しでもズレると、そこを突かれる。


「先ほどの回答と、微妙に異なっていますね」


 やっぱり来る。

 どこでズレたのか、自分でも曖昧だ。

 でもズレてるらしい。

 直そうとすると、また別の言葉で詰められる。


 ループ。


 カメラの赤いランプが、やけに目に入る。

 音は、ペンの音だけ。

 カリカリ、カリカリ。

 逃げ場がない。


「あなたは、自分をどういう人間だと認識していますか」


 また同じ質問。

 何回目だこれ。

 頭の中が少しずつ擦り切れてる。

 考えるのが面倒になる。

 言葉を選ぶのも、整えるのも。

 俺はマジで返答してたつもり。

 俺の中から言葉を絞り出してたつもり。


 でも、それが通じないのなら。

 それが気に入らないっていうのなら。


 他人が張ったレッテルを。

 おっさんどもが理解できない若者をより分けたカテゴリで。

 自分を定義するしか、ないじゃんさ。


「……新人類、ですかね」


 一瞬、空気がわずかに揺れた。

 ほんの一瞬だけ、閑君の眉がぴくっと動く。

 でも、それだけ。


 表情は変わらない。

 目も変わらない。

 ペンも止まらない。


「新人類とは、どのような定義でしょうか」


 それでもか。

 お前らマスコミが仕訳けたであろう流行語でも、終わらせてくれないか。


 普通に続けてくる。

 なかったことみたいに。

 いや、ちゃんと拾ってる。

 逃がしてない。


 新人類って言葉を。

 お前がどう受け止めて。

 どう理解しているのか。

 そこまで掘り下げてくる。

 掘り下げさせにくる。


「なんか、こう…… やる気がないっていうか」


「やる気がない状態を指すのですか」


「いや…… そういうわけでもなくて」


 説明できない。

 でも突っ込まれる。

 いつも通り。

 そこからまたループに戻る。


 質問。

 回答。

 否定。

 再質問。

 繰り返し。


 頭が重くなる。

 言葉を選ぶのが面倒になる。

 でも選ばないと突っ込まれる。


 また選ぶ。

 また違うと言われる。


 ああ、疲れる。


 ドームで立って、歩いて、叫んで。

 黄石に目をつけられて。

 やっと終わったと思ったらこれだ。

 帰りたい。

 家に帰って、何も考えずに寝たい。

 ぼんやりしたい。


「――気を抜かないでください」


 同じトーン。

 でも、はっきり届く。

 逃げかけた意識を引き戻される。


 ああ、逃がしてくれない。

 もう、取り繕う余裕がない。

 言葉を整える気力もない。


 そのまま出る。


「……俺、逃げてる方だと思います」


 ぽろっと出た。

 出しちゃいけないやつが。


 いけないやつなのに。

 一旦零れちゃったら。

 もう、止める気力がない。


「何から逃げているのですか」


「……責任、とか」


 後さんと塩湖さんの顔が浮かぶ。


「先ほど、同席されていた方の影響でしょうか」


「……はい」


 短くなる。

 言葉が雑になる。

 でも直せない。


「ちゃんと…… 背負ってる感じで」


「それに対して、君は」


「無理だなって…… 思って」


 息が少し荒い。

 疲れてる。


「逃げている、と」


「……はい」


「それをあなたは、どのように感じますか?」


「……情けないな、って」


 そのまま出る。

 考える余裕がない。


 閑君は黙る。

 ペンだけが動く。

 視線は変わらない。

 ずっとこっち。


 そして、やってきた。

 この取り調べが始まってから、初めての沈黙が。


 時間が伸びる。


 やがて、閑君が口を開く。


「君は、本当に普通の青年なのですね」


 評価なのか、ただの確認なのか。

 わからない。

 ペンの音が、止んだ。


「いい素材です」


 ――素材。


 一瞬引っかかる。

 でも考える余裕がない。

 頭がぼんやりしてる。


「以上です。戻っていただいて構いません」


 終わり。

 急に。

 圧がふっと消える。


 立ち上がると、足が重い。

 ドアに手をかける。

 開ける。


「失礼しました」


 廊下の空気が軽い。

 やっと出られた感じ。


     *


 会議室に戻ると、さっきまでの熱気が嘘みたいに引いていた。

 机と椅子だけが残ってる。

 文化祭の後みたいな静けさ。

 その中で、一人だけ残ってるやつがいた。

 港ヶ陸穂積。

 俺をこんなところに引きずり込んだ元凶。


「おーい」


 穂積が、こっちに手を振ってる。

 それだけで、少し楽になる。

 近づくと、向こうが笑う。


「遅かったな」


「いや……長くて」


 椅子に腰を下ろす。

 力が抜ける。

 なんか、助けられた感じがする。

 差し出されたスポーツドリンクを、一気に飲み干す。


「どうだった?」


「取り調べみたいだった」


「は?」


 素で返される。


「同じこと何回も聞かれてさ。答え違うと突っ込まれるし」


「マジで?」


 眉をひそめる。


「俺んとこ、普通だったけどな」


「普通?」


「通り一遍。軽く経歴聞かれて終わり」


 拍子抜けした顔。


「ディレクターっぽい人でさ。まだ20代じゃないのかって感じの」


 なるほど。

 差がある。


「そっちはクイズ経験者多かった?」


「ほとんどそうだな」


 やっぱり。

 仕分けられてる。

 あの面談も、その一環。


 ――選別。


 まあ、いいか。

 考えても仕方ない。


「帰るか」


「だな」


 二人で外に出る。


 夜の空気。


 少し涼しい。


 パーカー持ってくれば良かった。


 歩きながら、穂積が言う。


「あ、そうだ」


「ん?」


「六日後、空いてるだろ?」


「たぶん」


「関西のクイズソサエティーがさ、予選突破者集めて強化合宿やるんだよ」


「クイズソサエティー?」


「荒火が立ち上げた…… まあ学校の枠を排したクイズ研究会みたいなもんだよ」


「ほーん」


「お前も参加な。荒火も了承済み」


 軽いノリで強引。

 いつも通りの事後承諾。


 少し考える。

 面倒くさい。

 でも断る理由もない。

 断る方が面倒くさい。


「……まあ、暇だしな」


「決まりな」


 穂積が笑う。

 楽しそうに。


 俺も笑う。

 楽しいわけじゃないけど。


 穂積がここいいてくれるから。

 俺はまだ、笑顔が作れてる。


 ――流されてるな、俺。


 でもまあ、今はそれでいいか。


 たぶん。


毎日19時投稿になります。


音楽立身ファンタジー『トルバドーれ!』もよろしければ。

https://ncode.syosetu.com/n8904lw/

全154話予約投稿済み。

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