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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
二次予選:奪え3カウント! ナリタレアジャンケンリング

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京都クイズ合宿 2

 

 夜の本堂は、昼間とは別の顔をしていた。


 昼は紙と鉛筆の音で満ちていたのに、今は寝袋と布団が無秩序に広がっている。

 雑魚寝ってやつだ。

 修学旅行を思い出すような、思い出さないような。


 ただ違うのは、その中央。

 みんなが端に布団を寄せたせいで、ぽっかり空いたスペースに――


「「「「おおおっ」」」」


 妙な歓声が上がった。

 どどん、と置かれている機械。

 なんかの実験装置みたいな箱に、マイクがついてるだけの簡単なものだ。

 でも、その場の空気は完全に「新兵器導入」だった。


 で、誰かが言う。


「大声測定機です」


 ……は?

 大声測定機?

 なにそれ。

 初めて聞いた単語なんだけど。


「キング! 工学部の奴らの尻を叩いて、ようやく完成までこぎつけました!」


「ご苦労だったな、茂侍」


「恐縮です我が王!」


 おー、お目目きらきらだわ。

 この茂侍ってやつ、マジで荒火を尊敬してるんだな。

 まるで舎弟だ。


 いや、舎弟っていうか、家臣というか。

 とにかく、あの黒革の塊に向ける視線が、完全に信者のそれだ。


「そいじゃあ早速」


 と、誰かが前に出ようとした瞬間。


「勝手に触るなボーイ!」


「ボーイって呼ぶな!」


 ああ、あいつか。

 昼間、警策で叩かれまくってた波名真。

 ひょこっと機械に手を伸ばしただけで、烈火の勢いで茂侍に止められてる。


 で、ボーイ。

 それ、あだ名か?

 ぷぷ。

 名は体を表すって、こういうことか。


「さ、わが王よ、第一声を、高らかに」


「わかった」


 成程。

 茂侍は、最初の一声を荒火にやらせたかったわけだ。

 なんというか、分かりやすい。

 あいつにとっては、それが一番のご褒美なんだろうな。


 ところで。


「ねえ白樫部長」


「なんですかな?」


「大声測定機って、何につかうの?」


 ――ざわっ。


 空気が、一瞬で変わった。


 あれ。

 そんなに変なこと聞いたか?


「えっ何言ってんのあいつ」


「予選突破者だろ?」


 ひそひそ声が、やけに耳につく。

 関西の連中だ。

 なんだよ、その「常識だろ」みたいな顔。

 知らねえもんは知らねえよ。

 テレビ、そんなに見てないし。


「ぐるりウルティモにはですな、必ず【大声クイズ】があるのですよ」


 白樫部長が、いつもの調子で説明してくれる。


「早押しボタンの代わりに、声に反応する装置なのです」


 成程。

 ボタンの代わりが声。

 だから、大声測定機。

 分かりやすい。

 そして、めんどくさい。


 勝ち進んだ先の形式まで、もう対策してるわけか。

 先まで考えてるなー。

 本気で勝ちにきてるんだなー。

 ……いや、今日一日で何度も思い知らされてるけど。


「我がソサエティーに栄光あれ!」


 ポーン!


 「ティー」くらいで、荒火の頭上――正確には機械のランプが弾けた。


 感嘆符みたいに光る。

 通った、ってことか。


 声、通るな。

 腹から出てる。

 なんか、舞台役者でもいけそうな響きだ。


「茂侍、設定甘いんじゃないか?」


「このくらいの感度でいいと思いますが……キングが凄すぎるんですよ」


「そうか」


 キング。

 その呼び方にも、だいぶ慣れてきた自分がちょっと嫌だ。

 荒火は、さっさとお立ち台から降りる。


 で、次に目を向けたのが――


「港ヶ陸、やれ」


 いきなり命令形。


「あんたに命令されるいわれはないんだがな」


 即、返す。


「王の御指名を何と心得る!」


「抑えろ茂侍」


「……は」


 え、なにこのやり取り。


 荒火が命令するのも変だし、穂積が噛みつくのも変だし。

 茂侍はもう……怖い。

 この三角関係、バランスがおかしい。


「じゃあ俺が!」


 空気を読まずに飛び出すのは、やっぱり波名真。

 チャレンジ精神だけは一流だ。

 よく見ると袖から零れる二の腕に筋肉がぎゅっと詰まっている。

 あと、肩とか胸板も小さい体に似合わない厚みが感じられる。

 明らかな遊びじゃない鍛錬の跡。

 マジでなんでこいつ、ここにいるんだろうな?


「お前は【ボーイ】で」


「【俺はボーイだ】だろ?」


「【ボーイって呼ぶな!】はどうだ?」


「それいい」


「ありそう」


「「「採用」」」


 なんだこの会議。

 妙にスムーズに決まったぞ。


「んじゃ行っちゃうよ……ボーイって呼ぶな!」


 しーん。


「ボーイって呼ぶな!」


 しーん。


「ボーイ!って!呼ぶな!」


 しーん。


 ……あ、ダメだこれ。


「成程、設定は甘くなかったな」


「やっぱキングはすげえよ」


 結論早いな。


「波名真。語尾を伸ばしてみろ」


「ボーイってよぶなああああーーーーーッ!」


 ポン!


「あ、通った」


「流石は我が王!」


 茂侍、ほんとにブレないな。


「なるほどな」


「完全にわかった」


 周りも妙に納得している。

 さっきまで笑ってたのに、切り替えが早い。


「じゃあ交代、俺俺、俺やりたい!」


「ひとり2分な」


「早口言葉系は不利よな」


「でもクワさん次第だしな、絶叫ワードは」


「聞き取れない発音してても、勢いがあれば判定OKになるケース、多いよ」


 だんだん、それっぽい議論になってきた。

 ただの大声大会じゃなくて、ちゃんと攻略対象として見てる。


「では予選通過者を参加番号順で」


 進行も、やけにスムーズだ。

 こういうとこ、やっぱり慣れてる。


 そこからは、なんというか。

 普通に楽しかった。

 いや、楽しいって言うと語弊があるな。

 戦闘意欲よりもワクワク感が上に立ったというか、肩の力が一段抜けたというか。

 これなら俺でも空気を共有できる感じ。


「補欠合格してしまいましたー!」


 声の小さい白樫部長が頑張ってる。

 感嘆符が立つのに10回くらいかかった。

 でも楽しそう。


「クイズ作家になりたーい!」


 李野くんも声が小さい。

 部長程の時間はかからなかったけど。

 やっぱり楽しそう。


「男は黙ってテクノカット!」


 穂積はまさかの髪型押し。

 おまえそこ、こだわりのポイントだったのかよ。


「一応ナンバーツーなんです」


 え、誰?


「それがキングの願いなら!」


 ホント茂侍はブレないな。

 就職してからはどうするつもりなんだろう。


 妙な一体感。

 文化祭の準備の夜、みたいなやつ。


 で。

 当然のように、順番が回ってくる。


「お前は【それなりに】な」


「それしか無い」


「絶対そうなる」


「おいしいもんな、テレビ的に」


「やれ、天馬」


 あーもー。

 部長も穂積も、完全に乗っかってる。

 畜生同調圧力!

 こういうときだけ団結するなよ。


 仕方ない。

 一歩前に出る。

 マイクの前。

 昼間のペーパーとは別の緊張感。


 でもまあ、やることは単純だ。

 腹から声を出す。

 語尾を力強く伸ばす。

 それだけ。


「それなりにーーーーーーーッ!」


 ポーン。


 ……一発で通った。


 なんだ。


 意外と、いけるじゃないか。

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