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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
一次予選:二万四千分の百! ハリスタマルペケクイズ

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8/121

一次予選通過者ガイダンス 2


 会議室の中ほど、並んで座り、前方のホワイトボードを注視する100人。

 学校みたいだな、と思う。

 ただ、黒板もないし、騒ぐやつもいない。

 全員、どこか浮ついてるくせに、妙に静か。


 3人掛けのスクール型テーブル席。

 俺はその左端。

 残り2席は体格のいい年上の男たち。

 栞を回すついでに軽く挨拶。


「どうも」


 右の男は、少し日に焼けた顔で、腕が太い。

 作業着じゃないのに、そういう雰囲気が残ってる。

 手の甲に細かい傷があるのが見えた。


 左の男は、もっと日に焼けてて、短髪。

 背筋が伸びてて、眉間に深い縦皴と、険のある顔立ち。


 ――この時点で、あきらかに社会人だなってわかる。

 俺とは種類が違う。


 視線が合う。

 自然と自己紹介の流れになる。


「後(あと)。町工場と金物屋やってる」


 右の男。

 あっさりしてるけど、言ってる内包する情報量は多い。


「塩湖(しおのみ)。ゼネコンで現場監督」


 左の男。

 こっちも短く、肩書を纏めて必要なことだけ。


 で、最後に俺。


「市籠。大学生……一応、就活中」


 就活中って言った瞬間、二人の目が少しだけ変わる。


「どこ大?」


「学院大です」


「箱根の常連校だな」


 優勝はしたことないけど。


「いい大学行ってるな」


 塩湖さんが軽くうなずく。

 関東の私大じゃ上位ではある。

 だからこそ、半端な就職先では許されない風潮がある。


「ウチ来たら幹部候補になれるぞ」


 さらっと言う。

 軽口っぽいけど、半分本気のやつ。


 いや、無理だろ。

 現場監督とか、絶対無理。

 朝早くて、外で、怒鳴られて、怒鳴って…… っていうイメージしかない。

 俺の生活リズムから遠すぎる。

 何も言わずにいると、今度はアトが笑った。


「うちじゃ新卒なんてオリコ―さんは採れねぇよ」


 卑下してるようで見下されたようで。

 なんともわからないので反論も肯定もできない。

 まあ、町工場だしな。

 大学にエントリーシート回るわけもなく。

 そういうもんか、って字面通り受け取るのが丸いか。


 そのまま、二人の会話に流れていく。


「いやー参ったな。銀行から会社の金下ろせるの俺だけなんだよ」


「現場も止めらんねえしなあ。監督いなくなったら回らんよ」


 話の単位が違う。

 行くか行かないかじゃなくて、抜けたらどう回すか。

 責任の重さが前提にある。

 俺は横で聞いてるだけになる。

 別に居心地が悪いわけじゃないけど、入り込める感じでもない。


 前方で、椅子が引かれる音がした。


 自然と視線が集まる。

 さっきから前に立ってる男。


 閑君正尚(かんくん・まさなお)。


 と、言うらしい。

 ぐるりウルティモの総合プロデューサー。

 つまりは最高責任者。


 近くで見ると、やっぱり妙だ。

 表情は穏やかで、言葉も丁寧なのに、どこか温度がない。

 目だな、たぶん。

 爬虫類みたいに、乾いてる。

 笑ってるように見えて、全然笑ってない。

 その目で、こっち全員を一度に見てる感じがする。


「改めまして、第一次予選通過、おめでとうございます」


 声は静かで、よく通る。

 祝辞、ってやつなんだろうけど、あんまり祝ってる感じはしない。

 事実を読み上げてるだけ、みたいな。


 そのまま説明に入る。

 机の上の栞を軽く叩く。


「こちらに、今後の予定を記載しております」


 ページをめくる。

 ナリタレア集合、日時、場所。

 服装指定。

 荷物制限。

 そして、厳守事項。


「まず、パスポートの確認を行います」


 スタッフが動く。

 周りでバッグを開ける音。

 俺は動かない。

 持ってない。

 というか、家のどこかにあるはずだけど、ここにはない。

 岐阜の実家。

 箪笥の上段に突っ込んである気がする。


 ……取りに帰るのか。

 面倒くさいな。


「お持ちでない方は、ナリタレア集合までに必ずご用意ください」


 『必ず』。


 軽く言うけど、逃げ道がない言い方だ。

 それはそう。

 異世界は最も遠い外国。

 日本の、それもナリタレアからしか訪ねることが出来ない次元の壁の向こう側。


 二次予選は十日後。

 往復で一日仕事になるな。

