第六BF:スピリットフォレスト 1
「絶好のクイズ日和だなぁ、諸君」
陽の光を浴びたミラーボールスーツが、2つの太陽に負けない笑顔で撮影の開始を告げる。
森の空気は澄み切っていて、ほんの少し冷たい。
けれどその冷たさは不快じゃない。
むしろ、意識をはっきりさせるような清涼感があった。
「みんな精霊ちゃんと仲良くなれたか? ボタンは押してもらえそうか?」
あ、これまずは精霊紹介から入る流れだ。
またしても衿衣と茂侍にサンドイッチされた位置で皆の紹介を聴く俺。
この配置、完全に固定席だな。
逃げ場がないって意味でも、妙に納得感がある。
今日はじめましての精霊も何体かいた。
それぞれが、それぞれのやり方で関係を築いた結果。
その答え合わせが、今から始まる。
「港ヶ陸くん。君の精霊は賢そうだな!」
あいつの精霊は犬型。
白と黒に分かれたカラーのボーダーコリー。
牧羊犬として活躍するかしこいぬ。
穂積の横でまさに相棒といった様相で、すまし顔で座ってる。
ホント、どこの主人公だって引きだよな。
荒火と同じ犬型ってとこにも物語性を感じる。
しかもあれ、ただ座ってるだけじゃない。
周囲を見てる。空気を読んでる。
必要があればすぐ動ける位置取り。
……出来すぎだろ。
「墨市くん。君のそれはなんだ?」
「なんでしょうか?」
少なくとも既存の生き物では無いな。
墨市の影がみょーんみょーんと伸び縮み。
一応目らしき2つの発光源が頭のそれっぽい位置についてる。
地面と一体化してるのか、独立してるのかもよく分からない。
でも、墨市は一切気にしてない。
むしろ――馴染んでる。
影と影。
似た者同士ってことか。
そう言えばお前、茂侍に精霊をモフれって助言したらしいが。
その影ってモフれるん?
「李野くんはいかにも李野くんって相棒だね」
「やはは。注意力散漫な子です」
眉毛の長いフクロウ型の精霊。
掛けてる眼鏡は李野くんの予備の奴だとか。
それ意味あんのか?と思ったけど。
キャラ付けはまあ大事。
フクロウの首がくるっと回って、別方向を見たまま瞬きする。
観察する目が、好奇心に輝いてる。
「ボーイは……カンガルーか?」
「ファイティングスピリッツ溢れる子っス!」
軽快なステップを左右に踏んで、シュッシュッとシャドーボクシングの動きを見せるライト級のカンガルー。
どこか軽薄は雰囲気も相まって、いかにもボーイのバディ感。
あいつの場合、似てるというより同じテンションだ。
見てるだけで疲れるけど、嫌いじゃない。
そして真打。
「くかーーーー」
さっきから鼻提灯吹かせて寝てるのはモーリー。
その頭には、同じく眠る王女様のような可憐な精霊。
静かだ。
静かすぎて、逆に怖い。
周囲のざわめきから完全に切り離されたような、異質な静寂。
切り取られた空間の向こう側。
「モーリー。おいモーリー。起きろ起きろ」
黄石が囁くように語り掛けると、モーリーは言語を超越した何かで応えた。
『夢の中で目覚めているので問題ないでーす』
モーリーは変わらず鼻提灯。
なのに。
なぜかマイクを通した向こうから声が聞こえてくる。
「……さて、みなさんには事前に言い含めてあるが、テレビの前の皆さんのために、ここでルール説明だ」
黄石がカメラに向かってルール説明を開始。
おい、モーリーが起こした現象はスルーかよ?
スルーするしかないな。
わかるよ黄石。
それにしてもモーリー。
なんだ、あの精霊は。
なんか一体だけ格が違わないか?
『何も問題はありません。出力は中級精霊並みに抑えています』
ほらぁ怖いこと言ってるゥ!
でも周りは誰も反応しない。
聞こえてないの、この圧倒的格上宣言!?
『あなたの心に直接語り掛けています』
モーリーのものとも精霊のものとも分からぬ声が脳裏に響く。
精霊、様、でよろしゅうございますか?
『ティリザベス先輩も括りで言えば精霊の範疇です』
あ、あれに類するナニカなのね。
カメラのフレーム外で長老が五体投地してるし。
はいやめやめ。
もうあの精霊様について思いめぐらせるのは止そう。
敬して遠ざける。
いい言葉だ。
「おっとぉ! そういえば挑戦者諸君に伝え忘れてたルールが一つあった!」
嗜虐心を隠せない声色で黄石は俺らの背後を指差した。
『『『わっしょい!わっしょい!』』』
「ひえーーーーっ!?」
そこには寄って集った精霊たちに胴上げされるかわいそうなスタッフの姿が!
なんでかわいそうかって?
それはわっしょいの高さが2階の屋根瓦より高そうだから。
人間の腕じゃない。
精霊の腕だ。
ていうか腕の無い奴もいる。
Q:どうやって胴上げしてるの?
A:ふしぎなちからでさ!
故に、怖い。
落とす気がなくても、落ちたら終わる高さ。
でも。
精霊はホント楽しそう。
黄石みたいな嗜虐心込んでないところがポイント高い。
この人わっしょいしていいの?
高く上げても?
わーい!
やったあ!
そういう純粋な「楽しい」の延長線上に、あの高さがあるだけだ。
だから怖い。
「お手付き誤答したものは、5回、あの精霊わっしょいを受けてもらう!」
「「「えぇーー!?」」」
ここはこの呼吸だろ。
衿衣はわっしょいを睨んでる。
怖がってるのか、分析してるのか、あるいは――
単純に興味があるのか。
表情からは読めない。
「勝ち抜けは2ポイント。次は楽しい……」
なんだよ黄石、その沈黙は。
今までにないパターンだな?
空気が一瞬、止まる。
スタッフも、精霊も、俺たちも。
「……ゴメン、嘘だ」
今日の勝者へのメダルプレゼンターはエルフアーチャー少女。
愛想の無い顔でシュっと幕を引くと。
いつもなら「次は楽しい楽しい」って書かれてる旅先案内看板が。
「次は……キャーーッ!」って書き換えられてた。
細かい。
「ぬっふっふ。次は【恐ろしい恐ろしい】アンデッド国家、ヌーが待ってるぞ」
そう言うのクイズ開始直前に発表するかな?
「問題!」
だから緩急!




