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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
二次予選:奪え3カウント! ナリタレアジャンケンリング

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京都クイズ合宿 1

 嵐山の寺は、観光パンフに載るような顔をしているくせに、中に入ると完全に別の競技会場だった。

 

 畳の匂いがやけに生々しくて、床板は嫌に硬くて、座布団はなんだか湿ってて。

 窓の外の竹林が妙に整いすぎていて、逆に落ち着かない。


 で、俺は今、そのど真ん中で、足を組んでいる。


 正直に言うと、座禅ってもっと静かな罰ゲームだと思っていた。

 動いてない。

 少なくとも、俺の自己申告では。

 でも。


 ――トン。


 肩に、細い棒が優しく触れた。

 またか。

 反射的に頭を下げる。


 ――パン!


 乾いた音が、やけに響く。

 これで何度目だろう。

 痛み自体は、まあ、部活のしごきとかに比べたら大したことない。

 問題はそこじゃない。

 なんで当たるのかが分からない。


 俺、動いてないぞ。

 たぶん。

 いや、動いてないはずだ。


「あいたっ!」


 二つ隣から、間抜けな声が上がる。


 波名真(ぱなま)―― たしかそんな名前だったか。

 大学一年だとか言ってた、ちびっこくて元気溌溂なクイズプレーヤー。

 あいつが警策食らうの、もう十回目くらいじゃないか。

 さっきから、まるで反復横跳びみたいに打たれてる。


 そう、反復横跳びな。


 波名真は左のライン。

 そんで俺が右のライン。


 ――トン。


 また来た。

 肩に、優しく触れる感触。

 いやいやいや。

 だから動いてないって。


 呼吸も整えてるし、雑念も……

 まあ多少はあるけど、そんなの全員あるだろ。

 むしろ、これで無心になれるやつのほうが信用できない。


 なんでこの坊さん、人の心の乱れを読むんだよ。

 テレビのドッキリじゃないんだから。


 ――パン!


 思考ごと、叩き割られた。

 その反動で、ほんの少しだけ視線が横に流れる。

 で、見えた。


 荒火徹童(あらすか・てつどう)。


 あの黒革の塊。

 寺で本職を背に座禅組んでるのにやっぱりオール黒革。

 男は黒に染まれというテーゼ。

 姿勢が、やたらと安定している。


 というか、動いてないとかそういう次元じゃない。

 あいつだけ、最初から「完成形」を置いてきたみたいな座り方をしている。

 背筋が一本の棒みたいに通っていて、呼吸も外からじゃほとんど分からない。

 さっきから一度も、警策が触れてない。

 いや、触れる気配すらない。


 ……おいおい。


 あの見た目で、精神まで仕上がってるのかよ。

 ちょっと反則だろ、それ。


 さらにその向こう。

 港ヶ陸穂積(みなとがおか・ほつみ)。

 こっちも負けてない。


 背筋は自然に伸びていて、肩の力も抜けている。

 無理して作ってる感じがないのに、崩れない。

 しかも、こいつも一度も叩かれてない。


 なんだこの東西対決。


 片や黒革のライオン、片やテクノカットの優等生。

 どっちも、静かに勝ってる。

 で、俺と波名真だけが定期的に処理されている。


 ……なんか、ポジションが雑だな。


 そういえば。


 この二人の関係、どっかで聞いた。

 京都へ向かう新幹線の中で、白樫部長がぽつっと言ってたやつだ。


 『港ヶ陸と荒火は、いわば東西の雄なのです』


 あのときは、正直ピンと来てなかった。

 雄って言われても、動物園の話じゃないんだからって感じだった。


『港ヶ陸は個人で戦うタイプですが、荒火は違います。関西のクイズ界そのものを背負っているのです』


 背負うって、どういう意味だ。

 そんなもん、サークルの延長線上だろ。

 ――と思っていた。


『彼は、「王(キング)」を自称しているのですよ』


 キング?

 マジかよ。

 きょうび、少年漫画でももっと捻った二つ名をつけるぞ。

 二十歳過ぎてそれは、ちょっと痛いだろ。

 就活の面接で言ったら、確実に落とされるやつだ。


 ……って、そのときは軽く流した。


 でも。

 合宿が始まって、すぐに分かった。

 ああ、これは。

 王かどうかはともかく。

 少なくとも、支配者ではあるな、と。


 駅前での合宿集合の時。

 関西の連中が、自然とあいつの周りに集まっていた。

 指示しているわけでもないのに、動きが揃う。

 問題の議論も、最終的にはあいつの一言で収まる。

 誰も逆らわない。

 いや、逆らう必要がないって顔をしてる。

 納得してるんだ、あの采配に。


 「関西でやっている」どころじゃない。

 あれはもう、「関西を支配している」の間違いだ。

 謙遜にもほどがある。


 ……まあ、本人は別に謙遜してない気もするけど。


 ――パン!


 また現実に戻される。


 そろそろ肩の感覚が無くなってきたんですがねぇ!?