 名古屋までは新幹線で行けるけど、そこからの中央本線が長い。


 まあ、間に合うか。

 大学の前期休暇は始まったばかりだし。

 たぶん。


 次に回ってきたのは、承諾書。


「番組出演に関する同意、および守秘義務契約になります」


 守秘義務。

 ページの一部が太字になってる。


「クイズの内容、結果については、放送日まで一切他言しないこと」


 ああ、いわゆる「緘口令」。

 閑君が続ける。


「ご家族、ご友人には、空港での二次予選が終了するまでは、『旅行に行く』とだけお伝えください」


 旅行。

 便利な言葉だな。

 嘘じゃないし、全部でもない。


「電信電話、郵送物、無線通信等あらゆる手段において、情報漏洩を厳禁とします」


 随分厳重だな。

 無線通信を警戒するっていうのは、過去に事例でもあったのか。

 シンプルだけど、一番防ぎにくい。


「ナリタレアへは、予選時と同じ服装でお越しください」


 自分の服を見る。

 Tシャツにジーンズ。

 これで一ヶ月スタート。


 なんか、固定される感じがする。

 結果としてクイ研のハッピを借りなくて良かったな。

 あれを来て全国区のテレビに映るとか考えられない。


「荷物はスーツケース一つまで。華美なロゴ入りの衣類は避けてください」


 テレビ的な都合ってやつか。

 ブランドロゴが映ると面倒なんだろう。

 スポンサーのライバル企業とか意図せず広告になるとか。

 そういうの気にしてのルールだろう。

 なんか急に現実的だな。


 栞の説明という俺らへの義務科しを終えると、次は写真撮影とアンケート。

 会議室の隅で、一人ずつ呼ばれて、フラッシュを浴びる。


 紙に名前を書く。

 市籠天馬。

 自分の名前が、妙に他人事に感じられる。

 物語の登場人物の名前を見ているような。

 変な距離感。


 ●職業

 ●家族構成

 ●特技


 そして……


 ●なぜ異世界へ行きたいか


 ペンが止まる。


『異世界へ行きたいかーーーっ!?』


 黄石アナの目。

 捕食者の目。

 それが待ち受けている二次予選。

 異世界。


 別に、そこまで行きたいわけじゃない。

 機会が巡って来たんだから、乗ってやろうかという程度。

 だから「それなりに」。

 嘘も衒いも無い。

 でも、あの時の黄石の目。

 それを思い出すと……


 適当にそれっぽいことを書く。

 「世界を見たい」とか。

 「女神様に憧れて」とか。

 この辺が無難だろ。


 アンケートを提出し終えた頃には、さっきまでの浮ついた感じが、だいぶ落ちてた。


 イベントっていうより、段取り。

 ロケの準備。

 そういう現実的な空気。

 閑君が一拍置く。


「最後に、個別面談を行います」


 やっぱり来たか。

 席ごとに四つのグループに分けられる。

 俺の席は三番目。

 穂積の姿を探すけど、見当たらない。

 たぶん別グループだ。

 あいつらはあいつらで、もう別の流れに乗ってる感じがする。


 しばらく待ち。

 前から順に名前が呼ばれていく。


「後さん」


「お、俺か」


 後社長が立ち上がる。

 こっちを見て、にやっとする。


「兄ちゃん」


 距離が近い。


「就職とか、みみっちいこと言ってねえでさ」


 一拍。


「男なら一旗あげろ」


 言い切る。

 軽く肩を叩いて、歩いていく。

 机の上に、その言葉だけ残る。


 一旗。


 いや、無理だろ。

 そんな大層な人間じゃない。

 そのあとすぐ。


「塩湖さん」


「はいはい」


 塩湖監督が立ち上がる。

 こっちを見て、少し笑う。


「建築業界はさ」


 急に説明口調。


「一部上場でも、新卒はまず現場に回すよ」


 それだけ言って、歩いていく。

 現場。

 朝から晩まで外で、ヘルメット被ってるやつ。

 ……無理だな。


 一旗も無理。現場も無理。

 じゃあ何ならいいのかって言われると、別に浮かばない。


 やりたい仕事を選んでるわけじゃない。

 やりたくない仕事を消していってるだけ。

 で、残った中から、まあこれならってやつを選ぶ。

 そういうやり方。

 間違ってるとは思わないけど、なんか薄い。


 まあ、比べる必要もないか。


 ぼんやり考えてると、名前が呼ばれた。


「市籠さん」


 来た。


 立ち上がる。


 机の上の栞が、少しだけ擦れる。


 ――面談。


 何聞かれるんだろうな。

 就活みたいなやつだったら、ちょっと面倒くさい。

 でもまあ、ここまで来たんだし。

 適当に答えれば通るだろ。


 たぶん。


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