↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
一次予選:二万四千分の百! ハリスタマルペケクイズ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/121

一次予選通過者ガイダンス 1


「通過者の方、こちらでーす」


 腕章のスタッフさんに促されて、俺と衿衣はグラウンド脇の通路に入った。


 途端に、音が変わる。

 さっきまでのざわつきが、扉一枚で嘘みたいに遠ざかる。

 足音がコンクリートに跳ね返って、やけに響く。


 ……あ、これ。


 観客の通路じゃないな。

 床に引かれたラインとか、壁の無機質さとか、途中にある鉄の扉とか。

 テレビで、試合前に選手がぞろぞろ出てくるあの感じ。

 裏側ってやつだ。


 へえ。


 ちょっとだけ首を伸ばして、あちこち見る。


 なんか、こういうのは単純に珍しい。

 得したとかじゃないけど、見学ツアーに紛れ込んだみたいな気分になる。


 まあ、状況としては全然そんな余裕ないはずなんだけど。


「クイズは終了しましたので、ここからは歓談していただいて構いません」


 前を歩いてたスタッフさんが振り返って、にこやかに言った。


 歓談。

 歓談な。


 この空気で?

 この相手と?


 横を見る。


 衿衣は腕を組んだまま、まっすぐ前を見て歩いてる。

 

 歩幅も一定で、無駄がない。

 なんか、意思が歩いてるみたいな感じ。


 ……まあ、一応。


「さっきの、迷いなかったよな」


 声をかけてみる。


 一瞬だけ、視線がこっちに来る。


「別に」


 それだけ。


 視線はまた前。


 終了。


「いや、あの状況で即決できるの、すごいなって」


「普通」


 はい終わり。

 壁かよ。

 いや壁のほうがまだ反響あるぞ。


 横でスタッフさんが、気まずそうに小さく咳払いした。


「あの…… 余計な事言っちゃったみたいで、すみません」


 うんまあ、あなたの一言がきっかけで生まれた状況ではあるけれど。

 この子と話してみたいなって気持ちは元々ちょっとあったんで。

 結果は、まあ。

 大惨敗ですが。


「いえ、別に……」


 適当に返す。


 衿衣はもう完全にこっちをシャットアウトしてる。

 こういうタイプ、逆に清々しいな。

 下手に愛想振りまかれるより、まだ楽かもしれない。


 ……いや、楽でもないか。


 そんな微妙な空気のまま、通路の先のドアが開いた。

 冷たい空気が流れてくる。


 会議室。


 白い壁、整然と並べられた椅子。

 さっきまでの土の匂いも歓声も、全部ここには持ち込めないらしい。


 中には、もう人がいた。

 ――多い。

 アナウンスを信じるならこれで100人。

 さっきまで何万人いた中から、これだけ。

 ちらほら空席も散見される。


「特に席の指定はありませんので、空席におかけになってお待ちください」

 