 *



 昼飯時。

 写経室は、さっきの静寂が嘘みたいに騒がしい。


 墨の匂いと、カップ麺の湯気と、紙の擦れる音が混ざって、なんかもう、修行なのか文化祭なのか分からない空間になっている。


 俺はというと、膝の上に弁当箱を置いて、箸を動かしながら、問題用紙をめくっている。


 ……めくっているだけ、と言ったほうが正確かもしれない。

 頭の中が、さっきの警策みたいに、軽くしびれてる。


「上の空だな」


 横から、いつもの声。


 穂積は、すでに三枚目のペーパーに入っている。

 箸の動きと、鉛筆の動きが同時に成立してるあたり、なんかもう人種が違う。


「というか、しんどい」


 正直に言うと、ちょっと楽になる。


「もう二百問近くやってるぞ、これ」


「機内四百問対策だ。まずは頭の持久力をつけないとな」


 さらっと言うけど、その「四百問」って数字、普通の生活ではまず遭遇しない単位だと思う。


「こんなの、もう競技だろ」


「遊びでないのは確かだな」


 穂積は、少しだけ笑った。


 こういう顔を見ると、こいつは本気なんだな、と分かる。

 分かるけど、こっちはまだ、そこまで温度が上がってない。

 いや、上げる気がないというか。

 上がらないだろうな、と予想済みというか。


「どうですか、その百問は」


 背後から声。

 振り向くと、瓶底眼鏡の色白な男が立っていた。

 寝不足なのか、元からなのか判断に困る白さ。

 瓶底眼鏡の向こうで瞳が歪んでいる。


「どうですかって……」


 難しいかどうか、ってことか。

 難しい。

 そりゃ難しい。

 でも、それだけじゃない。


 問題文をもう一度見直す。

 前半で「この流れならこの質問だろ」と思わせておいて、後半でひっくり返す。

 なのに、日本語としてはちゃんと通ってる。

 なんか、嫌らしい。

 いや、違うな。

 手が込んでる。


「設問の言い回しが厳しい。前半で予想した質問と違うのに、文章として破綻してない」


 まあ、飽きない程度には面白いよね、問題。

 かならずどこか捻ってる。

 なんて。

 口に出してから、ちょっとだけ後悔する。

 なんか、通ぶった感じになってないか。

 俺、クイズ素人なのに。

 このクイズ猛者であろう男に向かって。


 でもまあ、事実だし。


「関東の雄のご友人にそう評して頂けるとは光栄。励みになりますな」


 顔色の悪い男が、軽く頭を下げた。


「あなたは?」


「あ、初めましてででしたね。私は李野。李野幸節と申します」


 やけに丁寧だ。


「ご丁寧にどうも。市籠天馬です」


 名乗り返すと、横から穂積が口を挟む。


「市籠、今日のこの問題な、三百問はこの李野が作ってるんだ」


「……さんびゃく?」


 思わず、声が裏返る。


 いや、待て。

 冷静に考えろ。

 誰かが問題を作らないと、クイズなんて成立しない。

 当たり前の話だ。

 当たり前なんだけど、数字にされると急に現実味が出る。


 三百問。


 それ、ほぼ一日分の俺の苦行じゃないか。


「私、クイズ作家目指してまして」


 李野くんは、さらっと言った。

 そういう商売もあるのか。

 テレビの向こう側の人間、って感じだ。


「俺たちが修行に集中できるのも、作家の皆さんのお蔭なんだ」


 穂積が、珍しく真面目な顔で言う。

 こういうところ、ちゃんと筋通してくるんだよな。


「縁の下の力持ちですね」


 俺が言うと、李野くんは少しだけ照れた。


「では、サポートとして合宿に参加を?」


 李野という男は整っていない後ろ頭をぽりぽりと掻くと。


「やはは…… それが私、通っちゃいまして。補欠合格」


「おお」


 素直に声が出る。


「補欠七番目だったんで、どうかなーとドキドキしてたんですけど、結果として一緒に旅ができるようです」


 旅、ね。

 まだその言葉に、実感がついてこない。


「お手柔らかに、李野くん」


「こちらこそ」


 軽く会釈を交わす。


 穏やかな雰囲気の男だ。

 殺気立ってないというか、体温が熱すぎないというか。

 なんかこいつとは友達になれる気がする。


 周りでは、まだペンの音が止まらない。

 カリカリ、カリカリと、一定のリズム。

 まるで、全員で同じテープを巻き戻してるみたいだ。

 その中で、俺だけがちょっとだけ再生速度を間違えてる。


 そんな感じ。


 ……まあ、いいか。


 とりあえず、目の前の四択を埋める。

 それくらいなら、今の俺でもできる。



7/18日は10話~12話までを投稿

12話投稿は19:40


音楽立身ファンタジー『トルバドーれ!』もよろしければ

https://ncode.syosetu.com/n8904lw/

全154話予約投稿済み

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