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空前絶後! 第十一回! 異世界ぐるりウルティモクイズ!  作者: 袴田八峰
第六BF:スピリットフォレスト 精霊さん お願いします 早押しクイズ

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エルフの里 1


「こおおおおおおおお!」


 モーリーの身体が光って唸る!

 空気が震え大地が歪む!

 地面に立っているはずなのに、足の裏からびりびりと何かが伝わってくる!

 空気そのものが森の木々と共鳴しているみたいな、そんな音が響く!


「撮影中止!」


「モーリー暴走した! スタッフ止めてくれ!」


「届きません!」


 そう、届かない。

 なぜならモーリーは上空に浮いているのだから。

 オーラ? を纏って、髪の毛を逆立てて!

 重力を完全に無視した位置。

 二階建ての建物よりも高い位置で、彼女は光の中心になっている。


 彼女はもうただのモーリーじゃない。

 超モーリーだ!


 ……あかんことないですか?


 さっきまで一緒にバスに乗ってた人間だぞ?

 テンション高めの一般人だったはずだぞ?

 どうしてこうなった。


「長老! 一体どうすれば!?」


 閑君の声には、珍しく焦りが滲んでいる。

 現場を仕切る人間が焦ると、周りも連鎖的に不安になる。

 ざわざわと、スタッフたちの動きが乱れる。


「放っておいてよろしいのでは? 別に暴走してませんよ、彼女」


「「「えぇえ!?」」」


 拍子抜けするほど落ち着いた声。

 視線を向けると、そこには長い白髭を撫でるエルフの長老。

 まるで春の陽気でも眺めているかのような、穏やかな表情。


「あれは精霊たちが過剰に歓迎しとるだけですな。いやいや、事前にいるとは聞いておりましたが、『ドリームキャッチャ―』。伝説通りですな」


 感心してる場合か?

 いやでも、この人がそう言うなら大丈夫なのか?

 現地責任者みたいなもんだろうし。


 そう。


 モーリーのジョブは、過去のハイエルフしかもっていなかったという、

 伝説級の「ドリームキャッチャ―」。

 あらゆる精霊に対し最高の親和を得られるという。


 頭では理解していたつもりだった。

 設定として。

 ゲーム的なものとして。

 でも実物を目の前にすると、理解が追いつかない。


 現地に到着し、バスを降りた直後。

 モーリーが暴走する前に精霊が暴発した。


 木々の間を漂っていた小さな光。

 風のように、音もなく揺れていた存在たち。

 それが一斉にモーリーへと群がった。


 そんで、今。


「撮影再開!」


「じゃあスタッフのみんな、搬出開始」


 え、再開すんの?

 さっきまで大騒ぎしてたよな?


 でももう誰も止めようとしない。

 判断が早いというか、割り切りがすごいというか。

 考えてもしょうがないことは考えてもしょうがないとう割り切り。


 三々五々、スタッフたちは作業に戻っていく。

 機材を運ぶ音。

 ケーブルをまとめる手つき。

 誰もが通常業務に戻っている。


 おつかれ。


 人生時には諦めも肝心だね。


「おーい挑戦者の諸君。君らはこっちの集会場に集合だ。クイズの説明をするぞ」


 黄石のミラーボールスーツが、モーリーの輝きを乱反射して目が痛い。

 キラキラどころじゃない。

 ぎらぎらだ。

 視界の端で光が弾けるたびに、軽く目がチカチカする。


 目を逸らしてあたりを見渡す。

 そこそこの高さの木々が点在している。

 密集はしていない。

 あくまでまばら。


 一本一本が独立して立っていて、それぞれの間に空間がある。

 風が通る。

 視線が抜ける。

 閉塞感がない。

 その木々はすべて広葉樹。

 丸く、柔らかな葉が幾重にも重なり、日差しを優しく散らしている。


 そして一本につき、一つ。

 木造の小屋が据えられている。

 幹に寄り添うように。

 あるいは枝に抱かれるように。


 無理に削ったり切り取ったりした形跡はない。

 木と共存する形で、最初からそこにあったかのような配置。


 小屋同士は離れているが、完全に孤立しているわけではない。

 蔦や縄を編んだ簡素な橋が、必要な場所だけを繋いでいる。

 生活の導線だけが、最小限に結ばれている。


 そしてその間に流れる、静かな空気。


 ここは村というより、森そのものに住ませてもらっている場所だった。


 これがエルフいう種族の生き方か。


「精霊ちゃんたちと! この私が! 今! 素敵な和合を果たす!」


 モーリーが物騒なことを口にするので思わず仰ぎ見た。


 回りをぴかぴかくるくるしていた精霊たちが、どんどんモーリーに突っ込んでは

 そのまま吸収されていき、モーリーはその度に輝きを増してゆく!


 一体、何体いるんだあれ。

 十や二十じゃきかない。

 五十?

 いや、もっとか。

 光の粒が流星群みたいに吸い込まれていく。


 ……やばない?


「長老!?」


「ほっほ、眼福眼福」


 閑君の問いにエルフの長老様は恵比須顔。

 大丈夫なんだな?