 スタッフさんの案内後、即座に衿衣が動いた。

 迷いがない。

 最も手近な空席を一瞥して、すっと歩いていって、そのまま椅子に座る。

 躊躇ゼロ。

 さっきまでの通路と同じテンポで、席に着くって行為まで終わってる。


 ああ、こういうやつか。

 場所が変わっても、やることが変わらない。

 俺は一瞬だけ立ち止まってから、ゆっくり視線を動かす。


 ――穂積。


 すぐ見つかった。

 あいつはこういう場所でも浮く。

 姿勢がいいとか、そういう問題じゃなくて、なんか整ってる感じがする。

 そこにいるだけで人の目を引くっていうか。

 安心してついていけるっていうか。

 自信って、目に見えるものなんだね、と。


 ただ、その隣が。


 ……なんだあれ。


 でかい。


 横も、縦も。


 長い髪を後ろで無造作に束ねてる。

 顔はごつくて、骨格が前に出てる感じ。

 なんか、ライオンっぽい。

 鬣はないけど、髪型は分かってて寄せてる感がある。


 で、服。


 全身、黒。

 シャツも、パンツも、靴も。光沢のある素材で統一されてる。

 革か、あれ。全部。

 ドームに来る格好じゃないだろ、それ。

 というか、ここまで徹底されると、逆に「衣装」に見える。

 見せるための、演出するための「装置」。


 ……なんだこいつ。

 在り様がもうタレントじゃん。

 穂積の隣に座ってるのが、ちょっとした舞台みたいに見える。


 とりあえず近づく。


「お、天馬」


 接近に気付いた穂積が、軽く手を上げた。


「よく残ったな」


 普通に嬉しそうだ。

 さっきまでの張り詰めた感じじゃなくて、いつもの延長線。


「いや、なんか…… 流れで」


 正直なところを言う。

 穂積は軽く笑った。


「それで残るなら上出来だろ」


 便利な評価だな、それ。


「部長は?」


「落ちた。最後のやつで」


「何人落ちた?」


「二人」


 間。


「ふーん」


 それだけ。


「他の連中はそれ以前にダメだったの確認できてたしな。最後まで喰らいついてたとは流石部長」


 俺も流石だとは思うけどさ。

 あの人、さっきまで一緒に戦ってたわけじゃん、協力して。

 でも結局落ちちゃってるわけで。

 そこに何の言及も、感情の変化も見られないって……

 なんというか、熱い穂積らしくないというか。

 前だけ見ちゃってるのかな、とか。


 そう思ってると、隣の「黒くてデカいの」が口を開いた。


「残り二人まで残ったなら、補欠一位か二位」


 低い声。

 圧がある。


「二次予選までに平均五人は辞退する。繰り上げは確実だ」


 断言。

 迷いが一切ない。

 穂積がうなずく。


「まあ、そういうことだ」


 なるほど。

 だからその反応か。

 悔しがる必要がない。計算上、まだ残ってる。

 合理的。

 でもなんか、味気ない。

 俺の中に残ってる違和感が、ちょっとだけ疼く。


 その視線に気づいたのか、黒いのがこっちを見る。

 目が強い。

 見られてるっていうより、測られてる感じ。


「素人か」


 問いというより確認。


「ああ、まあ」


「顔に出ている」


 そういうもんか。

 別に隠してるつもりもないけど。

 穂積が口を挟む。


「市籠天馬。高校からの知り合い」


「荒火徹童(あらすか・てつどう)だ」


 短い。

 名前だけで、肩書きとかは一切言わない。

 でも、言わなくてもわかる感じがある。

 こいつ、ただの参加者じゃない。


「関西でやっている」


 さらっと言う。

 「やっている」って何をだよ、ってツッコミたくなるけど、聞く気にはならない。

 なんか、聞いたら負けな気がする。

 穂積と並んで座ってる時点で、だいたい察しはつく。

 同じ種類の人間だ。


 ただ、温度が違う。

 港ヶ陸が「前に出る光」なら、こっちは「後ろで燃えてる火」。

 しかも、わざわざ黒い革で固めてるあたり、見せる気満々だ。

 相撲とかやってそうな体格のくせして。

 やっぱりタレントだろ、これ。


 そんなこんなしてると、スタッフたちが奥の控室から現れた。

 穂積と荒火に軽く会釈して、近くの空席に着いた。


 周りを見渡すと、みんな似たような顔してる。

 少し疲れてて、でもどこか浮ついてる。

 目つきがギラついてる。


 その中で、あの二人だけ明らかに場を持ってる。

 なんか、舞台の上と客席が混ざってる感じ。


 そのとき、部屋の前方が静かにざわついた。

 自然と視線が集まる。

 さっきまでのドームとは違う種類の中心。

 前に立った男が、軽く手を上げる。


「まず、栞を配ります」


 声は大きくない。

 でも、全員に届く。

 逆らえない感じだけが、はっきりある。

 スタッフが一斉に動き出して、机の上に紙の束が置かれていく。


 栞。

 言い方は軽い。

 中身はたぶん、軽くない。


 紙を手に取る。

 薄い。

 でもこれで、この先全部決まるんだろうなって思うと、妙に手触りが残る。


 ――さっきまでの「クイズ」とは、ちょっと違う段階に入った感じがする。

 まあ、まだイベントの延長っぽいけど。


 たぶん。



7/17日は7話~9話までを投稿

9話投稿は19:40


音楽立身ファンタジー『トルバドーれ!』もよろしければ

https://ncode.syosetu.com/n8904lw/

全154話予約投稿済み

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。