 考えても(以下略。



  *



 村の中心地の巨大な針葉樹。


 今朝出てきたホテルと同じくらいの幹の太さで、近づくともう壁でしかない。

 手を伸ばしても、当然回り込めるはずもなく。

 視界いっぱいに広がる樹皮は、岩肌みたいに荒く、ところどころ苔や小さな草が張り付いている。


 生きている壁。

 そんな表現が一番しっくりくる。


 根が水を吸い上げる音すら聞こえてくる、規格外の木。

 耳を澄ませば、確かに。

 ごう、とも、どくん、ともつかない低い響き。

 水が巡る音。

 命が流れる音。

 この木一本で、一つの世界が成立しているみたいだ。


 あとで写真撮らないと。

 さっきから頭の片隅に、その考えが居座っている。

 記録したい。

 残したい。

 この感覚ごと。


「さ、その辺の切り株に腰掛けてくれ」


 黄石の促しに従い、俺たちは腰を下ろす。


 円形に並べられた切り株。

 年輪がくっきりと浮かび上がっていて、その一つ一つが時間の層みたいに見える。

 座ると、ほんのり温かい。

 太陽からの蓄熱か、木の体温か、地面のあたたかみか。


 荷物は全てバスの中。

 身軽なもんだ。

 身体も軽いが、どこか気持ちも軽い。


 異世界に来て、森の中にいて。

 でもこれから説かれるのはクイズ。

 三日後に行われる特殊な形式の。


 ていうか今までに特殊じゃなかった形式なんてないじゃないか。

 けどウルティモはそういうこと嬉々としてやる。

 クイズ競技ではない。

 クイズバラエティ―だから。

 このギャップに、もう慣れ始めている自分がいる。


「先にクイズの説明をするのは、その分、君たちの準備が必要だからだ」


 ほら来たね。

 単に観光の時間をたっぷり取ってくれる訳じゃないことは

 俺ですら織り込み済みだよ。

 むしろ、何か仕掛けてくる。

 それがこの番組だ。


「最初にクイズのタイトルから。『精霊さん、お願いします早押しクイズだ』」


 お願いします……?

 その一言が妙に引っかかる。

 命令じゃなくて、依頼。

 クイズ番組なのに、主体が人間じゃない響き。


「解答台、見えるな?」


 黄石が指し示す方向に、解答台があった。

 一台のみ。

 ぽつん、と。

 森の中に塗装した金属という、違和感丸出しで設置されている。


 ウルティモハットも、早押しボタンも、一個のみ。

 そして、スタンドマイクはない。

 余計なものが削ぎ落とされている。

 異様にシンプルな構成。


「本番でもあれ一個だ」


 周囲がざわめく。

 当然だ。

 早押し機が一台。

 それを奪い合う形になるのか?


 でも、十メートルは離れてるぞ。

 物理的にダッシュでもするのか?

 解答者多数だったら絶対ケガする奴が出るぞ。

 具体的には李野くんとか茂侍のヒョロガリ組。


「諸君らはだいたい今の位置に並べた解答台に、マイクのみで参戦してもらう」


 あの早押しボタン台まで、大体10メートルくらいか。

 走る距離としては短い。

 でも走るって時点でクイズじゃない。

 頭の中でいくつかの可能性が浮かんでは消える。

 どれもピンと来ない。


「で、だ。ここが一番重要なところなんだが」


 間を持たせる。

 カメラ回ってるからね。

 ハイハイ演出演出。

 分かってる。

 分かってるけど、飲み込まれる。

 俺も息を呑む。

 そういう呼吸。


「早押しは精霊にやってもらう」


「「「え……!?」」」


 虚を突かれた。

 一瞬、意味が分からなかった。


 でもすぐに繋がる。

 クイズのタイトル。

『お願いします』。


 なるほど。


「いまから諸君ら一人に一体ずつ、相性のよいバディ精霊に憑いてもらう。諸君らはこれから二日間かけてバディ精霊と絆を育み、あのボタンを押してもらえるように説得、あるいは訓練をする」


 精霊と、クイズ。

 交わるはずのなかった二つが、無理やり接続された感じがする。

 いいのか?

 そんなことに精霊を使っても?

 精霊ってもっと神聖な……


 さっきまで見ていた光景が脳裏に蘇る。

 森に溶けるように存在していた、小さな光たち。

 静かで、繊細で、触れてはいけないもの。

 そういう印象だったのに。


「アハハハハ! 100霊和合毛利井栞、ここに爆誕!」


 ……ああ。

 現実に引き戻される。


 上空で、まだ輝きを増し続けているモーリー。

 あれに嬉々として飛び込んでいくような存在だ。

 神聖さ?

 厳かさ?


 うん、あった気はする。

 でもそれ以上に、ノリが軽い。


 好奇心旺盛で、騒がしくて、面白そうなものに群がる性質。


 ま、大丈夫なんだろ。

 クイズのボタンも面白がって押してくれるだろ。

 モーリーに集るようなやつらなんだから。



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